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いつか終わる世界に  作者: 作者です
練習 初級ダンジョン編
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16話 日常5

 ルチオたちの練習ダンジョン攻略は無事に成功した。と言っても装備の修理費用がけっこう必要になったらしい。

 アドネの借りているコートは将革なので、やはり同等の物が求められる。


 時空神像を活用した攻略法。それを祝いとして伝えたら、三人はものすごく発狂していた。情報の大切さが身に染みてわかったようだ。


 サラにも後日教えたが、同じく悔しがる。あと、彼女は身の振り方を決めた。


 選んだのはルチオ組。こちらからは理由を聞かなかったが、なんとなく予想すれば、あまりにも差が大き過ぎるから。


 なんせ専門武具に神鋼を使っているような連中だ。ラウロだって実際にレベリオ組と共闘して、攻撃力の差を痛感したばかり。


 彼らとしては二人とも、求めていた線引きの内側だったので、加わってくれるなら感謝しかないと喜ぶ。


 サラの場合は純粋な回復役としての実力。派遣軍時代に壁上での支援経験もある。そして良くも悪くも同年代。

 欠点としては敵と間近での戦闘経験が少ないこと。そして杖神技の未熟からくる攻撃力の不足。


 ラウロは歴戦の騎士だったので、全ての神技が標準を大きく上回る。命の危機が迫れば素手と法衣も使うと伝えていたので、その時点で最高戦力の追加。


 ただ本人が剣での前衛を望んでおり、そうなった事情からも扱いが難しく、また回復役の経験不足という難点もあった。


・・・

・・・


 練習ダンジョンのボスを攻略してから、二週間ほどが経過していた。すでにラウロ抜きでの初級も挑戦しており、サラも今はレベリオ組との両方で活動する。


 場所は町の飲み屋。今は日中なので飯がでる。


「じゃあサラ姉ちゃん、また今度な!」


「美味しかったです」


 普段は二食なのだが、サラとエルダに合わせて三食のこともあった。食後の運動が厳しいこともあり、最近は調整していたが今日は違う。


「また来てねぇ、サービスするからさぁ」


「じゃあ勘定頼むわ」


 日頃の付き合いもあるし、ラウロ個人としても一度顔を出したかった。


「出来の悪い娘だけど、よろしく頼むね兄ちゃんたち」


 金袋から銭をだし、三人分を支払う。


 母親としては心配に決まっている。ルチオとしてもそこら辺を感じたのだろう。


「こっちこそ助けられてばっかだし、絶対なんて言えねえけどさ、安全第一でやってくよ」


「ありがとね。本当に値引きすっから、また食べに来てちょうだい」


 これはラウロの直観。レベリオはああ言ったが、恐らくルチオ組は彼らほどの速度では進まないだろう。


 盾。剣。弓。


 相応の危険を冒さなければ、五年という期間で【迷宮】に挑戦したり、神の名がつく素材を仲間内でそろえるなど難しい。


 そして一名が大けがをした事態から、今はその後悔も大きいのか、レベリオ自身に思う所があるようだ。 三人にとって仲間が二人抜けてしまったという事実は、始めての挫折だったのかも知れず。


 ラウロにしてもサラにしても、彼らは慎重な速度でことを進めている。




 昼時でそれなりに人もいるので、父親の方は厨房で慌ただしく鍋を振るっていた。


「俺もたまに昔の同期誘って、夜にでも邪魔させてもらうかね」


「ラウロさんも色々ありがとねえ」


 レベリオやルチオのことを紹介したなど、娘から色々と話を聞いていたらしい。派遣軍あがりで探検者を目指すというのも、かなり珍しい進路だったのだろう。


「こちらこそ、娘さんの選択で助けられた口ですので。感謝だけですよ」


 一等地ではないが、客の入りから見ても繁盛しているはずだ。経験がないので正確な判断はできないが、食材の買い出しや運搬などを考えると、間違いなく調理は力仕事。


「私もダンジョン活動してないときは、ちょくちょく手伝ってますんでぇ、よろしくお願いします」


 この一家は三人ともに加護持ちだとサラから聞いている。


「今度エルダも連れてくるね」


 アドネとルチオは協会支部でいつもの訓練だったが。エルダは体力づくりをしたいとのことで、休日を返上した父親と一緒に特訓していた。


 なにを隠そうあの人も土の眷属神。サブではあったが引き付け役もこなしていた。


 忙しい時間帯なので挨拶もこのくらいにして、ラウロたちは飯屋を後にする。


・・・

・・・


 これから二人は仕事らしい。彼らは決まった時間を働くというよりも、決められた範囲の作業を済ませれば、報酬をもらい終了といった感じ。


 神力混血のお陰もあり、身体能力があがっていた。内容にもよるが、早いときは以前の半分で終わらせられるようになった。


 練習ダンジョンの時に比べ活動時間も増え、獲得した素材の報酬はそれなりに受け取れる。まだ兵の鉄鉱石などだが、中級に進み将あたりとなれば、もう充分に探検者だけで生活していけるだろう。


「次でおっさんの指導もおわりか」


「だね」


 できれば初級のボスを倒してから終了としたい。すでにルチオ組は十分にやっていけると判断していたので、もし無理だったとしても最後とする予定。


「寂しくなっちゃったのか? なんなら俺への感謝を一生持ってても良いんだぞ」


「そういう事いうから駄目なんだよ」


「お礼の気持ちもなくなっちまうな」


 けっ と唾を吐く。行儀の悪いおっさん。


「まあどっちにしろ、ちゃんと攻略してから進めろよ」


「言われるまでもねえ」


 練習ダンジョンから先。初端から戦えるのは中ボスと呼ばれる。倒すと鍵やオーブなど、大ボスへと繋がる品が手に入る。


 中級の開拓地周辺では、将の素材はまず出ない。


 まずは中ボス1を倒し、木のコンパスを入手。そこから迷いの森に挑み、中ボス2から緑の玉が貰える。

 最後に祭壇と思われる遺跡の上部で、その玉を設置すると大ボスが出現する。


「初級は中ボス一体倒せば、そのまま大ボスに行けるんだよね?」


「全部で三体いるが、どれでも好きな奴で良い」


 移動時に雑魚も出るがそこまで強くない。戦闘中に乱入される場合もある。

 移動は楽だが強めの設定。

 移動は困難だが道中敵はおらず、ボスとも雑魚を気にせず戦える。


「どうすっか、まだ決めてねえんだよな」


 オッサンにはある思惑があった。


「できれば俺が選んでも良いか?」


 もうほぼ独り立ちのため、最近ではすべてをルチオに任せていた。二人は互いに顔を見あい。


「いいんじゃねえか」


「まあ送りだすための戦いだし、おじさんが主役だもんね」


 なにそのお別れ会みたいなのり。


「悪いな」


 立ち止まると、急用ができたのか。


「ちょっと俺、これから協会いってくるから」


 リヴィアちゃんにどうしても聞かないといけないことがある。


「はいよ」


「行ってらっしゃい」


「仕事頑張れよ、怪我とかしないようにな」


 オッサンは足早に去っていく。


・・・

・・・


 協会支部には情報交換の席が設けられているが、そこはお茶程度は用意されているものの、酒や肴などはでない。

 だからその近くにある酒場は、いつも探検者で賑わっている。


 世間では休日だが、探検者は特に関係がない。それでもやはり支部より、こっちの方を利用する人が多い。


 ラウロはそんな酒場の前を通りかかっていた。


「何してんだお前」


 筋肉はそれなりにあるけど小太り。膝を抱えて座っているが、彼が小柄なことを知っている。


「やあこれはこれは、ハゲじゃないか」


「ハゲじゃない、坊主だ」


 下着一枚にボロい布を羽織る。


「そんなことどうでも良いんだ。お前の服を一枚貸してくれないか」


「いや無理だろ。普段着は二組しか持ってないぞ俺」


 恵んでもらえないとわかった瞬間、目つきが悪くなる。


「だからお前はモテないんだ、ハゲてるし」


「チビデブに言われたかない。それに若いときは誰かさんよりもモテてましたー」


 膝を一層に抱え。


「今の現実を見やがれってんだ。だいたい僕ちんあれだもん、女の子みたいで可愛いってさ、娘っ子からキャーキャー言われてたもん」


 たしかにアドネと似た感じの風貌だったのは覚えている。


「お前こそ今の現実を見やがれってんだ、特にその腹」


 やだやだ聞こえないと耳を塞ぐ。


「っで、どうしたんだよ」


「負けちまった」


 ラウロのような偽物ではない。真・賭け狂い。


 ダンジョン活動で使う装備も、本人に持たせると質に出してしまうので、モンテが金品の管理と共に預かっている。


「お前ってさ、俺よりも駄目な大人だな」


「大人になんてなりたくないね」


 あなたすでに三十代後半でしょ。


 ラウロはため息を一つ。


「今から協会に行くからよ、支給品の服でも数日借りれるか、受付嬢さんに頼んでみるか?」


 ゴブリンとでも言えば良いのか。お腹が出ているだけで、それ以外は少し肉つきが良い程度。おそらく着れる服もあるだろう。


「ありがとう。君はやっぱり僕ちんの友だちだね」


「はいはい、良いから立てよ。下手すりゃ捕まるぞ」


 恐らく布は優しさで渡されたのだろう。


 正直、隣を歩くの恥ずかしい。

 どうしようもない奴だが、今まで死線を潜り抜けてきた同期だ。


「なあ」


「なんだよ。っていうか素足で歩くのキツイ、その靴かしてくんない?」


 もう感謝の気持ちは忘れているらしい。


「もう良いわ」


「なんだよ」


 このダメ人間を見ていると、自分でも生きていて良いんだと自信がみなぎってくる。


「回復役のコツってないか?」


「急にどしたのさ、僕ちんの凄さにようやく気付いたのかな」


 ちなみにこいつの一人称は普段だと、俺や僕や滅茶苦茶だったりする。この格好だと僕ちんになるようだ。


「今度、俺が回復役になるんだが、どうにもな」


「知らねえよ」


 背筋が丸まり、口調が変化する。


「だいたいお前ら、勝手に自分で回復すんじゃん」


 全員が治癒の輝きを持ち、そして状態異常には活力の輝きを使う。


「だったら俺らは回復役なんぞ、最初から必要としないだろ」


 光の加護であっても、瘴気の魔物が相手となれば〖天の輝光〗が要となる。それ以外の回復神技は弱体化するし、活力系統も症状は和らぐが完全には治せない。


「言っとくがな、俺は回復役としちゃ二流だよ。テメエがいなけりゃ勤まらなかったさ、聞く相手間違ってんじゃねえの?」


 錫杖の神技〖地の聖光〗 天の光からの発生。輝光が頭上に浮かぶのに対し、足もとに聖紋が出現する。


 効果は範囲内の味方を一定回復、状態異常を治癒。これだけではあったとしても、瘴気の魔物が相手となれば重要な役割をなす。


「そりゃお互い様だろ」


 〖聖域〗と〖天の光〗は別物の神技であり、重ねた発動も可能。


 そして彼は盾の神技を持ち、サブの引き付け役もになっていた。


「俺らやってること同じなのにさ、なんで君ぶっ倒れてんの? やめてくんないマジで」


「悪かったよ」


 彼はラウロが探検者をすることに反対の立場。


「お前まだ無理だろ。下手に回復した素振りしてさ、上がもう大丈夫って判断したらどうすんだよ」


 言い返せない。


「その今組んでる連中と戦うのか、瘴気の魔物と。それとも俺らとまた組むのか?」


「俺としては良くなったと思うんだがね」


 パンツいっちょのダメ人間に、本気の説教をくらうオッサン。


「お前が頭いかれたのは、魔物の侵攻が原因だと僕かぁ思うね。その最中は多分大丈夫だろうよ」


「そうだな」


 もうこの季節は段々と寒くなってくる。


「次はないんじゃね? まあお前が今より禿たところで、おりゃなんも困らねえけどな」


「ハゲじゃないから、これ古傷だから」


 モンテやデボラだけでなく、シスターや教会の者たち。今は協力してくれているが、受付嬢や協会の面々。


 これまで色んな人に反対はされた。

 

「普通に生きろよ。テメエ一人いなくなったところで、国はそこまで困らないだろ」


 今も面と向かって言ってくるのは、この男だけだった。


「それでもお前に聞きたかったんだよ」


 冷たい風がふく。


「毒が辛けりゃキツいって言えば良い。怪我が痛けりゃ回復を頼めばいい。そういったのを聞いてれば、そのうち見えてくる」


 肩を振るわせながら布を被りなおす。


「お前は言わなかったけどな」


 ラウロは標準よりも高い身長で、体格もまあまあ良い。


 小柄な男は寒さでさらに小さくなる。


「悪かった」


 凸凹コンビは服を貰いに協会を目指す。

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