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いつか終わる世界に  作者: 作者です
継承
31/133

最終話 ダンジョンの町 ラファス


 次の日。朝の鍛錬を終えてから身体を拭き、家をでる。


 まずは貧教会に寄り、シスターへ爺の件を伝える。


 繊細は事情もあるので省く。


「あの爺ついにくたばったか、次は誰のばんかね?」


「婆さんじゃないか」


 へんっと息巻いてから。


「お前が禿げるまでは死ねないよ」


 ギャハハと笑うだけだった。



 基本的に神からのお告げは教会にくるので、ついでにダンジョンの状態を聞く。


 試練と練習はもともと秋から冬の終わりまでだけ。現在はすべて封鎖されているが、更新は上級から始める予定とのことだった。


 お告げは天から声が聞こえるとかではなく、専用の紙に文字が浮かび上がるらしい。


 昨日存在を知った知識や想い出を司る神は、情報を集めているだけとのことで、もしかすると本や文字なども管理しているのかも知れず。


 加護持ちもそれに関する神技を習得しているという事だろう。


 天上界で葬儀などしているのなら、ラウロとしても嬉しく思う。いつか向こうに行ったら、墓参りに酒でも供えたい。


・・・

・・・


 そこでの用事を済ませれば、ラウロは行きつけの武具屋を訪れていた。


 店主は民鋼の剣を見ながら。


「これまた派手にやったずらね」


 爺の剣は布一つ切れないとのことで、ある意味だと偽無断のような感じになっていたのかも知れず。


「軽いのは使いたくないから、将鋼まではこいつで頑張りたいんだよな」


 片手剣を鞘に戻し、今度は鎧と兜を確認する。


「またヘルム壊したずら。なんでお前いつも頭ばっか狙われるずらか、いつか本当に禿るずらよ」


 ちなみにズラズラいってるが、店主は禿てない。ちゃんとカツラをかぶっている。


「すまん、盾も駄目にしちまった」


「まあダンジョンは更新期間に入るそうずらから、それまでには用意しとくずら」


 剣は研ぎが必要なので、金を払って使わせてもらう。



 研ぐ専用の場所があり、今回も店主が付いてきていた。


 ペダルを踏めば回転するが、踏みっぱなしだと止まるので、一定の間隔で靴底を押し込んでいく。


「もっと水をかけるずら あぁー! 見てられないずらよ」


 ラウロの後ろに回り込み、背後から手を重ねる二人。


 言っておくが、ロマンスは始まらない。


 荒い研ぎ材から細かい物へと変えていく。


「ちゃんと武器系統の神技もらってから戦うずらよ、今の仲間にいるずらよね」


「それがよ、俺どうも剣の加護をもらえてな」


 かなり珍しいが、こういった実例もあったりする。加護だと思われているが、実際には覚醒者の方だ。


「すごいずらね! おめでとうずら、祝いに植物油やるずら!」


 ラウロにはもう心に決めた人がいるので、優しくされても心が揺れたりしない。


・・・

・・・


 欲望という例外もあるが、二加護もちは基本的に感情神。


 魔界という世界が誕生する直前の時代だった。勇気を振り絞った青年が覚醒した。


 死の間際に刻印を授けることに成功し、その者は人間として天界に導かれる。


 天上の刻印。


 ルチオの火槌などにも耐久や打撃の強化が入っているあたり、戦槌神と火神のあいだで契約をしているのかも知れず。


 打撃専用の無断系統もある。


 〖振〗 大型の敵に限り、足を殴りつけると、振動にて動きを鈍らせる。


 〖巨〗 銀色の光が戦槌の形となり、物理判定を得て巨大化する。〖幻〗と合わせることはできない。


 現状だと近接の武器系統で主神がいるのは〖剣〗〖槍〗〖斧〗。


 天使や眷属神の位であれば、色んな武器の柱がいる。これは間違いなく、全ての近接武器に神技を対応させた、爺の功績だろう。


 恐らく変わり種の武器を好んで使っていた人間にも、才能のあった者には加護を与えていた。そして自分の神技はお前たちの武器でも使えると神託を残す。


・・・

・・・


 装備を一通り預け、前金を払ったのち、ラウロはレベリオたちのもとに向かう。


 マリカとレベリオは宿屋裏の広場で訓練をしていた。本当にいつみてもレベリオはこういう事をしており、ラウロは凄いと思う。


「とういわけで、ダンジョンは更新期間に入るらしい」


「でも丁度よかったかも知れません、珍しくアリーダが体調を崩してしまいまして」


 今は部屋で休んでいるとのこと。あと現在は物件を探しているらしく、この宿屋を後にするつもりらしい。長期滞在の場合は値引きもしてくれていたそうだが、流石にもう借りた方が安くあがるだろう。


「そうか」


「ラウロさんも一緒に訓練しませんか~」


 彼女は弓ではなく、ダガーを左右に持っている。専用の神技はなくても、こういった訓練はしているようだ。


「いや。今日は例の爺さんのことで、もうちっと回ろうと思ってな」


 もう長くはないことをラウロも気づいていたので、レベリオ達にはそこらへんも伝えていた。


「でも見つかって良かったですね」


「最後は一人なんて、寂しいもん」


「そうだよな。本当に、会えてよかった」


 伝えておかないといけない事。


 ラウロは片手剣を抜き。


「どうやら頑張りを認めてもらえたようなんだ」


 継承と加護は違う。それでも受け継いだ神技は、爺のそれと比べれば熟練は低い。


 だが、もともとラウロは神技を使い慣れていたのもある。


 民鋼に〖儂の剣〗を発動させた。


「あなたって人は……流石です!」


「ラウロさんすご~いっ」


 技名を口に出さなくても良い程度には、こなれた状態で継承されていた。


「なんかかなり偏屈な眷属神みたいでな、特殊な神技を持っているけど、君の剣みたいなのはないんだ」


 実際に〖手前の剣〗などは使えない。おそらくこの神技を開発したのは、今の主神たちなんだろう。


「これは色々と考え直さないといけませんね。ラウロさん、明日から忙しくなりますよ」


 レベリオは目を輝かせていた。そこにはルチオと同じものが感じられる。



 その後、簡単な説明を終えてから、許可をもらいアリーダのもとに向かう。


 一応。これまでの関りで信頼も得れたのか、彼らはそのまま訓練を続けるようだ。




 ラウロは二人部屋の前に立つ。



 地上界で生活している者たち。普段は全てを忘れているから、たまに他国へ渡ってしまう。


 主神は師を連れ戻すため、地上界で活動している。


 なによりも合わせをしたとき、彼女は泣いていた。


 深呼吸をしてから、扉を叩く。


「あいてるわよ」


「入るぞ」


 ベッドへ横になっていると思っていたが、彼女は椅子に腰を下ろし、お茶を飲んでいた。


 足を進めると、ラウロは装備の鎖より友鋼の剣を出現させる。


「……」


 友は嫌がる気配もなかったので、無言でこちらを見つめる彼女に、その剣を渡す。


「ありがとう」


 鞘を抜き、剣身を窓から差し込む光にあてる。



 五分ほど無言の時が流れた。


 アリーダは鞘に帰すと、それをラウロに渡し。


「もう刻印は受けたの?」


「聖神からもらった」


 友鋼はしばらく机の横に立てかけさせてもらう。


「神力を貯めすぎちゃだめよ。天使の肉体になったら、あんたもう私らと探検できなくなるから」


「〖君〗じゃないんだな」


 少し笑った。


「そんなの相手に寄るでしょ。レベリオやマリカにも使わないわよ」


「爺さんの神技ってどうも旧式でよ、改良とかできるのか?」


 技名に旧式が入っているあたり、爺さんは外にでてから改名させたらしい。


「私の刻印は本体にあるから、今は契約して授けることもできないわね。それに上書きするなんて絶対に嫌よ、悪いけど自分で改良して」


 それは師匠の技だから。


「身体一つあれば神技の開発も改良もできるけど、莫大な神力が必要になるから、私たちは専用の場所を建築神につくってもらってるわね」


 友鋼を見つめ。


「改良するにはかなりの熟練が必要よ。まずは今の旧式を極めないと駄目ね」


「そもそも莫大な神力っつうんじゃ、人間のうちは無理だな」


 ラウロは背中を向ける。


「今日はそいつここに置いてく」


「……」


 扉に手をかける。


「爺さん言ってたぞ。血刃・抜は自分も欲しかったって」


 返事も待たずに外へでる。


 悲しみが耳に入る前に、その場を離れた。


・・・

・・・


 その後。レベリオたちと軽く会話をしてから、宿屋を後にした。


 次に向かうのはサラの実家。いるか分からないが、町での集まりはそこになっているようだったので。


「あっ ラウロさん、いらっしゃぁーい」


「よくきたね、お昼かい」


 普段は食べないが、せっかくなので。


「おっさん、こっち空いてるぜ!」


 やはりルチオ組の三人はここに居た。


「じゃぁ 注文きまったら呼んでくださいねぇ」


 サラにおしぼりと水を持ってきてもらう。


「ラウロさんお父さんと同じことして」


「どうせオッサンだよ。なにはともあれ、お前ら災難だったな」


 アドネは食事を飲み込むと。


「本当だよ。僕ら手伝いだけして、けっきょく石の玉もらえなかったし」


 中ボスを倒して入手できるアイテム。


「やっぱ三つ全部集めてから、大ボスか?」


「そのつもりだ。一つじゃ俺らには無理だ」


 〖大地の巨人〗。これは本来だと、〖大地の腕〗を極めた者にしか扱えず、人間で召喚できたのは歴史上でも数名だった。


「お前らなら二つあれば行ける気もするがな」


「安全策とるに決まってんだろ」


 石の玉が一つでは、下手をすれば上級のボスより強い。苔と草花に覆われた化け物。


 二つであればかなり弱体化する。薄い苔だけの巨人。


 三つ全てでやっと初級ボスの適正と言われていた。岩肌がむき出しの巨人。


「私とサラさんを、ルチオたちと一緒にしないでよ」


「ちょっとエルダ、僕も入れて欲しいんだけど」


 なんだかんだで上手くやっているようだ。エルダも少し筋肉がついたようで、顔つきが変化している気がする。


 デボラのようにはなって欲しくない。女性には活動できない周期もあるから、ルチオたちは今回それに合わせて、登山攻略後も無理を承知で挑んだのかも知れず。


 軽めの食事を頼んでから、ラウロは店を後にした。


・・・

・・・


 次に向かうのが協会の支部。


 今日はダンジョンも更新されてしまったためか、人は少なかった。


 こちらを見あげる受付嬢が一人。


「……」


 無言の圧力がやばい。


「あ えっと、その。まあ、あれだ。とりあえず死ぬまでは人間で暮らせる」


 安堵したのか、リヴィアは息をつき。


「あとで話し聞かせてくださいね。今日は更新の関係で人少ないけど、それ以外の業務が増えてますので」


 少し遅くなるかも知れない。


「ぜんぜん大丈夫だ」


「ごめんね」


 実際に用事があって来ていた。


「それよりもあのなんだ、剣神の加護をもらってな。その登録に来たんだ」


 小声で。


「爺さんのを継承した」


「……そうですか」


 リヴィアはこちらをしばらく見つめた後、立ち上がって用紙を取りに向かう。


 記入するのは。


〖剣の眷属神の加護〗


 そのまま〖名もなき爺の継承〗〖先代剣神の継承〗などとは書けないので、こうすることに決まっていた。


 おそらく天上界からも、教国の上層部へとそれとなくは伝わっている。



 一通りの手続きを終えると。


「じゃあ酒場のほうで時間潰してるな」


「賭け事はほどほどにしてくださいよ」


 禁止とかされるものと思っていたが、そういったことはしないようだ。


「ありがとな」


 ニコッとスマイルをもらい。


「はい」


 会話もほとんどせずに協会を後にした。


・・・

・・・


 酒場に入ると、隅っこでゴブリンがうずくまっていた。


「お前その格好あれなの、町でのお気に入りなの?」


 パンツいっちょに布のマント。


 ぐすっと目を潤ませながら、ラウロを見あげ。


「モンテに怒られた。僕ちんここで遊んでただけなのに。あっ ちんことか言ってないよ」


 誰も聞いてない。


 見るとモンテとフィエロが、満了組の知り合いと賭け事をしていた。


 一名は無言のまま手を上げて来たので、ラウロも挨拶がわりに動作をする。


 リーダーは卓上の面々に声をかけてから、こちらへと歩いてきた。


「こいつまたやらかしてな、俺らがいないうちに全額かけやがった」


「僕ちんのお金だもん、好きに使って良いじゃないか」


 モンテが管理してなければ、このゴブリンはとっくに死んでいただろう。


「ラウロ、ちっと話があるんだ。今良いか?」


「まあ俺もそのつもりで来た訳だ」


 アリーダがまだ神としての意識があったのだから。


 愚かな魔物を残して、二人は空いている席に座る。


「話は聖神の方から聞いてるな」


「ああ」


 戦旗の神技を作り出した神で、刻印を通して主神へと送られた。そのため熟練は主神よりも、こちらの方が圧倒的に高い。


「すまなかった」


 もし魔神級が出現した場合は、人間であるこちらの肉体に無理やり神力を下ろす。


 人間の器には刻印もないため、徐々に体が崩壊していくが、一時的に強大な力を発揮するとのこと。


 周囲を見渡す。


「大丈夫だ、この席にだけ〖認知結界〗を張ってある」


 どうやら彼は時空神とも契約しており、その力を借りなくても、時空の神技を使えるレベルのようだ。


「瘴気に縛られたりしないのか?」


「この身体は人間だからな」


 そして肉体が滅びた後は、加護と刻印の繋がりを通り、魂が本体へと帰還する。



 魔神級が出現した例は過去に一度。悪魔ですら滅多にないと聞いている。


 神々での感覚で滅多にないということは、魔界の門が開いてから数度しかないのだろう。


「フィエロやゴブリンはどうなんだ?」


 隅っこでうなだれている男を見て。


「あいつは違う」


「……そうか」


 だとすれば。


「フィエロは眷属神だな。ただこの世界で産まれた人間だから、先代剣神との繋がりはないんだ」


「悪いんだけど、師匠のことも聞かせて欲しい」


 そうだなとモンテはうなずき。


「魔界を救おうとした光の神だ。でも当時の剣神に弟子たちが動かないよう、見張りを頼まれたそうだ」


 降臨はしなかったが、剣神に味方した罰として、自ら主神の座を引いた。


「お前は?」


「もとは傭兵だったんでね。戦があるところなら、どこにでも出向くさ」


 〖光の戦神(杖・短剣・メイス・騎士鎧・ローブ・戦旗)〗


「戦旗は加護として下ろしてなかったんだがな」


 普段はただの人間として生きている。


 血塗れの聖者。


「お前だけに引き付け役やらせるくらいなら、いっそ俺ら全員でって思ったらよ、なんかいつの間にか戦旗の神技が頭に浮かんでた」


「そうか」


 彼も人間として、色々と悩んでいたようだ。


「どれ、もう結界外して良いぞ。俺もいっちょやるわ」


 鞄からカードを取りだす。


「あいつみたいになんなよ」


「一緒にすんな。あの破天荒と」


 稀にとんでもない英雄が現れる。


 戦の申し子。雷の女帝。かつての帝国に存在した皇帝。


 すでに引退した元第一騎士団団長。


 これらもまさしくその部類だろう。


 幾多の世界を巡って来た者たち。


・・・

・・・


 金袋が寂しくなった頃合いをみて、ラウロは酒場を後にした。


 夜入り時。町は〖灯火〗の街灯に照らされる。


 協会に向かう途中。


「勝ちましたか?」


「負けちまった」


 苦笑いを浮かべ。


「やっぱり」


「ちゃんと飯分は取ってあるよ」


 ラウロの借り部屋には調理場はないが、共有の物は設置されていた。


 今日は御馳走してくれるとのことで、今から食材の買い出しに向かう。


「はやく行かないと、お店しまっちゃいますね」


 並んで歩く二人。神技のお陰もあって町規模であれば、夜でも店は開けてくれている場合が増えた。


 彼女のように遅くまで働く女性も、昔に比べ多くなっているから。


「これ天界から渡されたんだ」


 数枚の折りたたまれた用紙をリヴィアに渡す。


「なんですか?」


「心の病について、調べてくれたんだと」


 受け取って、内容を確認しながら歩く。


「なるほど。すごいですね、天上界の方たちって」


「人間として死んだら、俺は向こうに導かれるそうだ」


 用紙から視線を外し、ラウロを見あげる。


「……そうですか」


「俺もう予備軍には入らないことにした」


 心残りはある。国のために従事したい。それでも。


「人間としてまっとうしたい。もし今後誘われても、ちゃんと交渉する」


 リヴィアは用紙を自分の鞄にしまうと、こちらに手を差し出して。


「はい」


 ラウロは首を傾げる。


「手を繋ぎましょう」


「てっ 照れるな」


 そう言いながらも、リヴィアの手を握り返す。


「ラウロさん。愛してます、ずっと一緒にいましょうね」


「ああ」


 睨まれる。


「俺も愛してる」


 微笑まれる。



 手を繋ぎながら、夜空を見上げる。


 悪いが恩を返すのは、もっと先になりそうだ。


・・・

・・・


 運命がささやく。


・・・

・・・


 人々よ


 夜明けに空を見あげろ


 戦旗が風に靡く時


 〖救済の光〗が天に昇るだろう





 血塗れの聖者は血染めの法衣をまとい、友と去りゆく


 それは死出の旅立ちではない


 〖聖者の行進〗だ。









ここまで読んでもらいありがとうございました。


魔界になったのは、地上界の責任ですが、新たな世界に魔界の門が開いたのは、一部の神々の責任です。


彼らが罰の道を歩み続けたからこそ、現状で天上界が無理をしまくっていても、始源の意思たちは執行者を送ってこないのかも知れません。




一応、続きも考えてはいるのですが、気力の方が無理なのでここで最終回とさせてもらいます。しばらく気ままに執筆してこうと思います。目途が立てば投稿したいですが、いつになるやら。


ながらく小説を書いてなかったのですが、ふとこのサイトの作品を久しぶりに読み、ものすごく刺激されて現状にいたります。


とても参考にさせてもらった作品もいくつかあり、本当に楽しませてもらっています。


それでは読んでいただきありがとうございました。

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