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18・見せしめの決闘

「サラ様、大丈夫ですか!」

「な、なにが起こったんだっ?」

「なにか石のようなものが飛んできたように見えたが……」


 急にサラが飛ばされたものだから、住民達が戸惑って彼女のもとへ駆け寄った。


「いや……大丈夫だ。これしきのこと——」


 しかし彼女はむくっと起き上がり、それを手で制す。

 起き上がった瞬間、足取りがおぼつかないサラはふらふらになっていた。


 ふん。

 たかが石を投げただけで、これだけのダメージを与えられるとは。


 俺は満を持して、サラの前に登場する。


「よお。久しぶりだな」


 右手を挙げて、サラに近付く。

 サラは俺に気付いたのか……。


「ア、アルフ……」


 と名を呼んだ。


 その名前を聞いて、住民達がざわざわと話しだした。


「アルフ……? どこかで聞いたことがあるような?」

「確か勇者パーティーのメンバーだったんじゃねえか?」

「なにっ? じゃあサラ様とお友達ってか?」

「いや、パーティーで雑用係をしてるって聞いたことがあるぞ」


 俺のことをパーティーのメンバーだと知っている者もいたが、そこまで詳しくは……という感じだった。

 今からやることを考えれば、それは好都合である。


「貴様、どうしてここにいる?」


 キッとサラは鋭い目線を向ける。

 今までのサラだったら、それは威圧的でキングベヒモスといった強力モンスターも怯ませるにらみであった。


 だが、そんなサラはもういない。

 俺より弱くなってしまったんだから。


「なあに。ちょっと手合わせお願いしたい、と思ってな」

「手合わせ……? 決闘ということか? なにを考えているんだ、貴様は」


 訝しむようなサラの視線。

 俺はサラがこの街に戻ってくるまでに考えておいた台詞を、すらすらと読むように言った。


「ああ。実はパーティーを抜けてから、何体かモンスターを狩ってさ。それでどれくらい強くなったのかな、と思ってな」

「ハハハ! 貴様が強くなっただと? そんな付け焼き刃で笑わせるではない!」

「弱い弱いお前くらいだったら、勝てると思うんだがなあ」

「——!」


 俺の挑発に腹が立ったのか。

 サラは目の色を変えて、口を動かす。


「ほお……? 私が弱いとな?」

「弱い弱い。弱い俺よりもさらに弱い」

「その言葉忘れるなよ……? 手合わせ、受けてやろうではないか」


 おっ、完全に挑発に乗ってきた。


 ここまで計算通りだった。

 戦闘がなによりも好きで、プライドが高いサラ。

 いくら怪しげな提案であっても、ほいほい乗ってくると。


「サラ様……もしかして先ほどは、その男の攻撃だったのですか?」


 住民の一人が近寄ってきて、サラにそう問いかける。


 だが、サラは笑みを作って、


「いや、心配しなくていい。ちょっと転んだだけさ」


 と俺を見ながら口にした。


「ただ転んだようには見えなかったのですが……」

「私が転んだといえば、転んだんだ。それともなにか? 私の言葉が信じられないと」

「い、いえ! そんなことありませんっ!」


 キッとサラが睨むと、そいつは肩を狭くして震えた。


 こいつはきっとさっきの攻撃(小石を投げただけだが)が俺の仕業、ということが分かっているんだろうな。

 それなのに、そのことについて弾劾だんがいしないとは……。

 一見不可解な行動のように思えたが、俺にはそいつの考えがなんとなく分かっていた。


「では行こうか。場所はギルド前でもいいか? そこだったら広いから、少々激しく動いても大丈夫なはずだ」

「良いぜ」

「しかし一つ言っておく。私は手加減の出来ない女だ」

「知ってる」

「だからもしかしたら戦闘中に、不慮の事故で右手を斬り飛ばしてしまうかもしれない。それでもやるというのか?」

「ああ、それでも良い——」

「そうかそうか! 見上げた覚悟だ! よし、全力でやってやろう! みんなも出来るだけ見に来てくれ!」


 俺が言い切る前に、サラはそう続けた。

 それに対して、住民達のボルテージがさらに上がり、


「サラ様の戦いが見られるなんて!」


 と目を輝かせている者もいた。


 住民達は一斉にギルドの方に向かっていく。


「逃げるなよ、アルフ」

「お前こそな」

「はっ! しばらく見ない間に冗句じょうくが上手くなったではないか!」


 笑い飛ばして、サラも住民達も向かう方向に歩いて行った。


「さて、俺達も行くとするか」

「アルフ。頑張って。わたし、応援する」

「ありがとう。わしゃわしゃしてやる」

「ん〜〜〜〜〜」


 イーディスの頭を撫でてから、俺達も歩き出すのであった。



 ◆ ◆


 なにかが頭に当たった瞬間、サラは意識が飛びそうになった。


「サラ様、大丈夫ですか!」


 サラの帰郷を歓迎しにきた人達が、彼女を囲みだした。


(一体……これは……?)


 混乱するが、みっともない姿をストローツの人々には見せられない。


「いや……大丈夫だ。これしきのこと——」


 とすぐに立ち上がろうとしたが、何故だか視界がぼやけた。

 両足がガクガクと震え、ろくに立つことも出来なくなっていたのだ。

 

「よお。久しぶりだな」


 それでもサラが気丈に振る舞おうとすると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 腐ったような声だ。

 負け組の濁った音がして、聞いているだけで耳がどうにかなってしまいそうだった。


「ア、アルフ……」


 手を挙げこちらに近付いてくる男を見て、サラは呟く。


「なあに。ちょっと手合わせお願いしたい、と思ってな」


 アルフはそんな頓狂とんきょうなことを言い出した。


 こいつは……なにを言ってるんだ……?

 私に勝てるとでも思っているのか?


「弱い弱いお前くらいだったら、勝てると思うんだがなあ」


 アルフの続く言葉を聞いて、サラの頭に一瞬で血が昇った。


 ——面白い。

 それに先ほど、なにかを頭にぶつけてきたのはアルフであることは明白であろう。


(一体どのような攻撃をしてきたか分からないが……良いだろう)


 格の違いというものを思い知らせてやろう。

 しかもストローツの人々がこんなに見てくれてるんだ。

 華麗な剣技でアルフを倒し、サラはさらなる喝采かっさいを受ける。

 その時、誤ってアルフの両手を切断してしまったとしても、仕方のないものとして受け入れられるだろう。


(愚かなものだ。わざわざ舞台を用意してくれるとはな)


 もうこの時、サラはアルフをいかにして倒そうか、悲鳴を上げさせようか、命乞いのちごいをさせようか……といったことを考えていた。

 アルフが惨めったらしく、


『もう止めてください! ギブアップです!』


 と言わないようにするために、喉を引き裂くことからはじめてもいいかもしれない。


(ああ、今すぐにでもアルフに剣を突き刺したいよ)



 そういった気持ちを抑え、サラ達はギルドの前まで着いた。



「ではアルフよ。恨みっこなしだぞ?」

「ああ、分かってるよ」


 サラとアルフを囲むようにして、ストローツの人々が熱視線を注いでいる。


 誰もがサラを応援していた。

 誰もがサラが勝つ、と思っていただろう。

 サラは鞘から剣を抜いて、アルフの喉を突こうとした。


 その時であった。


「おいおい、歩きながら俺に向かってきてどういうつもりだ?」


 なんのことだ?

 サラがそう思った時であった。


「あれっ?」


 視界が反転したのは。


「やっぱりお前弱いよ」


(なんだっ? なにが起こったのだ!)


 どうやら自分は倒れているらしい。

 立ち上がろうとするサラの視界にアルフの姿が入った。


 反撃しようと剣に手を伸ばした矢先。

 サラの視界にアルフの履いてる靴が入ってきて、顔面を思い切り蹴飛ばされたのだ。

 彼女の口から歯が何本か飛んだ。


「さあ。楽しい決闘のはじまりだ。こんなに観衆がいてくれて、お前本当によかったなあ」


 アルフの口元が愉快そうに歪んだ。

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