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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか終わる世界に
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16話 いつか終わる世界に⑥



 喜ばしい状態ではないが、あらかじめ聞いていた中に、〖隔離世〗という神技があったので混乱は少なかった。


 闇に引きずり込まれた先。


「やらかしたな」


 暗くてなにも見えないが、ここが瘴気で満たされていることは何となく理解できる。


 試しに〖天の光〗を発動する。どうやら問題なく使えるようだ。


 気配を感じ、身体を起こして身構える。


「……誰だ?」


 〖天光〗の範囲外からこちらを見つめるのは、土狼よりも一回り小さい犬だった。


 幸い四肢の拘束もなく、動ける状態ではあるが、敵がいるとは聞いてない。



 これは対象一名を隔離するための魔技であり、転移先に敵対者を設置してしまえば、【隔離世】という名称の固定が弱まる。


「お前、魔属性じゃねえな」


 黒い毛並みだったので勘違いしたが、その身体から瘴気が噴きだしているようには見えず。



 相手が言わんとしている内容が、脳裏に伝わってくる。


「天獣とか……神獣の類か」


 隔離空間だが、召喚専用の空間でもある。


 この犬は【時空の魔神】と契約していた最後の生き残り。



 召喚専用の空間でもあるのなら、完全な隔離空間よりも守りは薄いから、もしかしたら天上界の時空神が抉じ〖開けて〗くれるかも知れない。


 そんな期待を抱くも、犬から否定の感情が流れてくる。


「お前は時空属性なのか」


 天上界が〖開け〗ようとして来ても、この犬が〖閉じる〗とのことだった。


 それに不完全な【隔離世】だとしても、ユダの魔技は簡単には突破できないとのこと。


 ボスコは顔をしかめ。


「あいつの味方ってわけかよ」


 ただこの犬に敵意はないようだった。


 時空属性の天獣。または神獣だとすれば、自力で天上界に帰還する術もあるだろうに。


・・

・・


 一方その頃。


 外壁拠点ではルカが〖転移〗を試みていた。



 レベリオが声をかける。


「どうでしょうか?」


 全てが終われば忘れることになるが、〖輝く太陽〗を待つまでの間に、アリーダとルカの正体は明かされていた。



 各神は名称で縛られているため、他属性の神技は本職ほどに扱えない。


「やっぱ出来ないみたいね」


 光属性のルカでは遮断結界の内部だけでなく、ラファス周辺も含めて転移が不可能となっているようだ。


 位置としては外壁拠点の屋上。作戦本部と〖犬〗でのやり取りをしていたシスターが、この場にいる全員を見渡し。


「魔神が出たってさ。んで、これからについてだ」


 もともと彼らに与えられていた役目は、訓練場にいるモンテたちの救出。


「剣神と筋肉お化けを届けなくちゃいかん。私らが行くことはもう決定事項だ」


 第三班と第二班が外壁にて支援をしながら、シスター組が主神級の二人を訓練場へと運ぶ。



 レベリオはしばし考えたのち、同組の仲間に視線を向け。


「どちらにせよ、アリーダは行かなきゃ駄目なんだよね?」


「そうね。破壊はできなくても、私なら結界に入れると思う」


 時空剣とされる〖一点突破〗であれば。


「ルカさんだと難しいんですか」


「本体なら無理やり突破もできるけど、今の私じゃ無理だと思うわ」


 光属性であれば聖の神力も混ざっているため、もし死んでも瘴気に負けず消滅できるかも知れない。だが問題は始源の意志による地上への降臨制限。


「申し訳ないがすぐにでも始めたい所でね、考える時間は用意できん」


 ジョスエはアガタと頷き合い。


「行こう。あそこにはラウロさんもいるんだ」


「私も異論はないよ~」


 いつも通りの口調だったが、その表情にいつもの明るさはない。


「完全に敵対するとは決まってないんだ。あまり我儘は言えないけど、最終手段にして欲しい」


 神降しをすれば、人間としての肉体は保てない。


「私もまだやり残したことは沢山あるもの。でも判断を見誤って、最悪の事態になるのだけは避けなきゃいけないわ」


「……わかった」


 レベリオ組の参戦は決まった。



 残るは愛の使者。


 彼らはもともと金を払い、戦争への参戦を免除されていた。


「愛ゆえに……か」


 返答になってない。


 リーダーに変わって、オネスタが意思を示す。


「外壁での支援だけで良いんだね」


「やることはそんな変わらんよ」


 カイザー組と第三班、第二班が外壁にて支援。シスター組とレベリオ組が訓練場に向かう。


「ならアタシらも問題ない。ただ時止の雪ってのに関して、もうちっと対策を練ってもらいたいか」


 今は止んでいるが、もしその雪が降った場合は色々と問題が起こる。




 〖光の戦士〗や〖狼〗の場合だと、【雪】に一分以上さらされると動きが止まる。〖天の光〗などで一瞬でも照らされろば、この時間はいったんリセットするとのこと。


 そのためラウロが上空で矢を引きつけている間は、フィエロが動き回って〖戦士〗に〖光〗を当てていた。


 〖雨〗や〖火〗の熱が届く範囲に居れば、雪に時間を止められる心配はなくなる。



 第二班は三名。もし雪が降った場合は、彼女らが手分けして〖天の光〗を第三班の〖戦士〗に当てることに決まった。



 フィロニカはイージリオを見て。


「ちょっと、あんた大丈夫なの」


「あれは違う、うん違う。欲しい、たぶん欲しい。されど欲しい、きっと欲しい」


 泡を吹いて倒れたイージリオは、目覚めてからずっとこの調子だった。


 神装備を揃えることに人生をかけているだけあり、確かな目利きの能力があるのかも知れない。



 ルカは困った子ねとため息をつき。


「可能性を狭めてる気がして、私はあまり好まないんだけど」


 拳術神を始めとして、断魔装具や天上具を好まない少数派もいる。


「もし頑張ったら、貴方にこれあげちゃうわ」


 イージリオに見せたのは王木の杖だった。


「ちょっと先生。勝手にそんな約束して、また怒られるわよ」


「良いじゃない、私たちの都合で危険な任務をお願いするんだもの」


 やる気を出したイージリオ。


「行きましょう。うん、ラファスが明日を迎えるために」


 それはもう見違えるほど。


 〖黒光りの杖〗 天の輝光に晒されると、肌が程よく黒く染まって筋肉を強調させる。気持ち筋肉関係を強化するかも知れない。



 シスターは居眠りしていたロモロの肩を叩く。


「飯の時間かの?」


「そろそろ行くよ」


 意識は過去か、それとも現在か。

 

・・

・・


 拠点から外壁へと降りると、第三班の班長であるフィロニカが。


「できれば神力を温存したい」


 岩柱がない状態で、彼女らはこれまで〖戦士〗を使っていたので、すでに多くの神力を消費している。



 カイザーは盾を構え。


「問題ない。我々が前に出よう」


 周囲一帯は魔物に埋め尽くされているが、未だに〖輝く太陽〗の熱に焼かれており、その身体からは煙が発生していた。


 耐えきれず灰になる個体も確認できる。


 〖突進〗で壁上の十数体を吹き飛ばし、〖竜巻〗が魔物を地面へと振るい落す。


 〖舞う槍〗が弱った敵を灰に帰していく。



 空から大量の〖光槍〗が降り注ぎ、描かれた〖法陣〗が〖天の輝き〗を強化すれば、盾使いが〖戦棍〗で薙ぎ払う。


「我が愛をみよっ!」


 〖憎悪〗で引き寄せた敵を〖火杖〗が火炎放射で焼き払う。



 存在を保つだけで精一杯の個体も多く、愛の使者と第二班の三人だけでも問題なさそうだ。


 多少の時間はかかったが、一行は開始地点へと到着した。


・・

・・


 第三班と第二班は壁上に残る。


 そしてエンドレとラスカルを除き、他の面々は二本の〖腕〗で地面へと降りた。


「一度切りだ、大切に守っとくれよ」


 シスターが〖岩柱〗を発動させ、それの守りを愛の使者に託せば、この場で十数体の〖狼〗と〖犬〗を一斉に召喚する。


「とりあえずこいつらは此処に残す」


 神素材の杖とローブを使いながら、次々にこちらの手勢を増やしていく。



 〖輝く太陽〗により弱っていても、訓練場への道は魔物に埋め尽くされていた。


「一番槍は我らに任せよ」


 カイザーは自慢げに空を見上げ。


「舞い上がれ、天翔螺旋鳳っ!」


 エンドレが〖螺旋風突〗でラスカルを天高く昇らせれば、〖赤光玉〗と合わさって〖炎翼〗を発動させた。



 都市同盟からラファスに来たのは、レベリオ達が二十代前半のころであり、当時だと彼らは探検者になってから五年ほどだった。



 それは〖風読〗の発生神技。


 炎をまとうラスカルの周囲には、緑色に光る〖矢〗が浮かぶ。


「〖赤き薔薇の疾走〗」


 空を駆ける〖火の鳥〗はまだ高度があるのに、彼女が駆け抜けると同時に地上も燃えた。


 それはまるで赤い花畑。


 これは天上具による効果とは違う。



 雷には罪と罰。


 ユダは裏切りの代名詞。



 これらに宿る言霊はまだ強く残っている。


 時代の流れや、新たなる世界への旅立ちにより、言葉の力が薄れてしまった場合もあった。


 だからマリカは声に出して〖詠〗む。


 冬の終わりを示した風を。


 革命のもとに散った命を。


 自由を求めた者の枷を。



 変化の言霊を。



 名称を〖赤き薔薇の疾走〗と変化させた〖火の鳥〗は、一定の距離を焼き払いながら空を駆けると、そのまま旋回してこちらへと戻る。


「んじゃ、神と魔神の戦いに殴り込むよ」


 〖犬〗と〖狼〗をこの場に残し、シスター組とレベリオ組が走り出す。




 歴史上でその神技を習得した人間は少ない。


 〖大地の腕〗から発生した〖巨像〗が先頭を走る。


 足と動体は土と岩だけでも、両腕が〖草花〗に覆われていた。



 〖聖者の行進〗に乗り遅れた魔物が、一度は焼き払われた道を森中より塞いでくる。


「満身創痍なのに、頑張るじゃないか」


 訓練場に近づくほど、魔物たちは重症となっていく。


「いったん止まるよ、前方に〖壁〗を出現させておくれ」


 巨像が使う〖引力の渦〗は、盾のそれとは規模も吸引力も比べ物にならない。


 周囲の魔物は空中へと吸い込まれ、〖弾ける渦〗と共にもの凄い勢いで吹き飛ばされる。


 こちらにも数体が飛んできたが、イージリオの〖壁〗で防ぐ。


 軽鎧をまとった老人が、その光景を懐かしむ。


「相変わらず、壮観ですな」


「よし。移動を再開するよ」


 〖狼〗や〖犬〗を連れて来ても、これの巻き添えを喰らってしまう恐れがあった。


 シスターは巨体を睨みつけ。


「変な気を起すんじゃないよ、温存してもらわにゃ意味がないんだ」


「わっ わかってるわよ!」


 肉体の疼きを必死で隠すルカ。


・・

・・


 〖引力渦〗のクールタイムは盾のそれと変わらない。


 なんども繰り返しながら、順調に彼らは訓練場へと進んでいく。


 

 道のりも半場ほどとなった時。


 訓練場ほどではなかったとしても、この場には出入りを防ぐための結界が張られていた。


 隊長センサーの反応に従い、ルカが叫ぶ。


「右の森中を警戒してちょうだいっ!」


 咄嗟にレベリオが盾を構える。その背後へと数名が移動すれば、木々の茂みより小さい鬼が短剣の切先をこちらに向けたまま、宙を飛ぶように接近してきた。


 それは見覚えのある技だった。


「一点突破」


 レベリオの勘は当たっていたが、正確には違う。


 剣が主か、時空が主か。



 盾に向けて迫ってきたゴブリンは空間の歪みに消えると、レベリオの背後にいたマリカへと、別の方角から出現する。


 【一点突破】の勢いは消えていない。


「やっぱあんた、ユダさんの手駒だったわけね」


 寸前でアリーダの〖剣〗が間に合えば、〖刃〗が重なった衝撃で発生した突風が笠を飛ばす。



 小さな身体はまだ地面に着地しておらず。


「……ユダ様」


 ルカの〖拳〗が側面から迫るも、【小鬼】は空気の流れに身を任せ、ふわりと浮かび上って回避する。


 続けて身体を回転させながら、もう一方の【短剣】でルカの【前腕】を斬り裂いた。


 〖輝く筋肉〗からなる鋼鉄の肌に、うっすらと浅い傷が滲むも、続けてその怪我からはあり得ない量の血が噴きだす。



 〖刃〗を返したアリーダが【小鬼】の首を狙ったが、【障壁】により阻まれる。


「断つ」


 剣神の斬撃で【空間】の妨害は両断されるも、その一瞬の隙で【短剣】を叩き返してきた。


「私は掴んじゃうわよ」


 ルカの大きな手が【小鬼】を捕らえようと伸びる。



 無断・幻は二重の打撃を発生させる。


 もしかしたら【小鬼】が選択していたかも知れない別の一手。


 【放浪】の身体がぶれると、【幻影】となって【打撃】をルカの〖腕〗へと叩きつけてきた。


「どう見てもこれ、ユダさんの神技じゃない!!」


 事前に準備を済ませていたレベリオが、〖盾〗を小鬼へと向けていた。


「マリカっ! 〖風詠の矢〗をロモロさんに!」


 〖叫び〗が〖咆哮〗となって【放浪】を吹き飛ばせば、その先にいたシスターが〖重の剣〗を構えていた。


 【小鬼】は飛ばされながらも姿勢を安定させ、〖剣〗を【障壁】で防ぎながら、その【足場】に着地しする。


「舐められたもんだねえ」


 〖怨嗟の剣〗が両者を挟む【壁】を破壊するも、小鬼はすでに【一点突破】で身体を発射させた後だった。


 再び【空間の歪み】に消えれば、今度は隙の出来ていたレベリオの死角に出現。


 両者が接触する前に、近接特化の〖槍翼〗が小鬼に向けて放たれるが、小鬼は【突き】とは別の【短剣】で四つの〖槍〗を弾き返す。


 レベリオに迫る【切先】は〖光十字〗と〖光壁〗に遮られるが、【一点突破】を防ぐには至らず。



 軽鎧から鎧へと、装備を交換した爺が叫ぶ。


「儂は燃えとるぞっ!!」


 主神の加護者は〖杖・剣・鎧・ローブ〗であり、彼は自力で協力神技の発動が可能。



 〖風詠〗により名称を変化させる。


 そして元々この神技は名前が変わる。



 人なら炎人。


 天使なら炎天。


「〖炎神〗じゃっ!」


 燃える肉体をレベリオとの間に割り込ませ、【小鬼】の短剣を弾き返す。


 この敵が魔力を貯めるための【空間】を有しているのなら、もしかすると【上位悪魔】並の力があるのかも知れない。



 〖雨〗が降り、頭上の〖雲〗から【小鬼】に向けて〖雷〗が落ちる。


 一歩後ろにさがって避けた瞬間だった。


 ジョスエが【小鬼】の足もとに〖水を噴射〗させると、そこを目掛けて複数の〖雷〗が一斉に落ちてくる。


 なんとか【障壁】で防ぎ切るも、アガタが〖剣〗に雷をまとわせながら斬りかかった。


 だが【小鬼】はその斬撃を少ない動作で回避する。


 アガタの側面に回り込んだ【放浪】は、そのまま彼女の腕を切り落とそうとするも、レベリオが〖盾〗だけを割り込ませる。


 【残刃・血刃】が彼の腕だけでなく、彼女の脇腹をも【出血】させた。


 確かにこの個体は強いが、この面子では流石に力不足だ。



 木々の間を影が蠢く。


 【小鬼】へと踏み込んだロモロに向け、木上から地上へと突撃してきた。


 足場とされた木は、その反動で幹から折れる。



 〖光十字〗を発動させたルカが、寸前でロモロを庇っていた。


「クロちゃん……生きてたのね」


 鋼鉄の〖前腕〗は〖影に覆われた爪〗で抉られるも、先ほど【小鬼】から受けた【血刃】で回復はできず。


 【ゴブリン】は咄嗟に向きを返し、ルカの背後を狙う。


「させん」


 叩きつけた【刃】はロモロの〖肩当〗を抉り、胸へと減り込む。



 アリーダが〖一点突破〗で接近したが、【幻影】の【無断】に〖剣〗を叩き落された。


 犬が〖爪〗でルカに追撃を仕掛けるが、〖槍翼〗がそれを妨害しようと宙を駆ける。


 〖空間の歪み〗が発生し、飛んできた〖槍〗を中身のない〖影の爪〗が全て絡め落す。


 杖を掲げたイージリオが〖陽の光〗で照らしたが、大したダメージは与えられず。



 ロモロの〖剣〗が轟音を立てながら燃え上がり、〖鎧〗の炎が鎮火した。


「ありゃ、儂の息子じゃったか」


 まだ眼光は保たれていた。



 覚悟を決めた者がもう一人。


「アリーダちゃんは温存しておいて」


 ルカの肉体が光り輝く。


 本体から人間の身体へと神力が注がれる。


「貴方たちも降りて来たのね。権六、久兵衛」


 左右の胸がピクピクと反応した。


「行けるわね、花江さん」


 〖爪〗により抉られた片腕が、【血刃】の【妨害】を無視して〖回復〗していく。


 法衣が弾け飛び、〖筋肉〗が存在を主張すれば、〖天の輝き〗が皆を照らした。

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