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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか終わる世界に
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3話 目覚め


 野戦で素早く陣形を組むなど、集団で行うにはかなりの訓練を必要とする。


 籠城が主体となっている現在の戦争でも、兵士などは〖弓矢〗の鍛錬は欠かさない。


 探検者は日ごろから小規模の集団で戦うなどはしていたが、〖犬〗や〖狼煙〗といった神技がなければ、外壁での戦いは成り立たなかったはず。


 撤退戦ではこれら二つの要素が機能しなくなる。いくら事前に話が通っていたとしても、外壁と町壁を放棄して引くというのは、訓練の経験がなければ厳しいものがあった。


 事実としてスムーズに撤退できた場所は少ない。



 グレゴリオは意図的にその神技を使ったのか、それとも使える状態になってしまったから、止むを得ず発動させたのかは不明。


 発動条件があまりにも限られているぶん、その効果は絶大だった。


 〖さらば友よ〗は覚醒技の時代から確認されていたが、今は勇気神との合作に改良されている。


・・

・・


 勇気の加護を得る上で、もっとも重要とされるのは臆病という性格。


 勇者の数は意外と多いが、精神安定や戦意高揚のバフは〖恐怖の紋章〗により無効となってしまう。そのため実戦で使える加護者はとても少ない。


 なにか一つの切欠が原動力へと変化する。




 試練のダンジョンに挑戦するのは、そのほとんどが若者とされる。


 かつて三十半ばで加護を得ようとした男がいた。


 戦場で行方不明となった彼の妻は、とても有力な探検者だった。


 子供はいなかったが、とても仲が良かった二人。


 彼女の面影を戦争に求め、男は勇気を振り絞り続け、最後に殺された。


 その者は地母神の勇者として、今も都市同盟の歴史に名を刻む。


・・

・・


 警戒期に入る数カ月前。


 内壁近くの屋根上に木製の足場が組まれ、そこに兵士を配置できるよう作業が進められていた。


 だが市街戦の準備が本格的に始まったのはここ数日であり、外壁に近づくほどバリケードによる封鎖は完了していない。



 〖聖拳士〗や〖ゴーレム〗が外壁に到着したころ。


 兵士を守りながら二組の探検組は撤退していたが、【強個体】の〖気配〗を感じ、うち一組がそちらの足止めへと向かう。


 彼らの実力だが、迷いの森でも活動しているが、まだその中心は序盤の森だった。それでも今回の戦争を通し、多くの探検者が戦士としての経験を積んだと言うべきか。


 兵士たちが逃げれるだけの時間を稼いだら、自分たちも引くという指示を初級組に残し、彼らは横道へと走っていった。


 〖索敵〗は正しかったようで、その方角より〖狼煙〗が昇る。


 


 結果として、この判断は失敗だった。


 正解とは言えないかも知れないが、探検者二組で大通りに残り、兵士だけを内壁へと走らせる方が良かった。


 また外壁から逃げてくる探検者たちには余裕もなく、町中の〖狼煙〗は避けて通る。



 別れてすぐに大通りより、壁を越えてきた小型と中型の集団に追いつかれてしまった。


 残された初級組は兵士たちに増援を呼ぶようお願いし、敵との戦いに突入した。




 彼らもまた一名を除き、この戦争で変わったようだ。


 喧騒のさなか、少女は空を見上げていた。その瞳に映る紋章は〖友情〗でありながら、どこか〖勇気〗を感じさせる。


「セレナっ! ちゃんと前見て!」


 少女を狙った骨鬼の攻撃を、リーダーが〖ガントレット〗で受け止める。


「ごめん」


 槍を握りしめるが、それだけで動くことができず。



 水使いが〖槍〗で相手の足を打ちつけ、姿勢が崩れたところでリーダーの〖剣先〗が骨鬼の喉を貫く。


「ただでさえ人手が足りないんだから、集中しようよ!」


 いつも草むしりのことしか考えてない奴に言われたくはないだろう。


「ボーっとしてると髪の毛むしっちゃうぞ!」


「うぅ」


 現状で少女が貢献しているのは、〖貴殿の槍〗系統の神技だけだった。



 いつも通り怖くてたまらないのだけど、上空の〖紋章〗を眺めていると心が落ち着く。


 少女には効果が薄いけれど、沢山あるバフの中で最も凄いのは、〖精神安定〗や〖戦意高揚〗系ではないだろうか。


 剣使いの少年だが、いつもは緊張で力んでしまい、なにかと空回りしてる印象。だけれど今は動きが別物となっていた。


 水使いも〖精神安定薬〗がなければ、とっくに探検者を諦めたはず。


 


 感情神と関係するこれら神技がなければ、戦争というストレスだらけの状況で、精神を病む者はずっと多かった。


 彼らが戦えているのは、間違いなく〖さらば友よ〗が影響している。


 魔系統特化は魔物へのダメージ強化だけでなく、水使いの〖回復神技〗にも効果が発揮されており、雨中でなくても小鬼の毒を治療できていた。


 だが実力が低いことに変わりはない。


 前衛は剣と鎧でなんとかなっているも。


「伸で良いから使って、そっちに行かないようにするから!」


「う、うん」


 セレナと呼ばれた少女に接近戦は難しい。


 〖伸〗で何体かの骨鬼を攻撃するも、足止め程度にしかならず。


 〖鎖〗の引き寄せは物理的なものなので、槍で攻撃すれば意識は彼女へと向けられる。


 リーダーは水使いの名を呼んでから。


「私が受け持てないぶんは、貴方が喰い止めて」


「わかった」


 量産品の〖将鎧〗で強化されているとはいえ、彼女が同時に出現させられる〖鎖〗は七本で限界だった。


「一点突破いける!」


「風波じゃなくて、普通の方を使って!」


 横切るだけで突風が発生するも、【風翼】ほどの吹き飛ばしは期待できない。


「行くぞ!」


 近場の個体を〖一点突破〗で殺し、〖波〗に巻き込まれた数体をリーダーが仕留める。


 その隙に何体かがセレナと水使いに迫るが、〖風刃・血刃〗がゴブリンの足に伸び、地面に大量の血を飛び散らせる。


「目つぶっちまった」


 続けて何体かを狙うが、血刃の効果は停止する。


「風波にもデバフがあればよかったんだけどな」


 〖寒波〗 悪寒。


 〖熱波〗 敵に当てることなく発動できるが、吹き飛ばしの威力は弱まる。また直に命中させた個体は、他よりもデバフの持続時間が延長される。


 〖風波〗 相手が強者であれば安全に姿勢を崩せるが、雑魚だと通常の〖波〗で一体を確実に沈黙させた方が良い。



 リーダーが〖鎖〗で二体を引き寄せる。


「セレナっ! ちゃんと伸で攻め続けて!」


 少女の槍には水・土・火・風の属性は付かなかった。


 水使いが一体を〖槍〗で喰い止めるが、残る一体の小鬼がそのままセレナを狙う。



 少しずつ実力と自信をつけている三人。


 それに比例して自信を失っていく自分。



 自信のない者に競わせるのは、あまりにも酷な話だ。


 指導方法が皆同じで良いはずがない。


 自分の殻に閉じこもり、自分しか見ていないと言われる場合もあるだろう。


 だけどそうやって強くなった者は確かにいる。


「えいっ!」


 目をギュッとつぶり、握りしめた〖槍〗で上からゴブリンの頭を叩きつけた。



 喰いしばった歯をそのままに、ゆっくりと目を開ける。


 そっと頭に手が添えられた。


「やったじゃん。次は無断と一緒に使えるよう頑張りな」


 兵士が応援を寄こすように頼んでくれたのだろう。


 今回の戦争だけでなく、モニカという存在があったからこそ、この四人は今ここに立てているのかも知れない。



 魔系統特化があるにせよ、セレナの一撃は頭部に命中せず、小鬼の肩に当たったようだ。それも柄の部分だったから、〖無断〗でないと殺し切れなかったかも知れない。


 毒の塗られた刃は、モニカの〖短剣〗に防がれていた。


 熱を発する〖腕〗がゴブリンの顔面を掴み、煙を発しながら持ち上げられる。


「ヒート・エンド!!」


 ゴキリと嫌な音が鳴り、そして灰に帰った。


 〖赤光玉〗より〖炎球〗が連射され、骨鬼とゴブリンを焼く。



 〖治癒の輝き〗が周囲に広がり、鎧と剣の傷を完全に癒す。


「こっちでも効果あるよぉ」


 ジョスエが向こうにいるので、モニカ組にはサラが加わっていた。


 内壁からこちらに向かって来たのか、それとも〖光壁〗の足場で建物を乗り越えたのか。


 上空を覆う〖紋章〗の中心は、教都方面の町壁であり、中央通りからは少しずれた位置だった。


 サラはその方角を見つめ。


「彼……じゃないよね?」


 勇者は例外として、二神の加護持ちはとても珍しい。


「ルチオはまだ熟練が足りてない。そうなると、もう一人しかいない」


 使う機会は生涯に一度切りであり、友情の神技でも最高難度。


 回復神技があるため、この世界では致命傷でも助かる可能性は残っていた。だが自分で〖決別の紋章〗を背負った場合、全ての回復は無効となる。

 


 ヤコポは空の〖紋章〗を眺めると、自分の背中にふと意識を向けるが、そこには何もなく。槍を手にしたまま、視線をモニカへと向け。


「神技くれ」


 槍身一体なため、〖貴殿の槍〗ではなく、〖あんたの槍〗をもらう。


 ゾーエの〖炎〗に巻き込まれながらも、トゥルカが小型中型を蹴散らしていく。


 サラが〖ローブ〗をまとい、〖杖〗を手に〖日光〗の準備を始めている。



 リーダーの鎧使いが、一方を指さしながら。


「モニカさん!」


「ここを片付けたら、もう一組の様子を見に行かなきゃね」


 最後に少女へと視線を落とし。


「四人だけで内壁まで逃げな」


 セレナは何度もうなずく。


・・

・・


 頑張って戦い続けた四名は後ろにさがったが、モニカ組が残った十数体を片付ける。


 すでに外壁では探検組の大半が撤退に入っていると思われるが、〖聖拳士〗と〖ゴーレム〗がなんとか防いでくれているようで、魔物の増援も確認できず。


 町中で昇った〖狼煙〗は撤退する探検者も避ける。



 結果として、彼らが横道へと向かうことはなかった。




 視線は上を向いており、白目が剝きだし。


 力なく開かれたダラしない口からは涎が垂れ、ボロボロの折れた牙がうかがえた。


 黒と赤の血に染まった胴体には紐が巻かれており、大きな本らしき物を背負う。


 なにも持たない手は何本かの指が欠けているが、すでに血は止まっているようだ。


 足には新しい無数の傷。


 空を眺めているが、その視線に〖紋章〗は映っていない。


 【雪】が顔に付着しても気にせず、口の中に入った水分は蒸気となって白く空気を汚す。


 布できつく固定されたメイスが石畳を擦り、赤い線を引いていく。



 モニカは横を指さして。


「サラさん、この子たちを向こうの通りに」


「わかった」


 もし突破された場合、追いつかれる可能性がある。


 初級組のリーダーに向け。


「【汚染】のことを内壁に伝えて」


 この特殊個体はこれまでの歴史で多くの被害を齎してきた。


「とりあえず、これだけ残してく」


 モニカの前方に二重の〖光壁〗と〖光十字〗を展開させる。


「すぐ戻るから」


 いったんこの大通りをさがってから、〖光壁〗の足場で隣の道に移動するのだろう。


「無力ですが」


 この場の全員に〖鎧〗の神技を使う。


 水使いは〖消毒の雨〗を降らす。



 走り出した四人。


 動けない少女が一人。


「セレナっ 早く!!」


 サラに叫ばれ、少女は後ろを振り向きながら移動を始める。

 




 馬鹿みたいな表情で上を向いていた肉鬼が、いったん動きを止めた。


 ゆっくりと前を向く。


「みんな、私の後ろに」


 できる限りの神力を自分の断魔装具に沈ませる。


「〖宿木〗を召喚して」


 剥きだしの白目はなにも捉えず。それでも四人の存在を把握したのか、大量の涎を撒き散らせながら前傾姿勢で進んできた。


 こんなものは叫びでもなければ、咆哮ですらない。


 得体の知れない音に全身の毛が逆立つ。



 女型の木人が宿木の弓で矢を放つが、その勢いは衰えず。


 姿勢もできていなければ、足取りも頼りない突進だったが、〖光十字〗と〖光壁〗は破壊された。


「よしっ!」


 地炎撃を使うこともなく、突進の威力は二重の〖壁〗で殺された。



 油断はしない。


 【汚染】は特殊個体の中でも多く確認されており、なおかつモニカは肉鬼を恨んでいるのだから、そこら辺はちゃんと調べていた。


 〖水伸〗は使うも、これは防護膜のためであり、〖氷衣・一点突破〗からの〖波〗は通常のそれ。


 この中で一番防御が高いのはモニカであり、今は〖鎧〗の神技も貰っている。


 悪寒が通用するのかも不明だが、このデバフで意識を〖炎〗に向けさせるのは得策ではない。



 肉鬼は防御の姿勢をつくる訳でもなく、〖槍〗の切先は腹へと吸い込まれ、肉に減り込み血が噴きだす。


 魔系統特化で威力は増しているはずだが、手ごたえは感じられず。


 〖波〗で上半身が仰け反るも、後退はほとんどない。


 口から黒い血の混じった涎が吐きだされるが、オークは顔を空に向けたまま、身体を起こしながらメイスを握った拳を振り下ろす。


 〖槍〗を即座に装備の鎖へと戻し、武器を無視した拳打を回避する。


 指の欠けたもう片方の腕で掴みかかって来たが、鎖から取り出した〖短剣〗で叩き止めた。



 【汚染】に武器を使うという考えは残っていない。


 自分の関節などを無視して、強引に身体を動かし確かな一撃を放ってくる。


「うおりゃっ!」


 本当は炎人を使いたいが、今の熟練では都合よく成功もしない。


 〖炎剣〗がメイス側の上腕に命中すれば、傷口より〖炎〗が噴きだす。その熱がトゥルカの体温を一層に上昇させ、刃が減り込んでいく。


「断ち切れねえっ!」


 筋肉により骨まで届かず。


 突き刺さっていた〖槍〗も急所が外れていた。


 今その身体を支配しているのは細菌であり、これらは肉を操作して内臓を動かす。



 【汚染】は腕を振り抜き、肘でトゥルカを遠ざけた。


 モニカもその隙にいったん離れる。


 ゾーエが叫ぶ。


「ここから接近戦は禁止!」


 肉鬼の傷口から噴き出していた血が霧状に変化して、その周囲を黒く包む。


 男型の木人が前にでれば、トゥルカも姿勢を立て直してから〖地炎撃〗を発動させた。




 黒霧の中。なにも持たない側の腕が振り下ろされるが、木人はそれを宿木の盾で受け止める。女型の弓による援護を受け、その一撃を耐えることに成功すれば、続けて〖宿木の槍〗を足に刺し込む。


 肉鬼は足へのダメージを無視したまま、メイスを握った腕で攻撃をしてきた。武器として使われなくても、そちらの拳は重さが増しているため、男型は叩き潰されて一旦機能を停止する。


 〖ローブ〗で赤く輝いたゾーエが、〖杖〗からの〖火炎放射〗で【汚染】を焼き尽くす。



 しばらくすれば〖消毒の雨〗と〖眠者の寝息〗により黒霧は消えていく。〖さらば友よ〗で回復の弱体が消えているのも大きい。


「仕掛けて!」


 ゾーエの合図でモニカが飛び出す。


「たぶん悪寒の引き寄せはない!」


 〖槍〗が肉鬼の心臓部に突き刺さり、〖寒波〗により仰け反れば、傷口を中心に上半身が凍りつく。


 〖炎〗だけでなく、細菌により限界を越して動かされた筋肉が高熱を発し、無理やり心臓を外させる。


 本来であれば重症とされる傷を負っても【汚染】は動きを止めず、メイスを握った腕を振りかぶってきた。


「させねえ」


 ヤコポが〖宿木の槍〗を突き刺して邪魔をした。


「熱血っ!」


 〖炎身〗で強化された肉体を使い、〖剣〗を首に突き刺そうとするが、空いた腕で払いのけられる。


「離れて、また霧になり始めてる!」


 そのまま通り抜けたトゥルカが、振り返りながら再び飛びかかった。



 背後からの斬りかかり。


「……」


 理性を失った目に何かが灯る。


 雄叫びと共に黒霧はただの血に戻り、ヤコポの〖槍〗ごと押し倒すと、そのまま後方のトゥルカをメイスで叩き飛ばす。



 脳にまで浸食した細菌が再び感情を奪う。


 モニカが後ろに下がろうとした瞬間だった。


「なっ」


 〖一点突破〗が【汚染】の太ももに突き刺さるも、〖王木の槍〗に神力を沈め忘れていたのだろう。


 空いた腕で〖柄〗を掴まれ、握力のまま引き寄せられる。


 剥きだしの牙が少女へと迫るも、寸前のところで押し退けられた。



 ボロボロの牙が〖氷〗を破り、〖肩当〗と首の〖鎖帷子〗に刺さる。


「ふざっ ける……なぁ!!」


 装備の鎖より〖短剣〗を取り出し、側頭部へと突き入れるも、牙が〖鎧〗に喰い込み骨が軋む。


 元となる神技の熟練が低い。



 尻から倒れた少女が、ゆっくりと顔を上げた。


 頬に赤い血が付着する。


「離せ、はな…せ!」


 骨が砕け、さらに肉を抉った。


 続けて何度も〖短剣〗で突き刺すが、顎の力は弱まらず。細菌が弱めることを許さない。



 立ち上がったヤコポが〖将槍〗で首を狙う。


「なにボケっと見てんだ!」


 少女に加勢するよう叫ぶが、震えてしまい動けず。


 彼女の槍は【汚染】の握力にへし折られていた。


「モニカの槍があるだろうがっ!!」


 握られていた短剣が地面へと落ちた。


「……して」


 武器がなくなっても、握った拳で叩き続ける。


「かえ、しっ て……よ」


 理性を失った眼球に指を突っ込み、涙を滲ませながら声にならない叫びをあげた。





 メイスが振りかぶられ、大通りの建物を轟音と共に粉砕する。


 数日前に確認された【同族殺し】も、町壁を破壊した【肉鬼】も、大きな本は背負っておらず。



 硬く閉じられた口が緩み、【汚染】は後ろへと振り向いた。



 解放されたモニカを片手で抱え、残った腕で少女を引きずりながら、ヤコポは〖宿木〗まで何とか運ぶ。


 追いかけてきたサラが急いで〖天の輝き〗を発動させるも、返しての一言だけを残す。


・・

・・

・・


 かつて魔神との戦いで、人間の肉体を失った神がいた。


 彼女は(のち)に大罪を犯す。


 急造でつくった神技。それに込めたのは感情の紋章ではなく、戦場で散った一人の魂。



 あなたと共に歳を重ねたかった。



 それ以降。地上に降りた神々は異性を愛する感情を封印された。


 同時にその神技は眠りについた。


 機能を消すことは出来ず。


 もう二度と目覚めないよう、瞼は固く閉じられた。



 同じ魂だとしても、それを同一人物と呼ぶべきか。


 不完全な身体に宿る魂。


 残るのは宿命か、それに通じるなにかのみ。


 もう二度と目覚めないよう、固く封じたはずだった。



 〖宿木〗が〖立木〗へと変化して、赤子だった〖眠者〗は成人の女性へと。


 木人はその造形を強め、親としての気配を無くす。



 見覚えのある三人をみて、ただ一人残された男は。

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