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いつか終わる世界に  作者: 作者です
中級ダンジョン編
37/133

5話 日常 相棒

 レベリオ組の装備は神・王・将が主となっており、装備神の神技がなくとも簡単には破損しない。


 一通りそろっているのなら、不足している者に集中して金も使える。ラウロが継承をしたことで、中級での目的は攻略よりも、上級に向けた下準備の意味合いが強くなっていた。


 コンパスを入手したのち、すぐに第二ボスへの挑戦はせず、なんどか迷いの森で雑魚狩りを行う。


 金には大分余裕もあるが、全てを活動費には回せない。


 法衣鎧の神技が完成するのは、恐らくまだかなり先だ。上級挑戦までには装備一式を揃えたい。

 その第一歩として、ラウロは馴染の武具屋を訪れていた。


「とりあえず幾つか用意したずらよ」


「すまんね」


 これまでコツコツ貯めてきた分を含め、必要な額が用意できた。


 並べられているのは将鋼の片手剣。



 ・刀身に気持ち角度が付いているが、両刃となっている。柄は将木製で将革が巻かれた造り。鞘は兵木を主として、兵革に将布で飾られている。


 ・両刃の直剣ではあるが、これまで使っていたものより重く、剣身にも分厚さが感じられる。柄にも将鋼が使われており、民布が巻かれている。鞘は兵鋼が主となっており、模様が彫られていた。


 聖神から力をもらっていた頃と違い、今は常に神力混血といった感じになっているので、十分に扱うことも可能だろう。


 これら二つの感触を確かめてみた。要望に十分応えられた品であることに違いはない。



 残る一振りを鞘から抜く。


「まあお前の好みは、おいちゃんも分かっとるずらがね」


 なんの特徴もなく、なんの面白味もない。


 柄は将木製で民布が巻かれており、その上から握りやすいよう細い紐で調節されていた。鞘も将木ではあるが、ただの布で包帯のように全体が覆われている。


「良いな」


 浅黒い鈍銀色。

 刀身はまっすぐに伸びていた。古く感じるが、大切に手入れされてきたのは何となくわかる。


「制作者は不明ずら。使い手がいなくなった中古品だから、他のより少し安いずらよ」


「最近なのか?」


 店主はじっとその剣を見つめながら。


「もう数年になるずらかね」


「そうか」


 少し離れ、許可をもらい何度か振らせてもらう。


「うん。いいな、気に入った」


「……」


 状態はかなり良いので、売れないような品とは思えず。少し安いのなら尚更。


「知り合いのか」


「うちの客ずらよ。良い奴だったずら」


 ラウロもこの店主とは気が合い、時々だが飲みに行く仲ではあった。


 言っておくが、それ以上でも以下でもない。本当に。


「長い付き合いだったみてえだな」


「まあこの店を始めてから、ずいぶん経つずらからね。死んだのもそいつだけじゃないし、慣れてはいるずらよ」


 魔界の進行かダンジョンでの敗北か。死因など聞いてみたい気もするが、あまり触れるべきではないかと考えて。


「上級とかになりゃ余裕もなくなる。大切に使いたいとは思うけどよ、俺の腕じゃ剣を気づかうこともできんぞ」


「おいちゃん戦えないから知らんずらが、そんなもんじゃないずらか?」


 ラウロはもともと素手専門だった。モンテらの戦闘風景を振り返れば、確かにと納得する。


「職人たちだって、そんなヤワな仕事はしないずら。それに良い剣ずらから、いつまでも倉庫で腐らせるのも失礼ずらよね」


「だよな。精一杯、使わせてもらうとするか」


 ラウロは金袋を取りだし、そのまま店主に渡す。中身をすべて卓上にだし、おつりをこちらに弾いた。


「民鋼の剣はどうするずらか」


「どうすっかなぁ けっこう悩んでる」


 予備として使うのも良いが、将鋼となれば簡単には壊れない。


 いざとなれば友鋼だって協力をしてくれる。そもそも最大火力をだせるのはこいつなので、〖儂の剣〗での戦いに切り替えれば良い。


 ちなみにオーク拠点戦の終盤で使ってみたが、まだ斬打突は弱のままだった。この速度を上げるには、ラウロの技量が足りないのだろう。


 あとは鍛錬の量が全てを決める。


 そしてもう一つ、アリーダとの検証で判明したこと。《合わせ》を使えば早まるが、この剣技は一対一を専門としていた。



 なんとなく解るのは、今は無理して使わなくて良いから、鍛錬と実戦を重ねろという友鋼の意思。


 一人で素振りをするときは、友鋼を使うと決めていた。というか実戦よりも、この使い方が一番喜ぶ。


「さっきあんたが言った通り、腐らせる方が良くないか」


「じゃあ売るってことで良いずらね」


 装備の鎖から民鋼の剣を出現させた。


 人生の中では僅かな年数だが、それでも思い入れのある品。あのどん底から救い上げてくれたのは、これとの日々。


 剣を抜く。


「売れそうか?」


 灰色の鋼。


「癖のない型ずらから、間違いなく売れるずらよ。秋までは取っておくずらがね」


 試練ダンジョンが解放されるからか。


「そうか。ちっと裏かりて良いか?」


 店裏には試し斬り用の小さな空間があった。


「最後にこいつで素振りしたい」


「変わった客も居るもんずらね。好きにすれば良いずらよ」


 卓上に残された金をしまい、将鋼の剣を鎖に登録する。


・・

・・


 前回の活動報酬を受け取りに協会支部へ行く。


 残念ながら今日はあの娘はいないようだ。


「どうしたんすか、元気ないっすね」


 ニヤニヤしながら受付ボーイがカウンター越しに語り掛けてくる。


「ああ、今日はダンジョンのほうか」


「そうみたいっすよ。俺も明日からまたそっちなんで」


 以前までは混まない時間帯だったが、初級・中級と解放され張り切っている探検組も多いらしい。まあ自分たちもその中の一つだが。


 後ろにも並んでいるので用紙を受付に置き、手続きをお願いする。


「はい確かに。少々お待ちを」


 やはりリヴィアの方が手際は良いなと思いながら。


「まあ、あれだ。もし会ったら無理せず仕事頑張れとでも伝えてくれ」


「もうちょっとすりゃ、うちの業務も落ち着くと思うっすよ」


 ダンジョンが解放されてから、本当に協会員は忙しそうにしていたから、それならこちらとしても安心だ。


「じゃあ十分ほどお待ちください、そしたら受け取り窓口に並ぶよう頼んます」


「おうよ」


 受付から離れ、情報交換スペースに知り合いはいないか探す。


 デボラが居るときはもう支部入った瞬間に空気でわかるので、一安心というか。


 これまでなんどか賭け事をした相手がいたので、そこに向かう。


「よう、調子どうだ。今日は広場か?」


「おうラウロさんか。俺は今からだぞ」


 他の面々を待っているようだ。彼らは更新前から中級で活動しており、迷いの森となれば数日は戻らない。


「あんたは休みか?」


「まあな」


 ルチオたちの時はお手本にならなくてはと緊張していたが、もともとソロだったのでこういった事はしていた。

 机に小銭を置き。


「更新前との違いとか、なんか新しいのでたか?」


 初級の岩山方面で【亀】が出現したなど。


「あんたら中級だったよな、初級で良ければ幾つかあるぞ。まあ大したもんはないがな」


 彼らの活動も中級だが、どこかしらで得たのだろう。


「かまわんよ、もうすぐ試練解放されるしな」


「孤児院の関係か。だがもう教育係はできんだろお前さん」


 レベリオ組に所属しているので、これからは探検活動の方に本腰を入れる。


「知らん中でもないからな、安めで売ってやんだよ」


「そうかい。んじゃま、聞いてくれや」


 ・罠の時空紋は攻略後にもと居た場所に戻るか、広場に帰還するか選択できるようになった。


 ・岩山の中級ルート。ラウロたちが途中休憩したあの場所に宝箱が出現する。これはすでにティトから聞いており、発見したのはまあ当然だがグイドだった。どうせ無粋だとか文句を言ったことだろう。


 ・大地の裂け目。大ボスの神殿付近は人が混雑してしまうので、敵が出現しなくなっている。


 ・新たな中ボスが発見された。そこは山にある石切り場とは違う。


「採石場ねえ、話には聞いてたが」


「おう。なんでも地面に人工で掘ったような段々の大穴っていうかよ、陥没してんだってな」


 発見されたのは二カ月前。初級での活動と言えば、岩山か裂け目の拠点なため、これまでルートを外れることがなかったのだろう。


 地図づくりの過程で発見されたとのこと。すでに初級が解放されてそれなりに過ぎているが、未だに忙しそうにしているのはこれが大きな原因だった。


 ラウロは谷底の様子を思いだし。


「岩山あんま人気ないからな」


「ああ、裂け目に集中し過ぎだ」


 人を分散させる思惑か。


 新たに発見された採石場の中ボス。


「やっぱ亀か?」


 相手はそうだとうなずく。


「岩の戦士ほど面倒じゃないし、けっこう手ごろかもな。難易度としては大地の腕くらいか」


 余計に人気がなくなるので、そのための宝箱だろう。


「たぶん混むぞ」


 そうなれば気になることが一つ。


「拠点とかやっぱ設置すんのかね?」


 協会員の仕事が増える。


「今のところ、その予定はないみたいだな。ただまだ様子見だろうよ、俺の予想だと必要になるぞ」


 ラウロは机の上にもう一枚置く。


「ありがとよ」


 すると相手側も机に小銭を出してきた。


「中級についてなんかあるか」


「んー 目ぼしいのはないと思うけど」


 知っている情報をいくつかあげ、最後に。


「今な、俺が面倒見てた連中がオークの拠点に挑戦中でよ。ルチオって奴らだ、協力組はなんつったかな」


「大したもんだな、あそこは全員だったろ」


 経験者が数名の新人を率いることもある。


「まあ順序は踏んでっから、たぶん大丈夫だとは思うがね」


これまで本人たちから聞いてきた、ボス戦の話しを思い浮かべ。


「あいつら良く外れ引くから、一度内容聞いてみろよ」


 欲望神の加護が関係している可能性。


「そうか。しかし俺らもう長いこと活動してるが、あれだなぁ」


 彼らは中堅。活動しているのは迷いの森だった。


「あんま気にすんな。凄い奴らってのは出てくるもんだ、俺だって一年目はまだ初級だったぞ」


 港町にあるダンジョン広場。


「騎士団時代のか?」


「【雪原】でな、寒い思いしながら鍛えられたよ」


 ここで活動している半数は、実戦投入前の訓練期間。


 中堅だろうが多くの経験を積んできたのだろう、ラウロの顔をじっと見て。


「居残組だった野郎の言うことは違うな」


「なんだよ」


 嫌な経験など一度や二度ではない。それでも騎士団としてあり続けた。


 悪い悪いと言いながら。


「嫉妬するより仲良くした方が身のためだな。今度見かけたら、いっちょ聞いてみるか」


 本来は二枚だが、相手は三枚目の小銭を出してきた。


「それはルチオたちにでもやってくれ」


「決めるのは俺だ。そんだけの価値があったんだよ」


 感謝をしてから受け取っておく。



 本人たちは気づいてないが、この期間で中級という時点で、かなり注目されている新鋭だった。


 そして今回の第一ボス攻略に成功したのなら、もう見守るのをやめ勧誘に周囲も動くだろう。満了組は騎士団の出身で固定されているが、それ以外の【町】で活動している徒党も存在している。


・・

・・


 報酬を受け取り、自宅へと戻る。


 庭は完全に鍛錬所として使っているので草花などはないが、マリカが裏の方で家庭菜園に挑戦している。


 そこまで広くないが、土をならす作業を手伝ったりはした。鳥やら猫やらに狙われて、今のところ上手くは行ってない。

 ここの孤児院も畑を持っていたりするから、なんどか連れて行ったのが切欠と思われる。


 食費の足しにでもするのだろうか。


「この時間に訓練してないなんて、珍しいな」


 誰もいない表の庭。打ち込み用の柱など、一通りは揃っていた。




 ただいまと借家に入れば、リビングに二人がいた。


「マリカさんは土いじりか?」


 ソファーに座り、本を読みながら。


「葉野菜が虫にやられたとかで、対策を聞きに師匠のとこいったわよ」


 この本という物も、けっこうな値段がする。



 町から出て外壁をしばらく進めば畑が広がっていた。そこで作業をしていた初老の人がマリカの師であり、孤児院が所有しているのも管理していたりする。


 リベリオは床で腕立て伏せをしていたが、いったん中断すると近場に置いていた水分を飲み。


「僕も堀の様子を見にいけばよかったと思ったんですがね」


 筋トレ。この姿を奴に見せると、地獄のレッスンが始まるから、ラウロはリーダーを奴から守らねばと誓う。



 アリーダはその場から立ちあがり、台所からティーセットを持ち出せば、卓上の湯入れから茶葉に注いでいく。自分のぶんだけ。


 余所のダンジョンから採掘できる品で、水分に触れると熱を発する物がある。これがあるお陰で、お湯くらいであれば室内でも簡単に沸かせる。


 椅子に座り香りを楽しんでから、一口だけ味わい、机にそっと置く。


「剣どうだったのよ、良いの買えた?」


「ああそうだ、ちっと余ったんだった」


 自分のも使ったが、探検組用の金からも出してもらったので、半分ほどをレベリオに渡す。


「指定額丁度でしたよね?」


 装備の鎖から将鋼の片手剣を出現させた。アリーダはお茶をそのままに立ち上がり、こちらに寄こせと手をさしだす。


「中古なんで安くしてもらった」


「新品買えば良かったじゃない。まさか遠慮したとか言わないでしょうね」


 鞘から抜き、空気に触れた浅黒い鋼を観察する。


 目的のために金を一部用意したのだから、もしそうならよろしくない。


「店主の知り合いが使ってた奴でな。まあ俺の好みだったんだよ」


「そうですか」


 レベリオは椅子に座ると、アリーダの持つ剣を眺める。


「よく使い込まれてますので、手には馴染みやすそうですね。なんていうか、王道って感じかな」


「状態も中々よ。あの店主ふざけた喋り方だけど、仕事は真面なのよね」


 鞘に帰す。


「ちょっと貸して」


 どうやらお眼鏡にかなったようだ。


 入れたばかりのお茶をそのままに外へ向かう。素振りでもするのだろう。


「あの様子だと、しばらく返って来ませんよ」


 だがレベリオの予想を裏切り、アリーダはリビングの扉をもう一度開き。


「そういえば前のはどうしたの?」


「すげえ悩んだけどな、売ることにした」


 孤児院から出る奴にやるでも良かったが、一人だけに渡すこともできない。


「そう。私けっこう好きだったんだけど、あの剣」


「鎖の中で腐らせるよりは、新しい相棒を見つけた方が良いと思ってよ」


 剣とラウロを交互に見て。


「確かにそうよね」


 アリーダは今度こそ、庭へと向かった。



 もったいないなとお茶を眺めながら。


「ラウロさんは神鋼を求めないんですか?」


 彼女の半曲刀で素振りをさせてもらったことはある。


「そのつもりだ。あれって神力沈めないとよ、重さの調節ができないだろ。そこが何となくな」


 素の神鋼は軽い。 


「なるほど」


 友鋼を見た時の彼女は、なんか気持ちがザワザワすると反応していた。


・・

・・


 十数分後。


 アリーダはリビングの扉を開くと。


「ちょっと手合わせしてくんない?」


 素振りだけでは納まらなくなった様子。


 なぜか自分は友鋼での鍛錬となった。





 この娘にはコンプレックスがある。毎日のように剣の稽古をしているが、未だに〖剣の紋章〗が使えない。


 本人には言えないが、原因など一つしかないだろう。


 剣身一体と剣神一体。


 今は解かれているが、モンテの戦旗と同じく、恐らく制限されている。


 人の身では危険な神技。

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