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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
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16話 ラファス防衛戦⑨



 雪を原因とする魔物の変化は、人々に混乱を齎した。


 魔物の装備は使い手が死ねば消えるのだけど、ハシゴは灰になるまでの時間が遅く、運んでいた連中がいなくなってもしばらくは残る。


 どうやら複数を組み合わせて長くしているようで、外壁であれば三つほどで壁上に届く。



 これらが攻めてきたのが宿場町側であれば問題もなかっただろう。


 教都方面の外壁には実力の保証された団員も一部回され、協会の戦闘員や小規模な徒党も含まれるが、中心は初級から中級の序盤で活動する者たちだった。



 小鬼は石を山なりに放つのではなく、凹凸に向けて真っ直ぐに飛ばしてくる。

 布または紐と革で出来た簡単な造りだが、小柄な体格からでも、振り回してから放つ石の威力は凄まじい。

 木製とはいえ職人の神技が込められた外壁は、所どころに損傷がみられた。


 ハシゴで外壁を登ってくるのなら、熱湯をかけたり石や岩を落とすなどで対処もできるのだけど、ラファスを含めた各町は事前にそういった準備をしていない。


 もとから壁上にいた連中は遠・中距離が主なため、接近戦は不慣れな連中が多い。

 地上で戦っていた者たちは、壁上からの指示で戻ることになった。


「なんでこいつらいるのよ 私らちゃんと防いでたはずなのに」


 別の団員が一方を指さし。


「奴ら通路から来やがったんだ」


 意図的に空けていた隙間が仇となっていた。外壁にハシゴを取り付けられるのは防げていたが、確かに運んでいた数体を通してしまった。


「地上は召喚に任せて、お前らは通路からの敵を喰い止めてくれ!」


 救援組は通常時だとそこを待機場所にしているため、何カ所かは事前に魔物の侵入を喰い止めることに成功している。


 〖岩柱〗を狙う魔物は、これまで壁上にいた者たちが喰い止めているので、今のところは何とかなっていた。


 町壁と通路は水堀で遮られているので、魔物が狙うのは主に外壁。


「わかった」


 すでに赤い狼煙は何カ所かで昇っているが、それよりも物資を要求する青が目立つ。


 緊急事態を意味する黄色い狼煙はなんどが空に昇ったが、破壊された〖岩柱〗の数は今の所そこまで多くない。



 幸いと言えるのは初級での活動経験しかない連中も、港町から流れてきた魔物と一部だが戦えた経験があったこと。

 なにより〖岩柱〗と〖精神安定剤〗のお陰か。



 この位置を受け持つ〖犬〗の使い手が叫ぶ。


「聖者さまが〖聖域〗を壁上に展開させてくれてる! それまで踏ん張ってくれっ!」


 十五班の三人も〖戦士〗を召喚するはず。


 隙間を抜けた魔物は町壁よりも通路を狙っているため、〖聖拳士〗も兵士の指示を受けて攻撃を始めていた。


 そしてグレゴリオの〖激励〗が皆の耳に届く。


・・

・・


 宿場町方面。けっこうな数の骨鬼が村人化したと言っても、小鬼や肉鬼はこれまで通り。


 それに全てのガイコツが弱体化したわけではない。



 田畑には設置型の巨大な盾が一定の間隔で置かれていた。


 壁上より〖地繋がりの盾〗で二カ所のスパイクウォールを操作し、〖飲み込む巨大盾〗を発動させる。中型までの魔物は引き寄せられ、そのまま串刺しになって灰に帰る。


「良しっ 行って!」


 同組の戦闘員が〖狼〗を操作して、姿勢を崩した肉鬼に群がっていく。


 リヴィア組と協力してこの位置を守っている団員もいるが、今は強化個体と戦っており手が離せず。


「大鬼はどんな感じ?」


「凌ぎ切りました」


 すでに紫の狼煙はあがっており、今しがた救援が到着して戦闘に入った所。


 先ほどから矢が疎らに飛んで来ているが、そちらは神技で十分に対応できていた。



 遠距離で森際の魔物を狙っていた戦闘員が一早く気づく。


「奴らがきたっ!」


 彼女が放った矢は見失ったが、複数の〖友〗が後に続いていたので、その方角に目を凝らす。


 リヴィアは大鬼と戦っている連中に届くよう、できる限りの大きな声で。


「新種の骨鬼が出現しましたっ! 警戒してください!」


 背が高く、肩幅からして細身。

 薄汚れているも、その服装は民族衣装というか、緑と茶を主にした軽装。


 こいつらの放つ矢は乱戦の隙間を通り、直接に探検者たちを狙ってくる。



 視線を動かすことなく、風矢の使い手に意識を向け。


「新種の対処をお願い」


「ちょっち時間ちょうだい」


 ラファス周辺の森は人の手が入っているので、陽の光が地面に当たるよう枝が切られ、木々の間隔もある程度の調整はされている。それでも緑の骨鬼は幹や草むらに身を隠し、こちらの攻撃を凌ぎながら矢を放ってくる。


「連射でちまちま削ってくしかないかな」


 風矢の雨は使えない。


「ティトはこっち戻って!」


 リヴィア組の二人は地上に降りていた。


 連係の邪魔にならないよう、大鬼と戦っていた探検組のサポートをしていたが、一名を残して防護膜を張りながらこちらに近く。


 壁上を見あげ。


「姉ちゃん、どうすれば良い!」


「あんたは後ろに回って、〖岩柱〗がちょっとやばい!」


 呼び方を注意する余裕もなかった。


・・

・・


 ティトはいなくなったが、今まで戦っていた探検組が雑魚を受け持ってくれていた。



 オーガとの戦闘に入った救援組。


 片目を古傷で潰されたオーガ。それに対するは両腕に〖盾〗を装備した男。


 レベリオではない。



 〖愛〗を背負いし者が、〖中型の盾〗で【鉄塊の大斧】を受け止める。


 神力混血だけでなく、〖紋章〗からの身体強化も加わり、〖我の盾〗だけで受け止めに成功した。


「退かぬ、恐れぬ、進み出るっ!」


 加護は主神ではないため、その神技は自分のものとして使っている。


 〖突進〗で押し返そうとするが、大鬼が相手ではさすがに分が悪い。



 横から味方が〖風伸突・重〗を放つ。


 だがその皮膚は頑強な上に、大鬼としては珍しく確りとした鎧をまとっていた。槍からの一撃では大したダメージは与えられず。


 鎧により動作は阻害され、まとった装甲を膨れ上がった筋肉が圧迫する。


 〖盾〗に掛かる【大斧】の圧力が増したが、盾使いは余裕をもって耐え忍ぶ。



 その時だった。背後で戦況を見守っていた火杖が叫ぶ。


「新種の矢が来るぞっ!」


 狙われたのは引き付け役。


 乱戦の隙間を矢が通り抜け、〖風の鎧〗に軌道を変化させられるも、渦に抗うことなく流れに任せるように右肩の背へ鏃が吸い込まれる。


 〖風鎧〗の近場であれば防げたかも知れないが、風槍はオーガの横に位置どっていた。


「愛ゆえにっ!」


 〖愛憎〗が両者を繋ぎ、緑の骨鬼が姿勢を崩す。


 〖父なる愛〗が痛みを弱めるが、オーガを相手に利き腕の肩を負傷したのは痛い。


「愛だ愛だ煩いんだよ、あんたはっ!」


 先ほどの〖風伸突〗は囮だった。


 この大鬼は隻眼。


 〖盾〗に意識を向けさせ、風槍が気を反らし、死角から本命となる彼女が攻撃する。だが矢の介入により本体ではなく、【鉄塊の大斧】に狙いを変更。



 〖突風打〗 打撃強化(強) 風圧の矢と同等の衝撃を命中した所に発生させる。



 並みの大型であれば肩の関節を痛め、武器も吹き飛んでいただろう。しかし大きく弾かれた腕は高い位置で止まり、【大斧】は握られたままとなっていた。


 わずかに姿勢を整えると、そのままの勢いで【鉄塊】を振り下ろす。


「省みぬ!」


 左腕に装着した〖小型神盾〗で受け止め、〖打撃〗で迎え撃つ。


「ぐぅっ!」


 骨に亀裂が入るも、歯を喰いしばって靴底を沈ませる。



 〖螺旋風突〗が発動したが、オーガは浮かぶどころか体勢すら崩さない。


 確かに敵は竜巻の範囲内ではあったが、それなりに広く発動されていた。



 五人目が舞い上がり、〖火の鳥〗が翼をはためかす。


 

 〖母なる愛〗と〖聖域〗で身体を癒しながら、盾持ちはゆっくりと後ろにさがる。


 鬼の咆哮が戦場を揺さぶる。


 火槍の使い手は即座に柄を手放し、なんとか後ろにさがろうとするも、大技の後ですぐには動けず。


「沈んどきなっ!」


 〖風の鈍器〗がギリギリで間に入り、鉄籠手からの剛拳を受け止め〖無風無断〗で押し返すも。


「くそっ 神の素材が」


 棍棒はぐにゃりと歪む。



 全員が大鬼から距離をあける。


 致命傷は与えたはずだ。


 ゆっくりと灰に帰っていくが、まだオーガの目は死んでいない。


 風前なれど、魂は最後の輝きを発する。


 突き刺さった槍をへし折ると、牙を剥き出しに叫ぶ。



 


 雑魚を引き受けていた者たちにも余裕はなかった。


 彼らを抜けた小鬼が、オーガに注目していた盾使いの太ももに短剣を突き刺す。


「愛ゆえに」


 〖愛憎〗により小鬼は倒れたが、【隻眼】がこの隙を見逃すはずもない。


 小型の〖盾〗を空に掲げる。〖叫び〗の光が周囲に広がるも、オーガは一息で距離をつめ、着地と同時に【大斧】を振り下ろす。


 中型盾で受け止めるが、肩と足の負傷で圧し切られる。


 腰から地面に落ち、そのまま背中も倒され、矢が折れて変な角度で突き刺さってしまう。


「させぬわ!」


 一点に集中した小型盾の光が、〖咆哮〗となって大鬼を押し返し、やがて愛は灰に埋もれた。


・・

・・


 雑魚を喰い止めていた探検組のリーダーが、身体を起こしたゴブリンを短剣で殺す。


「すみません、抜かれました」


「愛憎を使った時点で迷惑をかけたのはこちらだ、主らに落ち度はないよ」


 〖憎悪の紋章(味方)〗は周囲の魔物に敵意を向けられる。



 もとは【町】の第一線で活動していたが、愛に生きると決めたこの組は、活動の場を上級の序盤に変えた。

 今回の戦争には途中参加ということになる。


「それよりも、あの二名を町に戻してやらねばな」


 彼らが到着するまで大鬼と戦っていた探検組。


 地面には無残な姿になった二名の仲間。引き付け役がいなくなった時点で、雑魚から救援組を守ると言うのは厳しいだろう。


 愚鈍な肉鬼から死者を守りながらとなれば、その難度は一層に増す。


「治療します」


「毒の方を頼む」


 〖母なる愛〗を先ほど使ってしまったので、もうしばらくは発動も難しい。


 背中の鏃は放っておいても、〖愛の紋章〗により体外に出るが、相手に頼んでこの場で引き抜いてもらう。

 出血は酷くなったが、その方が治りも早い。


「感謝する」


 〖解毒〗の〖雨〗と〖噴射〗をもらった。


 〖血剤〗と〖鎮痛薬〗を服用してから、彼らが壁上に遺体を持っていくまでは、この場を引き受ける。


「よろしくお願いします」


「うむ」


 左腕を動かして調子を確かめてから、周囲の味方に〖主らの盾〗を使い、未だ森から出てくる魔物を睨みつけた。


 神技で治るとはいえ、要である彼が深手を負ったのは痛い。



 未だ雪は戦場を染め続けていた。


 森から肉鬼が現れる。


「……む?」


 そいつは小鬼や緑の骨鬼には目もくれず、別のオークへと得物を振るった。


「始めて見たな」


 特殊個体。


 ダンジョンでは強化個体の上位に位置づけられるが、実際は少し違う。


 突然変異なのか姿形が異なっていたり、特殊な行動をとる個体。


 脅威となる化け物もいるが、他とそこまで変わらないのもそれなりにいる。


 確かに珍しい。だけどこの特殊個体は比較的に確認されるものだった。強弱も様々で、同一というわけではない。



 細菌に汚染されたオークとは違い、その表情は怒りに満ちていた。別の肉鬼に向けた感情なのか、または瘴気への憎悪なのか。


「油断はすまい」


 周囲の同種を殺せば人間にも襲い掛かるが、特殊個体の中では脅威度も低い。


「【同族殺し】を確認したっ!」


 攻撃されたオークは防ぐものの強くは抵抗せず、周りの鬼も動揺はするが、少しすると意識を人間に切り替える。


「できれば他の救援組を呼ぶよう伝えてくれ!」


 あらかたの同族を殺すと、そいつは自分の得物に意識を向ける。


 折れた牙。


 歯を喰いしばって大量の唾液を飲み込むと、探検者には目もくれず、ゆっくりとした動作で背を向ける。


 脂肪に包まれながらも、背中と腕や足からは確かな筋肉が覗く。



 そいつは木々の闇と、降る雪の中へ消えた。



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