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いつか終わる世界に  作者: 作者です
法滅尽経
112/133

異なる世界の物語




 

 光より出でる種族。


 人は数と知恵に優れる。


 森人は自然に身をおく。


 鉱人は鍛冶だけでなく、火薬という秘蔵の技術を持つ。



 闇より出でる種族。


 卑しき者と呼ばれた者たち。


 もとは害獣のたぐいとして忌み嫌われる存在だった。闇の王なる者が現れたことで、少しばかりの知能を得て、その繁殖能力を活かした雑兵として扱われる。


 時代はながれ、いつしか彼らの王は破れ、いくつかの連なる種族が滅亡の道を歩む。



 元より求道者とされる者は戦争に興味を示さず、各地の山にこもっていた。


 知能が低かった巨大な者は人間にも従う。


 卑しき者と強欲な者も、数が多かったからか滅びを免れる。


・・

・・


 とある国の見晴らしの良い山。その頂上には砦が建っていた。


 周辺を巡回していた卑しき者は、仕事をそっちのけで空を眺める。そんなことをしているものだから、仲間と逸れてしまった。



 ボーっと空を眺めていたら、複数の足音が聞こえて来たので、草木の陰から覗きこむ。


 図体のでかい武装した集団が、列を成して山道を下っていた。



 自分たちと強欲なる者に女の性はない。


 まだ害獣だった頃は近場の村から娘を搔っ攫い、好き勝手に暴れながら繁殖をしていたが、それは大昔の話だった。


 褒美としてもらえる罪人や敵または異教徒の女は少なく、こちらに回ってくることなどまずない。


 闇の王がいなくなっても人間は戦をやめず。真っ先に死ぬのは使い捨ての自分たちだろう。



 大戦の最中。強欲な者は同族から戦神がでるという奇跡が起こり、今では戦闘種族として高い地位を得て、人間にすら一目置かれていたりする。


 奴らが村や町で狼藉を働くのは、壁の中に籠っている敵を刺激する時だけ。


 戦神の名を汚すことを神官は絶対に許さない。


 メイスを与えられるのは戦に生涯を捧げると誓い、その長年の信仰が認められた者のみ。


 さらに産まれてから一定の期間を禁欲できれば、戦神より祝福を授けられる。


 強欲と呼ばれるだけあり、それを成し遂げられるのは歴史上でも一握りだけ。



 連中は自分たちを見下しているが、神官が怖いので表立ってそういった行動はしてこない。それでも元は同じ害獣だったのに、こういった差がついてしまったことに、小さき者たちは劣等感を感じていた。


 見つからないよう、木の幹に身体を隠す。



 求道者は人間も容易には手を出せない化け物だが、怒らせなければそこまで問題もない。


 奴らにとっての武とは目標のためにある道の一つに過ぎず、戦いに重点をおかない者もいるが、時に山を下りてくる個体もいた。


 連中が求めるのは強い集団よりも、強い個であるからして、大戦時には光側につく場合も多かった。


 


 軍用。または家畜扱いされている巨大な者より、卑しき者はずっと使えないと馬鹿にされる。


 自分は底辺とされた種族のさらに下っ端。


 だけどもっと下がいる。頭が悪い自分たちの中でも、知恵遅れとされる者だ。



 木の枝から鳥が羽ばたき、自由な空へと舞い上がった。


「おれも、とびたい」


 彼は思う。


 考える力などいらない。


「とおくにいきたい」


 害獣であった頃の方が、自分たちは繁栄していた。


・・

・・


 そいつは岩の上に立っていた。


 木の枝と大きな葉で作られた物を紐で両腕に固定し、バタバタと動かしながら飛び跳ねる。


 小さい身体といっても重力には抗えず、地面に尻から落ちてしまう。


 しばらく痛みにうずくまりながらも、なんとか身体を起こす。岩を回り込んでよじ登り、もう一度勢いよくジャンプした。



 いくども繰り返す。


 卑しき者たちに権利などはないので、彼らには休日もなかった。それでもサボる知恵はあるし、寝たり食べる時間は与えられている。



 何日も何日も続ければ、その奇行は同族に伝わり、やがて人間にも知れ渡った。


「なにやってんだお前?」


 数名の人間が彼を見あげていた。


 岩上より見下ろしていると殴られるかも知れないので、小さき者はその場から下りる。


 サボっていたことが知られ怒られると思ったが、そういった気配は感じないので正直に。


「……とびたい」


 人間はぶふっと息をふきだし。


「だから鳥の真似してんのか?」


 小さき者はうなずいた。


 人間たちは互いの顔を交互に見て。


「まあ頑張れよ」


 ニヤケながら去っていく。小声で内緒話をしているようだが、変に絡まれずに済んだので良かった。



 数日後。いつものように時間の隙を見て岩に向かう途中、この前の人間に声をかけられる。


「おい、お前まだ飛びたいんだよな?」


 うなずきを返し相手を見ると、その手には自分がつくった物よりも、ずっと立派な翼を持っていた。


 骨組みは枝ではなく薄い木材で作られており、布が確りと張られている。


「……それ」


「やるよ」


 頭をさげ、立派な造りの翼を受け取り、いつもの岩に向かう。その人間もついて来ていた。


 両腕に固定するのを手伝ってもらい、高い足場より飛び上がる。


 これまでの粗末な物よりも、しっかりと空気を受け止められている気がした。


 手ごたえを感じ、何度か繰り返す。


 鼻息を荒げ。


「きっと、いける」


 それを見ていた人間は悩むようにうなりながら。


「もっと高い場所からじゃなきゃ駄目なんじゃね?」


「……」


 でもこれより高いのは危ない。実際に今の岩でも全身にかすり傷を負っていた。


「壁に上らせてやっから、そこまでとりあえず行ってみようぜ。無理なら無理で良いじゃんか」


 砦の壁は自分たちの持ち場ではないので、上る機会はあまりない。


「ちょうどいい場所があっから、ついて来いよ」


 人間は勝手に歩きだす。返事をしてないが、ついて来いと言われたのだから従わないと後が怖い。



 木製の壁。


 その高さは場所によって違い、案内されたのは比較的に低い場所だった。


 だけどそれでも岩よりずっと高い。


「おーい、連れて来たぞっと」


「待ってたぞ」


 十数名の人間がすでにいた。


「俺は飛べないに賭けてっから、怖気づいても良いけどなぁ」


「なに言ってんだよ、飛べるに決まってんじゃねえか」


 自分が飛べるかどうかにお金でも賭けているらしい。もしくは壁からジャンプする勇気があるかどうか。



 小さき者は顔をこわばらせながら、ここまで連れてきた相手を見あげる。


「無理なら無理で良いぞ。まあでもちょっとガッカリだな、あんだけ頑張ってたのに怖気づいちまうってのは」


 悔しくて歯を喰いしばる。


 野次馬が煽ってくる。


「おらどうしたんだよ、さっさと決めろよ!」


「男だろうが!」


 小さき者は人間たちを見渡す。


 飛べ 飛べ 飛べ。


 彼らは声を合わせて、リズムよくその言葉を繰り返した。



 翼をつくってくれた者がニヤケながら。


「お前の飛びたいって気持ちは、その程度だったのかよ!」


 逃げ場はなく。


 奥歯をガタガタさせながら、凹凸に手をかける。


 立派な造りの翼を両腕で羽ばたかせる。


 足が震える。



 ギュッと目をつぶる。


 だめだ、怖くて足を踏み出させない。


 後ろに降りようとしたその時。下方より声が聞こえる。


「そいつが言ったのが本当で、お前が本気で飛びたいって願ってるなら、意識を向けるのは下じゃねえだろ」


 声の方を見ると、そこには一体の小さき者。


「真っ直ぐか、上を見ろっ!」


 目をひらき前を睨みつけ、そして天を仰ぐ。


 青く、青い。


 大空が広がっていた。


「俺が何とかしてやる、行け!」


 下を見ようとして、やっぱダメだと上を向く。

 

「あ……あ”っ、あ”ぁぁっ!!」


 力いっぱい腕を振りながら、青空だけを目指して飛び跳ねる。


 高く、もっと高く。



 だが無常にも、空は遠ざかり落ちていく。


 着地が上手くできず、ゴキリと嫌な音がなる。


「本当に飛びやがった!」


 人間たちの笑い声が聞こえてくる。


「気にすんな。第一歩じゃねえか、お前すげえよ」


 足を抱えて痛みに悶える。


「う”ぅっ」


「ちょっと待ってな」


 そこら辺に落ちていた木の枝を袋に突っ込み、黒い粉を付着させた先で地面に何かを描く。


 手を添えると、紋章が光だす。


 なにかブツブツと難しい言葉を唱えたかと思ったら、折れた足がギシギシと悲鳴をあげ、一層の痛みが生じながらも骨が繋がる感じがした。


「野暮用で来たんだが、良いもん見させてもらった。おら立てるか、肩かしちゃる」


 名前を聞かれた。


「兵器開発してる連中の力借りれねえか、親分に頼んでやらあ」


 こいつはたぶん知恵者と呼ばれる奴だ。人の遺伝子が反映されているのか、見た目も他の個体とは違いがあった。


 まあ卑しき者なので、人間の賢者と比べるのはあれだが。


「おいどこ行くんだよ、もう一回飛んで見せてくれよ!」


 笑い声を背に浴びながら、二体はその場を去っていく。


「嫌な奴は俺らにもいるけどよ、ちゃんと良い奴だっているんだ。親分は人間だけどな、すっげえ優しいんだぞ」


 ありもしない髭をいじくる動作をする。それは親分なる者の真似だろうか。



 人間たちの視線が届かなくなると、知恵者は周囲を見渡して。


「あの馬鹿どこ行きやがった」


「……」


 もう一体いたらしいが、彼がまた人間に喧嘩を売るのだと勘違いして、そいつは隠れてしまったとのこと。


「いちいち殴りかかっても意味がないって俺も学んだんだ。もう親分の迷惑になるようなこたぁしねえっつうの」


 まだ痛みはあるが、だいぶ引いてきた。


 腰をかけられそうな倒木を見つけたので、そこにいったん座らせてもらう。


「怒んねえから出て来いって!」


 まだ近くにいるのだろうかと目だけで探せば、木の幹に隠れた一体がひょっこりと顔をだす。


「あっ、アニキ。ごっ ごめん」


 そいつをじっと見つめていると、視線を反らしてビクビクしだす。


「おっ オデこわくて」


 おどおどしながら自分と知恵者を交互に見て、耐えきれなくなったのか下を向く。


「こいつ仲間内からも知恵遅れなんて馬鹿にされててな、しゃあねえから俺が面倒を見てやってんのよ」


 結構な距離を歩いてきたようで、二人とも旅装束だった。


「まあ馬鹿なこたぁ違いねえけど、実際は臆病なだけだ。ちゃんと命令は守るしよ、見境なくおんにゃの子を襲ったりもしねえ。つうかできねえ、人間のガキにすら虐められるくらいだ」


 臆病者は知恵者を見て、何度もうなずきながら。


「おっ オデ。アニキ、いっしょじゃねえと、だっ ダメだ」


「わかってるっつうの、見捨てねえから安心しろ。そんじゃ用事すませてくっから、ちょっとここで待ってろ」


 壊れてしまった人間製の翼を見て。


「おれも、おまえつれていってくれるか?」


「ああ。なんとかして、空を飛ばしてやる」


 じゃあ自分もお前を兄貴と呼ぶべきかと考えるが、それだと臆病者が不安になると思ったので。


「おまえ、おれのあいぼう」


「だな」


 いつかこの空を飛びたい。


・・

・・


 結果としては残念ながら飛ぶことは出来なかった。


 木と布で作った羽根は腕につけるのではなく、背負う形で大きく設計される。


 小さき者だからこその利点もあったが、人間の力を借りて高所より滑空した。



 天から光が射しこみ、風が吹く。






ディアブロのシーズン2と蜘蛛男になって怪人を倒さなければいけず、しばらく更新止まります。

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