表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか終わる世界に  作者: 作者です
練習 初級ダンジョン編
23/133

22話 登山開始


 山岳信仰の集落は最後の手段として、村への積荷を狙うこともあるが、失敗しても食い口は減るという寸法。普段から自給自足ができるよう、冬には確りと備えている。


 教国は彼らから税を徴収したりしない。



 教訓の一番初めに記されている文章があった。


 私たちは決して、弱者の気持ちを忘れてはならない。


・・・

・・・


 ダンジョンには広場とは違い、特殊なものがある。教国の騎士団専用と呼ばれるのが、この大陸では有名所と言えるだろう。


 峠の砦は山賊などから通行者を守るための施設であり、その先は大平原に続くが、ここにも教国の領土は残っていた。帝国から身を護るための城郭都市。



 それは教国の歴史。


 山脈の向こう側では、かつて小国連合と帝国が激突したと伝わっており、その場所にあるのが【死平原】。


 ゴーワズと海峡を挟む港町。ここの広場も騎士団の専用となっており、新人などは初級と中級で活動する。


 旧都にあった王城はすでに焼け落ちているので、今は跡形も残っていないが、その跡地には【落城】というダンジョンが残されている。


 第二から第四の騎士団は、これら三カ所を一定期間で、それぞれが担当していた。


 徴兵されたのではなく、自ら志願して入団した者は、本来であれば第一の所属となる。



 以上のことからも解るように、教国は敗北の歴史を持つ。


 時空の柱教は帝国に取り入り、なんとか血筋を残そうと、最後の足掻きをもくろむ。


 逃れた者たちは都市同盟の協力を得て、同じ属性神を信仰していた古都アンヘイに身を寄せた。



 その時代に魔界の門が開く。


 徹底的に排除された者たち。今は亡き王家の墓を守るように、教国の都は作られていた。



 死後は幾多の世界へと続く輪廻に旅立つ。


 英雄と呼ばれる者は人柄により判別されるが、死後または存命中に輪廻から外れ、天上界に導かれると云う。だがそれとは違う宿命を、自ら背負う場合もあった。


 最難関と呼ばれる【墓地】。そこの大ボスは物言わぬ骸の騎士であり、かつて祖国を守れなかった者の忠義を、第一騎士団は受け継ぐ。


 光の加護はあまりいない。それでも中核である教都の防衛を任されているのは彼らだった。


・・・

・・・


 山に難度があるように、広場にもランクと呼ばれる順位が存在した。


 ン・マーグの広場。その上級には【迷宮】と呼ばれるダンジョンがある。ここの初級と中級は他よりも良い素材が入手できるが、そのぶん難しくなっている。


 他の広場で上級に挑戦できる者たちからすれば、この広場は上級以外だとあまり旨味はない。レベリオたちが拠点を移したのは、そういった理由からだと思われる。


・・・

・・・


 荒れ地と岩山。



 翌日、午前中を講習と訓練に使い、午後は石切り場の見学をさせてもらう。


 角ばった岩肌をみれば、それが人工で切断されたものだとわかる。


 作業をしているのは村からの出稼ぎ探検者が主となっていたが、それとは違う連中が目につく。


 三人の若者が杭と金槌で岩を叩いており、その様子を監視するのは数名の屈強な兵士。彼らが何なのか聞けば、町での軽犯罪者だと教えてもらう。


 職場で怒られた腹いせに、貧困街で騒動を起こしたとのこと。まあ察しの悪いラウロは気づかなかったが、例の三名だったりする。



 この石切り場には宿泊施設と思われる建物があり、出稼ぎ探検者などはそこで生活しているが、彼らのような犯罪者はもっと劣悪な環境とのこと。


 半年から一年はこの地で働くそうだ。願わくば真っ当な人生を送ってもらいたい。


 一般的な山賊や盗賊という連中は、圧倒的な武力の前にやがて屈することになり、生存率はあまり高くない。


・・・

・・・


 登山当日。


 探検者は身体能力にも優れており、経験者でもあるラウロとティトも同行する理由から、ガイド役は中級ルートを進めてきた。


 前回ラウロが挑戦したのは初級で、その時もグイドが案内をしてくれた。


 アタックというのに該当するのは上級ルートだけなので、今回はただの登山だろうと思っていた。



 開始してから数時間。


 段々と二足だけで歩くのも厳しくなってきた。


 先頭を進むのはグイド。中間がルチオとアドネにイザ。最後尾がティトとラウロ。



 靴を含めた服装は、登山口拠点で用意された物。


 防具も武器も装備の鎖にしまってあるし、荷物は全て空間の腕輪。



 斜面を登るときは四肢のうち、離すのは一カ所だけ。というのを意識しながら、六人は岩場を進む。


 どこに手をおくか、足をかけるか。先を進む者の動きを見ながらだと、集中力が必要で会話も少ない。



 まだ余裕はあるが、中々に辛い。


「さすがっすね、グイドさん」


「だな。っていうかよ、中級きつくないか?」


 アタックというのは、困難なルートに挑戦する場合のみに使われる。



 彼が神力混血で重点をおいているのは、筋力や持久力なども大切だが、一番は肺活量。


「この岩山は心配ないですが、地上界では空気の取り込みが重要でして。頭痛などもありますのでね」


 ある意味だと持久力にも繋がる。



 アドネは前を進む背中を見て。


「ルチオは鍛えなきゃね、肺活量も」


 友情の神技。


「確かにな。恥ずかしいけどよ、大声だしてかねえと」


 皆の上る速度に合わせながらも、一手一歩を確実に進めていくグイド。




 岩場にかけていた手に力を込め、足を持ち上げながら。


「あえて神力混血なしで、登山するのもお勧めですよ」


「えっ」


 その動きを真似しながら進んでいたが、ルチオは一瞬動きを止める。


「急に止まんないで、危ないっ!」


 イザは歩幅が前の三人と違い、苦戦しており余裕がない。


「焦んないで大丈夫っすよ、自分のペースが大切なんす」


「後ろには俺らもいるしな」


 神力混血を解くかどうか、ルチオは悩んでいるようなので、ラウロは苦笑いを浮かべ。


「今回は止めとけ、ボス戦も控えてんだからな」


「わかってるよ」


 制限をかけての挑戦というのは、一度はクリアしてからやるべきこと。


 ちなみに神技を制限しているラウロの現状は、縛りではなくただの工夫だ。


 山というものには難所が幾つかあったりする。



 斜面は急なものとなり、もう四足でも進めなくなった。ここから進むには、よじ登らなくていけない。


「では私が先に行きますので」


 ロープや鎖などはなく、岩肌に金具が打ち込まれていたり、亀裂に嵌められている。


 グイドは登りながら、そこに命綱の金具を引っかけ、慣れた動作で身体を持ち上げていく。


 昨日に教わってはいたが、これまで斜面を歩いてきただけあり、落ちればそのまま転げて行くだろう。


「中級ってなんだよ」


 ルチオの発言が聞こえていたのか、上部に命綱を引っかけ、下部の命綱を外しながら。


「上級は私の練習ルートですよ」


 この場にいた全員が思っただろう。騙されたと。


「ラウロさん、私無理ですよ」


「まあ大丈夫だ、聖壁もあるからな」


 この神技があるからこそ、グイドも中級を選んだのだろう。たぶん。



 その後。ルチオとアドネはなんとか成功した。


「ラウロさ~んっ!」


「もう展開させてっから、心配ないっすよ」


 イザは岩肌に張り付いたまま動けなくなっていた。


「下を見てみろ、足もとにあるから」


「怖くて見れません!」


 グイドはその場から飛び降りると、聖壁に着地した。


「凄いですね、クッション作用でもあるのでしょうか?」


「確認してから飛べよ」


 この高さであれば大丈夫だと判断してのことだが、予想よりも衝撃が少なかったのだろう。


「イザさん、私がここに立っているのが証拠ですよ。申し訳ありません、無理をさせてしまいました」


「グイドさんロープ下ろすぞ」


 ルチオが落下させたロープを、イザの全身に巻かれたベルトに固定し安定させる。


 彼女は一度〖聖壁〗に着地し、手足を休ませてから、青年らの補助を受けながら登った。


 無事に上部まで到達したのを確認すると。


「俺ら〖聖壁〗でそのまま上がっちゃいませんか?」


「お前なら良いが、俺は間違いなく二人から非難されんな」


 町壁や外壁を登るときも、この〖聖壁〗を使って上まで行くことができる。


 同時に発動できるのは二つまでだが、下部のを消せば新たに作れるので、それを繰り返せば良い。


「ていうかこういう岩山とかって、本来はそういった練習で用意されてんだろうけどな」


 山狂いの所為でこうなったとも考えられる。少なくともイザはもう二度と、登山はしないのではないか。


・・・

・・・


 よじ登った先は平地になどなっておらず、少し休憩をとってから、そのまま手と足を使った移動が再開された。


 その後も似たような場所は何度かあったが、回数を重ねるほどに慣れてはいった。


「ラウロさん早くっ! ごめんなさい~ お願いします!」


 ルチオは楽しんでいるが、アドネもティトも大分疲れが見えていた。


 ラウロは聖壁もあることから、少し余裕があった。



 そして次の難所。


 急斜面を横に進むのだが、足をかける場所が靴底の半分ほどしかなく、しかも途切れている。これが百十mほど続くとのこと。


 所々、足場は木材が組まれているので、安心な場所も確認できる。


 ルチオは元気な口調で。


「まあでも、このロープに命綱引っかけながら進むんだよな」


 真横に紐が伸びており、自分が横に進めば、それと金具で繋がる命綱も動くようになっている。


「馬鹿じゃないのっ! 下見てみなさいよって 見れない~っ!」


 一瞬下方を覗きこんでしまい、もうやだー と叫び出すイザ。


「じゃあ俺とイザは〖聖域〗で行こう」


「おじさん僕も」


「俺もそうしたいっす」


 ラウロもマジで怖いので。


「グイドさん悪いな、俺らはズルさせてもらうぞ」


 彼は中級と嘘ついて、本来であれば上級のルートを進めるような人間だが。


「いえいえ、山にズルもなにもありませんよ。では私とルチオ君はこのまま行きますね」


「おう!」


 〖聖壁〗で進むとしても、ロープに命綱はかけておく。


 そんなこんなで山肌を真横に進んでいると。


「俺も光壁は何度か乗ったことあるけど、なんかラウロさんのこれ、凄い歩きやすいっすね」


「そういう成長の仕方をさせたってことだよね」


 防御の要は聖十字だった。


「ルチオも同じこと言ってた」


 サラの〖光壁〗に乗ったことがあるのだろう。


「なんで三人とも、そんな平然としてるのっ!」


 へっぴり腰でロープにしがみ付くイザ。


「あれ、なんで? 進めない」


「ほらイザ姉ちゃん、ここかけ替えないと」


 横に伸びるロープは途中で結んであったり、途切れていたりするので、命綱をかけ直す必要がある。


「しかしあいつすげえな」


 ルチオは今もグイドの助けを受けながら、真剣な表情で足場と手の位置を模索していた。


・・・

・・・


 山肌の横渡が終わった位置。ここで休めと言わんばかりの、少し広い安定した足場が用意されていた。岩山がダンジョンだと思いださせる。


「こんなん無粋です」


「楽しかった!」


 もう嫌この二人。


「ねえ、あれ大地の裂け目じゃないかな?」


「えっ こんな場所から見えるの」


 もう岩山にうんざりしていたイザも、少しは感動していた。


「人は良く分かんねえな……てことは、あれが拠点か?」


 それらしき建築物が見えた。


 ここに休憩所が設置されているのは、こういった意味もあったのだろう。


「次はあそこっすね」


「ああ」


 初級でも中級でも、ここから先は最大の難所。


「岩山の峰刃渡り、楽しいですよ」


 グイドの発言に喜んだのは、ルチオだけだった。


・・・

・・・


 剣の刃を歩く。


 つまりは左右がそういう状態だったりする。


「もうやだ~っ!」


 幅はあるにはあるが、岩や石がゴロゴロしており、とても歩き難い。しかもこのまま頂上へ向かうため、ちょっとした斜面になっている。


 そしていくらか進むと、先ほどの山肌横渡りと同じ感じで移動しなければいけない。なにより今回は命綱を設置する場所がなかった。


「〖聖壁〗ここは俺らもこれ使うから、大丈夫だ。なっ?」


「ティトさん背負ってください、お願いします」


「よしよし、任せるっす」


 もう半分泣いていた。


 アドネは一方を指さし。


「イザ姉ちゃん。ほら、あそこ」


 頂上と思われる場所が見えていた。


「うん」


 この二人に弱い所は見せれない。そんな気概があるのかも知れず。


「やっぱ自分で行きます」


 〖聖壁〗に自ら足を踏みだす。


 その後ろ姿に思うものがあったようで。


「姉ってのは、本当に強いっすね」


「だな」


 ちょうど十五の歳に両親を失い、それから女手一つで弟を育てたらしい。


「そういや、俺にも居たな。村のよ、鍛冶屋さんとこの娘だったか」


 農具の修理とかなので、本格的なことはしていなかった。


「もし重ねてるんなら、俺はちょっと嫌っすよ」


 歳の離れた、良く面倒を見てくれたお姉さん。


「両親の顔すら覚えてないんだよ。重ねてるかどうかも、なんとも言えない」


「……すんません」


 受けた恩は返すのが大切なんじゃない。返そうとする姿勢が大切なんだよ。


・・・

・・・


 その後、頂上の属性紋に到着する。


 登山口への帰還か、それともボス戦かを選べる。


 だけどグイドは帰りも自分の足で行くという。


 登るのより、下りる方が難しい。





 〖時空神像修復〗により、岩山での転落時に帰還できる数字が、本当に少しだけ上がる。


 この作業は繰り返してこそ意味があり、どうしても少しずつ下がっていく。


 岩山での帰還率が他と比べて低いのは、グイドが牢屋に入っていた所為だろう。

山登りの難所はモデルがあります。


穂高の馬の背 峰刃渡り


登山道中国 華山 山肌横渡り

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ