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いつか終わる世界に  作者: 作者です
継承
28/133

4話 運命に抗う者



 ラウロは初級での登山や中ボス戦を終え、町での生活にもどる。


 グイドは資金も手に入ったので、休みを利用して山岳信仰の集落へ、様子見にでかけるとのこと。馬に荷を背負わせて向かうらしい。


 今回は登山が目的ではないが、集落は山奥にあるので、一日や二日で帰ってくるのは難しい。あと出かける時は嘘ではなく、ちゃんと正直に役所へ届け出をだせと言われたとのこと。


 冬も近いので急がなくては。



 ルチオ組の面々は報酬を受け取ってすぐ、エルダやサラと初級の攻略に向かう。二人はもう少し休むべきと思うが、教育係ではないので口出しもせず見送った。


・・・

・・・


 役所。それは死亡や生存の届をだしたり、ダンジョン以外で町から出る時に許可をもらうなど、まあ色んな用事で行くところだ。


 ラウロはそこから出てくると、ため息を一つ。


「町から出発した記録もないか」


 年老いた浮浪者の亡骸が、貧困街で見つかったという報告も上がってない。


 本人が望まないから強制保護はしなかったが、あの老人には気を配っていたようで、常々様子は観察していたらしい。


「止めれるもんでもないか」


 最後の目撃者は貧教会のシスターだが、ラウロがなぜそのまま行かせたのかと言っても、あたしには関係ない話だと突っ放された。


 鞄から金袋を取り出し。


「報酬もらいにいかんとな」


 今日まで貧困街を中心に町中を探し回っていたから、受け取りは後回しになっていた。


「働かんと」


 騎士団時代の金。贅沢をしないで普通に生きれば、十年や二十年は余裕に暮らせる。でもこれはもしもの備えで、死ねば寄付する予定。


 だからなんの憂いもなく、軽い気持ちで探検者を続けられていた。


 自分の年齢からしても、あと十五年ほどで引退して、その先は協会で簡単な仕事をもらいながら生きていく。これが彼の人生設計。


 頭の中で意味のない考え事が巡っていく。


・・・

・・・


 探検者協会の支部に到着し、列に並ぶ。やがて自分の順番がきた。


「この前の報酬をもらいに来た」


 レベリオ達には事情を伝え、少し予定を伸ばしてもらっていた。もし今日探していなければ、明日からはダンジョン活動に向けて三人と準備を始めなくては。


「こんにちはラウロさん……どうかしたんですか?」


 デレデレしていない事のほうが珍しい。


「世話になった人がな、姿をくらませちまってよ」


「……そうですか」


 別段隠すことでもない。レベリオ組にしてもリヴィアにしても、老人との繋がりはないので、彼に関する話はしてこなかっただけだ。


「まあんなこと、あるっちゃあるしな」


 特に魔界の門がひらいた時期では混乱も起こるので、死んでいたと思っていたら隣町で生きていたなんて、良くある話だ。



 リヴィアは作業を進めながら。


「世話になったんですか?」


「ん、そりゃな。剣の師匠なんだよ」


 手を止めて、資料からラウロに視線を移す。


「大丈夫ですか」


「大丈夫じゃないから心配してんだ。あの人もう歳だし、体調も良くないしでよ」


 探せる期限は今日しかない。


「じゃあちょっとしたら、受け取り口に並んどくからよ。頼むな」


「……はい」


 レベリオたちは探すの手伝いましょうかと言ってくれたが、彼らにも支度などはあるだろうから断っていた。


「あっ ラウロさん」


 呼び止められ振り向く。


「今なんか天上界の方で問題が起きてるらしくて、当分は試練と練習ダンジョンが封鎖になるそうです」


「そうなのか?」


 珍しいこともあったようだ。なにか関係しているのだろうか。


「少し前に中央教会にお告げがあったようで。なんでもここだけじゃなくて、教国全体がそんな感じだそうですよ」


 もしかすると大陸全土だったりするのだろうか。


 初級・中級・上級。


「他のダンジョンにも響かないと良いな」


「はい。だから活動を見送って様子見してる人たちもいますよ」


 ルチオたちはお告げが出る前に出発していたので、今は初級にいる。群れの中ボスに挑戦するために、幾つかの組と協力できないか、大地の裂け目付近の拠点で検討をしているようだ。


 他の組が雑魚を引き付けている間に、ルチオたちは中ボス戦に挑む。その逆もしかり。


「わかった。情報ありがとよ、明日あたりうちの連中とも話しとくよ」


 もうレベリオ達も情報を仕入れているだろう。




 モンテたちの姿は見えないので、受け取り口近くの席に座る。


 明らかに大丈夫でないのは、オッサンの方だった。



 その後、協会支部を後にする。このまま町中を探すのも良いが、貧教会に一度もどり話を聞く。


 急ぎ足で排水路の橋を目指す。


・・・

・・・


 貧困街に到着し、教会の庭に足を踏み入れた所で、ある人物の姿が目に映った。


「ラウロか。そういえば、あんたここで世話になってたんだったか」


 恐怖の女上官だった。


「なっ なぜこちらにいらっしゃるので?」


「あんたが私に頭が上がらんように、私も頭が上がんないんだよ。ここの方にはね」


 すでに引退しているが、もとは教国の役職についていた。それはラウロも知っていたが、まさかデボラと関係があったとは。


「せっかくこの町に回されたからね、たまに様子を見に来てるんだよ」


「そ、そうですか」


 けっこういつも偉そうな態度をとっていたが、やばかったのだろうか。


 デボラはラウロの肩に手を置くと。


「あんたもう知ってるかい? 試練と練習でなんか問題があったそうでね、私らは今回の活動を見送ったわけさ」


 それで時間があいたから、挨拶がてらここに来た。


「はい。先ほど協会支部でその話は聞きました」


 ラウロの様子に苦笑いを浮かべ。


「私しゃそんな厳しかったかね、いくらなんでも、ちょっと怖がり過ぎじゃないかい?」


「いえ。自分にとっては騎士団を引退したとしても、上官であることに変わりはありませんので」


 たしかに新人のころは扱かれまくったが、普段はこの人けっこう穏やかだったりする。


「そうかい、まあいいや。あんたは知らないだろうけどね、私の頃はもっとやばかったんだ」


 上司が部下に対して、自分が若いころはと自慢げに話すことがある。


「失礼な態度とるんじゃないよ」


 なんどか肩を叩かれ、デボラは去っていった。彼女は今だけでなく、騎士団の時代から、こういった発言をしたことがなかった。


「あの婆さん何者だよ」


 しばらく顔が引きつってしまい、教会に入ることができなかった。


 扉が開く。


「話し声がすっから来てみたが、小娘と話してたのはあんたかい?」


「あっ ああ、そうだ」


 とりあえず今さらなので、いつも通りにすると決める。


「爺の事かい。なら、あたしにはもう分かんねえよ。まあ丁度いいや、また出すの面倒だったんだ、そこで待ってな」


 そう言われて教会内に戻っていくシスター。


・・・

・・・


 椅子に座らされ、布をかけられると、手動のバリカンで髪を切り落とされる。


「婆さんもうちょっと丁寧にやってくれ、痛てえよ」


「うるさいねえ。あの偏屈はなんも言わんかったよ、あんたと違って大人しいもんさ」


 像を寄付して身辺整理をしているようだった。珍しく頭を丸めたいと自分に頼んできた。


「……そうか」


「私らを当たった所でもう情報なんてでないならよ、自分の中にでもあんじゃないかい?」


 これまでの爺との会話。


「どうせ半分くらいしか、まともに聞いちゃいなかったろ」


「確かにな」


 動き回る前に考えろ。


「あの爺は偏屈だがな、冗談や嘘がつけるような性格じゃあないね」


「長年生きた婆の見立てか?」


 うるせえと頭を叩かれる。


「今は集中して、会話の内容を思いだせっつってんだよ」


「いや、でもな婆さん」


 古傷がある前頭部でもお構いなしに、バリカンを容赦なく動かされる。


「痛くて集中できないんだけど」


「堪え性のない餓鬼だね、何度あんたの頭刈ってると思ってんだ、あたしの腕が悪いっていうのかい」


 この人は精神を病んでいる相手にもお構いなく、腫れもの扱いするどころか、最初からこんな感じだった。


 それが嬉しかったのを、今になって思いだす。


・・・

・・・


 まだ大して伸びてなかった髪を刈られ、痛みに頭をさすりながら、爺と出会ったあの橋に行く。



 いつしか定位置となった爺の隣。


 彼とのこれまでの会話を振り返る。


___人に施されるわけにはいかん、儂これでも神さまだったし___


 教会に殺されるぞ。


___誰も相手にせんさ___



 オーガ


___厄介なのは天使でも厳しいぞ、儂ならなんとかできたがね___


___瘴気から産まれた最初の鬼だった___



 これらがもし本当だとすれば。


「まじかよ」


 あの娘だけでなく、あの老人も天界の関係者。


 でもそれなら辻褄があう。


 今起きている練習と試練での異常。



 ラウロは立ち上がろうとするが。


「でも封鎖してるんだよな」


 無理やり行くとしても、時空の加護者がいなくては。唯一協力してくれそうな者は、今ごろ山奥だったりする。


 もっと最近のことも振り返らなくては。


___すべては身からでた錆びだ。この程度は覚悟の上で生きとる___


 なにかを仕出かして、天界にいられなくなったのか。


___解決できてねえ事なんざ沢山ありすぎて、今さらだ____


 爺の剣。どこにでもある、今では価値の低くなった、地上の鋼。


 だがあの鈍い銀色は、どう考えても普通ではない。


「友鋼」


 繋がっていく。


___もう長くはねえこの身だ、好きなように生きて死ぬだけさ___


___帰り道、もう忘れちまったな____



 託そうと思ったが、やっぱやめだ。


 試練のダンジョン。


 行かなくてはと、ラウロは立ち上がる。


 橋の端で姿を隠している、大きな爺と目があった。


「らーうろちゃん、みーつけた」


 ニコニコ笑っている。


「師匠」


「だからダメ。そんなんじゃダメ、駄目よ~駄目ダメっ!」


 マスター・ルカと呼ばれたいらしい。


「あの、ちょっと行かなきゃいけない場所がありまして。師匠と遊んでる余裕が、今はありませんので」


「試練ダンジョンのことかしら? でもラウロちゃんには無理よ、だってあの人がいるのって、たぶんもう廃棄された所だからね」


 魔界の介入がはいり、〖神像修復〗だけでは難しくなってくれば、あのダンジョンは廃棄される。


 以前から得体の知れない人だったが。


「あんた何者だ」


「人間よ。本体は天上界で眠っているけどね」


 光の拳術神。


「神さまってのはねラウロちゃん、そう簡単に降臨できないのよ。だから私はその対策で、今は人の器にいてね、普段は全てを忘れて生活してるのよ」


 今は緊急事態だから、その意識が呼び覚まされている。


 ラウロは天上界を信仰しているが、崇めているのかと言われれば違う。恩を返したいと行動しているだけだ。


 平伏もせずに、一歩さがり。


「それで、自分になにか用事があってのことでしょうか?」


「他人行儀はイヤよ、イヤイヤっ。私の役目はここまでなの、事情も良く分かってないから、今から呼ぶわね」


 ルカは装備の鎖から、ピンク色のステッキを取りだす。派手に装飾されており、なんか子供が好きそうな感じがする。


 咳払いというか、痰を吐きだして喉の調子を整えたのち。


「ガチムチマジムチ ムッキムキ 天使さんこ~い」


 恐らくこの道具は、特にこれといった力はないのだろう。ステッキを向けたのとは別の場所に、空間の歪みが発生していた。


「ちょっと止めてください。私そんな登場の仕方したくないです」


 天使とはいうが、どこにでもいるような、普通の娘が現れた。服装も白い衣などではなく、この町にいても遜色のないような。


「始めてじゃ、ないよな?」


 見覚えがあった。


「あっ はい、そうだと思います」


 どこかこちらを探るような視線。でもそれ以上は答えない。


「〖古の聖者〗か?」


 二十代後半。たぶんいつも同じで、性別は女。


「そうですね。はい、それ私です」


 なぜか気落ちしているようだが、ラウロは心に余裕がない。



 マスター・ルカは優しい目で二人を交互に見てから。


「じゃあ、私は行くわよ。ラウロちゃん、次に会う時は今日のこと忘れてると思うから、触れちゃだめよ。わかった?」


「えっ あ、はい」


 そう残し去っていく。


 ふと周りを見渡せば、自分たち以外誰もいなくなっていた。


「空間を少しずらさせてもらっています」


 人避けの効果がある結界でも張っているのだろうか。去っていく師匠の背中を見て。


「あの方はラウロさんだけじゃなくて、私や聖神さまの師でもあるんですよ」


 あとは光の主神。


「良いのか、そんな大物がこっちにいて」


 天使は先ほどまで座っていた位置を指さし。


「いくつかお話をしないといけませんので」


「わかった」


 自分はいつもの位置に。彼女はジジイの売り場とは別の場所に腰を下ろす。

 

「まずはあの方について説明する前に、【悪魔】と【魔神】についてからですね。記憶の操作はしませんが、他言はダメですよ」


 うなずくのを待ってから、一つずつ教えてくれる。




 魔界と呼ばれる場所のこと。


 そこを救おうとした神さまがいたこと。


 余計に問題を大きくしてしまったこと。


 自分で自分を罰した神がいたこと。




 話が大きくなりすぎて、ラウロは質問もできずにいる。


「魔界の門は一定の数を吐きだせば、自然に閉じることもありますが、そうでない時はどうしているか分かりますか?」


「……あんたらか」


 正解と褒めてくれる。どこか懐かしい。


 魔物は人間に任せるが、門を閉じるのは天上界の役目。これは各国の重鎮であれば知っている事実。


「でも天使だけでは厳しい相手が出てくれば対処できません。神さまは簡単には降臨できませんし」


「だから師匠みたいに、普段は人間として生きているのがいる」


 しばしの沈黙後。


「あの方は主神級なので、教国方面の筆頭です。これにも問題はあるんですが」


 帝国 教国 都市同盟。これらには天使では対処が難しい敵に備え、普段は人間として生きている眷属神だけでなく、主神級が一柱加わっている。


 誰がそうなのかは問題も起こるので、地上界に知らされていない。


「彼らは普段だと人なので、使命も忘れています。だから稀に他国へ移っちゃうんですよ」


「もしやばいのが出てきたら、師匠がその【悪魔】や【魔神】ってのと戦ってるんだな」


 ここで本題に移る。


「【悪魔】は倒せますが、一部の【魔神】は倒せません。そのクラスがこちらに出てきた例はないのですが」


「今の所は……か」


 もしかすると何時かは出現する。


 聖神は魔系統特化を持っており、もし今後成長すれば、なんとかできるかも知れない。


「はい。ですが過去に一例だけ、【上位魔獣】を封印できたことがあります」


 なんとなく、話の展開がラウロにも読めて来た。


「もうあの人、戦えないだろ」


「継承すればなんとかなりますが、本人が自分の業を背負わせたくないと、今はそのまま死ぬつもりでいます」


 加護とは意味が異なる。


 継承。それとも承継と読むべきか。


「俺か」


「はい」


 試練のダンジョンにいるが、すでに破棄された場所。


「まだ彼の居場所はこちらでも特定できていません。それにラウロさん、もし継承をしたとなれば、私たちは貴方をこちらに導くことになります」


「想像できないな」


 隣に座る女性を見て。


「あんたらはその継承ってのが目的で、今必死んなって居場所をさがしてんのか?」


「当然ですがそれもあります」


 真っ直ぐにラウロの目を見つめ返す。


「あの人は私にとっても恩人ですから」


「じゃあ俺じゃなくて、あんたら天界の連中が迎えに行ってやれよ」


 間違いなく、帰りたがっているはず。


「私よりも長い時間をあの人と過ごしましたよね。ならわかりませんか?」


 偏屈。


「天界の方たちは大半が、ラウロさんよりもあの人を知ってます」


 自分たちが迎えに行こうものなら、その場で爺は終わらせるだろう。


 犯した過ちを、誰よりも許していないのは。


 ラウロは視線を地面に移す。


「爺さんは俺にとっても恩人だ」


 天使はオッサンになった男を見つめたまま。


「あの人にとって、貴方と過ごせた時間が恩返しになってたかも知れませんよ」


 楽しかったと伝えてくれ。シスターからそう言われた。


「俺は会いたい」


 ただもう一度。


「そのためなら、天界だってどこだって行ってやる」


「わかりました」


 ルチオ。


 アドネ。


 レベリオ。


 アリーダ。


 マリカ。


 サラ。


 エルダ。


 その父と母。


 デボラ。


 中央教会の神職たち。


 シスター。


 モンテ。


 フィエロ。


 ゴブリン。


 イザ。


 ティト。


「人間だった頃の記憶ってのは、消せるのか?」


 心残りが多すぎる。


「本当にそれでいいんですか」


 それでも会いたい。


 だけど、別れたくない人たちが、人が居る。


「俺はまだ、感謝すら言ってないんだ」


「ちゃんと周りを見てください」


 天上界はなぜ、彼女をこの場に向かわせたのか。


「明日。この時間にいつもの広場に来てください。恐らくあの人は、そこから試練ダンジョンに入ったはずです」


 それまでには居場所を特定する。


 天使が立ち上がれば、まだ残っていた空間の歪みに向けて歩きだす。


「他言しないでと言いましたが、ラウロさんが信用できる一名にだけは、伝えても良いですよ」


 この場には誰もいなくなり、少しすると町の人々が橋を通り始めた。


 何時かの夕暮れ時と同じ風景。


・・・

・・・


 色んな事が起こりすぎ、もう頭が破裂しそうだった。


 天上界になど行きたくはない。


 それでも、会いたい。



 ふらつく足で借り部屋に帰宅すれば。


「なんでいるんだ」


「職権乱用しちゃいました」


 リヴィアが扉の前に座り込んでいた。


 こんな状況なのに、嬉しくなってしまうオッサン。


「心配かけちまったか」


「ラウロさん顔に出やすいですから」


 手に持っていた包みを見せて。


「なにも食べてませんよね、一緒にどうですか」


 こういった貸家には調理場などはついていないので、すでに出来ている物を買ってきてくれたようだ。


「すまん」


 鍵は普段から持ち歩かないので、いつもの隠し場所から。


「信じられない」


「いや、こんなもんだろ。貴重品なん持ち歩くし」


 こんな状態だからこそ、嬉しくなるオッサン。


・・・

・・・


 彼の部屋は汚いというよりも。


「なんもないですね」


「こんなもんだろ」


 埃などはちゃんとあるが、ゴミは決められた場所に持っていくなどはしていた。大家がうるさいので。



 ご飯を食べながら、爺との関係をリヴィアに教える。


 解決できなくても良いから、少しでも楽になる方法を考えろ。


 症状が進むと本当に動けなくなる者もいる。そうなる前に耐え忍ぶだけではなくて、もっと工夫しろ。



 そして行方不明になった爺さんが、元は神だったことも。


「もうほんと、選ばれし者すぎて」


 リヴィアはこの話を聞くと、しばらく無言で飯を食べる。



 食事が終わって、煮沸した水分で一息ついてから。


「以前から思ってたこと、言っても良いですか?」


 なにかお叱りを受けるのではと顔を引きつらせるが。


「職場の労働環境が悪いことってあるけど、大きく別けて二種類あります」


 どうも違うようだ。


 ブラックな職場。


「一つはもう最初から職員を食い潰す予定の最低最悪なものですね」


 まともな上司もいるかも知れないが、上層部が最初からそのつもりなので、どうしようもない。


「あとはもともと普通だったんですが、業績の悪化とか人手不足で、どうしても環境が悪くなる場合です。協会とかまさにこれですよ」


 残業代などは出してくれる。業績不振で全額は無理でも、せめてできるだけお金は用意しようとする。


 もっとも人間関係などは何処にでもある。糞みたいな上司もいれば、同僚や部下もいる。


「探検者は個人での仕事なんであれですが」


 国への税金などは報酬の中から引かれているし、危険ではあるが皆が認める国の仕事。


「騎士団はどうでしたか?」


「どっちかつうと後者か」


 給料は良かったし、怪我で戦えなくなった時など、それだけでなく色んな保証もしっかりしている。


「正直、私は他の国を知らないので何とも言えませんが、教国ってかなり真面な方なんじゃないですか?」


「そうだな」


 だからこそラウロはこの国が好きだ。


「今まで騎士団や教国と、ちゃんと交渉とかしてきましたか」


 ラウロが聖の加護持ちだという理由は確かにある。


「えっ?」


 無理はさせるなと、もと同僚たちを探検者にして見守らせる。


 精神を崩してからは全面的に面倒を見ていた。


「私って協会で働いてるので、なんとなくわかるんですけど、天上界もかなり地上に協力してくれてますよ」


 ダンジョンという資源。断魔装具という武具や道具。


「今まで自分の意思を通せるよう、交渉とかしてきましたか?」


 感情的にならず、冷静にお互いが妥協できる位置を模索する。


 譲歩。


「してはこなかったな」


 リヴィアは相手の目から視線をそらさずに。


「どうみても英雄の器じゃないのに、なんで血塗れの聖者なんてやってるんですか?」


「いつの間にかそうなってたんだよ」


 呪縛のように運命が行く先を。


「ラウロさんはお爺さんにお礼を言いに行きましょう」


 天界。


「それが終わったら、交渉です」


___連中は理に縛られているが、ちゃんと人の意思は尊重するはずだ____


・・・

・・・


 すでに夜だ。流石に貧困街なので送っていく。


 貧困街の堺。目印の橋。


「ここまででもう平気です」


「いや、家の近くまで送ってくよ」


 世話になったし。


「言っときますけど、私だって誰にでも職権乱用なんてしませんからね」


「わかってるよ」


 察しの悪いラウロにも。


「あの、あれだ……今度、お礼に飯でも行かないか?」


 睨まれる。


「嫌です。もうこの際なんで、はっきり言ってください」


 怖い。


「交際してください」


「天界とか導かれたりしたら、ぶっ殺しますからね」


 まじで怖い。


 





長かった。やっとここまで来ました。


お付き合いくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。


次は時間がかかると思いますが、ここを書きたいとモチベーションにしていた場面ですので、頑張りたいと思います。


最終章も終盤で、あと数話になりますが、どうぞよろしくお願いします。

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