7話 愛すべきこの町で
倉庫街を守るのは、これまで通り鉄塊団の主力。
山側にある預り所は満了組。
内壁は小・中規模の徒党が中心となり、それに加えて教都方面の初級組。こちらの指揮にはグレゴリオもつく予定だった。
兵士には中隊長や大隊長といった役職があるものの、探検団の頭首で大規模な指揮をとれるものは限られている。彼を失ったのはラファスにとって大きな痛手となっていた。
元騎士団長曰く。
「あいつは人格者すぎた」
〖さらば友よ〗という神技にはデメリットもあるわけで、それが最大限に発揮されてしまっている。
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休憩中の探検者は決められた場所に集められ、すぐに動けるよう待機させられていた。
しばらく中央通りで戦っていた不良共も、今は用意された食事を摂取して、ここで数時間の仮眠をとるようだ。
武具屋の嫁はミウッチャと行動を共にする。指揮という面では役に立てないが、精神の支えになればとの理由らしい。
雪よけの仮設テントにて、ダニエレは楽な姿勢をとりながらも。
「さっきまで戦ってたのに、すぐ寝るなん難しいっつうの」
食べ終わって一息ついたが、まだ興奮は続いていた。
「無駄づかいするなって言われたけど、〖精神安定薬〗でも使うかい。短気が治るかもよ」
満了組の連中も活用してたりする。
カークは床に敷かれたシートから足だけを出していた。
「〖花の鎧〗使える奴に頼んでみるか」
といっても他の探検者との繋がりがないので、誰が土の加護者かなどは知らない。
モニカ組の面々も入れ替わりとなっており、今ごろ魔物と戦っているはずだ。
「いらねえよ。寝れなくても、身体休めときゃ良いだろ」
「君コミュ障だもんね」
うるさいと返し、ダニエレは横になったまま背中を向けた。
ため息を一つ。カークは空を指さし。
「これには精神安定とかねえのかな」
ガスパロはドラム缶の火に手をかざしていた。
「どうなんだろうね。僕ら仲間内での神技しか調べてなかったけど、こうやって戦争を体験してみると、けっこう不便だよ」
じっと上を眺めていると、雪が頬を冷やす。
「あのおっさんが言う通り、なんやかんや関わっていかんとダメか。そのためにも、まずお前らが協調性ってのを持ってくれんと」
「僕もなんだかんだで、すぐ人を怒らせちゃうからなあ」
喧嘩っぱやいダニエレと、相手を小馬鹿にするガスパロ。
カークは靴を履き、その場から立ち上がる。
「いるかわかんねえけど、ちょっとおっさん探してくるわ」
「なになに、お礼でも言いにいくのかい? いやぁー 感動の名場面だねえ、でも勝手に動いちゃって良いの?」
一応だが待機という指示を受けていた。
「言えるうちに済ませておきたい」
雪降る夜空を〖紋章〗が照らす。
「これが消えたら、繋がりも無くなっちまう気がしてよ」
発動時間に多少の差はあるらしいが、二十四時間で終わるものとして上層部は考えている。
「なんやかんや世話になったからね。僕も珍しく後悔してたりして」
「ああ」
まだ休憩に入ってすぐなので、さすがに大丈夫だろうとカークはその場を離れた。
避難場所は三カ所あるといっても、ラファスの住人だけでなく周囲の村々もふくまれるので、内壁の中は人で溢れていた。
〖聖拳士〗を召喚する上で、どれだけ効率よく進められるかが重要になってくるが、やはりある程度のスペースがなければ難しい。
宿場町方面の外壁には〖紋章〗が届いてないので、もしかするとそちらで〖聖域〗の展開作業をしているかも知れず。
最低の結果になったが、職人時代の親方にも世話になったので、そちらの姿も探して回る。
非戦闘員が総出で支援するのは難しい。
ただうずくまり、震えることしかできない者だっている。
小さい子供が泣き叫べば、黙らせろと怒鳴りつける奴も。ただ自分も悪くは言えない。
むしろそちらの側に回っていた可能性も十分にあるし、これからそうなる場合だって否定はできず。
ふと一方を眺めると、片腕のない中年の男が下を向いて座っていた。その姿がいつかの爺と重なる。
「なんだ、あんたまだくたばってなかったんだな」
声をかけた相手は顔を上げてカークを見あげると、目を見開いてから直ぐに視線を落とす。
被害者からすれば、加害者の顔なんて二度とみたくない場合もある。
自分も浮浪者に暴行を加えた側の人間。
かつての被害者として、この相手とはもう会うことはないと思っていた。
自力での生活は困難と判断され、教会の保護を受けて衣食住を。
周囲を見渡せば、似たような境遇の者も何名か伺える。
「まあ達者で生きてくれよ」
最初から糞みたいな父親だったわけじゃない。
良かったころの思い出があるからこそ、余計にたちが悪い。
安くとも働き口はあったのではないか。殴る元気が残っているのだから、初級だろうと探検者は続けられなかったのか。
探検者を続けられなくなって、国からなんの保障もなかったわけじゃない。
ただ自暴自棄になって、その金を使い込んだ。
「じゃあな」
自分と母を顧みず。
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ずっと宿場町からの魔物を防いでいただけあり、鉄塊団の中級探検者は消耗が激しい。
民族衣装を着た骨鬼や、投石機などで集中的に狙われたのも、この方面だったりする。
最初の門が〖閉〗まり、宿場町に援軍が到着したこともあって、少しずつ攻勢が弱まってきた。
しかしグレゴリオの死により士気は悪化の一途をたどり、〖紋章〗が消えた時点で最悪の状況になると予想ができた。
本当はこの方面に戦力を送りたいが、内壁も【同族殺し】の被害を受けている。
山側の満了組だけは守る範囲が狭まったことで、若干の余裕はできていたが、もともと彼らは小隊規模だった。
預り所を囲う防壁の上。ターリストは自分の手勢を倉庫街へと送っていた。
「すまんが上からの指示だ。広場がどんな様子か探ってもらえるかい?」
目をつぶったまま。
「隠れながらの移動になりますんで、ちっと時間かかりますぜ」
新たに確認された【兵器】だが、教国にも一応の知識があった。
大筒の底に火薬をつめて鉄球を飛ばす。装機兵のそれと比べれば性能は数段劣るも、投石機よりずっと大きな被害をもたらしていた。
外壁は何時までもつかわからず。
「いざって時は倉庫街の連中、そちらに逃げるってことですかい?」
「上手く避難できりゃ良いんだがね」
現在もっとも攻められているのは内壁だが、まだ倉庫街の周囲にも魔物は多くいる。
ダンジョン広場は現在だと放棄されているが、ちゃんとした防壁も備わっており、人間がいなければ魔物は素通りする場合が多い。
「恩師が動いてくれたお陰で、今はなんとかなってる。できればその手段は取りたかないんだ」
「あたしも微力ながらと言いたいとこですが……こりゃ、いけませんね」
〖犬〗の視界を通した光景。
「なんかあったのかい?」
「本部にお伝えください」
だがそこまで言って気づく。
この世界だけでなく、旧地上界にもなかった攻め手を、どのように説明するべきか。
こういうものがあると教わっただけで、実際に見るのは初めてだった。
確認したのは町壁にそった道で、倉庫街からはまだけっこうな距離がある。
小鬼に守られた五体の骨鬼は軽鎧をまとい、左右の腰に鞄を装着していた。
右手にはタイマツ。
左の鞄から取り出した紙を燃やすと、それに描かれていたものと同じ法陣が前方に浮かびでる。
続けて右腕を鞄に突っ込めば、指先は塗料で赤くなっていた。臆することなくその手を火にあてれば、側面になんらかの文字を。
加護とは別の方法で、神の力を借りる術。
神法。いや、魔法と呼ぶべきか。
複数の大きな炎の玉が出現し、それが倉庫街へと放たれる。
防壁を越え、直接に内部へと。
とりあえずターリストは、〖盾矢の障壁〗で防げるはずだとデボラに伝え、その集団に〖群れ〗を向ける。
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士気の低下した味方を鼓舞し続け、なんとか魔物を喰い止めている倉庫街。
シスターもとい白銀の騎士は、〖召喚〗を戦場に残しながらも、今は一組の夫婦と面会していた。
「申し訳ないが、これはほぼ決定事項でね。お二人さんに許可を貰いに来たってわけじゃないのさ」
第十五班は引き付け役として、夜明けと共に〖旗〗を掲げながら演習場を目指す。
〖救済の光〗
かつて嫌われ者の上官が引き受けた役目は、〖輝く太陽〗により弱った魔物の群れを潜り抜け、四人を救出するというものだった。
〖太陽〗の威力は確かに凄まじいが、それは直下だけで離れるほどに弱まっていくため、聖の魔系統特化が要となる。
殲滅を目的とした攻撃役よりも、一足先に中心地へと潜り込むため、その危険は計り知れず。事実として理不尽の化身は戦死していた。
「なぜ父なんですか」
「同班で組んでいた時期もあったくらいで、互いに手の内は把握できてんだよ」
本当は十五班にルカも加えたいところだが、彼は睡眠不足が祟り通常時の力が発揮できないため、救援へと組み込まれることに決まる。
騎士の背後で片膝をついている老人は、王製の軽鎧をまとっていた。
「お嬢、自分そろそろ持ち場に戻りたいんだが。うちの班員が気がかりでして」
彼女と再会したせいか、本人の中では当時に意識が戻っている様子。ただ彼が思い浮かべている仲間は、もう何処にもいない。
「あんたは今回、久しぶりにあたしと組んでもらうことになった。頼りにさせてもらうよ」
「おおそりゃまた。では恥ずかしい姿は見せられませんな、NK(熱血)細胞に取り込まれんよう気張っときます」
家族は納得できるはずもなく。
「二コラのことも解らない状態なんですよ」
その発言を受け、老人は中年の男性を見あげると。
「へえ、あんた二コラってのか。実は俺の息子も同じ名前でな」
視線の高さに手の平を持っていき。
「まだこんな小せえガキでよ、あんたみたいに育ってくれりゃ良いんだが」
どっこらしょと立ち上がり、膝についた汚れを払う。
「ほとんど帰れてねえから、もう顔も忘れられてんじゃって心配なんだ」
笑う老人に泣きだす嫁。
「あんたら子供はいんのか?」
「今は教都で働いてるよ」
自分の孫に関しては忘れているらしい。もともとそこで暮らしていたが、孫を残して三人、または四人で田舎に引っ越したといった感じだろうか。
「そうか。じゃあ大丈夫だ、あそこにゃ俺らの仲間がいっから」
息子夫婦の肩を叩き。
「オメエさん方は俺たちが絶対に守ってやるから、あんま心配すんな」
シスターさんは煙草を我慢しながら。
「この通り、あたしらは騎士なのさ。こいつが戦えるからには人選からは外せないし、命の保証もできんがね」
「……」
家族の気持ちも考えない理不尽な婆は、残りを誰にするか考える。
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その頃。十五班は内壁へと呼び出され、リヴィアと共に作戦の内容を説明されていた。
前回実行された時とは違い、今回は救済ではなく、倉庫街から広場への避難が目的。
断るかどうかは二人の判断に委ねられるが、今日までこの町と共に生きてきたからこそ、ラウロの性格からして難しいかとも思われる。
二人は時間をもらい、内壁の中を歩いて回ることになった。
救済の光を使う予定ではいたのですが、どのようにそこまで運ぶのかを考えていませんで。
自分としては探検者や兵士、上層部を無能として描きたくなくて、なおかつ危機的状況にもってかないといけない。説得力といいますか、無理なく運べていますでしょうか不安もあるのですが。
できればこのまま最後まで止まることなく行きたいのですが、自分はよく俺ってすげえ天才って盛り上がったあと、これのなにが面白いと感じてたんだと気分が落ち込むことがあります。
そうなると執筆続けるのが難しくて、忘れるまで読専やゲームに集中します。




