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いつか終わる世界に  作者: 作者です
練習 初級ダンジョン編
19/133

18話 初級攻略 罠の時空紋まで

 爺の服は暴行により一層ひどい状態になってしまったので、予備として持っていた法衣を渡す。受け取らなかったが、世話になっている礼だと、返事も聞かずに勝手に置いて別れた。



 それから活動を終えたルチオたちに、協会でのやり取りを伝える。訓練所での合わせも無事に済ませた。

 エルダは少し不満そうだったが、その期間は体力と筋力をつけると意気込む。


 これまで支給品を使ってきた彼らであったが、練習を終え初級での活動をしているうちに、少しずつ自前装備も充実していく。民装備からの脱却が目標。



 リヴィアから上の許可をもらえたと聞き、喜んで飛び跳ねるオッサン。ただ六名となったことで、輸送以外の任務も押し付けられてしまったと嘆いていた。


あとはルチオ組を引き連れ、普段関りのない探検者たちから、登山に関してや中ボスの情報を集めた。慣れていないのか、どちらかと言えばラウロの方が緊張しており、三人が手助けするものだから相手に笑われてしまう。


・・・

・・・


 そんなこんなで当日。


 初級ダンジョンの出入り口にも拠点はあるが、中級と違いそこには資源もないため、開拓地と呼べるものではなかった。


 ラウロはとても張り切っていたようで、坊主頭の傷跡周辺に黒い粉を振りかけ、なにか特殊な液体で固めていた。あきれ顔でルチオが聞けば、薄くなっていた部分を隠せるらしい。


 まあ兜をかぶるので無意味な努力だったが。


「そうやって気にする方が悪目立ちすると思いますよ。みんなラウロさんが思うほど、その頭に興味ないですからね」


 当の本人にそう言われてしまい落ち込むオッサン。ただハゲというより傷跡なので、実際は悪目立ちもしているのだが。


 輸送任務とのことではあるが、ここは地上界ではないので、荷馬車などは用意されていない。空間の腕輪(大容量)をリヴィアが幾つか持てば、あとは皆で登山口の拠点へ向かうだけ。商人たちが嘆くのも何となくわかる。


 軽く今後の予定を確認し合ってから、六名は出発する。


・・・

・・・


 〖〖荒れ地・岩山〗】 戦闘不能時の神像帰還率は九割から八割。登山中の事故では七割となっているので、件数は少ないが死亡例もある。


 丘となっていたり、上り坂が急に崩れて小さな崖となっていたりするが、荒れ地の景色はあまり変わらない。


 ルチオたちはこれまで、岩山とは逆の方向にある大地の裂け目で活動していた。そちらの方が雑魚も多く、素材が沢山入手できるからだ。


「もう谷底には行ったのか?」


「まだ裂け目付近の拠点だ。下るとでっかいのも出てくるから、もう少し様子見かね。一度あれに乗りたいんだけど、けっこう料金馬鹿にならねえんだよな」


 本来の下り道とは別に、技術集団が制作した人力の降下装置を利用できる。


「あれ作るの大変だったんですよ、職人さんと揉めちゃって」


 谷底をずっと進めば岩肌に掘られた神殿があり、そこに大ボスへと続く時空紋がある。専用のアイテムがないと起動しないが。


 神殿とは逆側に進むと谷底が複数に分れるが、たどり着くのは別個体だが同種の中ボス。こちらは時空紋で専用空間に飛ばないので、探検者たちが少しでも重ならないよう配慮され、こうなったのだと思われる。


 アドネは弓を出現させ、神眼を発動して。


「もっと装備が整ってからかな」


 なんだかんだでもう活動してるので、レベリオたちには申し訳ないが、練習ダンジョンのボス攻略祝いに装備の鎖を渡してしまった。




・・・

・・・


 しばらく進めば、欲望の神眼越しに。


「あれかな」


 リヴィアは鞄から地図を取りだし。


「まだ私たちには見えないかな」


「敵はいねえか?」


 目視で警戒しているが、ここの敵対生物は荒れ地の風景に紛れている。


「近くにはいないよ」


 先頭をアドネとルチオ。真中がリヴィアと少女。最後尾はラウロとティト。


「拠点周辺は他の探検者も多いからよ、しばらく大丈夫だと思うぞ」


 遠目で戦っている者たちもいる。救難信号をあげる道具があり、そういった合図がなければ参戦しない決まり。

 彼らの戦いを眺めながら、少女は不安そうに。


「でもこの前、急に紋章が発生して、心臓とまりそうになりました」


 探検者の増加に伴う敵対者の不足を補うために、戦闘を一定時間していない組には仕掛けが用意されていた。


「あの時かあ。私も索敵してたんだけど、そんなの関係なしで出てくるから嫌になるよね」


 土は光と同等の古い属性。


 装備不要神技〖大地の気配〗 地面に手をそえることで、一定の領域を探る。飛行対象の察知は苦手で、そこまで有能ではない。


 ため息をつきながら、両手を後頭部に持っていき。


「ここの敵って風景にも紛れてるし、初級のわりに面倒だよ」


「仕事中でしょ、そういう態度はやめなさい」


 ラウロは少し羨ましそうに。


「なんつうか。もう魔物の再現というか、そのまま土の神技だしな」


 怒られて拗ねたのか、本来の口調で。


「神さまも手抜きっすよね」


 人型もいれば、色んな動物を模している。これら全てを含めて、ゴーレムと呼ぶ。


 あまりダンジョン活動にかける意気込みはないようで。


「このあと罠戦も控えてるし、戦いたくないな」


「俺らには欲望持ちがいるからよ、あんま心配すんなイザ姉え」


「運やゲームだけどね」


 短剣の神技。


 〖明日はどっちだ〗 罠周辺に短剣を投げて突き刺すか、地面が固ければ置くだけでも発動する。ルーレットなどの運や、じゃんけんなどで勝敗を決め、解除の成功失敗を判別する。熟練により二回挑戦可能になるなど、こちらが有利になっていく。


突然出現する敵も罠の扱いなので、土の紋章があるうちにこの神技を使えば、戦闘を避けられるかも知れない。


「ならちょっと安心。二人とも頼りにしてるからね」


「おう、任せとけ」


 アドネも少し嬉しそうに照れている。


 横のイザを見てから、後ろに振り向く。


「ラウロさん好きそうですね、そういうの」


「簡単なお遊びみたいなもんだし、あんま頭も使わないからな。金が欲しいのもあるけど、駆け引きが楽しいからやってんだ」


 言ってから、しまったと。


「賭け事やっぱ楽しいんですね。うそつき」


「そうやって顔にでやすいから、おっさん向いてねえんだよ」


 欲望の加護を得られたとしても、罠解除や開錠の技術が身につくわけではないので、このような仕組みになったのだろう。ダンジョン外では使えない神技で、ある意味だと犯罪の防止。

 

 当初の発見物。アドネは地面に突き刺さった棒を指さし。


「まだ見えないかな?」


 ティトは横にそれ、前方をよく見て。


「姉ちゃんあれじゃない?」


「仕事中はその呼び方やめて」


 リヴィアは一度皆の足を止め、〖大地の気配〗を発動させ。


「普段あまりこの人数では行動しないので、私も含め少し気が緩んでますね」


 最後尾のオッサンは先頭の二人に向け。


「お前ら普段からも気をつけろよ」


 話しに夢中となり、危機察知に遅れる。


「今日は最初から緩みっぱなしの人に言われたかねえ」


 示しがつかない教育係。良い所を見せたかったのに。


・・・

・・・


 ダンジョン内の地図。


 各地に数字と記号の書き込まれた目印を設置し、それから現在地を大まかで特定する。


 敵対生物の出現する場所なので、それからは会話も最低限で目的地へ向かう一行。


 今回の活動ではリヴィアがまとめ役。昼飯は食べないが休憩と軽食を挟みながら、時に戦闘も交えて進む。


 数時間が経過したころ、毎度のこと発見するのはアドネ。


「罠の時空紋ってあれかな?」


 ルチオは後ろを向き。


「神眼で確認してるし、明日はどっちだはもうしなくていいか?」


 解除のできない罠の場合だと、どのような内容なのか、簡単な説明が脳裏に浮かぶことがあった。


「偽物だってわかってるけど、一応しといた方が良いかな」


 調査はこれまでも何度か行われている。出現する敵や報酬の内容などに違いはないか、もしかすれば十回のうち三度は帰還させてくれるとか、そんな仕組みの可能性もないとは断言できない。


 ラウロは周囲を見渡し。


「報酬の宝箱は俺らでいただくが、敵の素材は協会員の預かりだぞ」


「わかってるよ」


 物資はリヴィア。ルチオ組の腕輪はリーダーが管理。


「イザは間違えないように気をつけて」


「はいっ」


 毎回リヴィアと組んでいるのは新人の彼女だけで、普段ティトは別の者と活動している。


「この前は素材の方と間違えたんだったか」


「……はい」


 同じ返事だが元気がなくなる。


 水の加護を持つ彼女は、空間の腕輪を両手首に装備し、左は薬で右は獲得した素材を保管していた。


 ラウロはこれからの戦いに思いをはせ。


「ここって水使いにはちっと不利だよな、毒の雨とかゴーレムには利かんし」


「それなら俺も血刃とかは使えませんね」


 〖血刃〗斬技 傷を負わせてから瞬きをするまでの期間。出血量の増加または、出血に伴う神力の流出。敵の種類によって、どちらかの効果が発動する。また人間も対象としているのか、回復神技の妨害能力もあった。


「たぶん威圧もあんま役に立たないと思う」


 聖拳士に盾の呼び声は通用しなかった。


 〖威圧〗や〖求光〗は引きつけ技の中だと効果が低く、本来メインとなるのは防具神技の〖威光〗または〖後光〗。

 もっとも強力なのは戦旗の神技〖救済の光〗。モンテ組の〖後光〗または〖威光〗を合わせ、天高く昇らせる。


「大丈夫ですよ。私、普段から引き付け役なんで」


 すでに時空紋は目前まで迫っていた。リヴィアは装備の鎖から戦闘用の物を。


 土の眷属神(設置型大盾・盾・重鎧・短槍)


 以前からルチオは重装備に憧れている節があった。


「すげえな。重くないのか?」


 フルフェイス兜になり、こもった声で。


「〖土の鎧〗があるからけっこう平気だよ。それに装備一式を中級で揃えられるから、なかなかお得なんだ」


 重力操作により装備の重量を調節。防御力上昇。


「姉ちゃん相変わらずゴツイよな」


 兜の一部を上げ、弟を睨みつけ。


「うるさい黙れ」


 オッサンはニヤニヤしていて気持ち悪い。


 皆もそれぞれが準備をする。



 やがて時空紋に到着し、〖明日はどっちだ〗と〖私の神眼が疼く〗の両方で確認する。予想どおり罠の反応を示す。なんど挑戦しても帰還はできず、攻略成功後もここに戻される。


 全員がギリギリ内側に入れる大きさ。


「私とルチオ君、イザが引き寄せを担当」


 ティトが細剣を払う。


「俺とラウロさん、アドネ君が岩柱の破壊を担当」


 〖闘争の岩柱〗 装備不要の神技だが、魔物との戦争限定。柱に近づくほど強い影響を受ける。近場に二重での発動は不可。神技の消費を抑え、味方の戦意高揚、敵の精神圧迫。


 今回は敵側での出現となるので、こちらの神力が消耗しやすく設定されていると思われる。


 闘志神は魔界の門が最初に出現した時代。創造主が〖神誕創造〗したばかりで、まだ加護を持つ者はいない。



 ラウロは真顔で考える。ティト君はお兄ちゃんが守る、あとついでにアドネも。


 軽口を叩こうか悩んだが、恐らく激怒されるから、言葉には出さないと決心。大人だ。


「お前も回復はできるが、イザさんに任せろよ」


「まあ燃費悪いしな、俺」


 火神の加護だけを混血させれば問題は解決されるが、なんせ今回の敵は精神の圧迫を使ってくるので、友情神の活用は必須。



 リヴィアは盾と短槍を握り締め。


「準備は良いですか?」


 時空神たちはダンジョンの制作に掛かりきりで、その加護も補助的な神技が中心となっている。


 内部にある時空神像の修復や魔界からの防衛。地上界にある時空紋や神像の管理などなど。これら事情のため、協会員だけに任される加護となっていた。



 全員がうなずいたのを確認し、リヴィアが時空紋に神力を沈ませた。



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