15話 レベリオ組との合わせ
訓練をしていた二人は少しの休憩。その間はアリーダにお願いし、〖君の剣〗の感触を確かめさせてもらう。まだエルダは〖お前の鎧〗を習得していないので、実質初の体験だった。
爺の教えを思いだしながら、素振りを数かい。
「試し斬り用の藁束とかもありますよ」
レベリオの提案を受け訓練小屋に行き、さっそく小銭を払って使わせてもらう。
〖私の剣〗 刃が銀色に光る。斬撃強化(強)。打撃強化(中)。突刺し強化(弱)。油の付着による切れ味の低下を防ぎ、刃こぼれしないよう耐久も強化される。
主神または眷属神によって、斬打突の強弱に変化がある。
そして〖君の剣〗は、これと同じ効果を付属してくれる。
なんどか藁束を意識しながら素振り。
「よし、行くか」
姿勢は浅めの半身。右上に構え、右足を出しながら左下に振るが、次手に備えて軽め。
切断された藁束が落ちる前に、刃を返すことなくそのまま上部を斬る。
二手目は失敗し、食い込んだまま途中で止まった。
「それやるなら片刃に限る。両刃でも返した方が斬りやすいと思うわよ」
彼女の加護は斬る方が得意なので、得物は白銀の半曲刀。戦闘中に打撃が必要と感じた時は、武器を変更したり専用の神技を使う。
「こんな感じかしら」
藁束はないが、動作で示してくれる。
「でっ どう、神技の感触は?」
「最初は良かった。次はたんに俺の技術不足だ」
アリーダの剣筋を真似て何度か振る。
「こういった単なる素振りでも、空気を斬るときの手応えが違う気がするな」
剣と言うのは平なので、下手に斬ると空気抵抗を受けやすい。
斬撃を意識するなら尚のこと。戦いの中で常に最良の一振りなどできない。
「なんつうか、導いてくれるな」
剣身一体。
「そう言ってもらえると、素直に嬉しいわね。そこらへんは私の熟練に寄るところが大きいと思う」
斬る動作。叩きつける動作。突く動作。補正はかかるが、本人の鍛錬は必須。
もう一度、刃を返すことなく二連の斬り。
この切り口が使えるかどうか、なんども試行錯誤していく。その繰り返しも大切なんだと教わった。
とりあえず素の状態での確認は終える。
〖聖拳〗を発動させてから、刃の返し有無の動作を繰り返す。意味があるのかないのか。
「受けたげる」
「すまん」
互いに構える。アリーダは自分の右上段に合わせて、剣を腰の下に落してくれていた。
「ではっ」
左下への斬り下げは一歩さがられ回避。ラウロは左足を出しながら、手首はそのままに、先ほどよりも角度を浅く斬り上げる。
刃と刃が重なり音が鳴る。止められた。
左足を気持ち後ろにさげ、片手剣を自分の脇に戻す。
「骨で止まった場合は、すぐに引くでも良い。切断する必要なんてないもの」
「もう一度良いか?」
いつの間にか本来の目的を忘れていた。
戦いは色んな感情が入り混じるものだが、殺し合ってくれる相手があってこそ。常に敵を想像し、敵を思う。
殺気や臭いに空気など、合わせられるものは複数あるが、心合わせが一番難しい。そして一番強力な〔合わせ〕だと教わる。
剣での稽古が続き、普段の癖で〔合わせ〕をしてしまう。
「……」
片刃の剣を弾いたら、しばらく呆然とこちらの剣を眺めていたが。
「すまん、ってどうした」
「あれ、私どうして」
頬に雫がつたう。
「ごめん、やるじゃない」
手で拭うと、本人も良く分からない様子で、もう少し休むと離れていく。
ラウロは首を傾げながらも、まあいいかと〖君の剣〗の感触を確かめる。
・・・
・・・
動作訓練を終えると、ラウロとマリカは互いの前腕を絡めていた。決して友情や愛情が生まれたのではなく。
「これでないと難しくてな」
「ラウロさんの役得ぅ~」
両手の前腕どうしを持つ。
「なんつうかな。実際に戦ってみると、何となく理由もわかる」
自分の神力を少しと、他者の神力を大量に消費する。
足もとに小さな聖紋が出現。ラウロはマリカの手を離し、一歩さがる。
聖小紋の上部に光が集まり、それが人の形を成す。
「これが光の拳士ですか」
身体の光よりも、両腕の光が大きい。レベリオは興味深そうに、手を伸ばす。
「まだ触れないでくれ」
「わかりました」
触られると気づかれる。
「んじゃ続けるぞ」
位置をずらし、再びマリカと手を握る。次にレベリオ。
その間もアリーダはボーっとしていたが、順番が回ってくれば意識を切り替えた様子。
全部で六体を召喚した。
「じゃあ、お前らは敵役な」
うなずくこともなく、聖拳士たちは四人から距離をとる。
「では僕らも位置につきましょう」
隊列。
前衛はレベリオとアリーダ。
ラウロは引き付け役の背後に位置取り、マリカはその斜め後ろ。だが今回この二人は参戦せず。
レベリオの鎧(王鋼・王革・将鋼)。守るには重さも必要とのこと。
レベリオの盾(神鋼・将鋼・王木・将革)。大きさは中型で、形は逆三角。
レベリオの短剣(王鋼)。鍔の形状からして、守りに特化したもの。刃はついていない打撃専用。
「では失礼して」
〖我が盾〗〖貴様が盾〗を発動。 守る意思を示せば、銀色の光が広がり、物理判定を得て防御範囲が大きくなる。自身の防御強化。衝撃吸収。
断魔装具。彼は鎧の神技を持たないが、神力を沈めることで、少しだけ鎧としての質が上がるらしい。
「じゃあ私も」
レベリオの短剣は刃がついてないが、〖君の剣〗による効果は得ているようだ。
アリーダはいつもの革鎧(兵鋼・兵革)に、片刃の片手剣(神鋼・王革・神木)。左前腕には小型の盾(王木・王鋼・王革)。
ラウロは咳ばらいを一つ。
「準備は良いな」
二人はうなずく。
「攻撃開始」
合図を受けて、六体の拳士が前腕を輝かせる。〖聖拳〗
レベリオは〖我が盾の呼び声〗を発動。
短剣で盾を叩く。その音色により、敵対者を呼び寄せる。
一体の拳士がアリーダに向けて拳打を放つが、盾で難なく弾き返した。
「呼び声は利かないわね」
相手を確かめるように、片手剣で首元を狙うが、拳士はそれを前腕で受け止めた。
「固い」
神技や断魔装具の力を使わなくても、もう少し本気を出せば、〖私の剣〗だけでも斬れるかも知れない。
足払いをしようと、左で蹴った瞬間に理解する。実体がなく、空ぶったせいで姿勢が崩れた。
「やられた」
レベリオが即座に対応。
〖我が盾の突進〗命中した敵に銀の光がまといつき、防御力を低下。敵意を強く向けられる。
「物理判定があるのは腕だけか」
突撃を受けたが転倒はせず、両前腕だけが吹っ飛び、それ以外の部位は消えた。地面に落ちた前腕は浮かびあがり、再び聖拳士となる。銀色の光をまとっているので、今回は引付が利くらしい。
敵はまだ六体のまま。そのうち二体がレベリオに接近。
守短剣で一体の拳打を受け、もう一体は盾で殴りつける。
〖我が盾の打撃〗 装甲の内部に打撃浸透。防御力低下。敵意を強く向けられる。デバフを受けた敵は銀色に光る。
「物理判定があるって、そこが弱点じゃない?」
レベリオが短剣で受けた方の前腕をアリーダが切断する。まだ片腕が残っているが、その拳士は消滅した。
「なるほど」
気づかれたかと、ラウロは苦笑いで頭を掻いている。
「ちょっと僕だと攻撃力不足かな」
もう一度、盾で打撃を与えてみたが、両手でガードされ、腕だけが吹き飛び壊れない。
レベリオの攻撃神技はラウロに似ている。
〖聖拳〗から〖破魔の拳〗
〖我が盾〗から〖我が盾の苦痛〗
「任せてっ」
彼が吹き飛ばした光る前腕に駆け寄り、復活する前に処分する。地面に落ちているため、切断は難しいと判断。
〖無断〗剣に斬を捨てさせる代わりに、打を強化。
片刃の剣を地面に叩きつけ、前腕を破壊。
「断装具つかってんの?」
「あっ」
盾に神力を沈ませることで、盾の神技を全て強化。
残りの聖拳士は四体。
レベリオは前にでて、短剣で拳士の打撃を受け止めながら、自分の盾角で殴りつける。
〖我が盾の打撃〗でも、前腕の破壊に成功した。
別の個体が殴りかかってきたが、防御の意思を込めたことで、〖我が盾〗が銀光の範囲を広めて防ぐ。
ここまでくれば、もう勝敗は決したと言って良いだろう。
・・・
・・・
全ての聖拳士を撃破した所で、ラウロは二人のもとに向かい。
「どうだった?」
「あんたが言う通り、消費の割には弱いわね」
聖拳を持ってはいるが、ラウロのように破魔の拳を実現させるまでは耐えられない。そもそもできるのか不明。
「ですが、魔系統特化なんですよね?」
「そうだな。拳打の威力は魔物ならけっこう上がるぞ」
マリカはフムフムと考える仕草をとって。
「魔物って頭よくないし、腕が弱点なんて気づけないんじゃないかな~」
「小型や中型ならそんなもんだ。でも大型になると違ってくる」
納得いったのか、アリーダは片手剣を消し、装備の鎖から大剣(将鋼)を出現させた。
「これで横から叩き斬れば、確かに一発ね」
「そういうことだ」
ダンジョン内での使い道はないか、利用できそうなボスは居ないか。
「意識の共有とかはできるんですか?」
ゴーレムは種類にもよるが、可能との話を聞いたことがある。索敵専用の小型など。
「それができればもっと活用してるな」
できることとできないこと。
「レベリオさんの指示に従えって命令はできるぞ。ただ基本的に簡単なのしか理解できん」
大きい敵は避けて戦え、小さいのだけを狙え。
「なるほど。弓とか持たせることは?」
「拳一筋だったりする」
少し何かが足りない神技。それが聖なる拳士だった。
「もっと燃費良ければ、かなり有効だったわよね。これ」
「そうだね。少なくともダンジョンでは、活用できる機会も限られてきそうかな」
マリカは手を上げると。
「私も戦ってみた~い」
「じゃあ今度は俺と組んでみるか」
こうして連係の調整は進んでいく。
〖君の剣〗による効果か、アリーダのように確実な切断はできなかったが、何度か成功して嬉しかった。
マリカは〖風矢の友〗と言う神技で無数の矢を空中に浮かせ、〖風矢の連射〗で自分の放った矢と同じ位置に、五本の友を連続で打ち込む。
威力の違いに少し虚しくなった。
・・・
・・・
ルチオたちの結果も気になるが、今日は自分の今後にも関わるので、彼らにはそのまま帰ってもらう予定となっている。
最後に森中で敵対生物となんどか戦闘もしてみた。
レベリオが集めた敵はマリカの神技で殲滅。強い個体が混じっている場合はアリーダが受け持つ。
強力な一体であれば、レベリオが引き付けアリーダとマリカが攻撃。
聖十字の発動範囲は狭いが、ラウロが離れてもその場に残るので、走り回ればなんとかなる。しかし光十字に比べるとやはり時間がかかる。利点は一人に対して四方にも展開でき、レベリオの反応が凄かった。
あとこの神技は他よりも熟練が数段高いので、そこはすごく評価された。聖十紋時は残念ながら自分専用。
聖域でも十分な回復量があるので、雑魚相手であれば余裕。状態異常や精神汚染・圧迫の見極めに関しては課題。
回復役の経験がないので、サラよりずっと下手だと感じている。
アドネと同じく、必要時は前にでる中衛的な位置。でも開拓地周辺の敵であれば、マリカとアイーダの攻撃力が高すぎて、加わる前に終わってしまう。
これならもっと奥でも行ける。三人はそう判断したが、〖君の剣〗は今のところ活かせていない。
ルチオが空間の腕輪に苦戦しているように、アドネはコート(将革)を借りてますが、まだ装備に神力を沈ませるのが上手くできません。




