晩餐会(表の部)
「さあ! どうぞ召し上がってください!」
「う、うむ……」
夜になり、私とリズはリンケ子爵主催の晩餐会に主賓として参加している。
他にも、この街の商人や地主などのほか、近隣の貴族達も招いてのものとなっており、かなりの人数となっているのだが……これでは、人が多すぎてリズの疲れを癒すことができんではないか……。
「ふふ……ディー様、表情が少し険しくなっておりますよ?」
「む? そ、そうか……」
リズに指摘され、私は顔を撫でて顔の緊張をほぐす。
「リズ、君はいつでもこの晩餐会を抜けても構わないからな?」
「本当にもう……やっぱり私のことを気遣って、そのような顔をされていたのですね?」
彼女は少し口を尖らせながら指摘する。
あの日以来、リズは私の婚約者として、未来の王妃として、このようなくだらない晩餐会などであっても積極的に私と共に出席している。
私としてはそのような苦労をしなくてもよいと、常々言ってはいるのだが。
『ふふ……ディー様のお傍にいるだけでお役に立てるのですから、こんなに嬉しいことはありません』
そう言って、リズは私の隣にいつもいてくれる。
本当に……私にはもったいないほどの女性だ……。
「……君が私のことを想って傍にいてくれるように、私もまた、そんな大切な君だからこそ、無理はしてほしくない」
「無理などではありません。あなた様のお傍にいられることが、どれほど幸せで、どれほど私の心を癒してくれているか……」
「無論、それは私も同じだ」
……いかん。これではいつも同じように、堂々巡りの議論になってしまう……。
「ふふ! やはり、今回も結論は同じみたいですね!」
彼女も同じ考えに至ったようで、愉快そうに……それでいて幸せそうに笑う。
「はは! ああ、君の言うとおりだ!」
そして私も、そんな彼女を見て破顔した。
◇
「ではディートリヒ殿下、明日の余興を楽しみにしておりますよ!」
リンケ子爵をはじめ、今日の晩餐会の参加者達が口々にそう話す。
実は、晩餐会の最初の挨拶の時に、私は全員に向かってこう告げた。
『今日の素晴らしい晩餐会への返礼として、明日このディートリヒがとっておきの余興を見せよう』
と。
まあ、余興については言わずもがなだが、さて……参加者のうち、何人残るかな?
そんなことを考えながら、口の端を持ち上げていると。
「ディートリヒ殿下……少々よろしいでしょうか?」
「? なんだ?」
気持ち悪い微笑を張り付け、リンケ子爵が私にだけ手招きをするので、私は少しだけリズから離れ、彼の傍に寄る。
「……実は、お勧めしたいものがあるのですが……」
「ほう? それは、どのようなものなのだ?」
耳打ちするリンケ子爵に、私は興味深そうに尋ねた。
「それはもう、見ていただいてからのお楽しみとしか言いようがありません……ですが、ディートリヒ殿下には、特にお喜びいただけるかと」
「ふむ……」
私は少し視線を天井へと向けながら、思案するふりをする。
ここでそのような申し出をしてきたということは、やはり人身売買に関することである可能性が高そうだな。
「分かった。楽しみにしている」
「はい……! では、後ほどディートリヒ殿下のお部屋に迎えに行かせますので、お一人でどうぞお待ちになってください」
「うむ」
そうして、リンケ子爵はそのまま離れていった。
「……リズ、聞こえたか?」
「ええ。あれで私に聞こえないとでも思っているのでしょうか」
リズは、背筋が凍るほどの視線をリンケ子爵の背中に向け、感情のない声でそう告げる。
うむ……私もここまで怒っている彼女を見たのは、イエニーが派遣されて早々に発情した時以来だな……。
「それで、どうなさるのですか?」
「とりあえず、リンケ子爵の誘いに乗ってみよう。だが、念のためにハンナに同行してもらい、イエニーに君の護衛にあたらせる」
「……それが最善でしょうね」
リズはかなり不機嫌だが、それでも了承してくれた。
「リズ」
「はい……って、ふああああ!?」
「リンケ子爵の用件が終わったら、たとえ何時であっても君の部屋に行く。こんな我儘を言って申し訳ないが、その時まだ起きていたら、このように君の温もりを求めてもよいだろうか……?」
私はリズを抱きしめ、耳元でそうささやいた。
おそらく、リンケ子爵のお勧めというのは、そういう下卑たもので、吐き気のするものである可能性が高いからな。
リズで思う存分口直しをしたい。
「ふふ……そんな幸せなお願いでしたら、私は待ち遠しくて眠れる自信がありません。なので、ディー様がお越しになるのを心待ちにしております……」
「ああ……待っていてくれ」
蕩けるような笑顔を見せるリズからそっと離れると。
「リズ、では部屋へと戻ろうか」
「はい!」
彼女の手を取り、私達は部屋へと戻った。
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