第46話：マーガレット嬢が居なくなっただと？～ローイン視点～

「ローイン、どうだい？ジェファーソン殿は何か動きはありそうかい？」

「いいや、特に動きはないな」

　ノエルの忠告を受けた後、俺は密かにジェファーソン殿に盗聴器を付けたのだ。さらに居場所が分かる機械もこっそり付けた。マリンの時は主に舞台が学院だったため、証拠集めはたやすかった。でも今回は、そう簡単にはいかない。

　とにかく卒院までの間、ジェファーソン殿がマーガレット嬢に過激な事をしないかを常に見張って来た。でも、これといった動きは特にない。

「僕の勘違いだったのかな？もしかしたらジェファーソン殿は、何が何でもマーガレット嬢を手に入れるタイプではなかったのかもしれないね。最近はマーガレット嬢にもあまり絡んでいない様だし。今日はもう、家に帰っている様だよ」

　呑気な顔でノエルが呟いている。確かに居場所を特定する機械を確認する限り、既に伯爵家に帰っている様だ。

「ノエル様、ローイン様。無事マーガレット様を送って参りましたわ」

　俺たちの前に姿を現したのは、サラ嬢だ。

「サラ嬢、ありがとう。それでマーガレット嬢はどんな様子だった？」

「ジェファーソン様に最近絡まれないのもあって、とてもご機嫌でしたわ。ローイン様、あと少しでマーガレット様と婚約を結べますね」

　そう言ってサラ嬢が微笑んでいる。３日後には貴族学院の卒院、そして翌日には俺とマーガレット嬢が婚約を結ぶ予定になっている。

　あと少しでマーガレット嬢と…

　でもマーガレット嬢は、俺の事をどう思っているのだろう。もしかしたらジェファーソン殿と共に生きたいと考えているのではないだろうか？

　最近ジェファーソン殿を調べる事に躍起になっていて、あまりマーガレット嬢と過ごしていなかったな…

　俺が本当にやらなければいけない事は、もしかして動くかどうか分からないジェファーソン殿を監視する事ではなくて、マーガレット嬢と思い出を作る事だったのかもしれない。

「サラ嬢、いつもマーガレット嬢を気にかけてくれてありがとう。でも、明日からは俺が彼女の傍にいるから、もう大丈夫だよ」

「ローイン様？」

「ローイン、どういう事？もうジェファーソン殿を監視しなくてもいいのかい？」

「ここまで来て動かないのであれば、もしかしたら彼は本当にマーガレット嬢を諦めたのかもしれない。それに俺は、マーガレット嬢との残り少ない学院生活を楽しみたいし」

「確かにジェファーソン様ばかり気にして、大切なマーガレット様がおろそかになっていては、意味がありませんものね。大丈夫ですわ、引き続きノエル様がジェファーソン様を監視してくださいますわ。そうでしょう？ノエル様」

「えっ？僕が監視するの？」

「当たり前でしょう。もちろん、私も協力しますわ。とりあえずマーガレット様ももう帰られましたし、私たちも帰りましょう」

　サラ嬢に促されて、馬車に乗り込み家路に着いた。再びジェファーソン殿の位置を確認するが、伯爵家を指しているし、特に問題ないだろう。実はマーガレット嬢にも居場所を特定できる機械が付いたアクセサリーを贈ったのだが、付けたり付けなかったりとあまり役に立たない。

　今日も家に忘れて来た様だ。俺が贈ったアクセサリー、あまり大切にしてくれないのかな？

　ここにきて急に不安になって来た。特にここ最近、マーガレット嬢と過ごせていないのだ。

　ただ、不安がっていても仕方がない。明日から挽回できるように、頑張ろう。

「坊ちゃま、夕食のお時間でございます」

「分かった、すぐに行くよ」

　食堂に向かい、両親と共に食事をする。その時だった。

「坊ちゃま、今アディナス伯爵とバロン殿がいらしております。急用との事で…」

　執事が俺の元に急いでやって来たのだ。こんな時間に伯爵とバロン殿が？もしかして、マーガレット嬢の身に何かあったのか？

「すぐに行く」

　急いで２人の待つ客間へ向かう。

「伯爵、バロン殿、何かあったのですか？」

「ローイン殿、それにグランディス侯爵殿も。実はマーガレットがこの時間になっても帰ってこないのです」

「なんだって？マーガレット嬢が？」

　急いでジェファーソン殿の居場所を確認するが、屋敷に留まっている。彼が誘拐した訳ではないのか？一体どういうことだ。マーガレット嬢はサラ嬢に見送られ、随分前に家に帰ったはずだ。それなのに、どうして…