1話 中級解放まで
更新は上級から始まったが、これが地上界に開放されるのは最後となっている。
ダンジョン広場は教国だけでなく、各国に複数存在しており、また仕組みも場所によって違う。
全ての広場が閉鎖されるというのは、これまでにも前例があまりなく、多くの探検者がしばらくは無職という事態になった。
力を持て余したニートが増えたこともあり、一つの計画が持ち上がる。町壁の周りに堀をつくり、川の水を引く。
外壁は探検組・探検団が受け持つので、戦争が起こっても壁から下りて戦ったり、壁上でいったん休むなどするから、掘りがあると少し困る。〖聖壁〗を筆頭に、ゴーレムや〖飲み込む大盾〗など、壁上への移動に有効な神技が幾つかある。
あとは初級・大地の裂け目で培われた、昇降装置の技術も無駄にはなっていない。
町壁は兵士が壁上から弓を使い応戦するため、堀があった方がなにかと良い。〖君たちの弓〗が兵士にとっての要となる神技だ。以上のことから、弓神の加護持ちは兵士になると、すごく優遇され、協会でも進められる。
中級や上級に挑戦してる者は多い。けっこうな将の素材も入ってくる。協会はそれらを兵士の装備などにも流していた。
外壁からの町への経路や水路などがあるため、色々と試行錯誤も必要。
以上の理由から、掘りは町全体を囲うわけではないこと。用水路から水を引き、排水路から水を出す仕組みになっているが、普段は流れを止めておく。
ラウロもしばらくは活動ができないので、それまでの間は仲間の住居探しや、教会の手伝いなどをして過ごす。彼自身も環境が変化したので、住まいを貧困街から移した。
正式に加入したわけだし、レベリオらの誘いも貰えたので、借家の一部屋を使わせてもらっている。家賃も払っているが、これまで住んでいた場所よりも、少し高い程度だった。
騎士団時代の貯蓄を含めても、若者三人はオッサンよりも稼いでいたようで、本来はもっと払うべきなのかも知れない。
借家には庭というか広場もあり、これまでより鍛錬を行いやすくなった。またマリカやレベリオがご飯なども作ってくれて、生活環境はずっと改善されている。若者に面倒を見られるオッサン。
ちなみに愛しのリヴィアちゃんとは同居していない。たまに来て、五人分の飯を作ってくれることもあるが、相変わらず仕事は忙しそうだ。
オッサンも負けじとお料理などをしてみたが、不評だったので今はお掃除などをしている。彼は善意からやると言ったのだが、アリーダに変態呼ばわりされたので、洗濯の当番は諦めた。
自分のぶんは自分ですると決まった。
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春の中頃に初級ダンジョンが解放された。しかしすぐに活動はできず、協会の依頼という形でしか入場はできない。
出入口はまだ開拓も進んでなく、職員や彼らに雇われた職人たちが、汗水流しながら作業をしていた。
彼らはこの地だけでなく、大地の裂け目と岩山の三組に分かれて働いている。リヴィアの話では、まじで忙しいらしい。
岩山は地形が気持ち変化しており、あの山好きがティトらを引き連れて、まずは試しに登ったりしている。イザはこちらに回されなくて良かったと言っていた。
大地の裂け目。
最初から用意されている谷底への下り道は、対象が中ボスであれば適していた。しかし大ボスとの戦いを望む場合だと、けっこうな遠回りになってしまうため、毎回簡単な造りではあるが昇降装置が設置される。
なんでもまた職人と揉めているらしく、リヴィアと二人して愚痴を聞かされた。
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協会の依頼で護衛などを務めながら、まずは時空剣の検証をする。これまでもレベリオやアリーダと行ってきたが、やはり敵対生物が相手でないと解らないことも多い。
〖夜入・目〗を発動させるには、〖夕暮・剣〗の斬撃判定を与えること。
協会員数名と岩山を目指すレベリオ組。以前よりも活動している探検者は少ないので、接敵回数も増える。
【岩亀】 甲羅が岩となっており、それ以外は土。
マリカとアリーダに後方を任せ、レベリオとラウロが前に出る。
以前は谷底でしか出なかった敵対生物。
「ここに出現するってことは、もしかすると岩山のボスが変更されてるかも知れませんね」
頂上のボスか、それとも岩切場付近のボスか。
まだ距離はあるので、近づきながら準備をする。
レベリオは〖貴様が盾〗を仲間二人に発動させ、ラウロも民鋼に〖夕暮・剣〗を使う。
すでに対象となる神がいないので、斬打突は(無)。
〖剣の紋章〗が使えたのなら、友鋼に頼らずとも自分だけで(弱)までは上げれると予想しているが、この神技は最難関と言われている。
敵の数は一体。高さは大柄のラウロと同じくらいだが、横幅は彼よりもずっと大きい。
「受けれるか?」
「はい」
レベリオは後方に意識を向け。
「マリカ。発動しなかった場合は、援護をお願いします」
「は~い」
彼女は常に〖風読み〗を発動させていた。
「狼が来てますよ~」
「了解」
「はいよ」
気の抜けた口調にも慣れた様子。
「数も教えてください」
「んーと、五体かな?」
レベリオは〖呼び声〗を発動させながら、亀にむけて前進した。
ラウロは聖域を発動。
今回は後方だが、アリーダも剣は抜いており、戦闘態勢に入っている。
「来るわよ」
一見、この敵はノロマと感じるかも知れない。甲羅だけを残し、四足と頭部を形づくっていた土が、地面に崩れ落ちる。
引力または重力によるものか、甲羅が地面から浮き、急加速でレベリオに迫った。
単純な体当たりでも、その威力は計り知れず。
「受けます」
「まかせろ」
【岩亀】は〖聖十字〗を通り抜け、レベリオの盾に直撃する。〖我が盾〗には衝撃吸収もあり、受け流すこともなく、受け止め成功。
ラウロは亀の側面にまわり込み、〖空刃斬〗で斬撃を飛ばす。
「ダメだっ!」
〖夜入〗は発動せず。
体当たりを受け止められた亀は着地すると、地面の土がレベリオの盾と腕を巻き込んで、亀の頭部を形づくる。
「これしきっ!」
〖突進〗を発動させ、絡みつく土を振りほどく。亀は銀色の光をまとい、レベリオへの敵意を強めた。
「援護いっきま~す」
〖風圧の矢〗 命中寸前に矢が弾けるので、攻撃力はそこまでないが、相手をノックバックさせる。
だが【岩亀】はビクともせず。
矢が弾けた時に発生した緑の風が、その巨体を包み込んでいた。相手がノックバックしなかった場合は、行動を阻害する効果でもあるのだろう。
ラウロは左手に短剣を持つ。握っていたのが刃側だったため血が滴っていたが、聖域を発動させていたので、すぐに傷は癒える。
空中で一回転させ柄に持ち変えた。
「これまでの成果だ」
兵鋼に〖儂の剣〗を発動。斬打突(無)。
空気を吸い込み姿勢を整えると、両足が銀色に光る。〖旧式・一点突破〗
〖夕暮〗の切先が【岩亀】の甲羅に減り込むが、小さな亀裂を入れる程度だった。
民鋼の剣を手放すと、兵鋼の短剣を岩に叩きつける。〖無断〗が装甲の内部に衝撃を浸透させ、岩のひび割れも大きく広がった。
「神技ってのはすげえな」
軽鋼の短剣。本来であれば、こんな芸当はできないだろう。
「犬っころが来たわよ」
戦場全体を見渡していたが、自らの判断でアリーダが走り出した。
〖無断〗〖一点突破〗〖血刃〗
これはあくまでも、先代の主神が残した基本の神技。
アリーダはラウロとは逆側から【岩亀】に接近する。その肩には大剣が担がれていた。
上段からの振り下ろし。
〖平伏・大剣落とし〗 一定範囲。命中させた敵以外を地面に抑えつける。打撃強化。
甲羅は完全に破壊され、乱入してきた五体の【土狼】は伏せのポーズとなる。
指示を出すのはレベリオ。
「マリカ頼む」
この組には杖の神技持ちはいないが、殲滅担当は彼女。
「ちょっとまって~」
準備に時間が必要。
レベリオは盾を天にかざし、〖我が盾の叫び〗を発動させた。
盾より放たれた銀色の光が、〖平伏〗の効果に重なり、一層に【土狼】を封じる。
受けた痛みは【岩亀】の体当たりだけだが、実はこの神技には裏技があり、事前にラウロが何度か剣で攻撃していた。
もしこの盾に意思があるのなら、怒られそうなものではあるけど、神鋼なので大丈夫。たぶん。
というか技の名称からして、盾の主神が相棒とする物は、友鋼なのではと思ってしまう。
マリカも準備ができたのだろう。
〖風矢の友〗 特になにもせず宙にばら撒けば、マリカが狙った相手に向けて飛ぶ。〖連射〗
熟練が低ければ、一度に浮かせられるのも数本。
「みんな行っくよ~」
自分は矢を放つこともなく、空に向けて指さした。すると風矢の友は一斉に舞い上がり、〖雨〗となって五体の狼に降り注ぐ。
この神技を使う場合は、どの対象を狙うか指示を出しながら、宙に浮かせなくてはいけない。クールタイムもあるようなので、浮かせては飛ばすという芸当はできない。
準備中に対象が消滅した場合はその場に残り、〖連射〗用の友となる。熟練が上がれば、数本の矢を放り投げ、君らはアイツ狙ってと指示も出せる。最初は一本ずつ。
マリカは装備の鎖に矢筒を幾つか入れている。これらの神技は弓・矢筒の断魔装具により強化される。
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守られていた協会職員は、〖地の領域〗を発動させて周囲を探ると。
「皆さんお疲れさまでした。どうしましょうか、休憩を挟んだ方が良いですか?」
ラウロはリーダーに任せる。
アリーダは大して神力も使ってないから、このまま行こう。
マリカはお腹がすいたから、なにか食べたい。
一同の意見を聞くと、レベリオは休憩不要と答えた。それぞれに祈りを捧げ、力を回復させてから移動を再開させる。
ラウロは祈りを捧げていない。
本来。天上の刻印には常時解放という機能があり、限界まで身体に神力が満たされろば、自然に刻印へと流れていく。そして戦闘中も補充をさせる必要がなくなるらしい。
うっかりして天使の肉体になってしまう危険があるので、現状だとその機能は停止されている。
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ゴーレム。目のない相手には〖夜入〗が発動しない。
一応だが協会員にも許可をもらい、その後も何度か検証を続ける。
仲間に〖夜入〗を発動させ、終わるのを待ってから、〖夜明〗の刃で敵を斬ることは可能。
〖夜入〗は最初に使った時点で秒読みが開始され、他の対象に発動させても時間の延長はない。
〖無月〗による転移。闇が身体に広がる速度は熟練だけでなく、傷の大きさにも左右されるようで、刃を握った時の力で調節ができる。
あまり回復に頼りたくはないが、聖域の秒間回復とは相性がいい。
爺さんは目の動きに気をつけろと言っていたが、もともと薄暗いなかでの暗闇(弱)であり、視界はそこまで広くなかった。
おそらく《合わせ》により、こちらと相手が通じていたからこそ。あの時は裏をかかれたが、爺が剣を振ると事前に察知できたのも、これのお陰だと今は感じていた。
岩山に向けて歩きながら。
「敵の視界についても、これから調べていかんとな。ガイコツとかよ」
「夜限定とのことですが、【町】の骨鬼には灯りを持っている個体も確認されています」
流石はレベリオ組。そこらへんの情報収集は抜かりない。
「夜があるってことは、それだけ闇も強化されるわけだ」
「期待してますよ」
護衛中にニヤける二人。
レベリオはくそ真面目だが、本当にダンジョンが好きなようで、たまにこうなると知った。
そしてアリーダに怒られる。
登山口の拠点ではグイドと再会し、それとなく山岳信仰の集落について聞いた。
彼の物資補給もあり、冬はなんとか越せたらしい。
上級での活動に向けて、今はティトに剣の鍛錬をお願いしているそうだ。
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一カ月が過ぎた頃。初級での全面開放が行われた。活動人数には制限もかけられたが、とても【荒れ地・岩山】は賑わった。
ルチオ組の手伝いで、群れのボスとの戦闘中に乱入を防ぐなどをして過ごす。と言ってもこれは協会越しの正式な依頼であり、素材の分け前も報酬なども、しっかりと契約した上での手伝いだったりする。
大ボス挑戦にあたり、石の玉というアイテムが必要になるが、これはどの中ボスを倒しても同じだった。
彼らは頂上の中ボスから一つ。群れの中ボスから二つを揃え、大ボスに挑戦し見事に討伐成功。
その後はサラとエルダを引き連れて、ルチオは登山にも再挑戦したらしい。目覚めたのだろうか。
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そして季節は流れる。夏と言っても、ここら辺はそこまで熱くはならない。
中級ダンジョンは初級と違い、拠点を三つも作らないので全面開放は早かった。
まずレベリオ組が目指すのは、コンパスの入手。
中ボス 肉鬼の拠点。または小鬼の住処。
お久しぶりです。完結にしてからしばらくサボっておりました、ダメな作者です。
いつまでも投稿しないのはあれなので、中級編という感じで目途がたったので、短いですが開始させてもらいました。
全8話で6まで終わっていますので、毎日一話ずつ行こうかと思います。




