第153話「隙あり?」
「――ほら、風邪引かないように早く服を着るんだよ?」
脱衣所に着くと、俺は笑顔で美咲を自分の腕から引き剥がした。
「あっ……」
そのせいで、美咲は寂しそうに俺の顔を見上げてくる。
心が弱っている状態だから、いつも以上に甘えん坊になっているのだろう。
だからといって、このままバスタオル一枚でいさせると本当に風邪を引くかもしれないし、何より目のやり場やくっつかれた時の感触がやばいので、さっさと服を着てもらうしかないのだが。
「俺がいたら着替えれないだろ?」
いくら俺にベッタリな美咲とはいえ、元々が清楚可憐な美少女だっただけあって、恥じらいは普通の女の子並――いや、それ以上あるはずだ。
さすがに、俺が脱衣所にいるのに裸になって着替えることなどできないだろう。
しかし――。
「髪、乾かしてほしいなぁ……?」
本人は、まだ着替えるつもりがないらしい。
甘えたそうに上目遣いで見つめられた俺は、至近距離のせいもあって思わず息を呑んでしまう。
この子、自分の体が俺の目線から見た場合どう映るのか、わかっていないな……。
まじで目のやり場に困るっていうか、かなり刺激が強いんだが……?
俺はそんなことを考えながら、しまっていたドライヤーを取り出す。
「ほら、背中こっちに向けて」
甘えたいスイッチが入った時の美咲が簡単に譲らないことをわかっている俺は、彼女の言う通りに従う。
こうして甘やかしていれば、先程の笹川先生に対する怒りも全て忘れてしまうはず、というのもあるが。
「えへへ……」
美咲は嬉しそうに笑うと、無防備な背中を俺に向けてきた。
俺のことを信頼してくれているからこその行動だろうけど、少し不安にもなる。
俺だから理性を保てているが、普通の男ならこのまま彼女を押し倒してしまいそうだ。
絶世の美女である彼女の魅力は、それだけ強い誘惑の力があるのだから。
「熱くないか?」
「んっ……大丈夫……」
美咲はリラックスしながらおとなしく髪を乾かされる。
鏡越しに見える彼女の表情は気持ち良さそうで、脱力した顔にはかわいさも感じるが――これ、腕の力まで抜いてないか?
そう思った時だった。
美咲の手が抑えていたバスタオルが、スルッと落ちたのは。
「「あっ……!?」」
俺と美咲の声が重なった直後、鏡には美咲の一糸纏わない上半身がしっかりと映し出されるのだった。







