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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか終わる世界に
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5話 戦場の露に消え



 得物がメイスだったなら別だが、通常であれば【同族殺し】はそこまで警戒されない。どれ程に強かったとしても、救援組であればなんとかなるという認識だったから。


 ただし歴史には例外もある。


 加護者や覚醒者。この世界が異常なだけで、神技を扱える者は少数だがおり、なおかつ魔技はもとになったそれらよりも強力。



 混乱の中にあっても、〖町壁〗を破壊した個体に関する情報は、不完全ながら内壁にも送られていた。


・・

・・


 もうすぐ陽が沈むラファスの町に、【ウォークライ】が鳴り響く。


 【汚染】がでたとの報告を受け、急いで予備戦力の一部を大通りに着かせたていたが、相手が【同族殺し】だとサラから知らされたのは今さっき。


 わずか数分で出来ることは少ない。


「戦意に飲み込まれちゃ駄目だ、精神安定薬を使って!」


 〖岩柱〗は一定の間隔で機能しているが、悪い意味での戦意高揚に影響する可能性もあり、防衛線を固めていた兵士や探検者に求められるのは精神安定。



 内壁で指揮するのは軍服。


 ミウッチャは【汚染】の報告を受け、大通りへと出ていた。


 屋根上より、遠目にその光景を眺め。


「これが原因だった」


 実体のないオークの軍団は見た目のとおり、空中を移動して兵士へと襲い掛かっていた。物理判定がないため、これといったダメージは受けてないが、とても【同族殺し】を狙える状態ではない。


 なによりも厄介なのは。


「あんなの報告になかった」


 薄く苔むした〖岩亀〗が体当たりを仕掛けるも、【同族殺し】は即座に【メイス】を動かして受け止める。


 この一撃で突進の勢いは殺せたと思われたが、後ろに続いていた【神官】が前にでて、〖岩亀〗の甲羅を破壊する。


 やばいのが二体となったせいで、突破力が町壁の時よりも高い。


 両者は順序を入れ替えて移動を再開する。


「止まれ!」


 〖緑光の杖〗で強化された〖連射〗が放たれた。


 だが〖風矢〗は【神官】の胴体を通り抜け、背後の【同族殺し】へと流れていく。それらは【得物】と【装甲】で防がれる。


「〖聖拳士〗と一緒だ! 物理判定のある位置を狙って!!」


 いくつかの〖友矢〗は、戦神の書を庇った【メイス】に刺さっていた。


 物質化しているのは本と武器。



 弱点を把握した探検組が前に出る。


「武器だけじゃ軽いんだよ!」


 【神官】の一撃を〖盾〗で受け止め、予め準備を済ませていた〖叫び・咆哮〗で【得物】を弾けば、後ろにいた【同族殺し】も勢いを殺される。


 側面より〖風刃重斬〗で本を狙ったが、それを守ろうとした【神官】が奮起し、無理やり身体を動かす。


「そんな大事なら、持ってこなけりゃいい!」


 〖盾〗の背後に隠れていた〖槍〗が攻撃を仕掛ける。いつもなら相手の身体を攻撃するけれど。


「くそ、微妙に届かない」


 この相手は【メイス】か本以外に当てれる位置がない。



 背後の【同族殺し】は勢いを止めただけで、大して姿勢も崩しておらず。


「お前はこっちだ!」


 別の組がそちらに対応する。



 だが大前提として、【同族殺し】は異常に強い。


 なおかつ今は【雄叫び】により強化されているようで、とても中堅組がなんとかできる相手ではなく。


 【神官】にこの場を任せたようで、【同族殺し】は突撃を再開した。


 実体のないオークたちも、半数はここの屋根上に残る。



 こうして一つ目の防衛線は突破された。

 

 生き残った探検者は、仲間の屍に歯を喰いしばりながらも。


「血刃だっ! そいつ回復もってやがるぞ!!」


 得た情報を周囲に広める。



 オークたちの進撃は止まることなく。


 相手が多ければこちらも相応の数で迎え撃つのだけど、実質は二体のみ。


 肉の壁で勢いを殺すといった戦法もあるが、召喚の多くは町壁に向かわせている。


 そもそも探検者は五人一組の方が慣れていた。


・・

・・


 大通りは暗闇に染まり、〖狼煙〗に照らされる。



 戦いの最中、目をつぶってはいけない。


 これは素の状態だとかなり厳しい制限なので、おそらく神技そのものに目を保護する機能もあったりするのだろう。



 脱落四人組の剣士が使っていた液体やゴーグルだが、それをジョスエが開発したのはけっこう昔。


 値が張るので普段使いは無理だけど、〖薬〗はちゃんと完成していた。


 作り方は公開されてないが、広場で売られていたりもする。


「先生、これ使って」


「あら、悪いじゃない」


 撤退してきたカーク組は大通りの守りについた様子。


「大丈夫?」


「たぶん状況は宿場町方面の方が悪いよ」


 今は〖さらば友よ〗で保てているが、恐らく向こうの外壁までは届いていない。


 グレゴリオという人物は、未だ鉄塊団に強い影響があり、特に中級中堅の面々は彼とのつながりも深い。



 ミウッチャは大きく空気を吸い込み。


「肉鬼の特攻もずっとは無理なはずだから、これが終わるまで耐えしのぐよ!」


 神技または魔技だとすれば制限時間もあるし、それなりのクールタイムが必要になってくる。


 まだ後ろには戦力が残っており、もし突破されたとしてもここで時間を稼ぐ。



 続けて不良どもを見て。


「あんた達はもう一体に備えて」


「わかった」


 臨時の三人をカーク組につける。


 【同族殺し】と対するは新旧いぶし銀のミウッチャたちで、この道には〖聖域〗が展開されていた。



 エドガルドが前方を睨みつけ。


「来たぞっ!」


 〖召喚〗をものともせず、【同族殺し】がこちらへと迫ってきた。


「全員、いったん装備を俺に合わせろ!」


 彼の〖鎧〗は神製であり、そこからくる〖お前の鎧〗も相応の性能が期待できる。



 大岩に圧し潰されたムエレだが、本人は戦えずとも、〖戦士〗が岩の盾で【メイス】を受け止めた。


 しかしその衝撃は凄まじく、容易に押し込まれてしまうが、別の角度から攻撃優先の〖戦士〗が岩の剣を振るう。


 【得物】を握った手を緩め、片足を斜め前にだし、オークは防御型の側面へと逃れた。


「動くんじゃねえ!」


 迎え撃つ形であったなら、前もって〖滑車〗の準備も可能。


 物理判定のない〖鎖〗が三方面より伸び、その巨体を拘束して〖呪縛〗が発動。


「……化け物かよ」


 十分な神力の込められた〖鎧〗であり、熟練としても高いはずの〖鎖〗だったが、攻撃型の追撃を空いた腕で受け止め、【メイス】で岩の鎧を盾ごと粉砕する。


 防御型は崩れかけた盾を捨てると、岩の剣も放棄して【オーク】を両腕で絞めつけた。



 空間より〖黒い腕〗が伸び、【同族殺し】の脇腹に命中。



 武具屋の嫁は味方に合わせるというのが苦手なので。


「危なかったら援護をお願いします」


 先代いぶし銀の時は、彼女が一人で戦っている間に、残る四名が態勢を整えていた。


「たぶん私だけじゃ厳しいかと」


 かつてはヴァレオがその役目を担っていた。


「任せてよ」


 呼吸を整えてから、武具屋の嫁は〖一点突破〗で接近する。防御膜をまとっていないため、仕掛けるのは突きではなく斬撃か。



 【オーク】は防御型の腰当へ腕を回し、無理やりその巨体を動かして盾にした。


「その行動は」


 先ほど確認済み。


 着地と同時に石畳を蹴り、身体を斜め前に移動させる。


 だが【オーク】も読んではいたようで、横薙ぎに【メイス】を振って防御型の〖戦士〗を粉砕した。


 剣士は頭をさげてその一撃を回避したのち、〖血刃〗で相手の太ももを斬るも、振り切った【得物】の反動を無視して、【柄尻】が彼女の側頭部を狙う。


「させないよっ!」


 ミウッチャが〖短剣〗からの〖無断〗で受け止めたが、威力を殺し切れず吹き飛ばされた。


「ありがとう」


 その隙に武具屋の嫁は下がることに成功。



 太ももの傷から〖黒手〗が伸び、それが左腕の握力を奪うも。


「こいつのバフ強すぎて、効果あるか分かんないや」


 ミウッチャは短剣をその場に残して立ち上がると、地面に放置されていた〖刀〗を引き寄せる。



 自分と斬神の神力は別だと認識すれば、混血した力の選別が可能だと判明していた。

 技を使うときは斬神のものを利用し、武器の引き寄せには自分のものを。



 【オーク】が二人に追い打ちを仕掛けようと足に力を込めるが、飛びかかる寸前で思い止まる


 〖戦士〗の岩は修復ができないが、中身の土は補充が可能だった。


 攻撃型はすでに動ける状態になっており、背後から岩の剣で【オーク】を狙うも、【メイス】で弾いたのち手首を返して鎧の岩を砕く。


 その隙にミウッチャが〖空刃斬〗を放ち、肌の露出している部位を狙う。


 大した傷にはならずとも、そこから発生した〖黒手〗が足を掴む。


「思ったほど出血もしてませんね」


 太ももの傷は手ごたえもあったが、恐らく秒間回復と〖血刃〗の治癒妨害が反発しているのだろう。


・・

・・


 【神官】を任された六名は連係ができない。


 水・棍土・盾。


 水・剣土・風剣。


 一方が戦っている間に、一方のクールタイムが終わるのを待つ。



 いつのまにか【神官】は【鎧】にも物理判定が確認されていた。


 これら装備は破損のたびに修復されるが、恐らく魔力または瘴気を失っていくので、それが尽きればもう行動はできなくなるはずだ。



 盾使いが受け止めるたびに〖表面〗が削れているが、下手に交換はしない方が良い。


 〖打撃〗で押し返そうとするも、物質化した【鎧】が一撃の重さと、姿勢の安定を確かなものに変えていた。


 〖酸の雨〗で防具の性能は落ちているはず。


 屋根上の足場より、実体のないオークたちを振り払いながら、情報を得た兵士が叫ぶ。


「本は駄目だ!」


「……了解」


 〖戦棍〗で狙うのは【メイス】を握った側の腕。


 〖無断・重〗で地面に押えつけても、【神官】には実体がないので通じるか分からず。


 直接相手に当てようとした場合だと、この神技は〖戦棍〗の重量を増加させ、威力も一段階強化される。


「どうだ」


 【腕当】は破壊されるも、中身に揺らぎはなく。【肩当】からの体当たりで戦棍使いは吹き飛んだ。


「くそっ」


 〖鎧〗の衝撃吸収は十分に機能してるようだ。


「交代するぞ、隙みてさがってくれ!」


 背後に回っていたカークが〖一点突破〗で接近。〖波〗で吹き飛ばしを狙うが、中身に実体がないためか効果が薄い。


 【神官】は盾使いを【メイス】で押しのけ、そのまま振り返りながらカークを狙うが、〖盾〗を装備したガスパロが防ぐ。


「おらっ!」


 ダニエレが使ったのは蓄積数を全て消費した〖風刃重斬〗であり、それが直接【装甲】を斬り裂いた。


・・

・・


 【雪】に混ざり〖雨〗が降る。


 大通りでの戦いにバッテオが合流し、彼は〖潤いの雨〗を降らす。


 現在ギョ族は水路を使った避難の手伝いをしてくれていたが、一体だけ内壁で待機するよう頼んでいた。

 


 【同族殺し】の打撃を〖両手剣〗で受け流せば、〖氷の爪〗が【装甲】を引き裂く。


 もう一方の腕で掴み取ったが、〖氷〗なのでするりと抜ける。


 石畳の地面を滑りながら【オーク】の股下を潜り、振り返って後退しながらも膝裏を斬った。



 武具屋の嫁とボスギョが相手となれば、【同族殺し】もさすがに厳しい。


 〖鎖〗による拘束にも制限時間があり、先ほどの呪縛はもう終わっていたが、エドガルドはすでに〖滑車〗の準備を終えていた。


「行くぞ!」


 三方からの〖呪縛〗が発動すれば、ミウッチャは〖鞘〗に戻していた〖刃〗を解き放つ。


 〖黒手〗が断たれ、【同族殺し】の四肢から血が飛び散った。


 神力を沈めてから〖あたすの剣〗をまとわせ、〖一点突破〗の銀光をまとう。


 せまる〖刃〗を握り拳で横から弾き、続けて【メイス】を振りかざす。


 回転しながら打ちつけた〖氷の盾〗がその【一撃】を流し、武具屋の嫁が〖血刃〗で瘴気を〖抜〗いてから一歩さがる。



 油断はしない。


 ミウッチャは片足を前に進めながら横にそれ、手首を返して【メイス】を握った前腕に〖無断〗を発動させた。

 

 【同族殺し】が顔をしかめ、ついに【メイス】が石畳の地面へと。


「終わらせます」


 武具屋の嫁が飛び込もうとした瞬間だった。



 これまで兵士たちを狙っていたオークの集団が、一斉に彼女たちへと襲い掛かる。


 ダメージはない。だがそれは確かな隙となる。


 身構えたミウッチャが。


「やられたっ!」


 【同族殺し】はメイスをそのままに、〖鎖の呪縛〗に引きずられながらも走り出した。


「させっか」


 エドガルドは〖滑車〗を出現させ、【オーク】の背中に向けて放つ。


 〖巻き取り〗でその動きが一瞬止まり、四方からの〖呪縛〗となった。


 追いかけようとミウッチャは一歩を踏み出すも、その行動はボスギョに止められた。


「もう一体がこっちに来ます!」


 オークたちが狙いを変更したのはここだけでなく。


 そちらを迎え撃つため、武具屋の嫁が〖剣〗を構える。


・・

・・


 オークたちの援護がなくなれば、兵士たちの〖遠距離攻撃〗は問題なく放たれる。



 その個体は読み書きができず、もとは戦士だった。



 新たに作り出した【大盾】で〖矢〗を防ぎ、【大剣】で〖ゴーレム〗を薙ぎ払う。


 戦士だったころから、彼は常に先頭を駆けてきた。


 探検者の〖中距離攻撃〗を【盾】で受け止め、突撃してきた槍の〖切先〗を【剣】で砕く。


 その叫びが壁内の民たちを震わせる。


 前に、ただ前に。


 誰よりも真っ直ぐ。



 やがて視界に内壁を捕らえる。


 それは神官として、自分で決めたルールを破る行為。


 夜空に輝く〖紋章〗のお陰か、いつもは霞んでいた思考が少しだけ晴れていた。



 数秒が経過すれば、ついに戦神への挽歌は終了した。


「なんだい急に立ち止まって」


 振り返るが、これまで突き抜けてきた人間たちと、土くれの残骸しか確認できず。


「まあ有難い話だがね。あんた速すぎて追いつけりゃしない」


 見上げれば、苔むした〖岩亀〗が浮かぶ。



 ゆっくり地面へと降り、声の主は石畳へと靴底をつける。


 白銀の髪は一つに編まれ、後頭部にまとめられていた。


「せっかく伸ばしたから切るか悩んだが、やっぱしっくりこないねぇ」


 装備の鎖を操作して〖鎧と盾〗をまとうも、どうやら〖兜〗に違和感があったらしい。



 その身体には〖火〗が灯っていた。


 確かに青いが、他の色も混ざっているので、〖蒼炎〗と呼ぶには疑問が残る。


 〖再生〗というのだから、もっと勢いよく燃えているのではと思ったが、実際は想像したよりも頼りない。



 剣を出現させ、それを胸元へ持っていく。


「んじゃ、お手合わせ願おう」


 構えを解き、〖剣先〗を地面に突き刺す。


 続けて〖短槍〗を取り出して神力を沈めれば、そちらもまた同じく。


 最後に握ったのは〖メイス〗だったが、これも石畳に落してしまう。




 以前から知ってはいたが、彼女の場合は自分で発見したものだった。口外しなかったのは装備の鎖を使った方が安全であり、武具屋の嫁が異常なだけで、使いこなすにはかなりの練習が必要だから。


 それに刻印がないため、神力は中々貯めれない。




 先ほどまでの喧騒は消え、周囲は静まり返っていた。


「なにぶんブランクが長くてね、あんたに応えられりゃ良いんだがよ」


 新たに出現させた〖盾〗に神力を沈ませながら、ゆっくりと構えを整える。


 彼女の動きに合わせるように、【オーク】も盾を手放して【大剣】を持ち上げた。



 〖引力の渦〗が発動すれば、その隙をみて飛びかかると予想していたが。


「来ないか」


 弾ける渦の逆回転を、相手の攻撃に合わせるつもりだった。


 【オーク】はその場で構えを崩すことなく踏ん張っていた。



 全ての動作が終わったのを確認してから、一気に騎士との間合いを詰める。焦らず〖重の盾〗で受け止めれば、その【大剣】の重量を軽くした。


 もう片方の〖盾〗を装備の鎖にもどし、代わりに〖メイス〗を引き寄せる。



 相手の【脛当】に命中させるのみだったが、〖重の鈍器〗がその部位を重くする。


 魔技による身体強化はすでにないが、魔力混血は未だ健在。


 重さを増した片足を前に進めながら、もう片方の手で【大剣】の柄を握りしめ、軽くなった得物で〖盾〗ごと相手を圧し潰そうとする。


「馬鹿力なら、私もさ」


 熱さの無い〖蒼炎〗が、彼女の肉体を再生させる。


 重の鈍器は効力を失うも、いったん【脛当】から離された〖メイス〗に、赤い炎がまとわり付く。


 当たった位置が延焼する訳でもないが、その一撃には確かな威力が込められていた。


 【オーク】は危険を即座に感じ取り、重量の戻った足を後ろに下げる。


「もう一手先があってね」


 振り抜いた〖メイス〗を手放せば、相手の【鉄靴】へと減り込んだ。


 開かれた手の平に反応して、彼女のもとに〖剣〗が引き寄せられる。



 激痛に表情を歪ませながらも、これまでの経験が下がっては駄目だと、【オーク】を前に進ませた。


 実際に間合いが近くなり、剣での振り上げが困難と判断し、騎士は〖重の剣〗での動作阻害に切り替える。


 【オーク】は欠けた牙を喰いしばって【柄尻】を振り下ろしてくるが、〖重の盾〗は触れた武器の重量操作なので、こちらは引き続きの使用が可能。


 〖蒼炎〗の馬鹿力で押し返すと、〖剣〗の握りを持ち変えてから、その切先を腹部へと向ける。


 先ほどのような赤い炎が付かないという事は、連発もできないのだろう。



 【オーク】は【柄】から片手を離し、騎士の突きを握り止めるが、すでに彼女の手は〖剣〗から離れていた。


 引き寄せた〖槍〗は短く握られており、その先端が〖剣〗を掴む前腕へと突き刺さり、〖重の槍〗が【ガンドレット】を重くする。


 〖盾〗に力を込めて横へと払えば、軽くなっていた【大剣】が弾かれた。


 装備の鎖に盾をもどし、引き上げた〖メイス〗を掲げれば、〖赤い炎〗が鈍器を包む。



 騎士は〖柄〗を握り締めたまま。


「そのまま進んでりゃ、数発は打ち込めてたはずさ」


 此度の戦場において、目的は壁の破壊ではなかったのだろう。


 軽くない損害を受けたが、その点だけは。


「感謝する」


 ずっと苦悶に満ちていた表情が消え、【オーク】の固く閉じられた口がわずかに緩まった。




 〖怨嗟〗が減り込み、戦士は灰となって散る。

 

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