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いつか終わる世界に  作者: 作者です
試練ダンジョン編
3/133

2話 探検者と少年とオッサン

 その後、二人は書類に名前を記入する。

 出身地と住んでいる場所、育った場所なども書くのだが、そこは受付嬢がペンを握る。代筆を頼む場合はもう一枚用紙にサインを。


 死亡した場合なども何をもって死亡とするか。生存していた場合はどこに届け出をだすか。

 魔界からの門が出現し、侵攻が始まったらどうするか。要請があれば協力するのは義務となっているが、新人のうちは拒否できるのか。交渉次第で変更できる点も実はあったりする。

 探検者として活動を止める時は報告するようになど。前もってラウロから教えていただけあり、つまずく事なく契約は終了する。


 町から町に拠点を移す。移動するというのは中々に難しい。




 受付横の階段から足音がする。二人の後ろで控えてこともあり、自然と目が合う。


「悪かったな、気を使わせちまって」


「こちらこそ迷惑をかけました」


 降りて来たのは先ほどの青年だった。


「もしダンジョンの情報欲しけりゃ、詳しい奴紹介するぞ」


 情報賃は自分が持つと加える。


 後衛と思われる女が、前衛と思われる女に対し、やっぱ悪い人じゃなかったじゃんとヒソヒソ語りかける。ラウロには聞こえているが。

 殴った側はフンとそっぽを向く。そのまま無視して探検者協会を出て行こうと思ったようだが。


「おっさん、終わったぜ」


 ルチオの声が耳に入り、びっくりした様子でラウロを睨み。


「なんでガキ連れてんのよ」


 ガキの遊び場じゃない。ガキと言われてムッとしたようだが、ため息をついて外で待ってるぞと歩きだす。大人だ。


「あっ 待ってよ」


 アドネが後を追いかける。


「悪かったって。教育係なんだよ」


「世も末ね」


 問題も解決したようで、受付嬢も安心した様子。


「賭け事に負けたから、ムシャクシャして皆さんに当たったんですよ。あっ 次の方どうぞー!」


 仕事の邪魔をしてはいけないと、少年たちの後を追う。三人もすでに用事は終えたようで、ラウロに続く。


「いい迷惑だわほんと、セクハラもされたし」


「今後気をつけますよ、変態おやじでごめんなさいね。まあ次は勝てる気がするから、賭け事は止めないけど」


「あはは、身を崩しちゃだめですよ~」


 青年は少年たちが出ていった扉を見つめ。


「試練ですか?」


「まあな」


 三人も自分たちの時を思い出したのか。


「私はまあ思い通りだったわね」


「ちょっと違ったけど、文句いっちゃ神様も悲しんじゃうもん」


 加護は風の眷属神で、得意な得物は弓だったらしい。


「僕は特に希望もなかったけど、引き付け役は慣れるまで時間かかりました。怖かったです」


 盾の主神。


「俺も引き付け役だったからわかる。属性神だけどな」


 火水土風などなど。これらでも得意な防具が盾や鎧なこともある。


・・・

・・・


 紹介された宿に向かうようで、途中まで行く先も同じだった。


 女二人は少年たちに話しかける。


「これから試験なんだってね」


「はい」


 相手が女性のこともあり、アドネはむぐっと口を閉じる。歳の差は五歳あるかないかだが、彼女らからすると実りのある五年間だったようだ。


「変なイチャモンつけられたら、ちゃんと教会に相談しなさいよ」


「普段あんなだけど、意外と熱心な信者なんだぜ。教会にも行ける時は顔だしてるみたいだし、訓練受ける前から知り合いだったんだ」


 孤児院と教会には繋がりがある。


 少し緊張もしてるようだが、ルチオは平然としているようだ。女の耳元に口を持っていき、横目でオッサンを見ながらヒソヒソ話。


「え゛っ! マジで……そうか」


 噓でしょからの、意識を切り替えからの、品定め。

 だが会話に夢中だったせいか、今回は聞こえていない。



 青年はラウロの頬を見つめながら。


「完全に治ってる。やっぱその人、もうどこか加入済みですよね?」


 ここは教国。


「そういうことか。悪いけど、回復役の紹介は俺にも荷が重いぞ。何件か当たっても良いけどよ」


 属性系。水神の加護。

 神技の熟練や扱う品の質にもよるが、採取した薬草を水で分解させ、強力な回復薬などを作り出せる。買うこともできるが、高難度の挑戦となれば、資金がすぐ底をついてしまう可能性もあった。


 探せば都市同盟にも水の加護はいるだろう。だが探検者というは上達すればするほどに、慎重になるものだと思う。長く生き残っているのだから。


「命は無事だったんだけど、しばらくは活動停止ですよ」


 ラウロに近づき小声で。


「向こうに残して来たんですが、うちは欲望の加護も女性なんで、唯一の相方だったんですがね」


 どうやら回復役は男だったらしい。


「もしかすると、このまま二人は引退もありうる」


 都市に残って看病をするとかであれば、欲と水の加護を持つ男女は、愛神の祝福を得られるかもしれない。爆発しろ。


「欲望の加護持ちか。もしかして、ン・マーグから?」


 宝箱の気配や索敵、罠の解除に発見。感情系には眷属神などはない。


「挑戦したことはありますが、活動してたのはゴーワズです。産まれはカイドッホ地方の漁村ですが」


 五大都市同盟。


 ゴーワズ 貿易の窓口であり、また大昔の戦争時は真っ先に狙われる。諸外国からの力を借りて、飲み込まれないよう立ち回りながら、都市同盟の基盤をつくった。教国とは海峡を挟んでいるが近い。


 エドワルード 昔は王都だった。すべての道がここを中心に広がっている。


 カイドッホ 大陸から少し距離はあるが大きな島にある都市。周囲には小さな島が複数あるせいか、海流が入り組んでおり、地元の人間でないと船の運用は難しい。開拓に苦労した土地柄が関係しているのか不明だか、探検者で名を上げる者が多い。広大な農地がある。


 カイッサ 魔界の侵攻が始まるずっと昔。まだ小国どうしが争っていた時代、金の力だけで生き抜いた商人たちが興した都市。


 ン・マグ そこは探検者の憧れの地。数あるダンジョンのなかでも【迷宮】だけは、欲望の加護持ちがいなければ攻略不可能と言われている。都市同盟の探検者協会本部はここにある。


 

 その国にラウロは行ったことがない。


「都市同盟は探検者が盛んなだけあるな。教国よりも移動に制限が少ないみたいだ」


「確かにそうですね。審査に時間がかかっても通らなかったことはないかな」


 回復役を求めて教国に来た。


「古都アンヘイってあるだろ。その地方に教国の領土があるんだ」


 漁村で暮らしていた時は、自分の故郷周辺の出来事しか知らなかった。しかし探検者となって知識も増えたのだろう。


「なるほど……平常時、教国からの支援者はそこに滞在ですか」


「教国は光の加護持ちが多いけどな、派遣軍や光の騎士団には従軍期間ってのがある。最短でも訓練期間抜きで五年は勤めなくちゃ駄目だ」


 緊急時は勤め明けでも招集される。

 教国から帝国への支援部隊は、柱教の分派だった者たちが管理する。

 

「ダンジョンのない町や村を探してみた方が、まだ見つかるかもな」

 

「ゴーワズの支部でも難しいと言われたんですがね。ラウロさんの仰る通り、教国では町から町の移動も難しいそうです。ここのダンジョンに挑戦する許可はもらえたんですが」


 同じく死亡者、重傷者が出たベテランのパーティがあったのなら、都市同盟内でも解決していたかも知れない。ここに居るということは、恐らく都合の良い相手は居なかったのだろう。もし三人が別々となれば、難易度もずっと下がるだろう。


 無い知恵を絞りながら。


「スポンサーを探すとか。んで、代わりに回復薬をもらう」


「商人との直接の売買は禁止ですよ、多分どこの国も」


 国営の探検者協会を敵に回すわけにもいかない。


・・・

・・・


 思えば、ずいぶん会話に夢中になってしまった。ふと後ろを向くと、前衛の女が自分を睨みつけていた。


「なっ なんだ」


「リベリオ、そこの道入った先みたいよ」


 情報くれてありがとうと、ルチオの肩を軽く叩く。礼を言われた本人は困った表情をしている。


「あ~ お腹すいたぁ。それじゃ、二人とも頑張ってね」


 食事の回数が朝夕二回の人もいれば、朝昼晩の人もいる。


「もう着いたのか。ラウロさん、色々教えてくれて有難うございました」


 少年たちに目を向けて。


「もしかしたら思い通りでない加護を授かるかも知れないけど、なにか意味があるかも知れないんだ。少なくとも僕は今、良かったと思ってる」


・・・

・・・


 三人組と別れてから数分歩けば、町の外へと続く大門。高さ二十mほどの壁、厚さもそれなりにある。

 出入口は開いた状態のままだったが、建物の中外で検問をしていた。壁上にも弓を持った数名が見張っている。


「ほいお疲れさん、ダンジョンかい?」


 こちら側の門はその関係で出入りが多い。


「いつもお疲れさんです。その予定で通行頼んます」


 ルチオは受付嬢に渡された証書を取り出し。


「これ」


「はいよ、確認させてもらうね」


 ざっと読んでから印を押し、証書の端を専用のペンチみたいなもので切る。


「初のダンジョンか、まあ気負わず頑張れや」


「はっ はい、ありがとうございます」


 アドネは相変わらず緊張している。


「まぁ、俺もそんなもんだったな」


 教国の兵士たちは皆、多少の違いはあれど同じ鎧をまとい、同じ武器を装備している。彼らが加護で優先するのは神技よりも、神力混血による身体能力の向上だ。足並みをそろえる。

 彼らの働きを見て、ラウロは自分もやってみようと、専用の神技がない鎧をまとい剣を差した。



 町から出ると、三人はしばらく道ぞいに進む。周囲の木々は伐採されており、視界が開けている。

 アドネは行く先に見える建築物を指さし。


「あれなに?」


 石の土台と木材、そして土袋で出来た長細い建築物。


「防衛線みたいなもんだ。立て籠もることもできるし、途切れてはいるが町を囲っている」


 木壁の上から町壁に戻れるよう、何カ所かその方向に伸びている。町に戻れるということは侵入経路でもあるため、色々と対策は必要だが。


「探検者の大半は集団の訓練をしてないからな、兵士との共闘が難しい場面も多い」


 理解できたようで、二人が唾を飲み込んだのがわかった。


「ただ少人数での連携には慣れてるからよ、戦力にならないって訳じゃない」


 十mほどの壁は石と木製だが、一部は木壁に囲まれた石造りの建物になっていたりする。


「俺らもいつか、ここで戦うんだな」


「うん、強くならなきゃ」


 魔界の門。出現する場所は神のお告げから聞くことができる。歪んだ空間の中から瘴気と共に魔物が出てくる。どこに出現するかは神さまにもわからない。


「そうだな。俺もお前らも強くならなきゃな」


 行動したこと自体に意味があるとは言うけど、やっぱり成果は欲しい。

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