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いつか終わる世界に  作者: 作者です
練習 初級ダンジョン編
18/133

17話 日常6


 色々と問題の多い奴ではあるが、なんやかんやで悪い人ではない。


「まあ最近のハゲを見てると、楽しそうだなとは傍目から感じてるよ」


 良い面と悪い面があるものの、ダンジョン活動は改善の方向に作用しているのではないか。


「できなくなったことも含めて、工夫しながら進めているが、最近はなにかと楽しいんだ」


 探検者になることを反対していたが、今は回復した先のことを心配してくれているのだろう。


「自分の意思を通せるのなら、その選択も悪くはないのかもな」


 予備軍に参加するのか。探検者として町を守るのか。


 ラウロとしてはまだ厳しいと判断しているので、探検者を選びたいと思っているが、国に要請されたらどうするのだろうか。


「自分で決めて考えて行動する。若い連中と関わる機会なんてなかったが、俺の方が学んでるのも事実だよ」


「そうか」


 もう一度、この国に従事したい。この気持ちは未だに深く根付いている。


「受付嬢さんには感謝しかない、最初はできるか不安だったけどな。行動してみて良かった」


「あの娘は良い子だ、僕ちんの嫁に欲しい」


 睨み合う二人。


「自分の姿を見てから言いやがれ、ゴブリンの癖に」


「色恋にかまけてる暇なんてないだろ、毛根を呼び覚ましてからにしろ」


 罵り合いながら協会の支部を目指す。


・・・

・・・


 昼を過ぎた時間のため、ほとんど並ばずに受付へ。


 リヴィアちゃんはジト目で二人を交互に見る。


「なにやらかしたんですか。っていうか、なんですかその格好」


「僕ちん暴漢に襲われてね、身ぐるみ剝がされちゃったの」


 可愛い声でアピールする。


「上級挑戦してる人がなに言ってるんですか」


「賭けに負けただけだ。悪いんだけど、こいつに服を貸してもらえないか?」


 自分は博打などはしていない。道端でボスコを拾っただけだよと、誤解がないように加えておく。


「こいつは一文無しだから、しっかり自力でやりくりしてる俺が、彼の金を代わりに払うぞ」


 友人思いの優しいオッサン。金銭感覚もまとも。


「あっ けっしてアピールじゃないんだけど。すごく真面目になって、俺もう賭け事なんてしてないんだ」


 見違えるほどに清廉潔白。


「良い男になったと自分でも思うし、今が頃合いの物件だなって気がするんだけど。ちょっと年季が入ってるけど」


 アピールではないらしい。


 ため息を一つ。どこか怒り交じりの口調で。


「馬鹿じゃないの。まあいいや、ちょっと借りれるか聞いてみます」


 支給品は新人専用。


 ボスコは目をウルウルさせながら。

 

「ごめんね、迷惑かけちゃって♡」


 ラウロは男前の表情で。


「こいつには良く言い聞かせておく。あと金は俺が払うから」


 大事なことなので、お金のことは二回伝えなくてはいけない。



 なんなんだこの親父共はと、眉毛をピクピクさせながら、リヴィアは急ぎ足で奥に向かう。


「ぜったいにキュンキュンしてたよ彼女。まだ僕ちんの可愛さは健在だね」


「お前の目は節穴か。どう見ても俺の優しさに感動してただろ」


 もう色んな意味で恥ずかしい。


・・・

・・・


 戻ってくると、リヴィアの他にもう一人。


「これどうぞ」


 少女は受付の外に回り込み、ボスコに支給品の厚手服を渡す。


「ありがとね、可愛いお嬢さん」


 彼としては決め顔なのだが、布に下着一枚なので目を背けられていた。この場で着替えさせるわけにもいかないので、案内しなくてはいけない。


 だが格好からして変質者で、しかもゴブリンだから危険だと、リヴィアも判断したようだ。

 後ろを見渡して、ちょうど良い人物を発見。


「ちょっとティト、このオッサン着替えさせたいんだけど。二階の適当な部屋に案内してやって」


「えぇ……俺も仕事あんだけど」


 馴れ馴れしい会話のやり取り。最初はラウロも腹がたったものだが、二人の関係を知りもう嫉妬などしない。大人だ。


「僕ちんここで着替えても良いよ」


 うるさい黙れとリヴィアに睨まれるゴブリン。


「頼むわね」


 仕方ないなと息を吐き、ティト青年は受付から出る。


「ラウロさん、また何かやらかしたんですか?」


「そんな他人行儀な呼び方は止めてくれ、お兄ちゃんで良いんだぞ」


 少女は服を渡せば、この場から離れたかったのか、そそくさと引っ込んでいく。


 ボスコは涙目でラウロを指さし。


「このオジちゃんにね、借金返済できないなら身体で払えって。僕ちん無理やり」


「はいはい可哀そうにね、じゃあ行こう」


 もう相手にしないと決めたらしい。


「うん」


 手をつないで二階に向かう。オッサンと青年。



 一人取り残されたラウロは受付を見て。


「違うからね、俺そんなことしないから」


「さっさと金払ってください、後ろ並んでるんですから」


 振り向けば何人かの探検者がいた。目をそらされる。


 背腰の鞄から袋を取り出し、硬貨を数枚カウンターに置く。

 

「なあ、今度の初級は何時なんだ?」


「探し出すんじゃなかったんですか」


 だってぇと肩を落とすオッサン。可愛くはない、むしろ気持ち悪い。

 まあ以前にその話をしたのは自分だと納得させ。


「六日後に物資輸送任務です。新人もいますので、危険は少な目ですがね」


「運搬ってことは石切り場までか?」


 初級〖荒れ地・岩山〗 登山口の拠点まで食料などを運ぶ。内心で拳を握るラウロ。


「できれば俺とルチオ組も同行させてもらっても良いか?」


「全員ですか?」


 彼らは明日から二日で活動の予定。六日後となれば引き付け役には休養が必要だし、サラもレベリオ組に参加となるはず。


「たぶん野郎だけだと思うんだ。最後になるし、ちょうど登山を経験させときたかったんだが」


 本当はエルダたちにも体験させるべきだが、そこら辺はルチオたちが対策するはず。


「危なくないですか?」


「更新直後ならそうだ」


 今は先人のお陰でルートも整っている。


「あっ でもな」


 そこまで言って悩む。


「ラウロさん含めて、三人で中ボスの攻略になりますけど」


「少し無理があるか」


 リヴィアは後ろを見て、先ほどの少女を呼ぶ。


「上に話を通さなきゃ本決まりとはならないけど、ラウロさんたち岩山に挑むそうだよ。どうする?」


「そうなんですか?」


 うなずきで返す。


「ルチオとアドネ、あとエルダちゃんの組でしたっけ?」


「当日は男二人だけだ、俺も行くがな」


 協会員は雑務が中心だが、やはり新人には経験も積ませたい。彼らも魔界の門がひらけば戦わなくてはいけないから。


「たしか連中の知り合いだったか」


 孤児院。


「はい、私の方が一年お姉さんです」


 試練を受けたのは今年。


 ラウロは後ろを振り向き。


「すまん、ちょっと長くなるかも知れん」


 口説きとかではないようなので、気にするなと一人を残し、他は情報交換の席に向かう。


「加護はなんだ」


「水の眷属神です」


 光は徴兵されるので、世界的に見ても主となる回復役。この属性は後衛になることが多い。


「後は誰が来る予定になっている?」


「ラウロさんが同行する事になるなら、また見直されるんじゃないですかね。希望とかいますか?」


 こう聞いてくるのであれば、リヴィアは拠点に残り作業をすることになるが、指名された者は新人の助けに最後まで同行するのではないか。


「できれば剣の加護だとありがたい」


 自分もだが、アドネも短剣を使う。ルチオは恐らく攻撃力は足りているだろう。


「じゃあティトかな」


 受付の向こう側にいる少女を見て。


「二人とも知り合いだっつう話しだしよ、登山のボスは行くまでが本番だから、そこまで強くは設定されてないはずだ」


 これから本格的に情報を集めるから、まだ細かいことは不明だが、そこに大きな変化はないはず。


 あまり探検者がやりたがらない作業の一つだったりもするから、きっと協会員としても移動の難所は経験させておきたい。


「わかりました、よろしくお願いします」


「ありがとな」


 連係の合わせなどは、道中や登山口の拠点でさせてもらうか。もし時間があえば、一度ここの訓練場などを借りるでも良い。


「じゃあ決まりと言うことで、上に話を通しておきますね」


「悪いな」


 思いの他、まともな要件だったので、そこまで邪険には扱われず済んだようだ。


「明日か明後日にでも一度、顔を出してくださいね。結果がどうなるかわかりませんし、良かった場合も事前にやり取りをしたいので」


「わかった」


 リヴィアちゃんとダンジョン活動したい。そういった不純な動機もないことはないが。いやあるけれども。


「移動の難所を経験させれば、もう本当に教えるもんがなくなるな。肩の荷が下りるってもんだ」


「そうですね。お疲れさまでした」


 彼が教育係として、これまで真面目に取り組んできたのは事実なので、素直に労ってくれた。


「邪魔したな」


 賭け事に夢中となり、二人の試練を忘れていた。そんな駄目人間ではあるが。


 待たせていた数組にお詫びを言ってから、協会を後にする。


・・・

・・・


 今日の用事は全て終わった。ゴブリンと酒でも飲みに行くかと考えたが、奴は無一文なので奢らされると気づき、そのまま置いていくことにする。


 協会から自宅に戻るとなれば、貧教会近くの橋を通る。今日は炊き出しの日でもないし、あそこに寄る理由もない。


「爺さんのとこでも行くかね」


 剣の稽古をするか、それとも酒でも差し入れて、橋で一緒に飲むか。


 行事のある日は必ずいるが、無い日も気まぐれで木像を売っている時もある。


「まあ、いっか」


 とりあえず家まで帰り、酒をもって橋に向かう。居なければ自宅近くの空き地で、剣か拳の鍛錬でもすればいい。


・・・

・・・


 この町は治安が良い。貧困街もあるが、驚くほど荒れているわけではない。


 橋に座り込む爺を、三人の若者が囲っていた。


「チっ しけてんな」


 容器に入れてあった僅かな小銭をすくい取る。


 なにか嫌なことでもあったのか、とてもイラついた様子で。


「ここ公共の場所なんだよね、勝手に商売とかしちゃいけねえんだよ」


「おい、聞いてんのか爺っ!」


 銭が入っていた容器を投げつける。


「すまんかった」


 謝られた三人は互いに顔を見あい、ニヤニヤと笑いあう。仲良し。


「俺らに謝られてもな」


「だよな」


 体臭に顔をしかめながらも、優しく老人の肩に手を置く。


「とりあえずこの場は見逃してやっから、僕たち今お金に困っててさ。もうちょっと貸してくんね?」


「勘弁してくれ。あんたらが取った分で全部だ、もう一銭たりともねえ」

 

 そうかぁ、と残念そうな青年たち。


「じゃあその剣で良いよ、質屋には取っておいてもらうように頼むからさ、俺らもうすぐ給料入るし」


 必ず返す。


「こいつは布切れ一つ切れねえ(なまくら)だ。それに気に入ったのしか、この剣は相手にしねえ」


 小馬鹿にするように。


「なに、その剣はお爺さんのことは認めてるんだ」


「俺あれなんだよね、剣の眷属神に選ばれてんの」


 一人が爺の剣に手を伸ばすが、触らせまいと抱きかかえた。


「やめとけ。それでも抜くっつうんなら、腕の一つは覚悟しねえと駄目だ」


 刃を向けられる。


「舐めた口聞いてくれんじゃねえか、薄汚いクソジジイがよ!」


 あまり信仰心はないのか、それとも木製のそれを神とは認めていないのか。立場の違いをわからせるために、像を蹴り飛ばそうと右足を宙に浮かす。


 爺は抱かえていた剣を抜くと、そのまま柄尻を左足に当て、青年を転倒させた。


 剣を鞘に帰し再び抱きかかえ、自分で彫った像たちを守るように土下座のポーズ。


「ざけんな!」


 転ばされた青年は尻もちをついたまま、爺の頭を靴底で蹴る。


 うめき声一つ出さず、爺は動かない。


「クソが」


 別の男が爺の脇腹を蹴り上げる。


「おい、やめろよ。流石にやりすぎだろ」


 もう一人は暴力までする気はなかったようだ。


「うるせえっ こんな汚ねえジジイにまで、舐められて堪るか!」


 嫌なことでもあったのだろうか。

 転ばされた青年は何度か蹴るが、この姿勢では上手く力が込められないと思い、その場に立ち上る。


「もう勘弁してくれ」


 脇腹を蹴られた時に像が一つ巻き添えをくらい、どこかに飛んで行った。


「なあ、もうやめようぜ」


「っクソ!」


 最後とばかりに頭を蹴飛ばされる。


「俺らが捕まっちまうよ」


 その言葉に顔を青くさせる二人。爺はピクリとも動かない。


・・・

・・・


 橋に到着すると、足もとに木製の像が落ちていた。それを拾い上げ。


「天使か、これ」


 別に翼が生えているわけではないが、なんとなくそう思った。


「寄こせ」


 仏頂面で座り込む爺がいた。手当でもされたのか、頭に布を巻かれている。


「またこっぴどくやられたな」


「……」


 教会または病院にでも連れて行こうとしたが、この爺の性格からして断ったのだろう。


「いくら何でも身が持たんだろ」


 爺に手をかざし、〖治癒の光〗を発動する。


「頼んじゃいねえからな」


「ったく」


 こういった事がこれまでなかった訳ではない。


「悪いこた言わんから、いいかげん保護受けろよ」


「すべては身からでた錆びだ。この程度は覚悟の上で生きとる」


 昔この人に言われた事。


 境遇に耐え忍ぶだけで、なにもしてこなかった手前の責任だ。


「施設を頼るってのも、行動するってことじゃないのか?」


「ちげえな」


 誰かが手を差し伸べてくれることもある、神技や薬で痛みを和らげるのだってできる。それでも結局、自分を助けられるのは自分だけだ。


「このままじゃなんも解決しないだろ」


 別に物事を解決させなくたっていい。何か少しでも楽になる工夫はできねえのか。


「解決できてねえ事なんざ沢山ありすぎて、今さらだ」


 本当に動けなくなる奴もいる。でもお前はまだ動けるんだろ、足掻けるんだろ。


 どうせ無駄だなんて考える暇があるなら、少しはマシになるかも知れねえで、試しに動いてみたらいい。




 ラウロは天使の像を爺の前に置く。爺は汚れてしまったそれを、大切そうに拭き。


「もう長くはねえこの身だ、好きなように生きて死ぬだけさ」


 自暴自棄になっているのかとも最初は思ったが、どうも違う気がする。


 隣に座り、二人分のコップに酒を注ぐ。


「……」


 施しは受けない。


「あんたと一杯したい気分だったんだよ、最初からな」


「そうか」


 なら遠慮はしないと、酒を握る。


「辛くはないのか」


「どうにかなるもんだ」


 本当に偏屈。


「痛くはないのか」


「もっと痛てえ思いは山ほどしてきたさ」


 この人は工夫して、考えて方法を導きだして。


「なるようになるし、なるようにすれば良いだけだ」


 最後まで生き抜くのだろう。



 でも心配でたまらない。


「なあ、爺さんは何処の産まれなんだ?」


「……」


 言いたくはないのか、それとも覚えてないのか。


「俺もうすぐ一仕事終わるんだ」


 レベリオたちには申し訳ないが、少しだけ留守にさせてもらうかも知れない。


「もし望むなら、国内であればなんとか話しつけて、あんたのこと送れると思うんだ。約束はできないけどよ」


 そこで生活する必要もない。一目見て懐かしんで、ここに帰るでもいい。



 爺は眩しそうに、夕暮れの空を見上げる。


「帰り道、もう忘れちまったな」


「そうか」


 軽く咳き込みながら。


「ありがとうよ」


 美味そうに酒をのむ。


 

 なにも言わず、少しのあいだ考えこみ。


「託そうとも考えたが、やっぱやめだ」


「なにをだよ」


 爺はちゃんとした返答はしない。


「お前は精一杯、自分の人生を貫け」


 人として。


「ただでさえ厄介なもんを背負ってるようだし、あまり無理はするな」


 これまで隠れてきたが、恐らくラウロと出会った所為で、自分の存在は気づかれている。


「いつか選択を迫られた時も、嫌なら断れ。連中は(ことわり)に縛られているが、人の意思は尊重するはずだ」


「なんの話か見えないんだけど」


 まだ知らなくてもいい。


「一人に、これ以上の業を圧しつけるわけにもいかん」


「勝手に納得すんなよ」


 自分に言い聞かすように。


「儂の剣はお前にやらねえって話だ」


 けっ と唾を吐き。


「どうせあれだろ、お涙ちょうだいで最後はくれるんじゃね?」


 行儀の悪いオッサン。


「そうだな」


 今はそうならないと願うしかない。



 どこか良い場所はないか考えながら、爺さんは最後の美酒を楽しむ。

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