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同衾と夢

「む……」


 眩しさを覚え、私はうっすらと目を開ける。

 ……どうやら、カーテンの隙間から(のぞ)く陽の光が顔に差し込んで、目が覚めたようだ。


 そして。


「すう……すう……」


 ……私の隣には、気持ちよさそうに寝息を立てているリズがいた。

 そうだった……昨夜は結局、お互い離れがたくなってしまい、ならばと同衾(どうきん)することになったのだった……。


 私も、リンケ子爵共のあのような(ただ)れた現場を見てしまったものだから、その対極にいるリズに癒されたかったのだ。

 そんな私を、彼女は受け入れ、包み込んでくれた。


 私はもう、リズなしでは生きてはいけない。


「はは……だが、リズの寝顔はなんと可愛いのだ……」


 リズの顔にかかる髪をかき上げ、私はその白い頬をそっと撫でる。

 ……柔らかくて触り心地がよいな。


 困ったことに、私の中でどうしても他の箇所も試したくなってしまった。

 なので私は、その細い首筋から顎、そして紅い唇へと指を()わせると。


「ん、んう……っ」


 リズが上気させ、今まで見たことがないような反応を示す。

 これ以上は……だ、だが、彼女の反応をもっと見てみたい……。


 そう思い、私は人差し指の腹で上唇と下唇の間をなぞり……「ディ、ディー様……」……っ!?


 耳まで真っ赤にしながら目を開けて恥ずかしそうに見つめるリズに、私は思わず仰け反ってしまった。


「あ……い、いや、その、こ、これは……!」

「…………………………」


 私は身振り手振りを交えながら必死で弁明しようとするが、上手く言葉が出てこない。

 リズもリズで、上目遣いで私を見つめるだけで何も言ってはくれなかった。


 こ、これは……怒っている、というわけではなさそうだ。


「そ、その……君が愛おしくて、君のことをもっと知りたくなってしまい、つい……」

「ふあ……そ、そうですか……」

「「…………………………」」


 しばらく、沈黙が続く。


 すると。


「あ……」

「わ、私は、ディー様のこの手が……この指が好きです……私を慈しむように優しく触れてくださる、この指が……」


 そう言って、リズが私の手を取り……っ!?


「はむ……ちゅ、ちゅ……ちゅぷ……」


 あろうことか、私の人差し指を味わうように、しゃぶり始めた……。

 うう……こ、これでは、私は……!


「リ、リズ!」

「あ……」


 私は、本能的に彼女の上に覆いかぶさってしまった。


「コホン」

「「っ!?」」


 突然咳払いが聞こえ、私は勢いよく飛び退いた。


「殿下、マルグリット様、おはようございます」

「あ、お、おはよう……」

「おはよう、ございます……」


 恭しく一礼して朝の挨拶をするハンナ。

 私とリズは、何とも気まずいながら、かろうじて挨拶を返した。


 ◇


「ハンナ、連中の様子は?」

「はい。組織の人間全員が、中にいる様子です。今なら、一網打尽にするのも容易いかと」


 人身売買の組織があるアジトを建物の陰から遠巻きに眺めながら尋ねると、ハンナは求める答えを返してくれた。


 なお、リズについてはイエニーと騎士の一部と共に、リンケ子爵達の監視をしてもらっている。

 昨夜のこともあるので、今頃はリンケ子爵達も彼女の凍えるような殺気に(おのの)いていることだろう。


 ……頼むから、早まったことだけはしないように祈っておこう。


「グスタフ、騎士達はどうなっている?」

「はっ! 全員配置についておりますぞ!」

「うむ……ならば、行くぞ!」


 私は剣を高々と掲げ、騎士達に無言で合図を送った。


 騎士達は手慣れた様子で、一斉に組織のアジトへと突入していく。

 なお、今回は奇襲が目的のため、金属音がして気づかれてしまわないよう、甲冑は最小限の装備に留めるよう指示してある。


 下手に見つかってしまったら、囚われている者達に命の危険が及んでしまうからな。


「では、私達も行くぞ!」

「はっ!」

「かしこまりました」


 私とグスタフ、ハンナで、騎士達の後に続いてアジトへと突入した。

 だが、先に突入した騎士達の活躍によって、制圧はほぼ終わっているようだ。


「ふむ……やはりグスタフが鍛えた騎士達だけあって、皆優秀だな」

「ハハハ、ありがとうございます。ですが、それもこれも殿下が私のために騎士団(・・・)をお与えくださったおかげですぞ」


 そう……私は自身に与えられている資産を使い、私の(・・)ためだけの(・・・・・)騎士団を創設した。

 いずれ来る、母やオスカー達との戦いのために。


 それに伴い、私はグスタフを王国騎士団から引き抜いた。

 騎士団長であるラインマイヤー伯爵は猛反対したが、私が国王陛下から直々に様々な任務を与えられていることを理由に、国王陛下に直談判をして無理やり認めてもらったのだ。


 はは、あの時のラインマイヤー伯爵の悔しそうな顔は、今思っても傑作だったな。

 国王陛下も国王陛下で、それをどこか楽しんでいる様子が(うかが)えたし、おそらくはそういった点も王太子選定に当たっての判断材料にしているのだろう。


「グスタフ……あと少し待ってくれ。私は、必ずやお主を王国の剣(・・・・)にしてみせる」

「……やれやれ、殿下はこの私にとことん仕事と責任を与えるつもりですな?」

「もちろんだ。人は正しい評価を受けるべきだからな」

「本当に……殿下は大きく変わられましたな……」


 このグスタフをはじめ、王国では実力があるのにその身分のせいで正当な評価を受けていない者が大勢いる。

 これから通う王立学園にしてもそうだ。貴族だけが学ぶことができ、貧しい国民は文字すらも満足に学ぶことができない。


 私は……国王となって、身分や貧富の差に関係なく、誰しもが正しく夢を見て幸せになることができる、そんな国を作りたいのだ。

 そして、そんな皆の幸せを、愛するリズと共有して幸せになりたいのだ。


「人身売買の組織の制圧、完了いたしました!」

「囚われていた者も全員救出いたしました! 衰弱しているものの、命に別状はありません!」


 そんな騎士達の報告を受け、私は満足げに頷く。


「殿下、勝鬨をお願いします」

「どうぞ」

「うむ」


 グスタフとハンナに促され、私は剣を高々と上げる。


「人身売買の組織は制圧した。我々の勝利だ!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 マインリヒの街に、勝利を告げる騎士達の歓声がこだました。

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