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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか終わる世界に
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11話 いつか終わる世界に①



 いつの間にか雪は止んでいた。


 夜明け前の暗闇を照らすのは〖光〗と〖灯火〗のみ。〖拳士〗その者が輝いているので、十分な明かりは確保されている。



 開始地点までは支援組が前もって敵を払ってくれていたので、大きな問題もなく進めた。


 カイザー組が大型を受け持ち、雑魚は第三班といった感じか。


 第二班はミケイラだけでなくイージリオも欠けているので、即席となってしまったがジョスエとアガタが同行していた。



 引き付け組が〖輝く太陽〗を発動させるまでのあいだ、支援と救出は一時的に外壁拠点で身を潜めることに決まっている。


 現在もっとも襲われているのは内壁であり、町中にもかなりの魔物が侵入しているため、そいつらが〖救済の光〗を目掛けて走りだす。


 そのまま開始地点に残っていると、壁を越えようとする魔物と鉢合わせてしまい、どうしても戦いになってしまうからだ。


 もしルカかアリーダのどちらかが〖認知結界〗を使えるのなら良いが、それがなくても魔物は〖光〗に夢中となっているから問題ないと願いたい。


 演習場へと続く道の中で一番大きいのは、教都寄りの海方面外壁にある。


 壁上の〖神像〗は大半が破壊されていた。ハシゴは灰になるので多くが消えているも、壁が半壊している地点もある。それでも宿場町方面に比べれば被害は少ないか。



 支援組と合流すれば、いくらかのやり取りをしたのち、彼らは外壁拠点へのルートを確保するため行動を開始する。


 シスターは〖岩亀〗の高度をあげ、上空から周囲の様子を確かめたのち。


「今のとこ、演習場から来る敵は少なそうだ。さっさと始めた方が良いね」


「なら有難いな」


 そんなラウロの楽観にモンテが返す。


「時空だとすれば〖転移門〗を使ってくる可能性もあるわけだ」


 十五班の面々は〖足場〗を階段状に展開させ、〖聖拳士〗を地上へと下ろす作業をしていた。


「お前に聞いて覚悟もしてっけど、目的ってなんなんだろうな」


 一定の間隔で地上界に【門】を出現させるのは、自分が完全に堕ちた時に備えさせるため。


 あとは魔界のガス抜き的な意味もあるか。


「ラファスを執拗に狙ってきたけどよ、〖救済の光〗を使わせるのが目的とすりゃ、なんか手のひらで踊らされてる気分だ」


「今回の手腕からも解ると思うが、頭が切れるってのは確かだよ」


 旅立つ三神は衣以外に一つだけ、新天地へと物を持っていける。


 時空神が持参したのは、見た目はただの厚い本だった。賢者の書とでも呼ぶべきか、空間の力で膨大な文字や絵を書き込める。


 もともと天上界の神々は、人間が創作した神話に強い関心があった。形を変えながらも、古き世界の宗教がいくつか伝わっていたりするのは、この本から知り得たからだろう。


 また異界の鬼に対して、ゴブリンやオークといった名称がついたのも同じ理由か。


「知恵の神が自分をそう名乗りたがらないのも、あの人が関係してたりするしな」


 切欠となる物事を知らなければ、そのページを開くこともできない点からして、未だ書の内容も全てを写せていない。


・・

・・


 〖拳士〗を地面に下ろせば、外壁上の面々と最終確認をする。


 救出組が外壁拠点に到着したら、引き寄せ組に同行させていた犬を土に戻す。これを合図にして〖救済の光〗を発動させる。


 本当はそのまま犬を残したいところだが、十五班以外の召喚が加わっていると、神技がうまく作動しないらしい。



 ラウロはいったん壁上にもどり、レベリオ達と会話をしていた。笑顔も見られるところからして、そこまで気負ってはいない様子。


 それを見あげているのは同班の二人。


「呑気なもんだ」


「腹を括ったからこそだろ」


 辛気臭い雰囲気にしないよう、互いに気づかっている。


「散々俺ら痛い目に遭ってるわけだが、実際のとこ時空の魔神ってのは安全なのか」


「ずっと自我を保てちゃいないはずだ、一時的だとしても瘴気に乗っ取られる可能性もある。特に今は色々と抗って行動してるはずだしな」


 かつて骸の騎士が倒した魔神は土属性だった。そのため天上界としては、【細菌】という魔技をつくり、同属へと流したのは彼だと予想している。


 名をタキと呼ばれた眷属神。恐らく地上界や天上界に有利な行為をすると、そのぶん堕ちるまでの時間が減少する。



 ルカは笑い話をしているレベリオ組を黙って見つめていたが、我慢ができなくなったようで。


「うぅっ やっぱ私も行くわ!」


 ラウロを抱きしめて持ち上げると、泣きながら頬擦りを始めた。


 その光景に皆が顔を引きつらせていたが、シスターが背後から蹴りを入れ。


「やめろ気持ち悪い。爺とオッサンが抱き合っとる場面なんざ見たくないんだよ」


 そんなやり取りに、モンテは苦笑いを浮かべ。


「んじゃ、始めますかね」


 〖収納空間〗より装備の鎖をとりだすが、これは人間が使うものとは少し異なる。


 モンテとフィエロは〖装備空間〗という神技を自力で使えた。


 鎖に神力を沈めることで〖装備空間〗が強化され、収納した武器防具から神力が抜けないようにする。



 弓の具合を確かめているフィエロを眺め。


「天上具ねえ。ケチんないで人間にも使わせてくれりゃ良いじゃん」


「お前な、どんだけ苦労して造ってるか知らんだろ」


 始源ダンジョンという特殊な場所から素材を入手する必要があった。


 創造主がもといた世界の到達点が百だとすれば、まだ此処の天上界は三十ほどしか進んでいない。


 本来だと攻略に本腰を入れる連中が、今は地上界に降りているので仕方ない。


 この点からもわかるように、もしランク的なものがあったとすれば、この世界の天上界は低い位置にあった。


 装備を交換すると、それを壁上から眺めていたイージリオが。


「ふっ ふぇー!!!」


「大丈夫か兄ちゃん!」


 白目を剥き出しに、泡を吹いて倒れた。ロモロが駆け寄って気道を確保した。


「しまった。あの人って神装備一式をみるとああなるんだったか」


 ましてや今は天上具だったりもする。



 シスターが呆れた様子で目もとを手で隠す。


 ルカはラウロの頭を撫で回しながら。


「こまった時は、ガチムチ マジムチ ムッキムキって唱えるのよ。そしたらすぐ駆けつけちゃうんだから」


 可愛らしいピンクのステッキを渡そうとしてきたので、それを動作で断ると。


「いや、〖輝く太陽〗が発動してから駆けつけてくれ」


 もしくは〖戦旗〗が倒れ、救済の光が消滅したら。


・・

・・


 隊列の先頭は魔系統特化を持つ〖聖拳士〗で、四人の左右後方にフィエロの〖戦士〗を配置する。


 〖狼〗が〖犬〗の指示によって動き、突破しようとしていた魔物の群れを抉じ開け、その隙間を光の軍団が通っていく。


 壁上の誰かがつぶやく。


「これに旗が加われば、まさに〖聖者の行進〗って感じですね」


「うん……綺麗」


 煙草を携帯灰皿に入れ、ロモロに何度目かの作戦説明をしたのち。


「見とれてないでそろそろ行くよ。さっさと引き寄せに入ってもらわんといかんのさ」


 イージリオはルカに担がせる。本当にこの人で大丈夫だろうか。



 いよいよ始まりの時が迫る。


・・

・・


 宿場町からの魔物は段々と減っているが、港町からはそれよりもさらに少ない。


 船からの攻撃さえなければ、港町の騎士団を援軍にという案も出ていたかも知れず。


「このまま行けりゃ、演習場まで問題なく到着できそうか」


 第十五班も移動をしているので、教都方面や町中の魔物は追ってくるという形になる。


 モンテは同行している〖犬〗を一瞬眺め。


「刻印は良いんだな」


「僕ちんのこと心配してくれるのはママだけだよ。ねえねえ、本当のお母さんになっておくれよぉ」


 いつもこうやってふざけられ、なんやかんやで話をそらされる。


「これが最後のチャンスだと思ってくれ。たぶん旗を掲げたら、もうそんな余裕はない」


 ラウロが刻印を捺されたときは、少しだけ意識を失っていた。


「いらねえ。もし死んだら、今回の報酬で俺の銅像でも作ってもらおっかな」


「そうか」


 もともと金遣いは荒かったが、前回〖救済の光〗を使ってから、それが一層に激しくなった。だからモンテとしては、賭け事がボスコなりのストレス発散なんだと認識していたが、先ほどルカの発言を受け。


「お前の金嫌いで散財されるよりゃ、そっちの方が有意義な使い道だな」


 ボスコはしばらく黙り込み。


「金が嫌いな奴なんていねえだろ」


 思い返せば賭け事で勝つこともあったが、彼は負けるまで止めない。


 こういった行為をすると知ったとき、ボスコに金の管理をさせてはいけないと判断し、モンテは本人の財産を預かると決めた。抵抗されるかと思ったが、予想外で素直に従ったのは今でもよく覚えている。


・・

・・


 なにもしなくても、〖戦士〗や〖拳士〗が道を塞ぐわずかな魔物を殺してくれる。


 この数では勢いを止めることも出来ないだろう。


 時々森の暗闇から矢が放たれるが、それぞれが〖壁〗などで防いでいるので問題ない。



 ラウロは進む先を見あげながら。


「魔神は味方でもあるって話だけど、歓迎してくれるみたいだな」


 同行していた〖犬〗が警戒しろとの動作を取るが、確認するまでもなく遠くの前方に巨大な【空間の歪み】が発生していた。


 本来は暗闇に紛れて見えないはずだが、その魔技は黒く光り輝く。



 〖転移〗や〖空間転移〗は少数を移動させるもので、このように集団または軍団を出現させる場合は、〖転移門〗という名称になる。


「こりゃ【大門】だな」


 演習場への道だけでなく、【転移門】は左右に広がる森にまで伸びる。



 事前に先代時空の主神がどんな神技を使っていたのかを聞かされていた。


「モンテ。時空の転移と召喚に違いがあれば教えてくれ」


「専用の空間を用意して、予めそこに入ってもらっとくんだ。そんで空間から召喚された対象はバフで強化される」


 説明しただろと加えるが、ラウロからの返事はしばらくなかった。



 オッサンは唾を飲み込むと。


「これは転移門じゃねえ、召喚だ」


 その発言を受け、三人はラウロへと視線を向ける。


 ボスコは【空間の歪み】をもう一度みて。


「なんでお前が分かんだよ」


「いや、なんつうか」


 その時だった。行く先の【歪み】に古き時空紋が浮かび出た。


「これは魔界から転移させたんじゃない、異界から直接召喚してきやがる。【逢魔が時】って魔技らしい」


 異界そのものを召喚の専用空間とする。


「だからなんでお前が分かんだっ!」


「頭に浮かんできたんだよ!」


 いつかの花畑にて、グレースと遊んでいたエバンという少年がいた。


「お前……時空の加護者なのか」


「だから知らないって。俺が聞きたいくらいだっつうの」


 時と空間を越えて、魔界から地上界で発見された、ラウロという人物。










 【逢魔が時・鬼が笑って天が泣く】


 封印が解かれ、泣き笑いが反転したとき、この世界は終焉する。

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