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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
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19話 ラファス防衛戦⑫



 数日が経過した。


 雪は激しくなっているように感じるが、積雪量はこれまでと変わらず。自然のそれとは違うからだろうか。


 内壁・倉庫街・預り所など、これら避難場所を守りやすいよう、ラファスの町中をバリケードで固める準備が始まっていた。


 誘導はすでに行われており、倉庫街には武具防具の応急修理ができるよう設備も整えられている。こういった施設は昔から用意はされていたらしく、道具や燃料を持ち込むだけで一応は使えるとのこと。


 また倉庫街から直接外壁に物資を運んでいるので、協会支部も今は臨時でこちらへと移っていた。


・・

・・


 以上のことからもわかるように、戦況は少しずつ押されており、やはり戦力が薄かった教都方面が厳しい。


 道の上に出現した【門】は二千ほどの集団となってから、教都かラファスのどちらかへ向かうのだけど、その間隔は短く中々途切れない。


 この日も昼前には攻勢もいったん落ち着いたが、夕暮れ時になると再び激しくなっていた。



 拠点の周辺は今のところ問題ないが、海寄りに位置する外壁の一部はすでに放棄されている。


 兵士はこれまで通り町壁から〖弓矢〗を使い、〖聖拳士〗は前に出て隙間から抜けてくる敵を攻撃。


 〖狼〗は魔物を外壁上で迎え撃ち、探検者は通路を守りながら水堀近くの地上で戦う。


 この場所を受け持つのは実力が保障されている面々で、なおかつ救援組も常に置かれていた。




 放棄された外壁上では〖狼〗が小型や中型と戦っていたが、それを潜り抜けて町壁への通路を走る魔物も多い。


 アリーダが〖一点突破〗で先頭の一体を串刺しにすれば、後方の十数体をまとめて吹き飛ばす。しかし〖波〗は扇状に発生するため、前列の数体は巻き込まれず、そのまま狙ってきた。



 サラはこれまで通り後衛だが、今は〖軽鎧〗を装備していた。通路にも土が敷き詰められていたので、〖光の長槍〗を足もとに突き立てることが可能。


 彼女の背中には〖光槍背法陣〗が浮かんでおり、〖槍翼〗はイージリオよりも多い六本。その全てを放ったのち、左右に持った〖槍〗を投擲する。


 〖槍翼〗に物理判定はないけれど、身体に命中すれば光耐性を低下させる。


 〖投槍〗には物理判定があり、それがアリーダを狙った個体に突き刺さった。



 だがこの通路もそれなりに広いので、二本の〖投げ槍〗だけでは全てを殺すには足りず。


 アリーダは骨鬼の攻撃を〖片手剣〗で受け止めると、そのまま抵抗もなく得物ごと鎧を切断し、返す刃で近場のもう一体を斬る。

 全身が加速すれば、銀光の剣筋だけが残像となって消えた。


「えっ 今なにしたのさ?」


 サラの横を通り抜け、アガタが〖君の剣〗でアリーダの守りに入ろうとしていたが、その前に近場の全てを切り伏せていた。


「私も腕を上げたのよ」


「……そう」


 言いたいことはあるが、〖波〗で吹き飛んだ鬼はまだ生きているので、そちらへの対処に移る。


「やり過ぎるなって言われても、中々難しいのよ」


 外壁からは次々に魔物が押し寄せてくる。それだけではなく、通路上に設置された足場を操作し、地上の魔物をこちらに上げてくる。



 サラは足もとに刺していた〖光の長槍〗を掴み、〖輝く長槍〗に変化させた。


 突強化。秒数経過で停止。


 〖輝槍背法陣〗 輝く長槍が発動中のみ、地面から抜いても背法陣は消えない。


 ただし彼女の場合は槍から手を離す。


 〖輝く槍翼・遠〗 命中しても光のエフェクトが残る。物理判定はなし。〖輝く長槍〗が停止すれば、こちらも〖光の槍翼〗に戻る。


 迫って来る鬼たちに〖輝槍翼〗を放っては、再び補充されるのを持ってもう一度飛ばす。



 〖輝く鎧〗で〖天の光〗にドーム状の防護膜を発生させると、〖光壁〗の足場で通路から(はず)れて宙にでる。


 左右の手に〖輝く短槍〗を出現させ、交互に投げていく。


 盾で防がれる場合もあったが、身体に命中すれば〖槍翼〗のエフェクトが弾け、骨鬼や小鬼は姿勢を崩してダメージを負う。


 もし軽装が使えれば〖意思〗で命中率も上がるけれど、サラには使えないので回避されることも多い。


「あたしにそれにちょうだい!」


「はいよぉ」


 放り投げた〖短槍〗をアガタが受け取れば、小鬼の剣を〖君の剣〗で弾き断ち、〖槍〗で浅く突き刺す。相手の脇腹に残っていた〖翼〗が弾け、黒い血が飛び散った。


 深くは刺していないため、〖短槍〗を抜くのも容易。


「長物を持ったままハシゴってのは、どうやら厳しいみたいだね」


 壁上の鬼は剣や短槍が中心。



 骨鬼は背負っていた盾を腕に装着すると、それでアガタに突進を仕掛けてきた。そいつの背後には別の個体が隠れている。


 盾を〖君の剣〗で弾こうと横から叩きつけた。


「ちょっ やっぱこれヤバいって!」


 〖剣〗は盾ごと骨の前腕を切断する。


 背後から別個体が槍で突いてくるも、〖剣〗の柄尻で側面を叩いて横に反らし、〖短槍〗で刺せば〖翼〗が弾ける。



 アリーダは神としての記憶を取り戻していた。


 〖君の剣〗 斬(極) 打(強) 突(中)


 剣神一体ではなく、剣身一体での(極)だから、こうなるのも仕方ない。


 そもそも〖私の剣〗での切れ味はもっと上だったりする。


「斬れ過ぎるのも困るわよね」


 彼女がこの場にいれば、町壁を抜かれる心配はないだろう。



 背中の〖槍翼〗を一斉に空へ放てば、魔物の頭上から〖槍〗が降る。


 地上からゴブリンが紐で石を振り回し、サラに向けて放ってくるが、それを防護膜で防ぎながら〖杖〗を掲げる。


「杖を使います!」


 装備を〖ローブ〗に交換し、〖光十字〗と〖壁〗で身を守る。


 〖求光〗で少しでも敵を引き寄せなくてはいけない。


 アガタが〖光壁〗の足場に乗り、アリーダは凹凸付近でサラへの接近を防ぐ。



 やがて〖ローブ〗の光が増し、輝きへと変化した。


 〖杖〗の先端に光の球体が出現。


 通路の敵は光耐性が低下している個体が多かった。


 〖日の光〗は距離で威力が変化。


 〖陽の光〗で火の紋章が浮かび上がる。



 引き寄せ効果が強力になればなるほど、集めた敵を一掃する手段があった方が良い。



 そう言えば【雪】が降り始めてから、まだ一度も拝めていない。


 アリーダが呟く。


「輝く太陽か」


 町壁には教国やラファスの旗が靡く。



 水堀の周辺。


 〖聖域〗と〖眠者〗のサポートを受けながら、ルチオやモニカたちが戦っていた。


 ゾーエは〖赤光玉〗を出現させると、それを地上へと動かす。


 〖火矢〗が地面に刺さり、〖法陣〗が展開される。


 〖緑光の杖〗が火と風属性を強化し、〖鎖〗で引き寄せられていた十体ほどの魔物に〖炎球〗が連射された。


 通路上より〖薬〗の入った玉を投げ、少しするとそれが弾けて〖雨〗が発動し、続けて〖解毒〗の〖噴射〗がエルダの状態異常を完全に治す。


 【雪】と〖水〗に混じって〖風矢の雨〗も放たれ、〖緑光〗で強化された大量の〖矢〗が魔物に降り注ぐ。



 倒しても倒しても終わらない。


 〖聖拳士〗との戦いを潜り抜けた敵が、次々に迫ってくる。


 サラは地上に向けて〖槍翼〗を放つ。



 アガタは通路に突き立っていた〖長槍〗を守る位置につく。


「また来たよ!」


 弱いとされる【民】の中にも、少し前から戦える個体が確認されていた。


 似たり寄ったりだった魔物は、服装や動作から個性が滲みでる。


 土使いが背後で召喚した〖土狼〗が通路を駆ける。



 アリーダは通路から迫ってくる魔物を睨みつけ。


「なるべく私の剣で終わらせてあげなきゃ」


 人間の神技で輪廻へと導かせるには、かなり強力なものを使わなくてはいけない。


 だが今の彼女は主神級なだけあり、基礎とされる〖私剣〗でも、呪縛からの解放は可能だった。


・・

・・


 暗くなり、至る所で〖光る狼煙〗が昇ったころ。


 山方面の外壁拠点。そこの屋上には、杖を抱かえる中年の男が座っていた。


 傍らには〖犬〗が寄り添う。


 鎖帷子の上にフードつきのローブを羽織る。


 頭と肩には【雪】が積もっていた。


 目を閉じたまま、〖犬〗を操作しながら〖群れ〗を動かす。


 拠点を囲う木製の壁を通り越し、地面に複数体の〖狼〗と〖犬〗を召喚すれば、何処かへと走らせる。



 少しすると屋上の鉄板が持ち上がり、そこから一回り年上の男が姿を現した。


「いったん休め、さすがに風邪ひくぞ」


「この程度で体調を崩すようなら、あたしはとっくの昔に召されとりまさあ」


 休憩時は召喚を続けたまま寝る。〖狼〗の補充や〖犬〗の操作がなくなるので、一気に弱体化されるがこればかりは仕方ない。


「……そうか」


 屋上に足跡をつけながら、ジェランドは進む。


 彼はじっと空を眺める。


「気になりますかい?」


「どうすることも出来ん。向こうの満了組に任せるさ」


 宿場町があると思われる方角。


「探検者だって、うちと同じで軟じゃない。それにな、あそこにも彼らが居る」


 カチュアたちも立派な上級挑戦者だ。


「増援はどの辺まで来られたか、話はありましたかね?」


「製鉄町との合流に成功したらしいぞ。あそこは他と比べれば攻撃を受けてないからな、近いうちに制圧も完了するはずだ」


 詳しい話は届いてないが、宿場町近くの【門】も〖閉〗の作業には入っているだろう。



 数時間ぶりにターリストは目を開けると、肩に積もった雪をつかみ、それをマジマジと見つめ。


「ずっと〖犬〗ごしに戦場を眺めてんですがね」


 隣でお座りをしていた〖犬〗が、召喚者の膝に乗ってきたので、雪を持たない方の手で撫でる。


「こんな寒気がすんのは始めてでさあ」


 ジェランドを見あげ。


「水路を通って町壁に接近しとる骨鬼を発見しました。本部から町壁拠点へとお知らせください」


 骨鬼はその特性上、索敵に引っかかり難い。だが現状ではガイコツにも感情が見られるためか、探知には引っかかっていた。


「数は?」


「十五前後ですかねえ」


 ターリストは目を閉じ、もう一度〖犬〗と視界を共有する。


「いや、こりゃ大丈夫かも知れませんよ。彼らが対応してくれそうなんで、とりあえず報告だけ頼んますぜ」


「了解した」


 共有された視界。


 〖犬〗は骨鬼たちに気づかれないよう、ゆっくりとその後を追っていく。


・・

・・


 工作兵とでも言うべきか。


 もしくは敵地に乗り込み、情報収集をしたり噂を流すなどの妨害をする連中。


 水路を進むその集団は、そういった訓練を受けていた者たち。


 格好は軽鎧や軽装だったりと統一感はなかった。身を潜めながら、できる限り音を立てないように水中を進む。



 ラファスには多くの井戸がある。水路は町の生活や堀だけでなく、田畑にも利用されている。


 戦争が始まってから直ぐ、川から入ってくる水量を押さえるため、合流地点の調節をしていた。


 本当は完全に止め、二重壁の鉄格子も鉄板などで塞ぐ予定だったが、ある理由から一定の流れを保つよう指示があった。



 骨鬼の数は十から二十のあいだ。鉄格子を切断するための工具、または爆発物などを運んでいる可能性。


 二重壁に向かっている集団の後ろ、水面より何かがニョキっと顔をだす。


 いったん水の中にもどったが、次に姿を現したときは二回りほど大きくなっていた。


 頬に傷のある魚が、毛深い腕で兵鋼の槍を掲げれば。


「ギョギョっ!!」


 キズギョの渋い掛け声を合図にして、骨鬼たちの前後を塞ぐように、複数のギョ族が水面から姿をさらす。


 行く手を塞いでいたギョ族たちが〖氷の槍〗を投げる。


 〖水の玉〗を口から飛ばさなくても、骨鬼たちはすでに濡れていた。脆い〖氷の投槍〗が砕け、〖粒〗となって一面に舞う。


 悪寒のデバフを受けたかどうかは不明だが、骨鬼たちの下半身は凍りついていた。


 背後のギョ族たちは水底の槍(兵)を拾い上げると、身動きの取れない骨鬼たちに向けて、泳ぎながら接近していく。


・・

・・


 その光景を眺めながら、ターリストは考える。


 自分はこれまで幾つかの戦場を経験してきたが、こういった行動をとる魔物はいなかった。


「入水地点はまだ良いんですがね」


 男は数時間ぶりに立ち上がる。


 腰を叩きながら、〖犬〗を引き連れて歩きだす。



 出水地点の二重壁を実力者に守らせるべきだと、デボラから本部へ伝えてもらう。






冬の山々を越えてそのまま戦ってのは可能なのか気になりまして、実例はないか調べてみたんですが、なんかハンニバルって人がアルプス越えてそのままローマと戦争して勝ってますね。


4万で冬のアルプス越えって、もう化け物だな。すごい統率力がないとできないそうです。


もう自分の想像力って当てになりませんね。歴史上にはまだ知らぬ化け物がたくさんいそうです。

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