110 皇后陛下と鉢合わせ
煌運殿下のお見舞いを終えて、わたくしたちは部屋を出た。秋の宴まではまだ時間がある。だけど、わたくしはこれから宴のための装いに着替えなくてはいけない。
煌月殿下と一緒に煌運殿下の宮の廊下を歩いていると前方から「どうか、お待ちください!」と女性の声がする。
「何故わたくしが待たねばならぬのです!?」
この声は……
聞き覚えのある声に、わたくしは煌月殿下と顔を見合わせた。
「わたくしは煌運の母親ですよ!! 先客がいようと関係ありません! そこを通しなさい!!」
皇后陛下が煌運殿下付きの女官にそう叫んでいた。
「煌運殿下より来客中であるため、皇帝陛下以外は急ぎの用でない限り通さぬように申し使っております」
「あの子がそんなことを言うわけないでしょう!!」
皇后陛下の声が段々近付いてくるのが分かる。
「っ」
わたくしは無意識に身体を固くした。だけど、それを察した煌月殿下がわたくしをそっと抱き寄せる。
「大丈夫だ。私が傍にいる。そなたは堂々としていれば良い」
その言葉に励まされて、わたくしは「はい」と頷くと背筋を伸ばす。すると、廊下の曲がり角から皇后陛下が現れた。皇后陛下はわたくしたちに気付くと険しい表情を更に歪めた。
「来客とは、煌月と雪花のことだったの!? 何故二人がここにいるのです!!」
「お見舞いですよ、皇后陛下。兄が弟を訪ねるのに理由が必要ですか?」
煌月殿下は微笑みを浮かべて皇后陛下と対峙した。
「白々しい! 煌運が怪我をしたのは煌月、お前のせいよ!」
「……最近の皇后陛下はご冗談が多いようだ。それに、まるで以前の万姫のように癇癪を起こされている。……もしや、皇后陛下も万姫と同じ薬物を盛られているのではありませんか?」
「何ですって!?」
ただでさえ機嫌が悪そうな皇后陛下を煌月殿下は挑発された。その様子に、わたくしは心配になる。
「皇后陛下、来客だった煌月殿下と雪花様はもうお帰りのようです。早く煌運殿下の元へ参りましょう」
皇后陛下の後ろに控えていた彼女の筆頭女官がそう口を挟んだ。
「これで何も問題ありませんね?」
筆頭女官が煌運殿下付きの女官に尋ねる。
「は、はいっ、勿論でございます」
筆頭女官の物言いに圧倒された煌運殿下付きの女官は答えるや否や「ご案内致します」と、びくびくしながら動き出した。
ふんっ、と鼻をならして皇后陛下はわたくしたちに背を向けて、煌運殿下の元へ去っていく。
「……何とかなりましたね」
緊張が解けたわたくしは、ホッと息を吐いた。
「ふむ。だが、皇后陛下が薬物に犯されているか知れる機会であったのだがな」
「え?」
それは、先ほど煌月殿下が皇后陛下に尋ねて挑発されていた時のことだ。
『……もしや、皇后陛下も万姫と同じ薬物を盛られているのではありませんか?』
「あれは、……皇后陛下の指示で万姫様に渡す薬膳茶に薬物を混ぜられたのですよね? 皇后陛下がご自分で薬物入りの薬膳を摂取するでしょうか?」
結果的に皇后陛下は沈黙を貫き通したため、調査は難航した。代わりに夏宮の女官に薬膳茶を渡していた女官が主犯として刑を受けたことで騒動は幕を卸した。
だけど、わたくしも煌月殿下もそして万姫様も、皇后陛下が主犯だと疑っている。
「だが、秋の宴が始まってから……いや、北の離れを出た辺りから、皇后の様子がおかしい。みな、北の離れに軟禁されていたからだと思っているようだが、私は以前よりも癇癪が増えたと感じている」
「言われてみれば……秋の宴で煌運殿下が中々お戻りにならないことに対して、皇貴妃様に八つ当たりされていました」
他にも、煌運殿下のことを報告しに来た宦官たちにも厳しい口調で責め立てられていましたわ。
「……この一件、まだ終わっていないかもしれぬな」
煌月殿下の呟きに心当たりがあったわたくしは、「そうかもしれませんね」と頷いた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます!
冬宮の華は久しぶりの更新になりました。
今年最後に一話上げることが出来て嬉しく思います!
更新ペースはゆっくりですが、このお話しはまだ続きます。
どうぞ、来年も冬宮の華をよろしくお願いします!




