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いつか終わる世界に  作者: 作者です
中級ダンジョン編
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3話 第一ボス 前編

 今回の討伐対象であるオークの拠点はボロボロの廃砦。


 更新期間はすでに把握されているので、協会の指示でここに決まった。


 立派な木製の壁が周囲を巡っているが、すでに攻略されたかのように一部が崩壊しており、そこから内部に進入できる。


 向かって左側の壁は形を保っているが、右側は大分崩壊が進んでおり、上に兵を配置するのは難しいと思われる。



 編成。これまでは別々に少し離れた位置で戦っていたが、今回は違う。何度か実戦を繰り返したこともあり、混合で行くと決めた。


 中級ダンジョンの更新前はボスを倒せば、全ての配下が消滅する。そして序盤はボスも動かないので、挑戦者から情報を集めれば居所の把握も可能。


 一方が敵を引き付け、その隙に別の方面から他の組が侵入し、早期決着を狙う戦法もあった。


 しかし現状は違う。ボスを倒したとしても、敵の戦意は弱まるが消えない。


・・

・・


 崩れた壁の間を見張っているゴブリンは五体。


 個体差はあるものの、兜や胸当て・短槍や短剣を持つ。うち一体は背中の矢筒に弓を引っかけており、今は短剣に毒を仕込んでいた。


 造形も練習ダンジョンより細かくなっており、装備も良質な物へと変化しているようだ。




 ギャギャと叫びながら、何かに気づいた個体が一方を指さす。


 赤く光る球体がプカプカと宙に浮かんで接近してきた。なんだこれはと呆けた顔で小鬼たちが見上げていると、前方より二名の人間が走り寄って来た。


 燃え滾る闘志を背に、獰猛な笑みを浮かべる男。


「ぶっ殺す!!」


 ルチオその少し後ろから。


「……トゥルカ」


 彼は普段だと気弱な青年だが、勇者の素質はなさそうだ。


 意識をこれからの戦いに集中させ。


「矢に気をつけろ、毒塗ってるかも知れねえ」


「おう分かった! 俺に続けえっ!」


 駄目だこりゃと息を整え。


「〖友よ、今こそ共に活路を開け!〗」


 友情の紋章はトゥルカの背に出現させた。



 小鬼は弓に矢をつがえ、剣使いに狙いを定める。


 宙に浮かぶ赤い球の存在も忘れ、敵の意識は完全に二人へ向けられていた。


〖赤光玉〗 杖先より赤く光る球体を発生させ、動かすことができる。大きさや速度は熟練によって調節可能。


〖赤光のローブ〗 徐々に赤い光が増していき、それに比例して神技の威力が強化される。一定時間が経過すると光は消える。


 ゾーエは最大まで輝かせてから、〖赤光球〗を発動させていた。本当はもっと早く動かすことも可能だが、注意を二人に向けさせるため。


〖炎球〗 赤光玉より拳ほどの炎を発射する。連射速度は熟練によって異なり、発射すると赤光は萎んでいく。


 まず狙ったのは弓持ち。一発でも怯むが大したダメージはないが、それでも連射となれば話は変わる。


 トゥルカは自分が巻き込まれようと構わず、そのまま弓を持った個体を両手剣で切り裂く。



 呆然と光景に見入っていたが、我に返った小鬼たちが剣使いを囲む。彼に攻撃が集中する前に、ルチオが対処する。


 〖地炎撃(槌)〗


 剣に比べて歩行阻四害能力が低い。


 ルチオは得物を持ち上げると、もう一度地面に叩きつけた。


 〖地炎重撃〗により四体は完全に動きを止めた。クール時間があるので、〖地炎撃〗も含めしばらくは使えない。


「まずはオメエだぁ! その血は何色だっ!」


 剣から滴る血をそのままに、近くのもう一体を斬り殺す。


「青かっ!」


 怯えている時点で、もう残りの三体も命運は尽きていた。




 ルチオは戦槌で最後の一体を仕留めると。


「動くなよ。ここで戦うんだからな」


 顔面の青い返り血を蒸発させながら、トゥルカは疲れた声色で。


「わかってるよ。そういう作戦だったじゃん」


 友情の神技により戦意は保たれていたが、笑顔は影を潜め瞳からは緊張がうかがえる。


 二人は壁の内部に進入することもなく、その場で新手を待つ。




 壁上より、襲撃を確認した小鬼が数体。そのうち一体の手にはベルが握られていた。


 慌てた様子でそれを鳴らそうとしたが、アドネの放った矢が喉に突き刺さる。


 残された小鬼たちは壁の凹凸に隠れると、発射用の窪みから弓を構え、息を揃えることなく発射させた。



 遅れてやって来た六人は〖光壁〗により守られる。


 弓で壁上を狙えるよう、ルチオたちからは少し離れた位置。


「サラさん光十字よろしく」


 アドネは〖光壁〗から横に出ると、弓で迎え撃つ。


「やっぱ不利だね」


 高低差もだが、凹凸に隠れながら撃っているので狙い難い。


「任せて。サラさん、私もお願いします」


 モニカの得物は両手持ちの槍だが、今は短剣を持っていた。


 〖光壁〗から出ると、そのまま壁上の小鬼に接近する。神力混血により動体視力も上がっており、自分に命中しそうな矢は短剣で弾き落す。


 一定距離まで近づけば、短剣を左に持ち変え、利き手で投擲用のナイフをベルトから引き抜く。残数もそんなになく、補充も用意はしていない。



 〖儂の剣〗は他の近接武器でも使える。


 ナイフに〖吾輩の槍〗を発動させ、慣れた動作で放てば、窪みの奥にいた一体の額をボロ兜ごと貫いた。



 装備の鎖に短剣をもどし、長槍を取りだす。


「〖伸〗」


 槍専用。銀光が鋭く伸び、その先端に物理判定を得る。威力は一定だが、熟練に寄って連続使用の回数が変化する。クールタイムは蓄積型。


 これで前方をかく乱させてから、〖一点突破〗での突撃が基本とされる。〖伸・一点突破〗


 すでに朽ちた砦の防壁。〖伸〗が壁上の一部を破壊していく。


 他の個体が残った死角より身を乗りだして彼女を狙う。


 〖伸〗は一点突破の系統。矢は〖光十字〗を通り抜けてから、切先より全身に広がった防護膜に弾かれた。


 そうなればアドネにとっては良い的でしかない。矢の刺さった個体は壁上から落下した。


「配置についてください!」


 壁の左側はモニカ。


 内部への進入路はルチオとトゥルカで、そのすぐ後ろにエルダ。


 二人の後方にはサラとゾーエ。


 壁の左側にはアドネ。


「早く済ませて」


「急かさなくても良いじゃん」


 〖繋がる心〗 軽装の神技 召喚対象との繋がり。


 ヤコポが将木の杖を地面に添えれば、そこに土の紋章が発生した。


 〖眠者の宿木〗 地面から木が生える。その洞には何者かが眠っており、熟練によって赤子から成長していく。眠者が殺されると消滅する。死のうとも目覚めることはない。大量の神力を消費する。


 迷いの森では罠の時空紋に出現。



 赤子期 成人期 老人期で神技の名称が変化。


 〖眠者の立木〗幹がわずかに傾き、そこに寄りかかって眠る。大ボス。


 〖眠者の朽木〗 幹が大きく捻じれ椅子のようになっており、そこに腰を下ろす。これが大ボスとして出現した時だけ、脱出用の時空紋が最初から設置される。


 残った神力を使い〖香る木花〗を発動。

 一定範囲の味方を秒間回復(瘴気により弱体)。精神安定効果あり。


 それら行動が終わる頃には、いつの間にか二体の人型が出現していた。


「頼むぞ」


 〖守木人〗 眠者を守る木製の人形。眠者から離れることはなく、眠者が死なない限り破壊されても一定秒数で復活する(神力消費)。


 男型 木製の剣。召喚者の杖によって得物の質が変化する。


 女型 木製の弓。召喚者の杖によって得物の質が変化する。


 数は二体で強さも固定だが、成人期になると弱体化し、老人期にはもう出現しない。



 これらの神技があるからこそ、彼らは一カ所に留まって戦った方が良い。


 ほぼ全ての神力を使ったので、ヤコポは祈りを捧げていた。



 ゾーエは〖赤光玉〗をもう一つ作り出すと、それをモニカの側へと移動させ。


「早く恵んでもらって」


 もう返答も面倒なようで、舌打ちしながら杖を装備の鎖にしまう。


「すまん、力を貸して欲しい」


 女型はうなずくと〖眠者の木〗に手をそえ、そこから宿木の槍を造りだし、ヤコパに手渡した。


 二体を交互に見て。


「もし余裕があれば、皆も手助けしてくれ」


 特に動作はしなかったが、了承をもらったようなので。


「モニカ!」


 〖貴殿の槍〗をお願いしてから、アドネの横に立つ。




 壁上のゴブリンは無力化したが、一体だけ息が残っていたようだ。


 そこにはもう、普段から良く知る小鬼の姿はない。青い血で床を汚しながら、死亡した個体の灰からベルを奪い取り、最後の力で鳴り響かせた。


 二名のリーダーが激励を飛ばす。


「来るぞっ!」


「勝ちましょう!」


 前哨戦は終わった。


・・

・・


 拠点の内側より小鬼たちが続々と出てきた。


 十体ほどのゴブリンが剣や槍をもって迫る。その左右には弓持ちが四体ずつ。


 それぞれに構えを整え、乱戦になる前に矢を発射していく。


 〖赤光玉〗は弓持ちを〖炎球〗で攻撃し、やがて萎んで消えた。無力化に成功したのは三体ほど。




 トゥルカは〖光壁〗で矢から身を守りながら、両手剣を地面に突き刺す。


「動くな虫けら」


 足もとへと広がる火が近づいてきた小鬼たちを巻き込む。


 数体は後ろに飛んで回避に成功したが、消失した光壁からルチオが駆け寄り、戦槌が一体を骨ごと砕く。


 二本の毒矢がルチオに迫るが、〖お前の鎧〗により弾かれ落ちた。歩行阻害を免れた数体が彼を囲む。


「神技ばかりに頼ってちゃダメだ」


 両手持ちの槌を右手で持ち、柄を脇で固定。左腕を空にする。


 小鬼が短槍で突いてきたので、横から掴んで奪い取り、〖火の鎧〗を発動。


 その隙をつかれ背後から斬りかかってきた。


「おりゃっ」


 脇裏から出ていた柄先を使い、ゴブリンの胸当を突いて遠ざける。


 「〖炎の鎧〗」


 囲んでいた数体が一歩後ろにさがる。痛覚があるぶん、ゴーレムよりもずっと機能していた。


 奪った短槍を持ち直す。持ち主が逃げようとしたので、背中に投げてお返しする。


 敵の武器は灰になるので長時間は使えない。


 ルチオが叫ぶ。


「エルダっ!」


〖鎧の鎖〗が放たれたのは、〖地炎撃〗の歩行阻害が解かれた内の三体と、ルチオを囲む三体。


「〖巻き込み!〗」


 ルチオ側の三体だけを引き寄せ、到着と同時に民鋼の金棒で一体を叩き潰す。〖貴女の槍〗も一応だが貰っていた。


 突(強) 斬(弱) 打(弱) 


 金棒は打撃。これに加えて武器種も違うので、あまり効果はない。


 〖お前たちの鎧〗


 鎧を着ているのはルチオとトゥルカ。

 加えて効果は弱まるが、サラとゾーエはローブの下に鎖帷子を着ている。


 軽装は一部に鋼板などを打ち込んではいるものの、鎧としては判別されていない。アドネ・モニカ・ヤコポ。


 エルダは敵から目をそらさずに。


「こいつら、練習より手強いっ!」


 引き寄せに対する動揺から、立て直すのが早い。


 自ら選んだ軽鋼の盾でゴブリンの攻撃を受け止めると、もう一体が近づけないよう、金棒を振り回して牽制する。

 だがその個体は焦らず、一定の距離を保っていた。


 重い武器を動かし続けていれば、スタミナは低下していく。鈍った隙をついて短剣を両手に持って飛びかかる。運よくガントレットで防げたが、精神はかなり圧迫されていた。


「……」


 歯を喰いしばって耐え忍ぶ。

 すでに友情の神技は効果が切れており、再使用にはもう少し時間がかかる。



 新たに作られた〖赤光玉〗がエルダの頭上に到着して、〖炎球〗が盾側の個体に降り注ぎ後退させた。


「紋章つかって!」


 はっと気づき。


「鎧の紋章」


 失敗。


 ガントレットで短剣を振り払い、ニヤけるゴブリンを下がらせた。


「大丈夫、皆がいる」


 ゾーエが中央からエルダへと数歩近づいていた。


「うん……〖鎧の紋章〗」


 精神の安定を取り戻し、盾でそのゴブリンを短剣ごと叩きつけ、怯んだところを棍棒で殴り殺す。


 まだもう一体残っていると、即座にそちらへ視線を移すが、木製の槍がゴブリンを貫いていた。しばらくすると、その投げ槍は剣の形に変化する。


 男型の木人が〖宿木〗に手をそえ、新たな剣を造りだせば、槍に変化させて壁上に向けて投擲した。


「回復に関しては頼りないけど、あの神技は私たちの要」


 壁の右側を受け持つ男を指さし。


「あれより優秀」


 エルダは思わず笑ってしまう。



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