第154話「頭隠して尻隠さず」
「~~~~~っ!?」
鏡越しに一瞬目が合った美咲は、途端にしゃがみ込んでタオルを抱きかかえる。
そしてそのまま、タオルに顔を埋めて悶え始めた。
……いや、後ろ丸見えなんだが……?
頭隠して尻隠さずというのが言葉通りになっている彼女を前にした俺は、ソッと脱衣所を出てドアを閉めた。
惜しいことをしているのはわかるが、さすがにあの場に残れるほど男はできていない。
「ふぅ……なんで、こうなるんだ……?」
一人になったことで思わず溜息が出た俺は、額に手を当てて天井を見上げた。
意外と抜けているところがある子だとわかっていたはずなのに、油断してしまったな……。
というか、別に拒んでいないのに、どうしてこう外堀を埋められるような状況ばかりになるんだ……?
もし美咲が、俺に裸を見られたことがあるなど今後どこかで言ってしまうようなことがあれば、俺が既に美咲に手を出しているとみんなは認識するだろう。
わざわざそんなことを自分から言うなんてこと考えづらいが、美咲の場合慌ててうっかり口を滑らせる可能性がある。
というか、高い。
主に鈴嶺さんを相手に。
これ、どうするんだ?
先のことでも頭が痛くはなるが、今のこと――今晩、寝られる気がしないぞ……?
俺は、この後美咲と顔を合わせるのが気まずいと思いながら、リビングに戻る。
脱衣所にいた美咲が笹川先生の悲鳴を聞いて飛んできたのだから、先程の美咲の声も笹川先生が聞き取っている可能性が高い。
まずは彼女に説明をしたほうがいいと判断した。
そうしなければ、とんでもない誤解を生みそうだから。
そんなことを考えている俺が、リビングに戻ると――
「「…………っ!」」
――笹川先生は、涙目でヤモリの赤ちゃんと睨めっこをしていた。
いや、うん……。
俺がリビングを後にした時と体勢変わってない気がするんだが、ずっとこのままだったのか……?
まるで、蛇に睨まれた蛙状態だ。
「先生、大丈夫ですか……?」
とりあえず、見ていて痛ましかったので俺は声を掛けてみる。
「し、白井さん、こちらへ……」
あまりにも動揺しているのか俺の呼び方は戻っており、笹川先生に手招きをされた。
言われた通り彼女の傍に寄ってみると、彼女はヤモリのほうを見るように手で指示してくる。
だから言う通りヤモリのほうを見ると、笹川先生は俺の背中に隠れてしまった。
そして、ギュッと背中の服を握ってくる。
うん……どんだけ怖いんだ……。
「そんなに怯えなくても、ヤモリは何もしてきませんよ……? それに、赤ちゃんですし……」
というか、このままだとまた美咲が怒りそうなので、放してほしい。
もうヤモリのことはわかったにしろ、それはそれとして区別して怒りそうな気がするし。
まぁ、あの悶えようからすると、そうそう戻ってこないとは思うが……。







