21話 登山口到着
ラウロたちが暮らす町の近くには、用水路のもとになる川が流れていた。その先にはちょっとした山脈が広がっているので通行は難しいが、越えると帝国が所有する大平原になっている。
町の周辺は森に囲まれており、こちら側は小さな平地の向こう、やがて海へと続く。レベリオ組はこの方面からやって来た。
ダンジョン広場を二日ほど移動すると宿場町で、そこからさらに進めば峠の道に砦がある。
逆方向の町門を行けば、五日から六日で教都に到着する。
各国。現在の強みからして。
都市同盟は主に感情神。臆病者が勇気を振り絞るからこそ、全てを救う力となる。
勇者とは気の弱い者が選ばれると聞く。それだけ実戦投入させるのは難しいが、この加護は聖にすらない、味方全体へ魔系統特化を付属させる力を持つ。
帝国は主に装備神。役職身分関係なく、各装備を極めし者にだけ、豪の称号が与えられる。選び方は大会でもあるのだろうか。
教国は主に属性神を崇めているが、その中でも光に強い信仰を持っていた者たちが、光柱教と呼ばれていた。
光土水風火。これらを全て合わせた五柱教の長が、この国を動かす者たち。
大陸の三強国に過ぎない。
どこかに物造りを信仰する国もあるかも知れず。
どこかに教国と同じく属性神を信仰する、神聖なんちゃら帝国などもあるかも知れず。
さらには時空神を崇め、ダンジョンの中に国を築いちゃった系の所もあるかも知れず。いやないか。
でもそんな広い世界のことは、皆にはわからない。広すぎて想像できない。もう本当にわからない。
・・・
・・・
初級ダンジョンの中には時間の目印となる、夕暮れと夜入り、そして夜明けがない。
段々と上り坂となり、大きな岩石が目立つ。
高低差のある崖。はじめから設置されていたという吊り橋の先。
休みながらではあったが身軽だったこともあり、当日のうちには登山口の拠点に到着した。
ただし上級ルートの場合は別の場所からとなっているので、岩山の周囲を移動しなくてはいけない。そこには拠点もないので、あまり挑む者はいない。
幾つかの小屋に倉庫、広場の中心にはこれまた最初からあった井戸があり、水を汲めるようになっていた。神像だけがポツンと立ち、なんとなく寂れた風景。
石切り場はこの拠点より少し奥地にあるようで、そこに時空紋があるらしい。中ボス(強)はここから向かうが、頂上とは違う道になっている。
物資搬入のために倉庫隣の小屋へ向かうと、出迎えてくれたのは一人の男性。
「道中お疲れさまでした、なにもない所ですがゆっくりお休みください。こちらは探検者さんですか?」
「あっ 私協会員ですよ」
顔を覚えられて無かったようだ、イザは証明書を見せる。
「俺らはこのオッサンの教育され係な」
「ちょっとなにそれ、仕方なくされてたのお前ら」
いつものやり取りに呆れながらも、リヴィアちゃんはお仕事。
「突然のことですみません。できればうちの新人と彼らのガイドをお願いします」
登山の話がでたのは六日前で、決まったのはもっと最近。
命令書を受け取って内容を確認すれば、見知らぬ三名の新人を交互に比べ。
「そうですか。では明日は訓練と講習あたりで終わらせて、明後日の早朝にアタック開始としますか」
「予定もあるでしょうし、無理があったら言ってくださいね。もし問題がなければ、それでお願いします」
ラウロよりも少し年上。ある程度の筋肉がついているのは、ダンジョンでは当たり前なので、中肉中背といった所か。物腰も柔らかく、話に聞いた狂人の振る舞いは今のところない。
想像と違ったようで、アドネは口を開けていた。予想では髭がボーボーで、もっと日に焼けた肌のオッサンだったらしい。
最近まで牢屋にいたのだから、そういった活動はしていない。
ルチオは容姿など関係なく、少年のように目が輝いている。
了承を得てから。
「では私は物資の搬入に行かせてもらいますね」
「はい。担当者は倉庫で見積もりをつけていると思いますので」
軽くお辞儀をしてから、リヴィアは受付らしきこの場を後にする。
扉が閉まるのを待ち、ここぞとばかりに。
「これからは俺の時代だーっ!」
背を伸ばしていた。
「久しぶりっすね、元気そうでなによりです」
「恥ずかしながら戻ってまいりました」
ルチオとアドネはさっそく。
「よろしくお願いします」
「俺も頑張っから、教育のほど頼んます」
ラウロの時と違う。
イザも自分の方がお姉さんなんだからと。
「私もこの度は弱音を吐かずに、頑張ろうとか思う所存であります」
なんか変だ。
「はい。こちらこそ受け持ったからには、立派な登山家になってもらえるよう、精神誠意全身全霊でお役に立ちたいと」
なんか変だ。
「探検者だろ。やっぱ相変わらずだな、グイドさんも」
「ラウロさんも久しぶりだね」
少し肩を落とし。
「そうですよね、どうせ皆さん探検家ですもんね。分ってますよ、どうせ」
いじけ始めた。
「あれか、仲間増やさんことにはどうにもならんって奴か?」
「一人で訴えても、声は届きませんので」
ここでイザがキョロキョロしながら、話しに割って入る。
「すみません、私もリヴィアさんのお手伝いに行こうかと思います」
リヴィアとしては登山について気になると思って残したのだろう。
「確かにそうですね。ではお願いしても良いですか?」
はい! と元気に返事をして、倉庫に向けて出ていく。
ルチオたちはもう少し話を聞きたいらしく。
「おっさん、俺らは良いか」
「僕も」
構わないと言えば、再びグイドの方を見る。
では気を取り直してといった風に、ラウロは会話を再開。
「なんでまた捕まっちまったんだ、気をつけてるって言ってただろ」
「時間が狂ってしまい、正規ルートで下山したのが間違いでした」
山脈の方面には村や山岳信仰の集落がある。
「予定通りに帰ろうとしたのが間違いでした」
ルチオは聞きたいことが沢山あるようで。
「もう行けなかったりすんのか、流石に睨まれてるよな」
軽くうなずき。
「彼らが信仰してるのは標高のある山だけなので、周りのはなんとか許可も得ましたよ。ただ条件付きですがね」
アドネはこれまでの情報から、なにか気づいたようで。
「もしかして、上級でのダンジョン活動ですか?」
正解らしい。
「当分はここと中級で肩慣らしをさせてもらいますが」
「もともと高い山なんて無理だったし、そこら辺は仕方がないだろ」
むしろ許可が下りたことに少し驚く。
標高の高い山はサポートが必要。高地で身体を慣らす必要もある。
「だから設立させたいんですよ、教国登山者協会」
ルチオは興奮気味に。
「うおー これが先人かあ!」
「いや、私の他にもかなり昔ですが居ましたよ。もう亡くなってますが、色々教わりました」
岩山で目覚めた人はこれまでもいたらしい。
・・・
・・・
その後、しばらく世間話をしてから、ルチオとアドネにはテントの準備をお願いする。
ラウロとティト。そしてグイド。
ここからが本題だった。
「でっ 今はどうなんだ?」
正規ルートではない道を、誰から聞いたのか。
「例の犯罪者さんたちっすね」
登頂を目指して歩いていたら、荷物をだせと囲まれた。こんな奥地まで何しにきたんだと説明を求められ、それに答えたら大笑いされ、住処まで案内されたのが切欠。
「私も同じ穴のムジナですよ、牢屋に入ってましたし。なんつって」
罪を犯すのにもいろんな理由がある。
「まあ褒められはしないが賊つっても色々あるもんだ。犯罪であることには変らないけどよ」
町で罪を繰り返し居場所を失った男たちが、集団を組み積み荷を奪ったり、村を襲い女を連れ去り強姦する。
「そういえば、リヴィアちゃんは知らないんだよな?」
「深い会話はしないっすからね、姉ちゃんあれで真面目だから」
グイドを見て。
「であれか、山賊さんたちの話しっすよね。異教徒の」
彼らは創造主と天上界を信じていない。山の神を崇めており、教国との相性は悪い。
迫害はないが関りもなく。時代の中で少しずつ増えていく人口の中、土の属性神を信仰する村々とのあいだで、徐々に距離をとり山の奥へと隠れていく。
集落には女もいれば子供もいる。人里から離れ、環境は想像よりもずっと厳しい。
「冬を越すために物資を奪うことだってあるらしいんで、死罪も納得の人殺しに違いないですよ彼ら」
これが罪を犯す理由。
「相手が探検者でなくても加護持ちの場合は多いですし、身体能力の差から返り討ちというのも多いそうですが」
二人は黙り込む。
ティトは木窓を開き頭を少しだすと、近づきすぎて全貌の捉えられなくなった、岩山の方向を見つめ。
「一体なにが正しくて、なにが間違いなのか。わかんねえっすね」
「世知辛いな」
山の神と土の属性神はなにが違うのか、彼らにだけ信じられる昔話などがあるのだろう。
「まっ なにを信じようが連中の勝手だ」
自らの信仰。その切欠は心の支えだった。
その恩に報いたいとは思うが、信じ納得させるのは自分だけでいい。
外から景色を室内にもどす。
「しかし、また【町】での活動っすか」
満了組あたりに敵からの護衛を頼むとしても、協会員からも同行者の希望を募ることになる。
「給料自体は現状で足りてんのか? 二年もあいてるし、罰金なんかもあっただろ」
「正直あまり余裕はないんですよね」
岩山で活動するために、彼は工房との繋がりがあった。
その縁から雪山装備の開発も頼んでいて、現状でも不満点は多いものの、修理や破損時に新品を用意する程度になっていた。
「前にも話しましたが、彼らに多少ですが冬の援助をする代わりに、私は登頂のサポートを受けています。なので元気でいてくれていると、本当に助かるんですが」
山の神を信じている者たちの集落は、小さいと言ってもそれなりにいる。
協会員として初級で時空神の補助をしていく活動。岩山での担当者として受け取れる増額分。
ティトのように理解を示してくれる協会員もいるが、結局のところ直接の交流があるのは本人だけ。
小麦の入った袋を持っていくとして、台車くらいは必要か。途中で合流するとしても、登山以外の目的で外出しなくてはいけない時もある。
ラウロは鞄から何時もとは違う、金の入った袋を取り出す。
「まあ、お怒りは受けんだろ」
それは騎士団時代に稼いだ金の一部。
「やったあ。これでまた一歩前進です!」
「お礼くらい言えよ」
困った大人がここにもいた。
「すんません、俺はちょっと余裕ないんで」
「気にすんな、こっちも所詮は自己満足だよ。関わる気ないし」
結局のところ自分は加護を受けている側の人間。
「土神の信仰村で被害がでないなら、それに越したことはないだろ」
「ティトさんには勤務日の調整とか、いつも手伝ってもらってますんで。皆さんがいなかったら、長期間の休みもとれないんですよ」
そもそも大前提として。
「私も山登りのために援助してるだけです」
協力者である以上は、信じる対象が違えど仲間。魔界の門が開けば心配もするが、魔物がこういった町よりも集落を目指すとは思えない。
これまでの経緯から教国も迫害や追放の意思はなく、不干渉の方針だと思うので、時代が進み嫌な歴史を作らないことを祈りたい。
もうここに用事はない。
「どれ、リヴィアちゃんの様子でも見てから、テントの手伝いかな」
「俺そっちやるんで、ラウロさん倉庫の方を頼んますよ」
え、ほんとっ と浮足出しになるオッサン。
何かを思いだし、振り返えれば。
「明日だけどよ、訓練と講習だけじゃ時間も余るから、石切り場の見学とか許可もらえませんかね?」
グイドは時計のネジを回しながら。
「ええ。構わないと思いますよ、話は通しておきましょう」
「んじゃ、よろしくお願いしますわ」
スキップしながら扉を開けて、外に出ていく。
ため息交じりに。
「色々なんか損してるっすよね、あの人」
「本当にそうですよ。良い登山家になれると思うんですが、勿体ない」
駄目だこりゃ。
このまま一気にアタック当日になると思います。
地理とかあんま詳しくなくて、変かも知れませんが、私にはこれが限界です。
あと登山ですが、動画見てすげえって感動してるだけの作者なんで、大したものは書けないと思います。私はインドアです。




