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いつか終わる世界に  作者: 作者です
練習 初級ダンジョン編
21/133

20話 気狂いか 挑戦者か 冒険者か

 時空紋の罠を攻略すれば、崖に囲まれた広場の中央に宝箱が出現した。


「やっぱ兵の武器か」


 高難度の罠といえど、初級はあくまでも初級でしかない。


「俺ら槍は使わねえな」


「売ればそれなりの値はするだろ、新品だしよ」


 恐らくだが短槍という点からしても、戦った仲間のうち、誰かの得物といった感じになっているのだと思う。


「どのくらいで売れるかな?」


 買取できるのは協会だけなので、交渉もなかなか難しいが、足もとを見られることもない。


「ここで入手できた素材を全部渡しても、この槍の方が良い金になると思うぞ。まあそれでも、兵鋼の戦槌とかは買えんな」


「俺は民鋼で十分だよ。当分はだけど」


 そもそも軽鋼で鈍器はまず作られない。


「中級行っても直ぐには素材も無理だし、隙があればボスのラストアタック狙いたいね」


 運が良ければ将鋼の戦槌がでる。



 素材ではなく武器が手に入った場合も、協会に提出する決まりとなっていた。


 そのまま使いたければ、武器を売った金でその武器を買う。面倒でもこのやり取りをしてから、始めて自分の所有物となるが、売るときは協会だけという契約が交わされる。


 ダンジョン装備を買えるのも、協会の息がかかった店だけ。


 裏ルート。治安の良い町でさえ、貧困街あたりのどこかを探せば、看板のない怪しい店で販売されていた。でもそこで買ったとしても罪には問われなかったりする、むしろ報告すれば使っても良い。


 出来るかぎり国で管理して欲しい。これが天上界の意向で、彼らも完全に管理できるとは思っていなかった。

 いつの日か問題が解決すれば、断魔装具は消さなくてはいけないから。



 神の加護。天上界はこれに、なんらかのリスクを背負っているのだろうか。



 空間の腕輪に売る予定の槍をしまう。


「次はエルダの盾だね」


「順調に兵装備が揃ってんな。でもよ、さっきリヴィアさんの戦い見てさ、盾も重い方が良いんじゃねえか?」


 アリーダは軽い盾。


 リベリオとリヴィアは重い盾。


「確かに引き付け役だと、そっちの方が良いかも」


 オッサンはふと。


「ダンジョンの素材って変だよな」


「なんだよ急に。まあ神さまが用意してくれたもんだし、違うのは当たり前だろ」


 鉄の場合は兵と王が軽くなっているが、他の素材では重さに大きな違いはない。


 木材。弓はしなりを求められるし、槍も種類によってはその方が良い。ただ素材として入手した時点だと、そういった特徴は見られない。


 変な話ではあるが、民でも兵でも弓として制作すれば、それに合わせて材質が変化する。


「エルダとおばさんに感謝しなきゃ。本当にすごいよ、このコート」


 思えばゴーレムに気づかれず、攻撃をできたのはこのためではないのか。


「レベリオさんたちも、ほとんど王と将だし。上級のボスはそれくらい揃えなきゃ、難しいってことなのかな?」


「あれで【迷宮】は無理ってよ。俺ら自信なくなるよな」


 挑戦していたのは二年ほど前で、仲間たちの神素材を揃えたのはゴーワズだから、その当時よりは実力も上がっているだろう。



 ン・マーグ。そこは探検者たちの憧れ。今も【迷宮】の攻略を目指す化け物たちがいた。


「少し職種は違うが、たぶん同じ人種と今から会うぞ」


 ラウロはこれまでソロで活動していた。大地の裂け目は雑魚が多いので、基本は岩山周辺での活動だった。


「俺らに難所の動きかたや、ロープの縛り方とか、器具の使い方なんかを教えてくれる」


 この点に関しては毛が生えた程度で、専門の知識をもった人に習うべき。



 二人とも興味を持った様子。


「どんな人なの?」


「この初級が切欠でな、山に狂ったっぽい」


 首を傾げる。


「繊細は協会員に聞いた方が良いぞ」


 そう言って素材回収を手伝いに行くラウロ。


 早く話を聞くために、自分たちもと後へ続く。




 ラウロは小さな声で。


「友鋼か」


 試練のダンジョン。教育係として踏み入れるまで忘れていた。


 幼少期の何十年も前の出来事。今になって思い返せば、察しの悪いラウロでも気づく。


 現実ではない世界。夢の中での会話だったのではないか。それにしては覚えていることも多い。


 あの娘は、天上界の住人だったのではないか。



 頭の中で一つずつ繋がっていく。


 最初の最初。創造主よりもずっと昔。


 それが決めたルールでは、白い衣とあと一つ。



 もしかすれば、神よりも上位の存在がいたとして。



 自分が加護を授かった日。


 大騒ぎになったことは、今でも良く覚えている。


 運命を司る神はいない。もし創造ができないのなら、天上界は未来を予測できない。


・・・

・・・


 時空紋の罠に関する記録。


 敵の種類と入手できる素材、宝箱の報酬に変化はなし。


 違う点があるとすれば、これまで狼の出現は〖闘争の岩柱〗の近辺だけだったが、後方からの出現があった。


 だが今までは二手に別れる戦法を取らなかったので、このような結果になった可能性も高い。


 設置型大盾の引付役を使う場合は、今後もこういった注意が必要。


・・・

・・・


 岩柱のあった場所に時空紋が出現していた。


 そこから出れば、もといた場所に戻る。罠の紋章もその場に残ったままなので、もう一度進入すれば再戦できる。


「私の大きな仕事はこれで終わり♪」


「俺はまだ登山と中ボス戦が残ってるっㇲ」


 無理やりスを止めた。なにかと口煩い姉なのかも知れず。


「すみません、私に付き合ってもらって」


「気にしなくて良いよ。俺の時も先輩に手伝ってもらったからね」


 すでにリヴィアは重鎧を解除して、移動用の軽装(兵革・兵布)になっている。


「じゃあ休憩を挟んで、このまま登山口拠点を目指しましょう」


 ここから先、しばらく地図は不要だろう。


 岩山。初級の出入口拠点でもうそれは見えていた。


「ただ中ボスって、細剣と相性悪いんだよな。俺も打撃系の武器用意してもらっとくか」


 ラウロとルチオはにやりと笑う。


「情報不足だぜ、ティトさん」


「打撃は不要だな、用意するなら斬撃だ」


 協会員の装備は本人持ちではないが、それぞれの希望で用意されていた。年数や実力によって位も上がっていくが、基本的には将で止まる。


 登山口拠点でも、兵鋼の武器であれば用意は可能。


「繊細知りたいんだけど」


「私も」


 自慢げにアドネとルチオが中ボスの情報を話しだす。



 近場に見渡せそうな場所があったので、そこで一同は腰を下ろした。空間の腕輪があるので、シートや椅子なども持ち運べる。


 水分や軽食をとっていると、ルチオが最速してきたので。


「そういえば、あの人はもう出所できたんだよな?」


「これから山上りですもんね。大丈夫ですよ、もう登山口で働いてます」


 出所。罪を犯し牢屋に入れられる。


「なにしたんだ、その人」


 知り合ったのは探検者の新人時代。ボス挑戦はしないが、協会に進められて一度だけラウロは岩山を体験した。


「地上界の山に登ったんだ」


「えっ まあ、怒られはするよね?」


 教国は理由なく町を出るてはいけない。魔物などは居ないが、盗賊などはちゃんといるし、やはり出入りが自由過ぎれば犯罪も増える。


 それでも故郷の村にもどるとか、ちょっとした用事でも届け出をだせば、許可は普通にもらえる。


「登った山がやばい。信仰対象だったんだよ」


 独立峰だったり、標高が高かったり。逸話などに登場したり。



 適当な理由で外にでて、数日で戻ると嘘をつき、ずっと戻ってこなかった。


 そして知らせが届く。


「入山禁止なのに、無許可で勝手に入ったってな。地元の奴らに見つかったのがやばかったんだ」


「バレなければ良いって考え方もどうかと思いますけど」


 また口を滑らせたと、ラウロは表情を隠せない。


「あの人が山狂いになったお陰で、協会員は上級で活動しなくなったから、有り難いっちゃまあそうなんすけど」


 弟の言葉に納得しながらも。


「【町】の死亡率が上がったのも事実だよね」


 二人は良く分からない。


「強かったのか?」


「時空神の加護だったんだよ」


 アドネとイザは理解した様子で。


「他にいないんだね、【町】で活動してくれる人」


「普通はそうですよ」


 中級までは命令として強制力を持つが、上級となれば一気に危険があがるので、本人の希望が尊重される。



 戦いの神技はあっても、それが加護として人へ授けられるとは限らない。


「実際には少しだが戦闘で使える神技もあるんだけど、〖君の剣〗だけで上級に挑戦するようなもんだ」


 物造りの神技。戦闘の神技。ダンジョン管理補佐の神技。これらは別口で管轄しているのかも知れず。


「おっさんよりも酷いじゃねえか」


「俺の加護は光と一緒で、装備不要の神技も多いしな」


 試練を終えてから今日までの期間で、ルチオもアドネも誰かから情報を得て、血塗れの聖者という人物について知ったようだ。


 モンテ組なのかレベリオ組なのか。またはシスターの可能性もあると言えばある。面識のない相手から知識を得る術だって、彼らもすでに習得していた。



 試練での戦いが普通ではなかったことは、恐らく二人だって気づいていた。


 見かけ倒し。ラウロ一人でも倒せると判断しなければ、協会は許可を出さないはず。


 あの登場演出が異常だという事実も。



 イザは話を聞きながら、疑問に思ったことを。


「なんで山に登るようになってから、上級での活動を断ったんですか?」


「冬の時期とかも登ってたから、それ専用の装備開発でお金が必要だったらしいの」


 呆れた口調でそのまま続ける。


「そのために高い給料をもらえるからって、上級での活動を選ぶとか信じられない」


 雪や氷に引っ掛かる靴底のスパイク。


 雪や氷に刺さる小さなツルハシのような器具。


「俺らが行く岩山も、ほぼ垂直な斜面を登ったりするけど、もうその人が鎖やロープ張ってくれてんだ」


 一番最初。


「できそうか。先人なんていないぞ、ルートも手探りだ」


 命綱を固定する金具。上ってはロープを外し、それを固定する場所を打ち込み、また命綱を引っかける。このような形でよじ登るのだろうか。


「それを好んで地上界の山でやってるんすよね、あの人」


 ルチオは想像したのか、顔を引きつらせ。


「狂ってんな」


【迷宮】に挑む者たちは、これと似た人種。


「僕には無理だよ」


 エルダにサラ。それに自分の命が惜しい。


「なんでそんなことしてるんだ? 迷宮ならまだわかるけど、山に登ったところで、誰も称えてくれねえだろ」


 強力な装備が手に入るわけでもない。


「だから私たちにはわからないんだよ、狂ってるとしか言えない」


 ラウロにもわからない。


「景色が綺麗だからとか、誰も立ったことがない場所だからとかかね?」


 挑戦。


 ティトは遠くの壮大な独立峰を見て。


「登ってる最中は自分の馬鹿さに呆れるけど、こうやって過ごしてると忘れられない。また行きたくて仕方がなくなる」


 理由などは人それぞれ。


 【迷宮】


 そこは愚か者の楽園なのか、それとも挑戦者たちの生き様なのか。


 ルチオは自分にはない感覚だからこそ。


「なんか、すげえ格好いい」


「賛同はできないかな。でも男とは限らないんだよね」


 【迷宮】に挑み続ける女も確かにいる。


 魅了されてしまった者たち。



 ラウロは探検者の別名をここで。


「だからこそ、冒険者なんだろうな」


 でもこの場にいる皆は知らない。


 試練のボスを経験し、その恐怖で自分には無理だと判断した者たち。


 町で普通に営む人々からすれば、ダンジョンで活動する探検者も、仕事をしている協会員も同じ括りだということを。



 ティトとアドネは周囲の警戒をする。


 ルチオはじっと山を見つめている。


 リヴィアは何気ない言葉の中で、真剣な質問をする。


「ラウロさんはこれからも冒険者ですか?」


「今の生活に不満はないぞ。むしろ満足だけだ」


 それは心からの発言だった。



 岩山。


 二千m級。地上界からすれば、そこまで大きくはない。


 登山経路もいくつかあり、初心者むけから上級者むけまで用意されている。


 なによりもダンジョン内では空間の腕輪が使えるので、資材の持ち込みも楽だ。


「でかいな」


 これからの活動に思いを馳せる。 

何度もすみません、前話の修正。


〖酸の雨〗でレベリオの話を書きましたが、こちらで書く内容を入れていました。


 ルチオ


「水の神技は怖いらしいからな」


それはレベリオから聞いた話し。可能性が無限だからこそ、危険が隠れている。

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