第164話「彼女の願い」
「別に、何も焦ってないよ……。私はただ、もっと来斗君に好きになってもらいたいだけで……」
美咲はベッドで仰向けになった状態で、人差し指を合わせてモジモジとし始める。
俺に関して嘘を吐くのは下手な子のため、これは本心から言っているのだろう。
笹川先生に対抗する暴走ではなかったことに安堵するが……。
「俺は美咲のことがちゃんと好きだよ。それじゃあ不満なのか?」
「だって、冷静すぎるもん……」
唇を尖らせながら、プクッと頬を膨らませる美咲。
どうやら、俺が手を出さないことに不満を持っているらしい。
いや、美咲に流されたらいろいろとまずいから、冷静でいないといけないんだが……。
「俺がこういう奴だってことはわかってて付き合ったんじゃないのか?」
「わかってるけど……やっぱり、もっと求められたい……。来斗君の好きなこと、いっぱいしてあげたい……」
これは、どっちなのだろうか……?
いつもの甘えん坊の面が出ている?
それとも、心愛に対して見せる母性というか、甘やかし好きの面が混ざっているのか?
何をすれば彼女が満足するのか、見えなかった。
さすがに、俺が彼女に甘えるということではないだろうが。
万が一それを求められているとしたら、さすがに無理だ。
「俺は美咲が一緒にいてくれるだけで満たされているよ。それじゃあ駄目なのか?」
とりあえず、彼女の言葉の真意を探ってみる。
俺が思うに、単純にもっといちゃつきたいだけなのではないか、という感じだが……。
「来斗君が、私のことしか考えられないようになってほしい……。あっ、も、もちろん、心愛ちゃんのことは別だよ……!」
俺の地雷を踏んだと思ったのか、美咲は慌てて補足をする。
心愛を蔑ろにすることは良しとしないとわかってくれているのは有難いが、それよりも俺は戦慄していた。
この子、彼氏をなんてところに堕とそうとしているんだ……!?
美咲が言わんとすることもわかる。
笹川先生や鈴嶺さんという魅力的な女性が傍にいるのだから、彼氏である俺がそちらに惹かれないか――と心配になるのはわかるのだ。
美咲のことしか考えないような彼氏であれば、彼女にとってこの上なく安心だろう。
しかしそれは、恋愛面だけの話ではない。
先程心愛の名前を出してきたように、生きていくうえで美咲のことしか考えられないようになってほしい、と彼女は思っているようだ。
そして、美咲には相手がそうなるようにできるだけの魅力がある。
ましてや俺にしているようなことを一晩中されてしまえば、たいていの男は彼女にのぼせあがってしまうのではないだろうか?
――そう、勉強や仕事が手に付かないほどに。
人、一人――いや、美咲がその気になれば何人もの男を駄目人間にしてしまう危険性が、彼女にはあったのだと今初めて思い知った。







