11話 現状報告 いざダンジョン
炊き出しが終わってから三週間ほどが過ぎた。アドネとルチオ、そしてエルダの指導も始め、なんとか神力混血を習得。まだ祈りについての答えは出てないようだが、それはラウロも人のことは言えない。
神技もいくつか使えるようになった頃合いを見て、まだ教育係が付き添う状態ながらも、練習ダンジョンの攻略が始まった。
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場所はダンジョン広場。
倉庫とは逆側の壁。そこには複数の建物が建っている。
広場の受付。
夜になると町には戻れないので、割高の宿。
汚れた身体を拭いたり、簡単な装備の手入れなどができる貸出スペース。
時刻は朝の九時を回ったころ。
受付所とは少し離れた建物で、ラウロは遅めの朝食をとる。内容はパンと蜂蜜にミルク。
「でっ どんな感じだ、ちょっとは慣れたか?」
向かいに座る相手は、小麦粉・ミルク・卵を混ぜて焼き、それにメイプルシロップをかけている。
「はい。皆さん気を使ってくれてますし、まだ奥地には行けてないんですが」
派遣軍あがりの娘。レベリオたちと顔合わせを済ませ、すでに訓練所での調整も終えていた。
今は中級の入り口周辺や、初級を中心に活動していると聞いている。
「魔物との戦いに慣れたい。だったよな」
表情が気持ち暗くなる。
「やっぱり近くで見ると怖いかな。神さまが造られているので、実際には別物なんですよね?」
加護は〖光の眷属神〗(杖・槍・ローブ・軽鎧)。今までは後方支援の訓練だけだったので、槍と軽鎧は無理とのこと。
「上級になってくると、魔界の介入もあってほぼ魔物だけどな。ここだと【町】あたりで、引退を余儀なくされる連中が多い」
「そうですよねぇ、ダンジョンだからと言って安全とは限らない。分ってたんだけどなぁ」
手足を失ったとしても、初級や中級であれば時空紋での帰還時に復元される。ただし数カ月は幻覚の痛みに苦しむ。
「ちっと聞きたいんだが、派遣軍あがりの場合は予備軍に参入されるのか?」
パンケーキモドキをフォークで口に運ぶ。しばしモグモグしたのち。
「よほど状況が悪くなければ、まずないって聞いてますが。実際のところどうなのかなぁ」
当時。まだ訓練中とはいえ、もうすぐ終える時期に魔界からの侵攻が始まった。
最初は近隣の町で怪我人の治療に駆り出され、最後の方は砦か要塞のような場所に向かわされ、壁上にて帝国兵の支援をする。瘴気の影響が弱まってからだが、実際に魔物をこの目で見たらしい。
無事に魔物を防ぎ切り、五年という任期を終える時に思ったのは、またあと何年かで同じことが起きるという事実。
「探検者としての契約は、門が開いても戦わないだったか?」
予備軍と違って探検者が守る義務があるのは、拠点にしている町と近隣の村々だけ。
「自分の身は自分である程度、守れるようになりたいです。ごめんなさい」
できれば町で生活をしている両親の身も。
「謝るこたない、真っ当な理由だろ」
はいと小さくうなずく。
こればかりは、どうしても後ろめたくなるものだ。
彼女やエルダみたいな立場の者に、とやかく言ったり一緒に戦おうと誘うのは、契約違反として罰せられる決まりだ。
そのぶん彼女たちは、安くはない金を払っているのだから。
「まあ何時か起こる戦いよりも、今日これからのことだな。前に話してた通りで良いか?」
ルチオたちとの顔合わせや、連係に関する調整も済んでいる。これから練習ダンジョンにラウロ抜きで挑戦し、問題が発生しなければボスの討伐も目指す。
「それはもう、こちらこそよろしくお願いします」
ラウロは中級ダンジョンの開拓地で、レベリオたちと合流して訓練。いろいろと遅れてしまい、今回が初となっていた。
「どっちにするか俺に気を使わなくて良いからな。両方を体験して、本当に合っている方を選ぶんだぞ」
任期は最短でも五年というが、これは魔界からの侵攻と関係がある。苦労して育ててきたのだから、国としても一度は投入できねば損が大きい。
十五歳の時に加護を受けたとすれば、派遣軍入りが決まってから七年。
あまり歳のことを言うのもあれだが、同世代なのはレベリオ達だろう。ざっと聞いた評価だと、まだまだ時間はかかるけど、十分想定の範囲内とのこと。
回復神技に関する熟練も、派遣軍時代の七年で申し分ない。
「やっぱアリーダやマリカたちも、目指すのは【町】なんですよね。私よりも年下なのに、凄いなって思っちゃう」
「それに関してはルチオたちも同じだ。たぶんエルダもな」
彼女が探検者として目指すものは、高みへの挑戦ではない。ただ単にお金であれば、それなりの額を従軍期間に貰っていると思われる。
「私自身もそこまで経験してこそ、魔物との戦いに慣れる。だと思います」
中級や初級でも魔界の介入はある。それでも危険なくして、本当の慣れはない。
ただそうなると。
「もし私がリベリオさんの組を選んだ場合、ラウロさんはルチオ君のとこには残らないんですよね?」
「教育上、あんま良くないわな」
独り立ちができなくなる。今日、自分が同行しないのも、それが目的だった。
「回復役はどうなりますか?」
「それは心配いらんよ。初心者なら、まだ水や感情系の加護が余ってる」
愛情神が回復の筆頭だが、友情の加護も単体回復を持っているので、中級あたりまでなら何とかなるはず。
「ラウロさんはどこか知り合いの組にでも?」
「もしそうなるなら、俺はしばらくソロでやるかな。体力的にはきついけどよ、精神的には責任もなくて楽なんだ」
蜂蜜をつけたパンをかじると。
「たまに協会員の手伝いでもするかな」
なるべく表情を崩さないよう心掛けたつもりだったが。
「えっ どうしたんですか、急に嬉しそうにして?」
協会員のダンジョン活動。それは探検者のやりたがらない、けっこう面倒なものが多い。地図の制作とか、罠に実際に嵌って情報を集めるなど。
上級となればこれらの支援が無くなるので、危険は一層に増す。
「いや、いつも世話になってるし、役に立てるなら少しは嬉しいが。そんな顔してたか」
「はいすごく」
リヴィアちゃんに感謝されたいとかオッサンは思ってない。
「まあ、今はそんなことどうでも良いじゃないか」
「確かに、そうですね」
彼女なりに気持ちを切り替えて。
「今後どうするか、私なりに考えておきます」
これから徐々に成長するルチオ組か、すでに準備が整っているレベリオ組か。
「俺も探検者歴はまだまだでも、ダンジョンはかなりの数を攻略してきたんだ。けっこう自力でなんとかできるからよ、本当に気にしなくて良いぞ」
実を言えばこれまでも、何度かモンテたちに誘われていた。連中は装備の鎖による切り替えで、全員が前衛と後衛を受け持てる精鋭だった。
恐らく光の眷属神たちは意図的に、近距離と遠距離の武具を鍛錬しているのだと思われる。
「ある程度の自信がついたら、古巣にもどってみるのも良いかもな」
無理がたたって精神をやったことも、それとなく伝えてある。
「たしかラウロさんも、光騎士団の満了組でしたか」
デボラとモンテは教国からの命令で、ラウロの様子を上層部に報告している。直接本人たちから言われたので間違いはないだろう。
それでも心配されていると理解はしている。だから感謝もしている。
「腐れ縁とも言えるけど、やっぱ仲間ってやつなのかね」
彼女やエルダを見ていると、気がかりなことがあった。
「教国はけっこう狭いからな。魔界の門が離れていたとしても、この町までやってくる魔物もいると思うんだ」
探検者として何度も死線を潜り抜けた。このように絆を深めていった者たちには良くあること。
「契約の金を払ってるんだ、無駄にすんなよ。親御さん悲しませちゃダメだ」
まだレベリオたちとは数回のダンジョン攻略だが、身に覚えがあったのだろう。
「……はい」
魔界からの侵攻は大陸全土で一斉に起こる。レベリオ組も最前線の悪運を引いたことはないが、前回の戦いには参加していた。
「んじゃ、そろそろ行くか」
すでに飯の金は払ってある。ここは食器を自分で厨房口まで運ばないといけない。
「俺は門あたりで連中を待っているから、先に並んどいてもらえるか?」
二人ともこれから動くので、食事の量は少ない。空になった皿は重ねてラウロが持っていく。
卓上には濡れ布巾。
「了解しました。机は拭いておきますからね」
「ありがとさん」
彼らが特別なわけではなく、基本的に大半の探検者は行儀が良い。
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飯屋をでる。
「あんま美味くなかったな」
けっこう高い癖に。
「良かったら今度、ルチオ君たちも誘って家に来てください。味には自信ありますよ」
町で暮らす両親。昼も食事を出しており、夜は飲み屋をしているとのこと。
「レベリオさんたちも、この前来てくれたんです」
「そうだな。時間あったら行ってみるか」
毎度ありみたいな返事をされた。
こんな会話をしていたら。
「あっ! おっさん!」
ルチオが一人でこちらにやって来た。
「悪い悪い、遅かったか?」
「もう二人には並んでもらってるよ」
女の方を見て。
「サラさん、今日はよろしく頼むな。俺ら見ての通り新米で頼りねえけど、もし気になる点とかあったら、俺やおっさんにでも後で伝えてくれ」
本当に確りしている。
ラウロを見あげ。
「今日はオッサンもいねえし、サラさんも慣れてないだろうから、もし必要なら回復とか解毒薬とか買っといた方が良いか?」
「回復役はお前も含めて二人いるから、たぶん大丈夫だと思うが」
続けて言おうと思ったが、ルチオが口を挟む。
「だがよ、ボスと取り巻きの一部は、刃に軽い毒塗ってんだよな?」
「自分で調べたのか」
モンテに聞いたらしい。
「念入りにするなら、お前とサラさん用に一つずつありゃ、たぶん問題もないだろうよ」
「安い解毒薬で良いのか?」
まだ熟練の低い水の加護持ちが、そこら辺に生えている解毒効果のある草を、〖水分解〗した解毒薬。
「おう、それでも十分効くはずだ」
「んじゃいっちょ買ってくる。二つな」
すごく張り切っているが、内容は慎重そのもの。
ため息をつき。
「なんか彼、私より確りしてますね。年上の威厳ないなぁ」
「他二人も優秀な分類だが、ルチオはあんま教えがいのない奴だ」
ですよね。と去っていく青年の背中を見る。
「リーダーとしての素質は俺が保障しても良い」
自分は慎重すぎて中々進めないが、彼の場合は慎重に事を進められる。
「はい。もともと私は人を引っ張るのも得意ではないので、正直ありがたいです」
ラウロも教育係などをしているが、そういった気質はあまりない。
まだ執筆してないのでわかりませんが、短くなるかもです。特にラウロとレベリオ組のほう。




