14話 いつか終わる世界に④
別枠の〖戦士〗を操作するのは、〖救済〗の使い手であるモンテだが、装備が反映されるのはこれまで通り三人。
それぞれの召喚という組み分けができているためか、〖指揮官〗がいなくても何となく別々に動かせるといった特徴があるも、その数は三十後半と少ない。
〖聖域〗に闇が蠢き、そこからラウロが姿を現す。位置としては集団の先頭。
「どっちからだ!」
用意できた森中の〖聖域〗は三カ所となっており、本当はもう一つ展開させておきたかった。
〖暮夜の剣〗で〖無月〗の転移は強化されるけれど、〖聖域〗の中だと闇に紛れることができず、どうしても性能が一段階落ちてしまう。
「やつら俺らが通り過ぎんのを待ってたみたいだ、背後から来やがった」
戦鬼というのは単純に強いだけでなく、こういった行動をとってくるから、余計に警戒されているのだろう。
「対応はボスコとフィエロに任せるから、お前はその位置で引き付けに専念してくれ!」
ラウロは行く先の道を見あげながら。
「了解」
〖一点分離〗で数体の巨鬼は灰に戻せていたが、生き残りもいたようで重症を負いながらも近づいていた。
〖聖者の威圧〗を発動させ。
「こっちも準備が終わるとこだ」
将鋼の直剣が〖夜明〗の輝きを放ち、空間を通り抜けると一体の巨鬼を死角から斬り裂く。
〖威圧〗を求めた小鬼と骨鬼が〖聖拳士〗を無視して、なんとかラウロに接近しようとするが、未だに〖夜明〗の光は残っている。
返す〖刃〗が離れた位置の敵を斬っていく。
意識がラウロへと向けば、それだけ〖聖拳士〗の攻撃が通りやすくなる。
背後より声が聞こえた。
「来るぞっ!」
すでに戦鬼の集団は目前にまで迫っていた。
森中ではなく、道という確りとした足場があるだけで、その突進は化ける。
モンテが〖眩い盾〗は通用しないと判断したので、ボスコは〖光壁(足場)〗からの〖土紋・地光撃〗で対応する。
だが先頭を走っていたメイス持ちの神官が、瘴気から造りだした【投げ槍】を握りしめると、歩幅を合わせて空中のボスコへと放つ。
「フィエロ!」
鬼の雄叫びがその声を打ち消すが、もとよりこういった妨害は予想していたようで、ボスコを守るように〖光強壁〗と〖光十字〗が展開される。
【投げ槍】は威力を弱めながらもボスコの〖肩当〗をかすめ、若干だが地面に叩きつける動作にズレが生じた。
不発とまではいわないが、発動した〖地光撃〗には期待していたほどの押えつけ効果はない。
モンテが叫ぶ。
「盾を叩きつけろ!」
〖救済〗の光耐性低下だけでなく、〖光戦士〗には魔系統特化も付属されていた。
だが戦鬼の突撃は凄まじく、完全に押し切られてしまう。
「今だっ!」
片方の森中に隠れていたフィエロの〖輝戦士〗が、オークたちの横腹から攻撃を仕掛ける。本当は左右の茂みから挟撃を狙いたいが、別枠での召喚という事もあり十数体と心持たない。
左右前方の敵はラウロが引き付けてくれているからこそ、こういった戦法も取れるのだろう。
フィエロは勢いよく〖足場〗から飛び込むと、【神官】に上空から〖片手斧〗を叩き込む。
だが相手は強化個体。瘴気をまとった【メイス】を叩き返され、フィエロは背中から〖戦士〗の盾に受け止められた。
〖光の意思〗 斧の場合は回転数の調節。
天上具により、今は〖軽装〗が〖操斧〗の代わりに〖投斧〗を動かしていた。
神官の【足具】に〖斧〗が当たれば、少し遅れてもう一方が接触して音を鳴らす。
光が〖弾ける〗と、その巨体は大きく姿勢を崩す。
装備を〖法衣〗に切り替えたボスコが、〖光壁〗の足場を駆け抜ければ、〖輝拳〗が【神官】の顔面を狙う。
「ダメだっ 浅い!」
利き腕の肩を負傷したせいで、殴りつけたのは左の〖拳〗だった。戦鬼は直撃の瞬間に顎を引き、【兜】での受け止めを成功させる。
装甲を歪ませるだけの一撃は与えられたが、相手は頭突きで耐え凌ぐ。
ボスコは右腕を相手の後頭部へと回し、続けて膝を鼻っ柱へと叩き込むも、どうやらこの個体は戦神の書を持っていないようだ。
空いていた腕が小さなボスコの身体を掴む。
彼が装備を切り替えてしまった所為で、〖光戦士〗も丸腰となっていた。このままでは他の個体に押し切られる。
「ボスコの頭上に小出し召喚っ!」
〖古の聖者〗は数秒で消えてしまうぶん、クールタイムも相応に短くなっていた。
出現時に空中だった場合は、〖地聖撃〗を使うよう事前に頼んである。
〖聖なる足場〗に着地すれば〖壁〗をひっくり返し、逆さづりのまま膝だけを折りたたむ。
「できれば〖法陣〗も使います!」
喋る機能も追加されているようだ。
混雑する地面の隙間を見極めれば、一度〖長棍〗を手放してから身体を発射させた。
大地に減り込んだ〖聖拳〗が〖土の紋章〗を描き、範囲内の戦鬼が地面へと押えつけられる。
〖古の聖者〗は即座に手を掲げて〖長棍〗を引き寄せろば、握ると同時に先端を叩きつけ、〖法陣〗を展開させてから消えた。
ラウロの〖聖域〗と〖聖紋〗は回復型だけど、グレースの神技が加わったことで、防御や素早さも十分に強化する。
素早さに比例して攻撃力と防御を強化。
ボスコの〖輝拳〗は筋力に比例して素早さと拳打を強化。
「天の光停止!」
代わりにバランス型のモンテが〖天の光と輝き〗を発動させ、味方の筋力を強化する。
ボスコが痛む右肩を無視して〖拳〗を掲げれば、そのまま勢いよく振り下ろし、骨ごと【神官】の前腕を破壊した。
着地すると急いで装備を切り替え、〖光戦士〗の態勢を立て直す。
油断はしないが、もう【神官】は致命傷と呼べるだけのダメージを受けているだろう。
「……傭兵か」
先ほどはフィエロの〖輝戦士〗と〖傭兵〗だけで、この戦鬼を喰い止めている事実からして、その強さは計り知れないものがある。
強化個体ではなかったかも知れないが、それでも神官やら特攻隊長みたいなのは居たはずだ。
「ボスコっ! お前はいったん下がれ!」
「わかった」
【神官】から意識を反らすことなく、モンテの指示に従って〖聖拳士〗たちのもとへ戻る。
すでに負傷は回復しているので、〖鎮痛薬〗を服用する。なるべく〖戦旗〗を視界に写さないようにしながら。
「どんな感じだ」
「少し休んだら、三時の方を援護してくれ。ちっと押されてる」
ラウロが先頭で引き付けているといっても、左右はモンテの〖手勢〗だけで、言われたは方角はすでに〖拳士〗との戦いが始まっていた。
・・
・・
戦鬼の突撃はなんとか凌いだが、町からの魔物が後方より押し寄せてきた。
ボスコの戦士はもうほとんど残っておらず、今はフィエロの〖輝戦士〗と〖聖拳士〗で喰 い止めている。
木上からの弓矢が弱まっているのが唯一の救いか。
索敵神技はなくとも、長年戦いに身を置いているからこそ、勘と言ったものが働くのだろう。
モンテは〖戦旗〗を掲げながら。
「十時の方向を上空から確認してくれ、木々をぶっ倒す音が聞こえた気がした!」
演習場への道は真っ直ぐではないため、これは進行方向を十二時とした場合の方角。
教都方面。そしてラウロが聖域を展開できなかった位置でもあった。
ボスコは〖壁〗を足場にして高度をあげ。
「巨鬼だ!」
うす暗くも、少しずつ明るくなり始めた空。
木々を掻き分ける姿は目視できるも、〖救済の光〗だけでは、まだ明かりが足りず。
「ラウロ頼めるか、ボスコと持ち場を交代してくれ!」
残り七体となってしまっているが、フィエロの〖輝戦士〗を同行させるとのこと。
「了解」
〖威圧〗もずっとは使えないので、今は〖背負い十字〗で敵を引き寄せている。
いったんモンテのもとにもどる。
「次の召喚までどんくらいだ?」
ラウロは頭上から降ってくる【雪】に意識を向けていた。
「あと三分ってとこだ」
「もう少しだな。んじゃ、いっちょ行ってくるわ」
守りを固めている〖拳士〗たちの隙間を進んでいく。
〖暮夜〗をまとった将鋼の直剣で敵を斬り抜け、〖無月〗からの転移で森中へと消える。
〖聖拳〗だけなら問題ないが、今回は〖背負い十字〗も使っているため、〖転移〗はそのぶん劣化がみられた。
「まだあんま溜ってないな」
破魔の拳を発動させるには、敵の攻撃をもらう必要がある。ただ今回は直撃を避けて戦っているため、完成まではけっこう時間も掛かりそうだ。
出現と同時に〖聖域〗を展開させ、〖暮夜〗の闇を剣に固定するも、やはり強化は弱まっているか。
近場の骨鬼に〖斬撃〗を仕掛ければ槍で受け止められたが、柄は折れても鎧には防がれた。
〖儂の短剣〗からの〖無断〗で破壊し、別個体の攻撃を〖聖強壁〗で防ぐ。
それでも魔物の数は多く。多方面から一斉に放たれた突きは、四方に展開させた〖聖十字〗で弱め、背負った〖十字架〗で軽減させた。
【雪】により〖召喚〗の行動範囲が狭まっていたが、少し遅れて〖輝く戦士〗が到着した。
「巨鬼か」
周囲の魔物と戦いながらも、トロールが来る方角に意識を向ける。
そいつは巨大な斧で木を薙ぎ払い、体当たりで幹を折りながら進んできた。
「【無毛】だっ!」
剛毛を産まれつき持たず。
少し離れた位置より、モンテの声が返ってきた。
「鎧はどうなってる!」
ダンジョンに出現する【無毛】は、全身を装甲で覆われていたりする。
もとになった本物は生前それだけの活躍をして、予算のかかる装備を用意してもらったという事になる。
「露出部分も多いから、たぶん大丈夫そうだ!」
〖鎧〗の断魔装具にできる限りの神力を沈め、振り下ろされた巨大な斧を〖聖十字〗と〖聖強壁〗で防ぐ。
「あいつの方がやばかった」
頭部の古傷が疼く。
「つらいよな、毛がないってのは」
姿を現した巨体は、その全身に大小の傷痕が見られた。
防御に役立つ毛がないと言うのは、本来だと不利な突然変異。
〖背負い十字〗が正位置となったことで、こちらの身体能力が強化される。ラウロを狙っていた周囲の魔物も弱体化し、魔系統特化を得ていた〖輝戦士〗が切り伏せていく。
〖夜明の刃〗が輝き、【無毛】の前腕を装甲ごと切り落とす。
〖咥え刃〗の神技は未だ〖暮夜〗のまま。それに神力を沈め、〖無月・迫〗を強化すれば、〖聖域〗の中でも転移はそれなりの速度で実行できる。
ラウロは【無毛】の右側面に出現すると、〖足場〗で高度を稼ぐ。
〖儂の短剣〗から〖一点突破〗で宙を駆ければ、その〖切先〗が急所へと突き刺さる。
痛みには慣れているのだろう。
巨鬼は重傷を負っても動きを止めず、〖波〗の衝撃で姿勢を崩しながらも、残った片腕を乱雑に振り回す。
悲痛な叫びを上げながら。
〖古の聖者〗が召喚され、〖聖強壁〗でラウロを守る。
悩みある者に種族は関係ない。
「次に生まれる時は、育友の祝福があらんことを」
切に願う。




