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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか終わる世界に
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9話 抗えぬ運命なら



 ミウッチャは中央通りの内壁上にいたので、セレナのことは伝えておいた。急にどうしたと訝しがられたが、とりあえず心に止めとくようとだけ残し、ボスコは本部へと戻る。


 道中色々と考えてみたが、たどり着くのは不本意ながらも自分の置き所だった。



 先ほど借りた三種の天上具は、比較的扱いやすい物だとのことだが、すぐ使いこなせるかはなんとも言えず。


 ラウロには〖古の聖者〗といった手札がいくつかあるも、相手が魔神級となった場合、ボスコは戦力外となる。


・・

・・


 モンテに相談した結果。


 〖天上の刻印〗は天の位より上になると、死亡後は瘴気に集中して狙われるため、天使が魔神と戦うのは避けたい。


 天上界の基準では生きるか死ぬかよりも、魂の安全が重要視されているようだ。その点だとボスコは神力があり、なおかつ未練よりも宿命を優先させる。


 ルカはこれまで暴走しても結果は残してきたが、モンテの意見ではシスターと行動させた方が、なにかと上手くいくのではと考えている。


 光属性の眷属神は教国にあと二名いるのだが、両者ともに騎士または満了組で重要な位置にいるらしく、下手に動かしてしまうと大きな問題が発生する。


 もし相手が完全に堕ちた魔神であったなら、無理を通してでも今回の作戦に加わってもらうが、時空の魔神は明らかに意識を保っていると判断されていた。そのためモンテとしても、上記のリスクを考えると呼ぶのは避けたいそうだ。



 少なくとも現在のラファスには主神級が三柱おり、フィエロやターリストといった眷属神もいる。


・・

・・


 ラウロとリヴィアは無言で中央教会へと向かっていた。


 避難している人々の様子を確認しながら、ゆっくりと進む。


 本当は話し合いをしなくてはいけない。


 ラウロは振り返り。


「あぁー その、なんだ」


「ちょっと考え事しているので黙っててください」


 今にもちびりそうなオッサンは、びくびくと震えることしかできず。


 子鹿のように。


 ただラウロはそこまで可愛くないので、ただの震える中年だ。



 考え事をしていたリヴィアは、ふとそんな頼りない背中を見て、思わず笑みをこぼし。


「本当に英雄っぽくないですよね、始めて会った時からずっと」


「まあな、良く言われるよ」


 すぐウジウジするし、若者に張り合おうとして逆に呆れられるし、格好良いとこはあまりない。なにより頭髪の薄さを気にしている。


「でも、ラウロさんガチ切れしてるとこ見た記憶ないんですよね」


 過去の恋愛事情を思い返してるのか。


「けっこう生意気なとこありますよね私。すぐ威張るとかいわれて、いつも上手くいかないんですが」


「そ、そうか? まあ気が弱いだけで、普通に嫉妬とかムカついたりもするからね俺」


 思ってたよりも情けない、頼りない、女々しい。過去にこういった理由で振られた記憶があるにはあった。


・・

・・


 二人が目指していたのは中央教会に設置された遺体安置所。これは内壁だけでなく、倉庫街や預かり所にもあったりする。


「私はここで待ってます」


「わかった」


 規模はここよりも狭いが、倉庫街に安置された遺体も少なくはなく、荷車で広場まで運ぶとなれは時間もかかるだろう。


 ただ馬が使えないので、〖狼や岩亀〗で引くための専用金具へ交換が必要となってくる。もしくは人力で運ぶか。



 もとは戦鬼と呼ばれていたその存在は、【細菌】により肉鬼と名を変えた。


 人を食べたり、身体への悪影響を考えると、完全にこちらへ有利なものとはできなかったのだろう。


 遺体安置所と救護所は別々となっている。


 治癒神技があっても痛みは残り、重症であれば動くのも難しい。尚且つ致命傷だった場合は目覚めないまま、衰弱して亡くなる実例もあった。




 開かれっぱなしとなっている大きな扉を通り、息を飲んで周囲を見渡す。



 土埃にまみれた探検者が、母親の遺体を見下ろしている。ずっと町壁の近くにいて、逃げ遅れたのだろうか。



 よく知った女性が目に映る。彼女は母親に背中をさすられながら、無精髭がチクチクとする父の頬を触っていた。



 歩みを進めながら、誰にも声をかけることなく。



 物言わぬ恩人をじっと見つめるのは少女一人。他の仲間は待機しているのか、ここには彼女以外いない。


 父を失った女性は少女に気づき、両親を残してそちらに向かい、彼女を無言のまま抱きしめる。


 それでも泣くことなく、恩人をただ見つめ続けた。



 前から知っている者。今回の戦争で話すようになった者。感謝された人。遅いと不満を言われた人。


「おっさん」


 振り返ると、そこにはカークが立っていた。


 待機しているはずの彼がいるということは。


「ガスパロかダニエレか」


「焦んなって、グレゴリオさんに用事があったんだよ。紋章消える前じゃ、なんか遅い気がしてな」


 指さした方を見ると、横たわる男性のそばで、項垂れた二人の老人が座っていた。


「やっぱ知り合いが死ぬってのは、悲しいよな。どれ、俺もいっちょ挨拶してくるか」


 グレゴリオのもとへ向かおうとしたが、背後から呼び止められる。


 今まさに感動の名場面が始まった。


「まあそのなんだ。あんたらいなかったら、たぶんそこらで暴言吐いてるような避難民だったと思う」


 しっかりとラウロの目を見つめ。


「今回の戦争に参加できて、なんやかんや良かったって思っててな。あいつらも同じ気持ちだ」


 感謝していると、小さな声で口にだす。


「だったら俺もグレゴリオさんも、色々と頑張ったかいがあったってもんだ」


 カークは照れた様子で頭をかきながら、安置所をあとにする。


 今は調子に乗ったり、泣ける状態でもない。


「よう」


 布は避難民や休憩してる探検者に優先して配られているので、グレゴリオにも今はなにも掛けられていない。


「ラウロか」


「空飛ぶゴブリンだってな。ちょうど同じころ、肉鬼の特殊個体が軍勢引き連れて内壁を狙ってたんだと」


 励ましになるのかは分からないが、事実だけは伝えておきたい。


「少なくとも、あんたらがあそこで倒してなけりゃ、もっとやばい事になってた」


 男爵は苦笑いを浮かべ。


「ミウッチャにも同じことを言われましたな」


「やらかしちまったことは取り消せねえ。いつまでもウジウジしてちゃいかんとはわかってんだ」


 償うにも、もう動かせる身体はなく。


 なにをするべきかも分からない。


「死んで詫びるとか勘弁してくれよ。俺泣いちゃうからな」


「んなことしねえよ」


 なら安心したと伝えてから。


「もしやることなくて暇なら、けっこう土にまみれて汚れてるから、亡骸の顔だけでも拭いてくれるか」


 もし誰かに余計なことをするなって言われたら、血塗れの聖者に言われてやってるから、文句ならそいつに伝えろと加えておく。

 

二人はわかったと、水桶と手拭いを持ちにその場を離れた。


・・

・・


 遺体安置所からでると、すぐ近くでリヴィアは待ってくれていた。


「戻りましょっか」


「そうだな」


 ラウロを本部に届けたら、彼女は仕事に戻るらしい。


 悩み事はすんだのか、その視線は真っ直ぐ前に向けられている。


「最初はすごく厳格な聖人ってイメージだったんですけど、実際に会ってみたら、けっこう俗っぽいですよね」


 血塗れの聖者。


「いつの間にかつけられてた呼び名だからな、あれって。俺が自分から名乗ったわけじゃないぞ」


「実はラウロさんって、お酒も賭事もそんな好きじゃないですよね。髪の毛関係は別として、趣味っていう趣味もないじゃないですか」


 言われて思い返してみるが、確かに生活の中心は鍛練か。


「育毛神でしたっけ? あのアホな宗教の布教に熱心な点を踏まえると、ある意味だと聖人じゃないですか」

 

「馬鹿言うんじゃない。あれは育友会の活動で宗教じゃないから、あと毛根神様です」


 誰かのためだけでは疑う者もいた。渡すだけではもっともっとと、貰うだけになる人も。


 民からのお布施で生き、民の安寧を祈って暮らす。


 もらい、あたえる。


 必ず不利益が発生するのもまた人の世。


 それが等価ではなかったとしても、自分の利益は求めるべきだと、死際に思い至った僧侶がいた。


「なんかラウロさんの自分のためって、嘘っぽい感じがするんですよね。そこに自分の欲望ってあるんですか?」


 髪の毛を生やしたいという欲は本物だけど、なにより今証明すべきことは。


「君と生きたいってのは、俺の欲望なんじゃねえのか。ただ、この町で一緒に暮らしたいってのもついてくる」


「自分の幸せと引き換えに世界を救える。こんな場合でも、私のことを選べますか?」


 しばらく考え。


「難しい質問だな」


 多くの人に感謝されたいといった欲求は持ってない。


 自分の無価値な命が代価になるならとか言うほど、今の自分に絶望もしていない。


 悲劇のヒーローとなって、皆から可哀想だとチヤホヤ語られるのはちょっと恥ずかしい。


「ただラファスの現状に憂いてはいる。〖救済の光〗で助けられるなら、使いたいとは思ってる」


 あともう一つ。


「皆が命がけて戦ってるのに、んなこたできないって分かってたから、今まで黙ってたけどな」


 それはとても真剣な表情だった。


「危険な任務の前くらい、リヴィアちゃんとイチャイチャしたかったと願うくらいには、俺も俗だぞ」


 その発言に思わず笑ってしまった。


「もし天上界に導かれたら、ぶっ飛ばしに行かなきゃいけませんからね」


 抗えぬ運命であれば。


「とりあえず、第一騎士団の団長くらいは目指さないと駄目かな」


 驚きの表情で相手を見たが、どうやら本気らしい。


「あんま期待はしないでくださいよ。かなり無謀なことは、私だって分かってるんです」


 条件を満たしているかどうかもわからない。


 「だから、生きて帰ってきてください。もしラウロさんより素敵な人いたら、そっち乗り換えちゃうかも知れませんからね」


 もし彼女がいなければ、少くともここまで悩みはしなかった。


 死んでも天使として復活するのだから。


「それは嫌だな。死ぬわけにはいかない」


 死ねない理由。


 少くとも彼女のほうがラウロよりも、英雄らいし性格だ。


・・

・・


 数時間が経過する。第十五班とレベリオ組は召喚に守られながら、問題なく倉庫街に到着した。


 本当はモニカ組やルチオ組の面々とも会話をしたかったが、状況がそれを許さず。



 もし作戦中に【雪】の使い手が出現した場合は、天上界が救出の役目を引き受けるとの正式な指示があった。


 すでに救出に向かっていた場合は、町壁から支援組が狼煙をあげるので、ちょくちょくそちらの確認をするようにとのこと。


 ただ風読の使い手もいるため、魔神の気配をつかめるかも知れないが。



 






 倉庫街にて人々は夜明けを待つ。


 戦旗が靡くその瞬間を。


 救済の光が昇るその時を。


 それは死出の旅立ちではないと信じたい。



 今まさに死地へと赴こうとする者たちがいた。


 誰もが目を閉ざして祈りを捧げる。


 遠く内壁より、その声が町壁の上にまで届いた。


「〖友よ、今こそ活路を切り開くずら!〗」


 思わず壁上の四人はずっこける。


「あんたが言うんかーい」


 どうやら声の主はルチオではないようだ。大毛根神は周囲の反対を押切り、育友会の会長に加護を授けたらしい。


 駄目だこりゃ。







主人公より、ボスコを参戦させるほうが困難でした。色々と頑張ってみたのですが、説得力は足りていますでしょうか。


最初は主人公を聖人にする予定だったんですが、聖人は主人公に向いてないと思い諦めました。


それに善人って描くの難しいです。どこかでボロ出ます。


ここから本格的にモンテやフィエロの戦闘も描いて行くのですが、作者は規格外というかチートの戦闘は書いたことがありません。


いろんな言葉単語を知っていて、魅せる文章でないと規格外の実力者を描くのは難しいと思う。もう不安しかない。

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