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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
108/133

20話 ラファス防衛戦⑬


 出水地点の二重壁から流れでる排水路。今は水の流れも抑えられているが、用水路よりも溝は深い。


 ここには鉄格子だけで門もないため、町壁の昇降装置を使って中に降りる。その内部は兵士の召喚した〖土狼〗が守っているが、残念ながら熟練は低い。


 デボラからの指示もあり、排水路の近くには第二班が置かれていた。



 イージリオはサラと同じ眷属神。〖槍・杖・軽鎧・ローブ〗


 ミケイラ君は〖剣・素手・法衣・鎧〗


 残る三名。


 班長と同年代の女性〖槍・斧・軽装・鎧〗


 若い男性〖盾・戦棍・鎧〗


 若い女性〖長棍・弓・鎧・軽装〗



 創造された神だけでなく、もとは人間だったのも含めて、光の眷属神は他よりも多い。


 フィエロは弓属性の方が相性も良かったが、あえて光の加護を与えたのには、やはり〖天の輝光(聖)〗が関係してくるのだと思われる。


 兵士の〖矢〗と〖聖拳士〗は、外壁を抜けてきた魔物に狙いを絞っているので、二重壁の周辺は第二班が受け持つ。



 あと数時間で夜明け。


 ミケイラは〖剣〗で敵を斬り払い。


「戦士いつでも行けます!」


 班長は灰を蹴飛ばし、その中を探っていた。


「うん、理不尽」


 報酬がない。


「ちょっとイージリオさん、いい加減あきらめてください!」


「今忙しいんです、声をかけないでください。うん、邪魔」


 現在はターリストが休憩中のため、どうしても抜けてくる魔物が多い。


 対雑魚を専門とする者たちが受け持っている位置は防げているが、それ以外で召喚が使えるのは各班ごとに一名のみ。



 女は〖足場〗から班長を見下ろし。


「イージリオ、〖戦士〗使いますよ」


「はい、わかりました」


 班長の許可がでたので、ミケイラ君は顔を引きつらせながら準備を始める。


「あなたも〖投槍〗を〖戦士〗にお願いします」


 イージリオは地面に突き立っている〖槍〗の隣に、自慢の〖長槍〗を突き刺す。



 〖光盾〗の使い手が〖短槍(投)〗で敵を捌きながら、〖呼び声〗と〖求光〗で敵を引き付け、二つの〖長槍〗に近づかせないよう位置どっていた。


「ほら旦那、きびきび動きましょうぜ!」


「働かないとデボラさんにチクっちゃうよ!」


 〖長棍〗で光耐性を低下させ、盾持ちが〖短槍〗で突き刺す。


「ごめんなさい」


「はいっ 召喚しますよっ!」


 五十体ほどを召喚するが、〖岩柱〗のお陰で消費はかなり抑えられている。装備は鎧と剣のみ。



 大きな声を出したミケイラ君を睨みつけ。


「うん黙れ、調子のるな」


「なんなんですかもう!」


 班長は戦士たちの前に〖光の短槍(投)〗を刺して回る。


「はいどうぞ、うんどうぞ、これどうぞ」


 若い男女が引き付けをしている間に準備を済ませていく。



 やがて召喚者の前を通り抜けたが、そこで足を止めて振り返る。


「ミケイラ君にはあーげない」


「要りませんよ。なんでいつも意味のない嫌がらせするんですか?」


 〖戦士〗に指示をだし、空いた手で〖短槍〗を握らせる。まだ受け取っていない個体には貰いに行くよう命じた。



 班長と同期の女性が〖足場〗から下り、自分の〖長槍〗を握って輝かせた。


「では始めます」


 イージリオは自分の背後を確認してから、指を咥えて彼女の〖翼〗を眺める。


「アホなこと考えてないで、早くしなさい」


 彼女が背負う〖槍翼〗の数は十本。


 軽装の神技があれば、〖投げ槍〗にも追尾機能がつく。


「大天使に天使の悲しみは分かりません」


「五秒以内に発動してください」


 可哀そうなイージリオ。


 ダッシュで駆け寄り、なんとか時間内に〖長槍〗をつかんで輝かせる。


「ミケイラ君のバカっ! うんこ!」


「なんで俺なんすか!」


 彼の〖翼〗は四本だった。


「うん、格差」


 近接型なので仕方ないが、見た目が圧倒的にしょぼい。


 女性の〖槍翼〗が沢山の敵に光耐性低下を与えていく。


「〖戦士〗が消える前に削り切りますよ!」


 ミケイラ隊は足並みをそろえ、魔物への攻撃を開始した。


 〖輝く短槍(投)〗であれは、他者の〖翼〗にも反応するようで、着実に敵へダメージを与えていく。


 ただ物理判定があるとはいえ、強度はそこまで高くはないようで、〖槍〗持ちの兵士は少しずつ数を減らす。


「剣の神技に切り替えてください」


 ミケイラ君の〖戦士〗は〖剣〗を輝かせ、魔物に〖傷〗を負わせだす。



 第二班の中だけで決まっている約束事。


 ボスの報酬はイージリオがもらい、雑魚は三人で山分け。



 〖足場〗に乗りながら沢山の〖槍翼〗を放ち、敵の光耐性を奪っていく。


「デボラさんが来る前は、もっと真面だったんですが」


 普段から雑魚戦では彼女が指揮をとっており、班長は指示されないと働かない。そしてこっそり報酬をちょろまかし、皆からひんしゅくを買って、最後にミケイラ君を罵倒する。


・・

・・


 あらかたの敵を削り終える。


 そしてしばらくすると、敵は【民】が中心になったようで、町壁まで流れてくる数は減ってきた。


「いったん上がりましょう」


 女性の指示を受け、各々が〖足場〗を使い町壁へと上った。


 兵士たちが水分などを差し入れてくれ、少しのあいだ休憩をする。


「ターリストが復帰するまで、まだちょっとありますね」


 〖戦士〗は時間の経過で消滅するため、彼の〖狼〗がいなければ数の差は埋められない。



 先ほどから班長は地上の灰を睨みつけ、なにかぶつぶつ言っている。


「あとで報酬は国から出るんすから、旦那もやる気だしましょうって」


「拒否してた方たちが参戦したので、たぶん僕らの取り分が減らされます。うん駄目、絶対」


 警戒期までに平均年収と同等の額を支払っていたが、撤回されたのである程度は返さないと不満が爆発する。


 二十代の女は町並みを眺め。


「でもラファスを守り切れなかったら、復興でそれどころじゃなくなっちゃいますよ」


「……」


 ダンジョン活動にも支障をきたす。


「そうなればイージリオさんの夢も遠のきます」


「もしもの時はデボラさんに伝えます、ミケイラ君が頑張らなかったせいですって。うん、怠慢」


 イージリオは不満そうにしながらも、排水路の見張りをするため壁上を移動する。


・・

・・


 四十代の女は〖槍〗を壁上に突き刺し。


「班長、貴方の仕事よ!」


 前方には紫の狼煙が昇っていた。そして伝令の兵士が〖犬〗からの情報を受け。


「骨鬼です、外壁を抜けられました!」


「こちらでも念のため狼煙をお願いします」 


 呼ばれたイージリオは班員のもとに足を進めながら、近づいてくる個体を遠目で眺め。


「高そうな服ですね。うん、貴族」


 兵士にはこれまで通り、外壁から抜けてきた魔物をお願いし。


「弓と翼で行きましょう。遠距離で倒せるなら、それが最善です」


 班員の若い女はうなずくと、装備の鎖で軽装をまとい弓矢を取りだす。


「本命は矢。牽制を槍」


「了解」


 〖壁〗で足場を確保してから、背中の〖光翼〗を発射させる。


「投げます」


 前にでると同時に片方を投げ、さらに一歩を進めながらもう片方を。飛び跳ねて身体を一周させ、その勢いを利用するように、出現させた〖槍〗を投げ放つ。


 軽装の〖意思〗が〖投槍〗の飛距離と命中率を強化。



 鬼は【片手剣】で〖槍〗の雨をさばくも、武器では物理判定のない〖槍翼〗を弾けず身体に命中。しかし〖投槍〗は全て弾き落されていた。


「まだ輝きにはしないで、そのまま続けてください」


 〖光の槍翼〗だとエフェクトは残らず、光耐性が低下するだけ。



 若い男は盾を装備すると。


「貴族って強いんすね」


 なんとなくこの国では優雅なイメージが広がっていたが、貴族も軍事に携わる者は多いはず。


「うちの国が特殊なだけで、騎士とはそもそも貴族の一部がなるものでしたよね、たしか。うん、馬とか乗ったり」


 魔物は二足歩行。


 旧教国の騎士は柱教と出家者が中心だったが、貴族だって各領地に独自の戦力はいた。


「槍は歩兵が上から叩きつけるか、お馬さんに乗った兵が使うものだったと聞きますが」


 薄汚れていたが、高貴な服を着た骨鬼の得物。


「うん、細剣が上手」


 鎧の隙間を通すのに特化した武器。


 骨鬼は〖槍〗を弾きながらも、確実に足を進めていた。



 〖足場〗の下方には〖盾〗使いがおり、〖求光・呼び声〗で意識をこちらの壁上に向けさせる。


 そこから離れた二重壁の端。


 〖弓光紋〗を〖矢〗が通り抜け、〖一点〗に凝縮された光が線となって空を駆ける。


 死角とまではいかないが、意識外からの攻撃。



 瘴気が蠢き、次の瞬間に【中型盾】が出現。


「まっこうから防がれたっ!」


 〖一点〗は本来だと、【盾】を貫通できるだけの威力を持つ。角度をつけ威力を流したわけでもない。


 なおかつ。


「旦那っ あいつ腕に装着してませんぜ」


 【盾】は地面に落ちて消えた。魔物が瘴気から装備をつくりだすのは知られている。



 視線をそのままに、〖足場〗より意識だけを班長に向け。


「ねえ、これって」


 発射された〖翼〗が宙に浮かぶ【盾】に防がれ、投げた〖槍〗を【細剣】で弾く。


「うん……違和感」


 そいつは口髭を横にスっと伸ばす動作をしたが、もう何も生えてはおらず、ただの癖かも知れない。


 骨鬼は確実に迫って来る。


「接近戦に切り替えます」


 同期はこのまま〖槍翼〗で援護。


 盾持ちは地上に降りて、離れた位置より引き寄せ。


 長棍は〖盾〗の守り。


「ミケイラ君、いきますよ」


「わかりました」


 イージリオはローブを光らせ、〖長槍〗を足もとに突き刺し輝かせる。


・・

・・


 【貴族】の意識はどうしても〖盾〗に持ってかれる。それでも引き付け役は離れており、対峙するのは他二名。


 瘴気に包まれた【細剣】は美しい造りとなっており、鞘には装飾が施されていた。


 半身の構え。剣を持たない腕は、背中側の腰に回して固定する。




 ミケイラは〖天の光〗で相手の防御力を低下させながら、鬼の【細剣】をガントレットで受け止める。

 切先は〖ガントレット〗を貫くも、彼の腕は〖光拳〗で頑強になっていた。


 突いた【剣】を即座に引くので、守りの姿勢に入るのも速い。


 負けじと骨鬼の首を狙うが、ミケイラの〖剣〗を【細剣】で巻き込み、そのまま上に振りあげる。


「くそっ」


 彼は腕ごと姿勢を起される。



 骨鬼はすぐさま【剣】を胸元に戻す。その切先は〖鎧〗の隙間に狙いを定め、踏み込みと同時に突きが放たれた。


 刺さる寸前。〖翼〗が側面より【細剣】を弾く。



 〖輝く槍翼・近〗 翼は四本で固定。光耐性低下をそのままに物理判定を得る。強度は熟練で決まり、遠くに飛ばすことはできなくなるが自在に操作可能。

 〖投槍〗が命中しても弾けない。



 残り三本の〖槍〗が骨鬼を囲ったまま空中で静止する。


 〖翼〗が動きだし骨鬼を狙うも、三方面に【中型盾】が出現して二カ所が防がれた。


「うん、まるで神技」


 残る一つの〖翼〗を踏み台にして飛びあがり、頭上より骨鬼に振りかぶった〖長槍〗を叩きつける。


 だが骨鬼は後ろにさがり、イージリオの打撃を回避した。



 無理やり姿勢を起されたミケイラも、すでに立て直しており、骨鬼に接近しようとしたが【盾】に進路を阻まれる。


 イージリオは柄を脇で固定し、地面を削りながら〖長槍〗を回転させるが、骨鬼は靴底で足払いを踏み止めた。


 もし神力混血と似た能力があるのなら、その身体は強化もされているはず。


 鬼に背中を向けたまま、無理やり動きを停止させられる。



 だが敵は動かず、髭をいじくる動作をした。


 補充された〖翼〗が放たれるも、骨鬼は目に見えぬ速度で斬撃を発生させ、全ての〖槍〗を切断してから一歩を踏み込む。


「うん、甘い」


 どうしても意識は〖求光・呼び声〗に向かってしまう。そんな骨鬼の上空より、沢山の〖槍翼〗が降り注ぐ。

 イージリオにも命中してしまうが、物理判定がないため通り抜ける。


 だが骨鬼は構わず攻撃を仕掛けてきた。



 〖輝槍背法陣〗は、地面から長槍を抜いても消えない。



 イージリオは〖長槍〗を手放し、交差させた二つの〖短槍〗と〖光十字〗で防ぐ。


 同期の放った〖投げ槍〗がその隙を狙ったが、蠢く瘴気が【盾】を出現させて弾かれる。


 ミケイラが骨鬼の側面より接近。骨鬼は武具を持たない腕に小型の【丸盾】を装備させ、彼の斬撃をギリギリで凌ぐ。


「行けっ」


 〖戦士〗が剣を振り、ついに一撃を骨鬼へと喰らわせる。


「まだです!」


 【小型盾】と同時に、その全身は瘴気に包まれていた。


 貴族は【鎧】をまとい、【細剣】は美しさを保ちながらも、実戦向きな形状へと変化する。



 ガシャンと起動音がすれば、前腕に取り付けられた【盾】の端から、複数の小さな刃が晒され動きだす。


 【小型盾】で〖剣〗を弾きながら、その場で一回転してイージリオを遠ざけ、〖戦士〗の腕を【盾刃】で粉砕する。



 その時だった。


 外壁で轟音が鳴り響く。


 伝達兵が叫ぶ。


「【城壁砕き】出現っ!!」


 破壊と共に土埃が舞い上がり、棘つきの巨大な盾を構えたトロールが姿を現す。


 強さに差はあるが、その特殊個体は壁の破壊を優先させる。



 【盾】の【回転刃】でミケイラを一歩さがらせると、【細剣】でイージリオに突きを仕掛た。


 〖ローブ〗の輝きが光の神技を強化。


「巨鬼は兵士に任せます!」


 班長は〖光十字〗と〖短槍〗で【剣】を防ぎながら。


「引きつけ二人は巨鬼が近づいてきたら、〖法陣〗を使ったあと兵の援護にまわってください!」


 【城壁崩し】は町壁だけを睨みつける。


 地面に無数の〖矢(土)〗が突き刺されば、動きを阻害されるも巨鬼は歯を喰いしばり、地響きと共に一歩を踏みだす。


 させずと〖拳士〗が群がって、〖聖拳〗を下半身に打ち込む。


 苦痛に顔を歪ませるが、【城壁崩し】は盾を構えて走り出す。




 まだ【貴族】との戦いも終わっていない。


 ミケイラは頭をさげて【小盾】の斬撃をかわし、しゃがんだ姿勢のまま〖輝拳〗を地面に打ちつける。


 〖地光撃〗でよろけた骨鬼に、〖短槍〗の切先を向けるも、【中型盾】に阻まれて弾かれた。


「厳しいようならルイジーナも巨鬼に回ってください!」


 低い位置から〖剣〗で【鉄靴】に〖傷〗をつけるが。


「間合いが近すぎる」


 振った姿勢も悪く、装飾された【装甲】は古びていながらも硬い。





 イージリオの同期は彼からの指示を受け。


「私は【城壁崩し】に対応します!」


 巨鬼は歩幅が大きく、その動きは見た目よりも速い。


 〖皆〗から放たれた〖鎧矢〗が巨盾に刺さり、〖弓〗との間が〖鎖〗で繋がれた。


 防御力を低下させることに成功したが、巨鬼はすでに〖聖拳士〗たちの包囲を抜け出していた。



 大量の〖輝く翼〗が巨盾に刺さり、続けて〖投げ槍〗が足に命中すれば、一斉にエフェクトが弾けて黒い血が飛び散った。


 巨盾の性能も〖鎧矢〗で低下している上に、全ての〖翼〗が破裂した。もはやスパイクシールドは防具としての役割を成さない。


 近接武器の神力が込められた〖矢〗が、【城壁崩し】へと一斉に放たれる。



 それでも巨鬼は動きを止めなかった。


「ミケイラ君!」


「はい!」


 筋力特化の〖輝光〗が頭上を照らす。


「私たちも巨鬼に回ります!」


 範囲外だったが、長棍を地面に叩きつけると、〖天の輝光〗に〖法陣〗が描かれる。


 攻撃と防御だけでなく、筋力に比例して素早さも追加で強化。またより広範囲に光が射す。 



 ルイジーナは〖足場〗で地上に降り立ち。


「私がそっちの援護にまわります!」


 〖光柱〗を〖長柄斧〗で叩き、範囲内味方の筋力を強化。効果は(弱)だが何度も打ちつけて重ねていく。



 ミケイラは装備を〖鎧〗から〖法衣〗に切り替え。


「俺から仕掛けますっ!」


 〖輝拳〗は筋力に比例して速度も上げる。


 熟練は低くとも、その効果だけで底上げは凄まじい。



 骨鬼の【中型盾】が発生する前に突破して接近に成功。


 【小型盾】の斬撃に受け止められ、〖剣〗は折れてしまったが、筋力で無理やり弾き返し斬撃を当てる。


 【細剣】を寸前で回避すれば、〖法衣〗により筋力がさらに強化し、全身の力がみなぎった。



 身体能力は確実にこちらが上だ。


 目にも止まらなかった連続の斬撃を回避すれば、〖法衣〗は輝きを増していく。


 技術。


 一瞬で後ろに回り込むも、〔先読み〕で【細剣】の突きが放たれ、切先が肩に突き刺さる。


 【貴族】は猛攻を凌ぐうちに対応し、徐々にミケイラは押されていた。




 イージリオは〖長槍〗を拾いながら。


「いったん下がってください!」


 すでに【細剣】はミケイラの肩から抜かれていた。追い打ちの【丸盾】を〖光壁〗で防ぐも、イージリオは足場として育てていたので、簡単に破壊される。


 二方面より〖槍翼・近〗で攻撃したが、一つは回避され残りは【剣】に切断された。


 イージリオの正面にも〖槍〗が浮かんでおり、それを骨鬼に向けて発射するも、【中型盾】で防がれる。


 だが【盾】は出現後に落下。


 〖長槍〗の突きを【小丸盾】の【刃】で受け止めるが、こちらは耐久強化もあり壊れず、【回転】により弾かれるだけですむ。


「行けるか」


 彼の〖翼〗は全部で四つ。最後の一つが骨鬼の【鎧】に刺さる。


 〖天の輝光〗から発生する攻撃力は、肉体と直結するものだけが該当。そのため〖戦士〗や〖翼〗の強化は見込めない。


 だがすでに〖輝くローブ〗は完成しており、【鎧】の貫通には成功したが、骨鬼には恐らく痛覚もない。




 ミケイラは息を切らしながらも〖剣〗を鞘に戻し、それをホルダーより引き抜く。


 片腕で柄を持ち上げ、〖極光剣〗が天に伸びる。



 すでに骨鬼は何カ所かに〖光傷〗を受けていた。


 イージリオが叫ぶ。


「それは悪手です!」


 【丸盾】が高速で回転する。


 放たれたそれは【ガンドレット】と【鎖】のエフェクトで繋がっていた。


 班長は咄嗟に〖光十字〗と〖光壁〗を発動させ、ミケイラを守ろうとしたが、その威力は凄まじく。


 大量の血飛沫が舞う。


 胴体を【回転刃】に削られながらも、血を吐きながら〖極光剣〗を振るった。



 もうすぐ〖輝槍〗が終わる。


 相手は〖輝く傷〗により動けず。


 頭上より【雪】と共に〖槍翼・遠〗が降ってきた。


 イージリオは〖長槍〗を手放すと、丸腰のまま骨鬼に接近。


 二本の〖槍翼・近〗を【鉄靴】に突き刺し、握りしめた〖投げ槍〗を突き刺せば、ルイジーナの〖翼〗も弾けて消える。



 神力があれば抗えた。


 それでも強い未練を残せば、執着を抱いて死ねば。


 【貴族】はラファスの町壁に何かを重ねたのか、それに手を伸ばしたまま灰となって崩れた。


 瘴気が【門】へと魂を誘う。



 雪が降る。



 使い手が倒れてもまだ、〖天の光〗は続いていた。


「また無茶をしましたね。うん、無謀」


 〖天の輝く光〗は発動と同時に一定回復なため、あまり効果は期待できない。


 それでも〖聖域〗は展開されていた。


「停止させてください」


 バランス型ではあるけれど、イージリオの〖輝光〗を使う。


 天の光が消える。


「……」


 指で自分の装備を指さす。


「要りませんよ。自分で集めるから、意味があるんです」


 〖輝光〗を使う。


 瘴気の魔物から受けた傷は痕が残りやすい。


 ホルダーから血剤を取りだし、頭をそっと持ち上げて飲ませようとするが、咳き込んで口からこぼれでる。


 班長は振り返り、壁上を見あげ。


「噴射を!」


 戦いはまだ終わっていなかった。


 もう壁を壊す力は残ってない。〖聖拳士〗にも追いつかれ追撃を喰らうが、まだ巨鬼は動きを止めず。


 盾持ちが引き付けようとするも、そいつは進路を変えない。



 〖私の弓〗から放たれる〖私の矢〗。風の追尾も得られないが、的が大きいので問題ない。


 放たれた一本の〖矢〗は壊れかけのスパイクシールドを突き抜け、致命の一撃を【城壁崩し】に命中させた。



 ルイジーナの〖足場〗に誘導され、何名かの兵士が降りてくる。


 イージリオはミケイラを水使いに任せ、長槍を手に戦場を睨みつけた。



 〖犬〗が〖狼〗を引き連れて、こちらへ駆けてきた。


「……しまった」


 班長が排水路に振り返るのと同時。


 二重壁の鉄格子が爆発する。


・・

・・


 強化個体が出現した知らせを受け、その男は持ち場に戻っていた。


 周囲を見渡し、人の目がないことを確認。


「あとで怒られちまうねえ」


 空間が歪み、そこに片腕を突っ込む。


 装備の鎖とは違う。


 〖収納空間〗より杖を取りだした。


「見られちゃいけやせんので」


 土で出来ているので、水の中だと弱体化してしまうが、あえて排水路に飛び込むよう指示をする。


 〖犬狼の杖〗 一定数。指定した狼の造形が細かくなり、石の牙による噛みつき攻撃が追加。一体のみ犬が〖犬狼〗へと変化。〖土の牙〗〖重の牙〗などの神技を独自に使える。


「あたしもリスクを背負ってんだ、どうか間に合ってくださいよ」


 もう肉親はいない。村の出身で、ガキのころ爺さんに天気の読み方を教わる。


 これは偽りの記憶だが、全てにおいて嘘とは限らない。


 遠い昔。


 彼はどこかにあった村の出身で、爺さんにも天気の読み方を教わった経験があった。



 








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