23話 青く、青い空
初級の中ボスは全部で三体。
ゴーレムという神技の特徴として、見た目で熟練の高さがわかる。
中ボス(群れ) 土狼だが背中に草が生えており、一体だけその量が多いのがボス。
中ボス(岩鎧の戦士) これらには苔が生えており、心臓部に石核がある。同時に倒す必要はないが、両者の核を破壊するまで、この二体は動き続ける。
土の加護(杖)はバランスよく神技を使うより、どれかを重点的に鍛えた方が良い。
群れの場合は熟練を上げなければ草は生えず、数も増やせない。強い個体であっても、苔つきになるまでは結構な時間を使う。
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酸素も薄くなければ、天候も変化しないので、頂上では多めの休憩をとる。
本当は道中でも〖聖紋〗を使えば、イザはあそこまで精神を消耗しなかったが、〖聖壁〗だけでも多くの神力は消費していた。
「じゃあ皆、準備は良いっすね?」
ティトの装備は鉈(民鋼)になっていた。必要なのは斬撃と言っていたが、実際は神技の方だったので、彼が選んだのは打撃に優れた武器。
剣に限らず、近距離武器の基礎神技は共通している。
槍での〖一点突破〗は鋭い。刃だけでなく、石突からでも〖無断〗は可能。
鈍器だと斬撃はできないので〖血刃〗も使えないが、そのかわり〖無断〗系統の神技が磨かれる。
「イザ姉ちゃん、もう平気?」
「全然、元気になったよ」
頑張って登ったという達成感は、彼女にもあった。できればこの気持ちのまま、登山口に帰りたいのかも知れないが。
「聖壁から離れないよう、気をつけるっすよ」
「はいっ!」
これから戦うボスは厄介な攻撃を使う。なによりも戦場となる空間が難敵だ。
「ラウロさん、今回は山道と同じっす。聖壁が要っすので、よろしく頼んますっす」
スの数が多いっす。
「任せろっす」
「真似しないでください」
それぞれの役割を。
「アドネ君の作業が終わってから一気に行くんで、ルチオ君は神技を温存するよう」
「おう」
最終確認を終えた所で。
「じゃあ、行くっすよ」
ボス戦の意思を込めて、時空の紋章に神力を沈ませる。
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・・・
舞台は頂上。
それなりの広さはあるが、三方が断崖となっている。そこから落下し場外判定をくらえば、三割の確率で死亡し、生き残ったとしてもこの空間に入場はできない。
風もなければ、雲もなかった。息苦しい感じもせず、新鮮な空気が肺を満たす。
ただ青く、青い空。
「各自位置につくっす」
ティトとルチオが横並びの先頭。
ラウロは真ん中で、斜め後ろのアドネに。
「頼んだぞ」
「うん。〖探さないでください〗」
どこかに消える。肺活量が重要となってくるのは、彼も同じだった。
意識を少しでもこちらへ向けるために、〖聖者の威圧〗を発動。
イザはラウロの後ろ。
「合図だしたら例のやつ頼むぜ、イザ姉え」
「うん。でも本当に危ないからね」
あまり乗り気ではないようだ。
回復に頼り過ぎるなと教えを受けたが、今は色々と試したい時期でもある。水の加護と組める機会も少ない。
「来たっすよ」
彼らから前方は岩肌が露出している壁となっており、こちら側であれば落下の心配はない。
中ボスはその手前に出現した。地面から巨大な岩の指が生える。
岩の手は這い出るように動き、手首と前腕が出現。
「立派な苔があんな」
緑が深まるほどに強く、濃さは毎回変化する。
ルチオは面倒くさそうな口調で。
「聞いてたとおり、上腕から肩は土か。こっちも草が生い茂ってやがる」
それでもどこか嬉しそう。
土の加護(杖)【大地の腕】 地面から岩土の腕が出現。大きさは四から五mほど。
ティトとルチオの前方に〖聖壁〗を展開させ。
「引き寄せくんぞっ!」
〖飲み込む手の平〗 設置型大盾とほぼ同じ性能だが、その射線はリヴィアの〖飲み込む巨大盾〗よりも狭い。対象によっては堪えることもできるが、隙が生じる。
ラウロを守っていた〖聖壁〗に引力が働くが、この神技はもとより地面に根付いていない。重さとは別の法則でそこに存在する。
「〖貴方たちの剣〗〖僕の剣〗」
複数の仲間に〖貴方の剣〗をかけれるが、神力の消耗は一人ずつのほうが少ない。
鉈はホルダーにしまったまま、鎖から細剣を取りだし。
「先に行くっす」
〖聖壁〗から横にそれると、〖一点突破〗で巨腕に接近っする。
もし得物が剣鉈であれば突きでも行けたが、拠点にあったのは普通の鉈だけ。
狙うのは上腕の土部分だが、生えている草は動物の毛と同じく、刃の邪魔となる。
それでも貫通の強化された〖一点突破〗。その威力は絶大で、草もろとも上腕に突き刺さった。
〖波〗は使わずに引き抜けば、穴の開いた部分の土が塞がっていく。
【大地の腕】はまだ動かない。
「おっさん!」
「はいよ」
聖壁を消すと、先を走るルチオを追いかけながら、彼の前方に〖聖壁〗の足場を出現させた。
岩の部分を完全に破壊すれば【大地の腕】は停止するが、この敵は大きかった。
「最初は試すためにも、神技使うぞ」
ルチオは〖聖壁〗に乗ると、そのまま一段高い位置から飛び跳ね、腕の岩部に向けて。
「〖炎槌っ!〗」
狙うのは手首だが、少し外れた。【大地の腕】の前腕が削られ、亀裂が走った。
「そんな固くねぇ」
手ごたえは良い。着地と同時に振り返り、命中したカ所を見上げれば。
「ダメだな」
亀裂は少しずつ修復されていた。通常の回復神技は効果ないが、〖大地の腕】は秒間回復をもつ。
「せっかくのダメージっすからね」
細剣を消し、ホルダーから鉈を取りだすと、上腕の草を払いのけてから。
「〖血刃〗」
この神技には回復の妨害機能があった。
瞬きをすれば効果が切れる。
「時間かけ過ぎだぞっ!」
ティトは避難に成功するが、ルチオは出遅れた。
単純な薙ぎ払いでも、それを繰りだすのは巨大な岩の腕。
ラウロはイザの前方に聖壁を出現させると、自分はルチオと【大地の腕】の間に割り込む。
片手剣は鞘に入れたままだったので、丸盾と〖聖十紋時〗に〖聖壁〗を加えて受ける。
「すまねえ」
ルチオが離れたのと同時に〖聖壁〗は破壊され、〖聖十紋時〗を通り抜けてから、丸盾と激突。
威力と衝撃は完全に抑えたが、やっぱりでかい。
ゼロ距離からの振り抜きだとしても、ラウロは後方に吹っ飛ばされた。
この戦場はそれなりに広い。それでも、これまでの戦闘空間と比べれば狭かった。
場外に落下すれば退場。
聖壁が破壊されたのであれば、もう一つ造りだせる。吹き飛ばされながらも背後に〖聖壁〗を出現させる。
吹っ飛ばされた衝撃よりも、背中で〖聖壁〗に激突した痛みの方が強かった。落下は免れたが、〖聖壁〗を壊す威力なので負傷は免れない。原因は不明だがクッション効果は発動しなかったようだ。
イザは空間の腕輪から回復薬を出し。
「〖噴射〗」
水神技の回復は雨中であれば、瘴気の中でも十分に役立つ。
〖噴射〗は単体回復のため、皆に使うとなれば、それだけ数を消費する。
「行けるぞっ!」
ラウロはすぐさま立ち上がり、全員が入る位置で〖聖域〗を発動させた。
「目が痛てえっす」
耐えきれず瞼を閉じるが、その間もルチオは戦槌を振り上げ、【大地の腕】の岩部を殴り続けていた。
ティトは再び接近し、草を掻き分け【血刃】をつかう。そのまま岩部にも叩きつけれるので、鉈は良い武器だ。
刀身は短いが。
・・・
・・・
大きいが動きは追え、移動もできないので位置取りも楽。
回復能力さえなければ、もう戦いは終わっていただろう。
〖聖壁〗による足場を使い、アドネは中ボス背後の崖上に立っていた。
「あったよ!」」
ゴーレム〖大地の腕〗 上腕の土部分に生えているのは草だけではなく、本来そこには〖花〗も幾つか咲いている。すべてを引き千切ることで、この神技は回復能力を失う。
「アドネ凄いっ! 頑張ったね!」
彼の手には五本のお花。今回は中ボスとしての登場だから、戦場の決められた場所に咲いていた。
滅茶苦茶やり込んだ者たちがいたようで、この攻略法が発見されるまでは、かなり面倒なボスだった。
「引き寄せ来るっすよ!」
ティトとルチオの攻撃を受けながらも、手の平が標準を定める。
狙うのは近くではなく、遠くの対象。
最初に向けられたのはアドネ。
「〖探さないでください」」
見失ったので他を探す。ルチオとティトは少し距離をあけた。
イザの前にはラウロが立つ。
「このまま行く」
身体が軽くなると、ラウロは【飲み込む手の平】に引き寄せられ、巨大な腕に捕まれた。
このまま握りつぶそうとしてくれば、ルチオとティトに集中攻撃してもらう。
【大地の腕】が選んだのは、勢いをつけて場外に投げ飛ばす。
ラウロは振りかぶられながら。
「終わらせるぞっ!」
投げ飛ばされるが、空中で姿勢を整え、〖聖壁〗に着地。今回はクッション効果が有効だった。
本来ならば転落する角度なのに、重力を無視して靴底は〖聖壁〗に吸い付く。
両足に力を込め、自らの身体を発射させる。
狙うのは【大地の腕】ではなく、その近場。
〖土紋・地聖撃〗
地面に激突したときの威力によって、拘束時間に変化もあるのだろう。
上からの圧力により、【大地の腕】は弱点の前腕と拳を地面に押さえつけられた。
地炎撃は周囲も燃え上がるので、今回は不向き。
【岩鎧の戦士】や【大地の巨人】ほど硬くはないが、それでも岩なので壊すには相応の威力が必要。
「〖貴方たちの剣〗」
最大の火力をここで出す。
「〖無断・幻〗」
攻撃を加え、すぐさま離れる。
ラウロも片手剣を抜き。
「どりゃっ!」
〖聖拳〗により痺れもなく、亀裂を入れることに成功。こちらもすぐに離れる。
「〖火の鎧〗」
ルチオは攻撃を加えることなく、そのまま〖炎の鎧〗まで発生させた。
「〖炎の身体〗」
火力などは炎の鎧と同等だが、火耐性(強)
体温に比例して身体能力を強化。
「イザ姉えっ!」
「もう知らないからね! 〖粉の雨〗」
小麦粉を〖水分解〗。そしてこれを成功させるには、敵味方の判別をしない。
「〖炎槌っ!〗」
粉塵爆発により、〖雨〗の範囲が炎に包まれた。
視界が晴れ、【大地の腕】を確認する。
「こいつまだ回復してるぞっ!」
花は五本だけではなかったようだ。
「ごめんっ!」
彼は〖聖壁〗をつかい崖から下りていた。
教育係としては最後なので。
「アドネっ! 使え、成功させろっ!」
それは一番難しい神技。
花は残っていたが、回復速度は落ちているはず。
「……うん」
装備の鎖から杖を取りだす。
「〖いつか見た夢〗」
本来の望んでいた戦闘スタイルを、できる限り再現する。
近距離でも遠距離でも、属性は雷。
地上の水分を熱により上昇させて氷にする。
雲にあった氷は大きくなり落下する。
この二つが重なり電気が発生。
今ある属性神の力を使うのか、それともこれは欲望が備える力なのか。
勇者の魔系統特化と同じく、〖雷〗には罪と罰の言霊が加わってしまう。
人の罪は人の罪。
人の罰は人の罰。
創造主はあえてその属性を創造しなかった。
「〖小雷雲〗」
まだ熟練が足りておらず、二発も放てば頭上に発生した雲は消滅する。
「〖雷鳴の杖〗」
音を響かせながら雷は杖に落ちた。ゴーレムに効果はないが、敵味方の聴覚を刺激するので、事前に耳を塞ぐ。
本来は遠距離からの発射だが。
「〖アドネっ 今こそ駆け抜ける時!〗」
声の聞こえた味方全員の素早さを上げる。戦意高揚。
友情の紋章により、アドネとルチオは身体能力を同調させた。
〖炎の身体〗 体温に比例して身体能力を上昇させる。
〖聖紋〗 聖域からの発生 聖を司る紋章が中央に浮かび上がる。素早さと動体視力強化。素早さに比例して攻撃力と拳速上昇。
探さないでくださいは使わずに、アドネはその場から消えた。
身体を起こそうとしていた【大地の腕】は、ゼロ距離から放たれた〖雷砲〗により弾け飛ぶ。
もう勝負はついたが、岩が土に帰る前にやるべきこと。
民鋼の短剣を突き刺す。
「〖お宝ちょうだい〗」
彼らはついにゲットした。
将鋼の細剣を。
「綺麗っすね」
みんなの白い目が突き刺さり、ティトは天を仰いだ。
青く、青い空だった。
・・・
・・・
戦闘空間に出現した時空の紋章から、登山口拠点へと帰還した。
「お帰り、どうだった」
あらかたの仕事を終えたリヴィアが、帰ってくるのを待ってくれていたようだ。
「姉ちゃん、皆ひどいんすよ。俺悪気ないっすもん」
「その喋り方は止めなさいって言ってるでしょ。それでどうしたの」
ルチオとアドネは苦笑いで。
「悪かったって、つい顔に出しちまったんだよ」
「良かったら使いますか?」
重くても鋼の細剣だがら、地上界のそれと重さは同じなので、悪い品ではない。
むしろ神技が強化できるし、質は鋼よりも断然高い。
「いらないっす。それは売って、君たちの糧にするっすよ」
「二人ともおめでとう」
イザを見て。
「よく頑張ったね。登山大変だったでしょ」
「はいっ! でも泣きませんでした!」
ラウロはさっきから、しばらく無言だった。
二人はオッサンの前に立ち。
「お疲れさん、これ礼だから」
「うん」
差し出されたのは軽鋼の短剣だった。
「なんだよ、これ」
「俺ら練習ダンジョンでもよ、ラストアタック成功させてたんだ」
いつものように軽口を。
「こちとら生粋の片手剣つかいだっつうの」
「そのナイフじゃ心持たないよね」
大鬼とやり合ったのも、今ホルダーに入っているのも、戦闘用の物ではなかった。
「良いのか?」
そう言えばレベリオ達は装備の鎖をあげたのに、自分はなんにも用意していない。
「本当にありがとな。おっさんが教育係で良かったよ」
「これでも感謝してるんだからね、僕たちだってさ」
短剣を受け取り、しばらく眺めていたら、少しヤバイので後ろを向く。
「おい、いい歳したおっさんが泣くなよ」
「馬鹿お前、泣いてないわ。おまえあれだ、俺泣かせたら大したもんだ」
リヴィアはどこか嬉しそうに、ラウロの背中に手を当てて。
「そういうとこ、嫌いじゃないですよ。お疲れさまでした」
「いや別に疲れてないし、泣いてないから」
そう言いながらこの場から去っていくオッサン。
二人は面白がってついて行こうとするが。
「ダメだよ、自分がされたら嫌でしょ」
イザが止める。
ため息を一つ。
「本当に良かった」
弟は思う。
「姉ちゃんも進めて良かったな」
どうせ相手にされないとデレデレしているだけじゃなくて、真剣にアプローチすれば良いのにと。
結局のところ騎士団も探検者も、危険とは隣り合わせ。協会員も兵士だって、いつ死ぬか分からない仕事だった。
姉の返答など弟には知るはずもないが、ちゃんと悩んで考えるだろう。
「うん。良かった」
選ばれし者すぎて。
病んでいたけど、今はただのオッサンだ。
次回から最終章に入る予定です。
それと本決まりの歴史ではないのですが、書く場所がないのでここで。
教国。
たぶん大平原を巡って、昔の教国と小国が争っていた。でも実際は都市同盟と帝国の代理戦争みたいな感じだと思う。
この拮抗状態を良く思わない連中(たぶん帝国)が、裏で旧教国と小国を通じ合わせ、周辺の小さい国を巻き込んで連合を結成させる。
そんで事前にそれを読んでいた帝国が準備万全の状態で軍を動かす。
こんな寄せ集めじゃ無理だといった者たちもいたが、結局は開戦で敗北。
徹底的に旧教国を弾圧したのは、周辺の国に降伏しなければこうなるよとの脅しと、都市同盟との全面戦争のために旧教国が邪魔だったから。
たぶんこんな感じだったんじゃないかなと。
帝国はもともと土地の悪い所で、少しでもいい場所を欲しいで戦争してたけど、いつの間にか代がかわるうちに、大陸の統一を目指すようになったのかなって考えです。




