孤独の闇
天上界。それは神々の住まう世界。
木々はどれも地上にあれば名木と呼ばれ、地面に転がる石ころでさえ、それなりの力を秘めている。建物という建物は、いつ建てられたのかも解らないほどに、途方もない歴史があるのだろう。
そんな世界に異質な建造物が一つ。それは真新しい巨大な門だった。急造なのか彫刻などもなにもない。
たくさんの神々か門の前に集っている。武装していることから、ただ事ではないのだろう。
『どきなさい』
その声は中性的なものだった。
神々から門前を守る者あり。
「いかに創造主と言えど」
かすれた男の声だ。
左手側に武骨な片手剣を置き、両膝は地面についていた。それは何時でも抜けるという無礼を意味する。
背筋はまっすぐ。
今この場。彼と対峙する主神は八柱ほどだか、その背後には、五十を超える眷属神と天使が控えている。
両手に聖なる光を灯した子供が一人。
『殺っちゃって良いの?』
純真だからこそ残酷な。そして残虐な。教えてもらったばかりの神技を試したい。
子供の肩に優しく手をそえたのは光の主神。駄目だと顎を左右にふる。性別はわからないが、どちらかと言えば男寄り。
『眷属たちをこちらに残しただろ。それだけではない。私も含め、ここにいる大半は貴方の教えを受けた』
心の底から、殺したいとは思ってない。
「こちらに残った剣の子らは、あなた方に忠誠を誓うと決断した」
ならばこそ
『罰がないとは言わんが、悪いようにはせん』
「地上を守ると決めた友がおりましてな。儂も本心は奴と同じです」
徐々に門が閉じ始める。
『もう、時間はありませんね』
創造主が手を翳すことで、その速度は遅くなる。完全に閉まる前に、門の向こう側を制圧しなくてはいけない。
後方に控えていた神や天使たちの一部が、焦って武器を構えだす。
殿とでも言えば良いのか。門前の男は傍らの剣を手に取り。
「この先は無明の牢獄。それを罰として、どうか」
共に戦った者たちが、逃げ込んだ門の先で、今も傷つき倒れている。
『すべては私の無力が招いた結果です……戦いましょう』
握った剣を杖のように扱って、覚悟を決めて立ち上がった。動けば雫がポタポタと地面に落ちて、天界の大地を汚す。
鞘をその場に落とす。
「最初の意志。始源の理というものがあるとすれば、それを破ったのは我々です」
許可もなく、地上への過度な降臨。
「終末は防げましたが、どちらにせよ地上界に明日はございません」
罰を受けている時間などない。
「互いに介入はせず、完全に別けることを儂らは望む」
神と言えど子供は子供。地上界から来たという、天使たちから聞いた実体験の物語。
目を輝かせて、傍らに立つ光の神を見あげていた。
『なんか格好いいね』
守るように、下がってなさいと肩を押す。
人間としての道徳を考えると、こんな場に子供を連れてくるのはどうかと思う。それでも考え有っての事だろう。今後の全ての世界のために。
『あのおじさんは英雄かい?』
『立場によって変わるものだ』
良くわからないのか首を傾げる。
『彼は私と同じ?』
否定もせず、肯定もせず。
『最初に降り立ちし、三柱が一つ』
創造主も同じく。
『古き神だ』
坊主頭、ボロボロの法衣らしき服。
肩から脇腹にかけて。抉られたような深い傷からは、人間と同じ赤い血が流れ落ち、汚れた白い衣は所どころ染まっている。
創造主は剣の神を見つめたまま、背後の神々と天使に告ぐ。
『私たちが相手をします。門が閉まるのを押さえてください』
新たな世界のためにも、神々と天使を消滅させるわけにはいかない。
主神たちにも意思を確認する。
『望む者は共に』
二柱。剣だけを見ながら前に進む。
「我は天上の盾」
『私は神々の鎧』
男は困り顔で、それでもどこか。
「導かれてから今日まで」
それは友と合作した神の技。
「創造主さま、皆さま方と歩んだ道。とても楽しゅうございました」
剣の刃が歪んだ銀色の光をまとう。




