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いつか終わる世界に  作者: 作者です
練習 初級ダンジョン編
14/133

13話 練習ダンジョン ボス戦

 試練と同じ一本道だとしても、環境が変化すれば進行速度も違ってくる。


 先頭を進むアドネは背後の皆に振り向き。


「やっと着いた」


 両側の岩肌も狭まり、ずいぶん前から神像らしき物がうっすら光っていたので、三人も直に到着するだろうと予想はしていた。


「あぁ あれかぁ、たしかに見えるねぇ」


 進行方向には時空紋が設置されており、その先から階段が始まる。


 安全地帯でもある時空神像は、くり抜かれた岩肌の中にある。


「はやく休みましょ。疲れちゃった」


 額に汗。神力混血の恩恵があるとはいえ、エルダの装備はこの中だと一番重い。


「ボス戦どうするか決めねえとな」


 これまで敵との接触はなるべく避けてきたが、上手いことやり過ごせない場面もあった。皆それなりに消耗はしているだろう。


・・・

・・・


 四人は神像に祈りを捧げると、装備の一部を外して休憩をとる。ついでに神力の回復も済ませておく。

 トイレなどは地面に穴を掘り、同性が付き添う。


 正確な時刻は不明だが、予定通りここで昼食をとる。もとから野宿の予定もなかったので、保存食ではない。長細いパンを真ん中で切り、中に葉野菜と腸詰め肉を挟んだもの。


「たぶん俺はあと二回ぶんってとこだな」


 神力混血の残量はなんとなく感覚でわかる。無駄に技を使いすぎたのもあるが、明かりにもしていた。

 何より、ルチオは燃費が悪い。


「二柱の加護ってのも、やっぱ難点もあるね。私はまだけっこう余裕あるかな」


 体力的には。

 口に出さないあたり、もともと忍耐強い娘なのだろう。


「友情神の方はまだ数回できんな」


 今回は七/三の割合で混血させていた。


 ルチオは食事にかぶりつく。野菜もパンもすでにしなしなで、冷めたウインナーというのもいただけない。


「なんか、充実感がすげえ」


 暗闇の中を気張りながら、自分たちだけでここまで来た。


「あまり食欲無かったんだけど、なんかもっと食べたい」


 彼女の場合は気疲れが大きい。アドネはもとより小食なこともあり、自分のぶんを千切って渡す。


「ありがと、でもちゃんと食べないと大きくなれないよ」


 そう言いながらも受け取って頬張る。


「男にとってはけっこう重大な悩みなんだぞ」


「良いよ別に、気にしてないし」


 小柄だからこそエルダのコートを着れたのだから、利点もあったはず。


「ごめんごめん」


 反省している様子は見られない。



 サラは時空紋の先に意識を向け。


「これから、どうしよっかぁ?」


「僕は挑戦してもいいと思う。だけどボス戦はエルダの負担が大きいよね」


 暗闇の中での活動は体力よりも、精神への負担が大きい。


「できれば練習も今回で終わらせたいから、私としては休めば大丈夫だよ」


 初級の敵はここより強いが、何よりも視界が開けている。


「ここも半日あれば終わっちまうから、あんま活動できねえんだよな」


 アドネは覚悟を決めるように咳ばらいをして。


「余力は残ってるし、今回で終わらせよう」


「よしよし、お姉さんも頑張っちゃうかなぁ」


 今後の予定が決まった。




 全員が食事を終え、思い思いに休憩をする。


「たしかサラさん、帝国への派遣軍だったんだよな?」


「そだよぉ」


 都市同盟の勇者

 教国の光騎士団


 ルチオはこれら二つよりも目を輝かせ。


「装機兵とか、実際どうだったんだ?」


 もとは鎧の眷属神だったと聞く。だが変わり者らしく、鎧とはまったく違う神技を構想した。


「機神さまの加護かぁ」


 強く反応したのは物造りの筆頭である創造主。なんか鎧の主神が苦労人または、苦労神に思えてくる。


「私が本腰入れて参加したのって、もう終盤だったしねぇ。戦ってるのは見てないんだ」


 眷属神。各主神や感情神ほどの力はないので、加護持ちの数も多くはない。だが創造主との合作神技なだけあり、勇者や光騎士団と対をなす、帝国の強みだった。


「動いてるのは見たことあるよ、たぶん三mはなかったかなぁ」


 装備する機械。


・・・

・・・


 休憩を終え、各自準備を整える。


「行くぞ」


 四人は時空紋に乗っているが、転送されることはない。


「五十段か」


「ここから出現するんだよねぇ。なんか罠とか仕掛けられないかなぁ」


 そういった物は持ってきていない。


 エルダは深呼吸をして。


「数かぞえないと」


 階段を一歩あがれば、鎖帷子と腰当が音をならす。


「うぅ」


 今からの苦労が想像できるようだ。


 

 練習ダンジョンではこの階段こそが、ボス戦の舞台だった。


 もう存在を隠す必要もないので、サラが〖天の光〗を使い足もとを照らす。

 皆が段数を声に出しながら上がっていく。


 やがて五十の手前。


「アドネ、準備は良いか?」


「うん」


 弓を構える。


「一応サラさんも光十字の準備をしといて」


「はいよぉ」


 エルダは呼吸を整え。


「近づいてきたら、引き寄せちゃって良いんだよね」


「ちょっと休んだ方が良いか?」


 大丈夫との返事をもらったので。


「じゃあ始めるぞ」


 ルチオは五十段目を踏む。その瞬間だった、下方の時空紋が輝き、そこから五体のゴブリンが出現。


「最初は腰布だけだね」


 アドネは弓を構える。高所からなので十分届くし、一応神眼の効果で視界も開けている。


 矢をつがえ、弦を引き絞り、放つ。


 モンテの仲間から得た情報では、敵の頭から三つほど上の位置を狙え。力の入れ具合はこんなもんだと、おおよそで教わっていた。


 一発目は外れる。


 まだ召喚されたばかりのためか、ゴブリンたちは動き出さず。もう一度挑戦。


「やった!」


 緑肌の肩に矢が刺さり片膝をつける。他のゴブリンはその様子を見てから、ルチオたちを睨みつけ、武器を掲げて階段を上りだす。


「まだ死んでねえな、アドネはそのまま同じのを頼む」


 ルチオとエルダが数段さがり、獲物を構えた。



 ゴブリンたちは出現した時点で石を数個持っていたようで、それを四人に目掛けて投げる。


「とりあえず〖光十字〗しとくよぉ」


 高低差もあって石は届かない。


 光十字はこちらの攻撃はそのまま通す。気持ち狙い難くはなるが、透けており十分前方が見えるので、アドネは矢を何発か放ち。


「一体終了、このまま別のを狙う」


「頼む」


 時空紋は光っているので、この暗闇でも十分に狙える。もう一つ弓と矢を用意しておけば良かったと、今さらになって思う。


「エルダ、射程に入ったら使ってくれ」


 アドネは駆けあがってくるゴブリンをもう一体仕留めた。それは致命傷とは言えないが、階段より転がり落ちて灰となる。


「〖鎧の鎖!〗」


 ダンジョン活動の終盤となれば、彼女も引き寄せには少し慣れる。数日おくとまた戻るが。


 足場が悪いこともあり、三体に〖鎖〗は命中した。


「アドネ行くぞ!」


 〖巻き取り〗により、ゴブリンたちが強引に階段を引きずられる。


 敵が近づくと、エルダは鎧の鎖を解除させた。


「どりゃっ!」


「えい」


 アドネとルチオが靴底で二体を蹴飛ばせば、それらは灰になりながら落ちていく。


 残った一体も動揺しているので、エルダの棍棒により強打された。



 高い位置にいたサラが、時空紋を睨みつけ。


「新手きた」


 五体のゴブリン。


「アドネ、盾持ち以外を狙ってくれ」


 そのうち二体。半身を隠せるサイズの丸盾(民木)を構えている。まだ出現したばかりで動いていない。


「隊列組んでくるらしいから、その前になんとか一体でも殺さなきゃ」


 焦るほどに標準がぶれる。しかし先ほど命中させたことで、何となく感覚はつかんだ様子。


「すごいじゃんアドネっ!」


 ヘッドショット成功。


「ちょっと、まだ狙いたいから」


 背中を叩かれたせいで集中力が途切れてしまった。


「うっ ごめん」


「気にすんな。よくやったぞアドネ」


 四体は盾持ちを先頭に階段をゆっくり上がってくる。


 何度か矢を放ってみたが。


「やっぱ邪魔そうだねぇ」


「うん、防がれちゃうや」


 木製の盾にはアドネの矢が数本ささっていた。


「ちょっと難しいかもだけど、足もと狙ってみたらどう?」


「そうだな。連中顔も盾に隠しながらだし、こっちの様子も見えてねえだろ」


「わかった、やってみる」


 狙いを絞り矢を放つが、やはりアドネの腕では難しい。


 

 数分が経過。四体は大分近くまで来ていた。


「エルダ」


「わかった。〖鎧の鎖!〗」


 放たれた鎖は盾に突き刺さり、〖巻き取り〗によって奪われる。


 アドネはその瞬間を狙い矢を放てば、ゴブリンの胸部に突き刺さったが、急所は外れた。後ろにいた別の個体が倒れてきた仲間を払いのけると、錆びた剣を掲げて階段を駆け上がってきた。


「今だっ!」


 ルチオは火槌で階段や岩肌を殴り、その破片を回収していた。


 神力混血で身体能力は底上げされている。サラとルチオの二人で岩の破片を、近づいてきたゴブリンに投げつける。

 サラが投げたのが上手いこと命中した。


「光十字に隠れろ!」


 残る三体は石を持っていたので、それを投げてくる。


「アドネとサラさんは私の後ろ」


「ごめん」


 彼としては情けない。


「これが役割でしょ!」


 エルダが防御の姿勢をとりながら、石を受ける。


 ルチオは石から身を守り、秒数を数えていた。


「いけるか」


「もう、すこし……まかせてっ!」


 青年二人がゴブリンに向けて階段を駆け下りる。


 サラが〖天の輝光〗を発動し、攻撃力が強化。


 盾持ちは丸腰となっており、残る一体は棍棒(民木)。


「〖鎧の鎖!〗」


 三体に鎖が突き刺さるが、〖巻き取り〗を発動させたのは負傷した丸腰だけ。


 ルチオは火槌を上から振りかぶる。防がれたが筋力に任せ、棍棒ごと叩き潰す。


 アドネの短剣は腕に防がれていた。しかし予想はしていたのだろう。すぐさま短剣を引き、顔をしかめるゴブリンの腹部を蹴り落とした。


 エルダが叫ぶ。


「来たよ!」


 時空紋から五体のゴブリンが出現。


「あれがボスか。らしいじゃねえか」


 所々に傷や錆びが見られるが、全身に軽鎧をまとっている。短剣を左右に持つ。


「ボロい装甲なら、多分いける。動き出す前に」


 アドネは弓に矢をかけ、弦を絞った。


 放たれた矢は、吸い込まれるようにボスゴブリンへと迫る。


「……斬りやがった」


 真っ二つになった矢が輝きを失った時空紋に落ちた。


 その後。何度が矢で狙うが、別の個体を狙ったものを含め、全て無駄に終わる。


「一度上ろう」


 雑魚たちは挑発するよう、小馬鹿にした様子でボスの後ろを付いていく。


「ムカつくけど、ちゃんとした足場で戦った方が良いな」


 鎧をまとったゴブリンは、特にそういった動作もせず、ゆっくりと階段を上る。


・・・

・・・


 階段を上りきっても、試練の間へと通じる扉はない。裂け目はあるが、ブロックも存在していない。


「ここは視界がひらけてんだな」


 だが試練ダンジョンとは違い神聖な雰囲気はなく、裂け目の底から響く音だけが耳に届く。


「サラさん、頼むぞ」


「任せて。そのための杖持ちだもんねぇ」


 アドネはエルダの背中をさすり。


「お疲れさま」


「混血だけに頼ってちゃダメだ、まず根本から鍛えなきゃ」


 肩で息をしている。


「僕も軽装だからって、サボっちゃいけないね」


 一緒に体力づくりをしよう。



 皆は祈りを捧げ力を補充する。


 エルダは頭を搔きむしり。


「ごめん、焦っちゃって」


「任せて〖天の輝光〗」


 精神安定の使い道は本当に多い。



・・・

・・・


 ルチオは息一つ切らさずに。


「来たぞ」


 階段からボスの兜が、全身が姿を現す。


「俺らの知ってるゴブリンだとは、思わねえ方が良いな」


 三人は強くうなずいた。



 彼らの良く知る四体のゴブリンも、勝ち誇った様子で広場に到着した。


「〖友よ、今こそ共に活路を開けっ!〗」


 声の聞こえた味方全員。身体能力強化。戦意高揚。痛み緩和。


 そのうちアドネの背中にだけ、友情の紋章が浮かび上がっていた。意識した対象一名、互いの身体能力を同調させる。


「〖探さないでください〗」


 ルチオは階段を上り終えてすぐの五体に迫る。


「サラさん!」


「〖光壁〗」


 足場としての活用。ルチオは飛び跳ねると、発生した光の壁に足をかけ、もう一段高く。


 四体はたじろぐが、ボスは左の短剣を投げようとした。アドネが出現して攻撃を仕掛けるが、即座に気づき後ろに飛びのく。


「〖チえん撃だぁ!〗」


 地炎撃(槌) 地面に叩きつけると、一定範囲を延焼させる。歩行阻害弱。


「〖鎧の鎖っ!〗」


 本当は全てに使いたいが、今の彼女では四体が限界。


 歩行障害の影響もあり、回避されることもなく雑魚どもに鎖が命中。


「〖巻き取り〗」


 無理やり引き寄せられる。ボスのもとに戻らなければと焦るが、鎖が邪魔をして動けず。何体かがエルダを睨みつけ武器を構えた。


「〖光のローブ〗 ちょっとかかる、耐えて」


 輝きの量に応じて、全ての神技が強化される。断魔装具と通じるものがあった。


 サラは攻撃に関する神技の熟練が低い。


「大丈夫」


 襲い掛かってきた木の棒を、自分の棍棒で受け止める。だが別の個体が錆びた剣で刺してくる。


「こんなん」


 〖私の鎧〗があるため、大したダメージにはならず。


 エルダの表情が歪み、ゴブリンの表情が醜く歪む。


「どく……か」


 口から何かが込み上げる。嘔吐か、それとも吐血か。


 気持ちが悪く、冷汗が悪寒をさそう。力が入らない。


「〖天の輝光〗」


 スッと不快感が抜ける。エルダは短剣を持ったゴブリンの顔面を鷲づかみ、上昇した筋力に物を言わせる。


 地面にゴブリンが剣を落したと同時だった。サラのローブが輝き、掲げた杖の先が丸く光る。


「〖日の光〗」


 肉の焼け焦げる臭い。


 四体の雑魚が苦痛に呻く。


「〖陽の光〗」


 杖先の球体に火の紋章が浮かび、次の瞬間にはゴブリンたちの全身が燃えだした。


「あつっ」


 思わず忌まわしい敵の顔面を離してしまったが、すでに崩れて灰になっていた。


「ごめんねぇ」


「大丈夫。そのままあっちに」


 アドネとルチオがボスと戦っていた。



 劣勢。


 炎槌を後ろにさがり避け、その瞬間を狙ったアドネの攻撃を短剣で受け止めれば、残った片腕で彼の腹部を突き刺す。


 血を吐きながら。


「〖探さないで、ください〗」


 姿を消すとルチオのもとに撤退。


 ボスを睨みながら、現れたアドネの肩へ手をそえるが。


「だめだ」


 広場で祈りを捧げていたが、八/二で補充していたのが仇となる。解毒薬をアドネに渡すと、その瞬間をボスが狙って接近。



 サラが駆け寄り、〖陽の光〗をボスにかざす。片腕で顔面を隠すが、ボスの全身から煙があがった。


「〖治癒の輝き〗」


 発生した光が広がると、三人の仲間を癒す。


 まだ輝光はクールタイム中だが、回復手段は複数ある。そもそも天の光は重複できないので、騎士団などの回復役以外は、この神技がメインとなる。



 彼女を守る位置にエルダがつく。


 アドネは解毒薬を口に含み、戦闘に復帰する。


 ルチオは祈りを終えた。



 ボスが燃え始めると同時に、陽の光は消える。だが延焼は続く。


「ギェアッ グァハハハっ!」


 大声で笑いながら、ボスは自分の首を左短剣で切り裂く。


「させるかっ!」


 ルチオが接近、戦槌の打撃を右短剣でいなされる。


「〖お宝ちょうだい〗」


 アドネがお返しとばかりに、ゴブリンの腹を突き刺した。


・・・

・・・


 勝利。


 口数少なくも、彼らは戦利品を回収しながら階段を下りる。


 ボス 兵鋼の短剣 兵の鉄鉱石 民の鉄塊



 自信はついた。


 





 

 


 


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