20話 ラファス防衛戦⑬
出水地点の二重壁から流れでる排水路。今は水の流れも抑えられているが、用水路よりも溝は深い。
ここには鉄格子だけで門もないため、町壁の昇降装置を使って中に降りる。その内部は兵士の召喚した〖土狼〗が守っているが、残念ながら熟練は低い。
デボラからの指示もあり、排水路の近くには第二班が置かれていた。
イージリオはサラと同じ眷属神。〖槍・杖・軽鎧・ローブ〗
ミケイラ君は〖剣・素手・法衣・鎧〗
残る三名。
班長と同年代の女性〖槍・斧・軽装・鎧〗
若い男性〖盾・戦棍・鎧〗
若い女性〖長棍・弓・鎧・軽装〗
創造された神だけでなく、もとは人間だったのも含めて、光の眷属神は他よりも多い。
フィエロは弓属性の方が相性も良かったが、あえて光の加護を与えたのには、やはり〖天の輝光(聖)〗が関係してくるのだと思われる。
兵士の〖矢〗と〖聖拳士〗は、外壁を抜けてきた魔物に狙いを絞っているので、二重壁の周辺は第二班が受け持つ。
あと数時間で夜明け。
ミケイラは〖剣〗で敵を斬り払い。
「戦士いつでも行けます!」
班長は灰を蹴飛ばし、その中を探っていた。
「うん、理不尽」
報酬がない。
「ちょっとイージリオさん、いい加減あきらめてください!」
「今忙しいんです、声をかけないでください。うん、邪魔」
現在はターリストが休憩中のため、どうしても抜けてくる魔物が多い。
対雑魚を専門とする者たちが受け持っている位置は防げているが、それ以外で召喚が使えるのは各班ごとに一名のみ。
女は〖足場〗から班長を見下ろし。
「イージリオ、〖戦士〗使いますよ」
「はい、わかりました」
班長の許可がでたので、ミケイラ君は顔を引きつらせながら準備を始める。
「あなたも〖投槍〗を〖戦士〗にお願いします」
イージリオは地面に突き立っている〖槍〗の隣に、自慢の〖長槍〗を突き刺す。
〖光盾〗の使い手が〖短槍(投)〗で敵を捌きながら、〖呼び声〗と〖求光〗で敵を引き付け、二つの〖長槍〗に近づかせないよう位置どっていた。
「ほら旦那、きびきび動きましょうぜ!」
「働かないとデボラさんにチクっちゃうよ!」
〖長棍〗で光耐性を低下させ、盾持ちが〖短槍〗で突き刺す。
「ごめんなさい」
「はいっ 召喚しますよっ!」
五十体ほどを召喚するが、〖岩柱〗のお陰で消費はかなり抑えられている。装備は鎧と剣のみ。
大きな声を出したミケイラ君を睨みつけ。
「うん黙れ、調子のるな」
「なんなんですかもう!」
班長は戦士たちの前に〖光の短槍(投)〗を刺して回る。
「はいどうぞ、うんどうぞ、これどうぞ」
若い男女が引き付けをしている間に準備を済ませていく。
やがて召喚者の前を通り抜けたが、そこで足を止めて振り返る。
「ミケイラ君にはあーげない」
「要りませんよ。なんでいつも意味のない嫌がらせするんですか?」
〖戦士〗に指示をだし、空いた手で〖短槍〗を握らせる。まだ受け取っていない個体には貰いに行くよう命じた。
班長と同期の女性が〖足場〗から下り、自分の〖長槍〗を握って輝かせた。
「では始めます」
イージリオは自分の背後を確認してから、指を咥えて彼女の〖翼〗を眺める。
「アホなこと考えてないで、早くしなさい」
彼女が背負う〖槍翼〗の数は十本。
軽装の神技があれば、〖投げ槍〗にも追尾機能がつく。
「大天使に天使の悲しみは分かりません」
「五秒以内に発動してください」
可哀そうなイージリオ。
ダッシュで駆け寄り、なんとか時間内に〖長槍〗をつかんで輝かせる。
「ミケイラ君のバカっ! うんこ!」
「なんで俺なんすか!」
彼の〖翼〗は四本だった。
「うん、格差」
近接型なので仕方ないが、見た目が圧倒的にしょぼい。
女性の〖槍翼〗が沢山の敵に光耐性低下を与えていく。
「〖戦士〗が消える前に削り切りますよ!」
ミケイラ隊は足並みをそろえ、魔物への攻撃を開始した。
〖輝く短槍(投)〗であれは、他者の〖翼〗にも反応するようで、着実に敵へダメージを与えていく。
ただ物理判定があるとはいえ、強度はそこまで高くはないようで、〖槍〗持ちの兵士は少しずつ数を減らす。
「剣の神技に切り替えてください」
ミケイラ君の〖戦士〗は〖剣〗を輝かせ、魔物に〖傷〗を負わせだす。
第二班の中だけで決まっている約束事。
ボスの報酬はイージリオがもらい、雑魚は三人で山分け。
〖足場〗に乗りながら沢山の〖槍翼〗を放ち、敵の光耐性を奪っていく。
「デボラさんが来る前は、もっと真面だったんですが」
普段から雑魚戦では彼女が指揮をとっており、班長は指示されないと働かない。そしてこっそり報酬をちょろまかし、皆からひんしゅくを買って、最後にミケイラ君を罵倒する。
・・
・・
あらかたの敵を削り終える。
そしてしばらくすると、敵は【民】が中心になったようで、町壁まで流れてくる数は減ってきた。
「いったん上がりましょう」
女性の指示を受け、各々が〖足場〗を使い町壁へと上った。
兵士たちが水分などを差し入れてくれ、少しのあいだ休憩をする。
「ターリストが復帰するまで、まだちょっとありますね」
〖戦士〗は時間の経過で消滅するため、彼の〖狼〗がいなければ数の差は埋められない。
先ほどから班長は地上の灰を睨みつけ、なにかぶつぶつ言っている。
「あとで報酬は国から出るんすから、旦那もやる気だしましょうって」
「拒否してた方たちが参戦したので、たぶん僕らの取り分が減らされます。うん駄目、絶対」
警戒期までに平均年収と同等の額を支払っていたが、撤回されたのである程度は返さないと不満が爆発する。
二十代の女は町並みを眺め。
「でもラファスを守り切れなかったら、復興でそれどころじゃなくなっちゃいますよ」
「……」
ダンジョン活動にも支障をきたす。
「そうなればイージリオさんの夢も遠のきます」
「もしもの時はデボラさんに伝えます、ミケイラ君が頑張らなかったせいですって。うん、怠慢」
イージリオは不満そうにしながらも、排水路の見張りをするため壁上を移動する。
・・
・・
四十代の女は〖槍〗を壁上に突き刺し。
「班長、貴方の仕事よ!」
前方には紫の狼煙が昇っていた。そして伝令の兵士が〖犬〗からの情報を受け。
「骨鬼です、外壁を抜けられました!」
「こちらでも念のため狼煙をお願いします」
呼ばれたイージリオは班員のもとに足を進めながら、近づいてくる個体を遠目で眺め。
「高そうな服ですね。うん、貴族」
兵士にはこれまで通り、外壁から抜けてきた魔物をお願いし。
「弓と翼で行きましょう。遠距離で倒せるなら、それが最善です」
班員の若い女はうなずくと、装備の鎖で軽装をまとい弓矢を取りだす。
「本命は矢。牽制を槍」
「了解」
〖壁〗で足場を確保してから、背中の〖光翼〗を発射させる。
「投げます」
前にでると同時に片方を投げ、さらに一歩を進めながらもう片方を。飛び跳ねて身体を一周させ、その勢いを利用するように、出現させた〖槍〗を投げ放つ。
軽装の〖意思〗が〖投槍〗の飛距離と命中率を強化。
鬼は【片手剣】で〖槍〗の雨をさばくも、武器では物理判定のない〖槍翼〗を弾けず身体に命中。しかし〖投槍〗は全て弾き落されていた。
「まだ輝きにはしないで、そのまま続けてください」
〖光の槍翼〗だとエフェクトは残らず、光耐性が低下するだけ。
若い男は盾を装備すると。
「貴族って強いんすね」
なんとなくこの国では優雅なイメージが広がっていたが、貴族も軍事に携わる者は多いはず。
「うちの国が特殊なだけで、騎士とはそもそも貴族の一部がなるものでしたよね、たしか。うん、馬とか乗ったり」
魔物は二足歩行。
旧教国の騎士は柱教と出家者が中心だったが、貴族だって各領地に独自の戦力はいた。
「槍は歩兵が上から叩きつけるか、お馬さんに乗った兵が使うものだったと聞きますが」
薄汚れていたが、高貴な服を着た骨鬼の得物。
「うん、細剣が上手」
鎧の隙間を通すのに特化した武器。
骨鬼は〖槍〗を弾きながらも、確実に足を進めていた。
〖足場〗の下方には〖盾〗使いがおり、〖求光・呼び声〗で意識をこちらの壁上に向けさせる。
そこから離れた二重壁の端。
〖弓光紋〗を〖矢〗が通り抜け、〖一点〗に凝縮された光が線となって空を駆ける。
死角とまではいかないが、意識外からの攻撃。
瘴気が蠢き、次の瞬間に【中型盾】が出現。
「まっこうから防がれたっ!」
〖一点〗は本来だと、【盾】を貫通できるだけの威力を持つ。角度をつけ威力を流したわけでもない。
なおかつ。
「旦那っ あいつ腕に装着してませんぜ」
【盾】は地面に落ちて消えた。魔物が瘴気から装備をつくりだすのは知られている。
視線をそのままに、〖足場〗より意識だけを班長に向け。
「ねえ、これって」
発射された〖翼〗が宙に浮かぶ【盾】に防がれ、投げた〖槍〗を【細剣】で弾く。
「うん……違和感」
そいつは口髭を横にスっと伸ばす動作をしたが、もう何も生えてはおらず、ただの癖かも知れない。
骨鬼は確実に迫って来る。
「接近戦に切り替えます」
同期はこのまま〖槍翼〗で援護。
盾持ちは地上に降りて、離れた位置より引き寄せ。
長棍は〖盾〗の守り。
「ミケイラ君、いきますよ」
「わかりました」
イージリオはローブを光らせ、〖長槍〗を足もとに突き刺し輝かせる。
・・
・・
【貴族】の意識はどうしても〖盾〗に持ってかれる。それでも引き付け役は離れており、対峙するのは他二名。
瘴気に包まれた【細剣】は美しい造りとなっており、鞘には装飾が施されていた。
半身の構え。剣を持たない腕は、背中側の腰に回して固定する。
ミケイラは〖天の光〗で相手の防御力を低下させながら、鬼の【細剣】をガントレットで受け止める。
切先は〖ガントレット〗を貫くも、彼の腕は〖光拳〗で頑強になっていた。
突いた【剣】を即座に引くので、守りの姿勢に入るのも速い。
負けじと骨鬼の首を狙うが、ミケイラの〖剣〗を【細剣】で巻き込み、そのまま上に振りあげる。
「くそっ」
彼は腕ごと姿勢を起される。
骨鬼はすぐさま【剣】を胸元に戻す。その切先は〖鎧〗の隙間に狙いを定め、踏み込みと同時に突きが放たれた。
刺さる寸前。〖翼〗が側面より【細剣】を弾く。
〖輝く槍翼・近〗 翼は四本で固定。光耐性低下をそのままに物理判定を得る。強度は熟練で決まり、遠くに飛ばすことはできなくなるが自在に操作可能。
〖投槍〗が命中しても弾けない。
残り三本の〖槍〗が骨鬼を囲ったまま空中で静止する。
〖翼〗が動きだし骨鬼を狙うも、三方面に【中型盾】が出現して二カ所が防がれた。
「うん、まるで神技」
残る一つの〖翼〗を踏み台にして飛びあがり、頭上より骨鬼に振りかぶった〖長槍〗を叩きつける。
だが骨鬼は後ろにさがり、イージリオの打撃を回避した。
無理やり姿勢を起されたミケイラも、すでに立て直しており、骨鬼に接近しようとしたが【盾】に進路を阻まれる。
イージリオは柄を脇で固定し、地面を削りながら〖長槍〗を回転させるが、骨鬼は靴底で足払いを踏み止めた。
もし神力混血と似た能力があるのなら、その身体は強化もされているはず。
鬼に背中を向けたまま、無理やり動きを停止させられる。
だが敵は動かず、髭をいじくる動作をした。
補充された〖翼〗が放たれるも、骨鬼は目に見えぬ速度で斬撃を発生させ、全ての〖槍〗を切断してから一歩を踏み込む。
「うん、甘い」
どうしても意識は〖求光・呼び声〗に向かってしまう。そんな骨鬼の上空より、沢山の〖槍翼〗が降り注ぐ。
イージリオにも命中してしまうが、物理判定がないため通り抜ける。
だが骨鬼は構わず攻撃を仕掛けてきた。
〖輝槍背法陣〗は、地面から長槍を抜いても消えない。
イージリオは〖長槍〗を手放し、交差させた二つの〖短槍〗と〖光十字〗で防ぐ。
同期の放った〖投げ槍〗がその隙を狙ったが、蠢く瘴気が【盾】を出現させて弾かれる。
ミケイラが骨鬼の側面より接近。骨鬼は武具を持たない腕に小型の【丸盾】を装備させ、彼の斬撃をギリギリで凌ぐ。
「行けっ」
〖戦士〗が剣を振り、ついに一撃を骨鬼へと喰らわせる。
「まだです!」
【小型盾】と同時に、その全身は瘴気に包まれていた。
貴族は【鎧】をまとい、【細剣】は美しさを保ちながらも、実戦向きな形状へと変化する。
ガシャンと起動音がすれば、前腕に取り付けられた【盾】の端から、複数の小さな刃が晒され動きだす。
【小型盾】で〖剣〗を弾きながら、その場で一回転してイージリオを遠ざけ、〖戦士〗の腕を【盾刃】で粉砕する。
その時だった。
外壁で轟音が鳴り響く。
伝達兵が叫ぶ。
「【城壁砕き】出現っ!!」
破壊と共に土埃が舞い上がり、棘つきの巨大な盾を構えたトロールが姿を現す。
強さに差はあるが、その特殊個体は壁の破壊を優先させる。
【盾】の【回転刃】でミケイラを一歩さがらせると、【細剣】でイージリオに突きを仕掛た。
〖ローブ〗の輝きが光の神技を強化。
「巨鬼は兵士に任せます!」
班長は〖光十字〗と〖短槍〗で【剣】を防ぎながら。
「引きつけ二人は巨鬼が近づいてきたら、〖法陣〗を使ったあと兵の援護にまわってください!」
【城壁崩し】は町壁だけを睨みつける。
地面に無数の〖矢(土)〗が突き刺されば、動きを阻害されるも巨鬼は歯を喰いしばり、地響きと共に一歩を踏みだす。
させずと〖拳士〗が群がって、〖聖拳〗を下半身に打ち込む。
苦痛に顔を歪ませるが、【城壁崩し】は盾を構えて走り出す。
まだ【貴族】との戦いも終わっていない。
ミケイラは頭をさげて【小盾】の斬撃をかわし、しゃがんだ姿勢のまま〖輝拳〗を地面に打ちつける。
〖地光撃〗でよろけた骨鬼に、〖短槍〗の切先を向けるも、【中型盾】に阻まれて弾かれた。
「厳しいようならルイジーナも巨鬼に回ってください!」
低い位置から〖剣〗で【鉄靴】に〖傷〗をつけるが。
「間合いが近すぎる」
振った姿勢も悪く、装飾された【装甲】は古びていながらも硬い。
イージリオの同期は彼からの指示を受け。
「私は【城壁崩し】に対応します!」
巨鬼は歩幅が大きく、その動きは見た目よりも速い。
〖皆〗から放たれた〖鎧矢〗が巨盾に刺さり、〖弓〗との間が〖鎖〗で繋がれた。
防御力を低下させることに成功したが、巨鬼はすでに〖聖拳士〗たちの包囲を抜け出していた。
大量の〖輝く翼〗が巨盾に刺さり、続けて〖投げ槍〗が足に命中すれば、一斉にエフェクトが弾けて黒い血が飛び散った。
巨盾の性能も〖鎧矢〗で低下している上に、全ての〖翼〗が破裂した。もはやスパイクシールドは防具としての役割を成さない。
近接武器の神力が込められた〖矢〗が、【城壁崩し】へと一斉に放たれる。
それでも巨鬼は動きを止めなかった。
「ミケイラ君!」
「はい!」
筋力特化の〖輝光〗が頭上を照らす。
「私たちも巨鬼に回ります!」
範囲外だったが、長棍を地面に叩きつけると、〖天の輝光〗に〖法陣〗が描かれる。
攻撃と防御だけでなく、筋力に比例して素早さも追加で強化。またより広範囲に光が射す。
ルイジーナは〖足場〗で地上に降り立ち。
「私がそっちの援護にまわります!」
〖光柱〗を〖長柄斧〗で叩き、範囲内味方の筋力を強化。効果は(弱)だが何度も打ちつけて重ねていく。
ミケイラは装備を〖鎧〗から〖法衣〗に切り替え。
「俺から仕掛けますっ!」
〖輝拳〗は筋力に比例して速度も上げる。
熟練は低くとも、その効果だけで底上げは凄まじい。
骨鬼の【中型盾】が発生する前に突破して接近に成功。
【小型盾】の斬撃に受け止められ、〖剣〗は折れてしまったが、筋力で無理やり弾き返し斬撃を当てる。
【細剣】を寸前で回避すれば、〖法衣〗により筋力がさらに強化し、全身の力がみなぎった。
身体能力は確実にこちらが上だ。
目にも止まらなかった連続の斬撃を回避すれば、〖法衣〗は輝きを増していく。
技術。
一瞬で後ろに回り込むも、〔先読み〕で【細剣】の突きが放たれ、切先が肩に突き刺さる。
【貴族】は猛攻を凌ぐうちに対応し、徐々にミケイラは押されていた。
イージリオは〖長槍〗を拾いながら。
「いったん下がってください!」
すでに【細剣】はミケイラの肩から抜かれていた。追い打ちの【丸盾】を〖光壁〗で防ぐも、イージリオは足場として育てていたので、簡単に破壊される。
二方面より〖槍翼・近〗で攻撃したが、一つは回避され残りは【剣】に切断された。
イージリオの正面にも〖槍〗が浮かんでおり、それを骨鬼に向けて発射するも、【中型盾】で防がれる。
だが【盾】は出現後に落下。
〖長槍〗の突きを【小丸盾】の【刃】で受け止めるが、こちらは耐久強化もあり壊れず、【回転】により弾かれるだけですむ。
「行けるか」
彼の〖翼〗は全部で四つ。最後の一つが骨鬼の【鎧】に刺さる。
〖天の輝光〗から発生する攻撃力は、肉体と直結するものだけが該当。そのため〖戦士〗や〖翼〗の強化は見込めない。
だがすでに〖輝くローブ〗は完成しており、【鎧】の貫通には成功したが、骨鬼には恐らく痛覚もない。
ミケイラは息を切らしながらも〖剣〗を鞘に戻し、それをホルダーより引き抜く。
片腕で柄を持ち上げ、〖極光剣〗が天に伸びる。
すでに骨鬼は何カ所かに〖光傷〗を受けていた。
イージリオが叫ぶ。
「それは悪手です!」
【丸盾】が高速で回転する。
放たれたそれは【ガンドレット】と【鎖】のエフェクトで繋がっていた。
班長は咄嗟に〖光十字〗と〖光壁〗を発動させ、ミケイラを守ろうとしたが、その威力は凄まじく。
大量の血飛沫が舞う。
胴体を【回転刃】に削られながらも、血を吐きながら〖極光剣〗を振るった。
もうすぐ〖輝槍〗が終わる。
相手は〖輝く傷〗により動けず。
頭上より【雪】と共に〖槍翼・遠〗が降ってきた。
イージリオは〖長槍〗を手放すと、丸腰のまま骨鬼に接近。
二本の〖槍翼・近〗を【鉄靴】に突き刺し、握りしめた〖投げ槍〗を突き刺せば、ルイジーナの〖翼〗も弾けて消える。
神力があれば抗えた。
それでも強い未練を残せば、執着を抱いて死ねば。
【貴族】はラファスの町壁に何かを重ねたのか、それに手を伸ばしたまま灰となって崩れた。
瘴気が【門】へと魂を誘う。
雪が降る。
使い手が倒れてもまだ、〖天の光〗は続いていた。
「また無茶をしましたね。うん、無謀」
〖天の輝く光〗は発動と同時に一定回復なため、あまり効果は期待できない。
それでも〖聖域〗は展開されていた。
「停止させてください」
バランス型ではあるけれど、イージリオの〖輝光〗を使う。
天の光が消える。
「……」
指で自分の装備を指さす。
「要りませんよ。自分で集めるから、意味があるんです」
〖輝光〗を使う。
瘴気の魔物から受けた傷は痕が残りやすい。
ホルダーから血剤を取りだし、頭をそっと持ち上げて飲ませようとするが、咳き込んで口からこぼれでる。
班長は振り返り、壁上を見あげ。
「噴射を!」
戦いはまだ終わっていなかった。
もう壁を壊す力は残ってない。〖聖拳士〗にも追いつかれ追撃を喰らうが、まだ巨鬼は動きを止めず。
盾持ちが引き付けようとするも、そいつは進路を変えない。
〖私の弓〗から放たれる〖私の矢〗。風の追尾も得られないが、的が大きいので問題ない。
放たれた一本の〖矢〗は壊れかけのスパイクシールドを突き抜け、致命の一撃を【城壁崩し】に命中させた。
ルイジーナの〖足場〗に誘導され、何名かの兵士が降りてくる。
イージリオはミケイラを水使いに任せ、長槍を手に戦場を睨みつけた。
〖犬〗が〖狼〗を引き連れて、こちらへ駆けてきた。
「……しまった」
班長が排水路に振り返るのと同時。
二重壁の鉄格子が爆発する。
・・
・・
強化個体が出現した知らせを受け、その男は持ち場に戻っていた。
周囲を見渡し、人の目がないことを確認。
「あとで怒られちまうねえ」
空間が歪み、そこに片腕を突っ込む。
装備の鎖とは違う。
〖収納空間〗より杖を取りだした。
「見られちゃいけやせんので」
土で出来ているので、水の中だと弱体化してしまうが、あえて排水路に飛び込むよう指示をする。
〖犬狼の杖〗 一定数。指定した狼の造形が細かくなり、石の牙による噛みつき攻撃が追加。一体のみ犬が〖犬狼〗へと変化。〖土の牙〗〖重の牙〗などの神技を独自に使える。
「あたしもリスクを背負ってんだ、どうか間に合ってくださいよ」
もう肉親はいない。村の出身で、ガキのころ爺さんに天気の読み方を教わる。
これは偽りの記憶だが、全てにおいて嘘とは限らない。
遠い昔。
彼はどこかにあった村の出身で、爺さんにも天気の読み方を教わった経験があった。




