第156話「離れたくない彼女」
笹川先生が階段を上った後、俺はリビングで美咲を待つことにした。
あまりゆっくりされると母さんが帰ってきて、根掘り葉掘りいろいろと聞かれるような気がするのだが、だからといって急かすわけにもいかないだろう。
下手をすると、未だに服を着ていない可能性だってあるのだし。
まぁ、まだ温かい季節なので、風邪を引くことはないだろうが。
ちなみに、ヤモリは俺がリビングに戻るといなくなっていた。
なんというか……お騒がせな奴だ。
姿をくらますなら、もっと早く消えてくれていればいろいろと楽だったのだが。
とはいえ、多分人がいたから動かなかっただけで、いなくなったうちに逃げたのだろう。
それに、笹川先生が俺に抱き着いていて、美咲が来たタイミングで隠れられるよりはよかった。
あのタイミングで消えられるのが、一番やばかっただろうから。
「…………」
ソファに座って美咲を待っていると、ドアが少しだけ開いた。
その隙間から、美咲が俺のほうをジッと見てくる。
「何してるんだ?」
リビングに入ってこない彼女に対し、俺は声をかけてみる。
「なんで、平然としてるの……?」
すると、不満の色を含んだ声で聞き返された。
うん、何に拗ねているかわかりやすい女の子だ。
「時間が経ったからだよ」
「……私は引きずってるのに、ずるい……」
美咲はドアをゆっくりと開けると、頬を小さく膨らませながら入ってきた。
顔はまだ赤いので、今まで悶えていたようだ。
「ずるいと言われてもな……」
「むぅ……」
彼女は言葉にはしないが、裸の美咲を見たのに俺の反応が薄いことが気に入らないのだろう。
実際、学校のほとんどの男子が俺と同じ状況になった時、歓喜するはずだ。
そのまま押し倒そうとする奴も少なくないだろう。
俺だって、当然何も思っていないわけではない。
ただ、もう考えないようにしているだけだ。
そうしないと、到底理性で自分を抑えきれない。
ましてやこの後、一緒に寝るわけなのだし。
「俺も風呂入ってくるよ。母さんはそろそろ帰ってくるかもしれないから、俺の部屋に戻っておくか?」
俺の家にほぼ毎日遊びに来ているが、母さんの帰りが遅いので美咲はあまり顔を合わせていない。
さすがに俺がいない状況で会わせるのは可哀想だろう。
そう思ったのだけど――。
「うぅん、これからお世話になるんだし、挨拶はちゃんとしておきたいから……」
どうやら、美咲はリビングに残るようだ。
やっぱり、まじめな子だと思う。
ただ、一つ気になるのは――夏休みの間だけ、一緒に暮らすというのを覚えているよな?
なんか、もう普通にこの家で暮らすような言い方に聞こえたような気がするんだが……?
美咲の場合、シレッと夏休みが終わった後も居座りそうな気がしてならなかった。
それはさすがに、美咲父が許さない。
「そっか、じゃあ少し待っていてくれ」
美咲の意思を尊重した俺は、なるべく早く上がろうと思いながら風呂場へ向かおうとした。
すると――
「あっ……お背中、流そうか……?」
――美咲が、先程の拗ねていたことなど忘れたように、髪の毛を指で弄りながら上目遣いで聞いてきた。







