第163話「本心(?)」
「――それじゃあ、ベッドいこっか……?」
片付けや歯磨きが終わると、美咲は耳に髪を指でかけながら、期待したように上目遣いで声を掛けてきた。
頬はほんのりと赤く染まっており、別の意味で誘われているようにしか聞こえない。
「誰も、ベッドに行くとは言ってないんだが……?」
とりあえず、ごく当たり前のようにベッドへ行こうと言い出した美咲に、俺は待ったをかける。
甘やかすまでは仕方ないとしても、ベッドの中に入るのは違うだろう。
しかし――
「ベッドの中で、あまえたい……。だめ……?」
――スイッチが入っている美咲は、止まらなかった。
賢いせいか、この子も学習していっている気がする。
俺に、どう言えば効果的なのか、ということを。
「……今日だけだぞ……?」
明日からは心愛がまた保育園に行き、笹川先生も当然保育士の仕事があり、母さんも会社の仕事がある。
だから美咲とお昼は二人きりになり、この子は甘え放題の状況なのだが――譲るのは、今日だけだ。
と、自分に言い聞かせた。
「……♪」
俺がオーケーを出したことで、美咲は猫のように俺にすり寄ってくる。
腕に抱き着くと、すぐにスリスリと頬を擦り付けてきた。
この体勢のままベッドに行くつもりのようだ。
そして、ベッドに着くと――。
「私、もう少し薄着のほうがいい……?」
既に半袖半ズボンというラフな格好の美咲が、理解不能なことを聞いてきた。
これ以上薄くなど、もう下着姿しかないじゃないか……。
「さすがにまずいだろ……。今のままで十分だよ……」
俺は喉が渇くのを感じながら、ぶっきらぼうに返してしまう。
すると、美咲は若干落ち込んだような表情を見せたが、すぐに何かを思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、ベッドに入るなら先にお風呂に入ったほうがいいよね……? お姉ちゃんたちまだまだ帰ってこないと思うから、一緒に入っても――」
「駄目に決まってるだろ……」
俺は美咲の言葉を遮り、彼女をお姫様抱っこしてベッドに寝かせた。
まるで熱に浮かされているかのように、今の美咲は判断がまともにできていないように見える。
確かに俺たちがお風呂に入っている間、母さんたちが帰ってくることはないだろう。
しかし、浴室を乾かすために換気や乾燥をしていたり、水気が残っている風呂場を母さんたちが見た場合、どう思うだろうか?
十中八九、一緒に入ったと思うだろう。
そもそも真昼間からお風呂に入らないといけない理由などないため、余計な誤解を生むに決まっている。
そんなの、看過できるわけがなかった。
「むぅ……」
「拗ねても駄目だ。何をそんなに焦ってるんだよ……?」
ただでさえ埋まっている外堀をまるで何重にも埋めるかのような言動をする美咲に、俺は本心を尋ねてみた。







