第150話「ざ・修羅場」
「えっと……」
どうするべきか答えが出ない俺は、笹川先生を見つめる。
すると、ふと気が付いた。
笹川先生の後ろで壁に張り付く生物――小型のヤモリの存在に。
あっ、家に入ってきたのか……。
まぁ珍しいことじゃないけど、それにしてもだいぶ小さいな。
赤ちゃんか?
とりあえず黒い悪魔じゃなくてよかったけど、踏まないように気を付けないとな……。
「? 来斗君、何を見て――」
俺がそんなことを考えていると、何か見つめていることに気が付いた笹川先生がゆっくりと後ろを振り返る。
シレッと俺の下の名前で呼んできた彼女は、俺が見つめているヤモリに気が付くと――大きく体を跳ねさせた。
「きゃあああああ!」
そして、涙目になりながら一目散に俺に飛び掛かってくる。
「えっ――うぷっ!」
まさか笹川先生が突っ込んでくると思っていなかった俺は、思いっきり笹川先生に押し倒されてしまった。
そんな俺の体に彼女は馬乗りになりながら、俺の頭をギュッと抱きしめてくる。
顔全体に大きくて柔らかい物体が押し付けられている俺は、息ができなくなった。
ちょっ、嘘だろ!?
力つよっ!?
よほど力を込められているのか、笹川先生の腕から抜け出そうとしても顔を動かせない。
仕方がなくポンポンッと優しく背中を叩いて放してくれるようアピールするも、笹川先生はパニックになっているようで放してくれなかった。
それどころかパニックになりすぎて、俺を抱きしめていることも自覚していない状況だ。
――や、やばい、不意を突かれたから息が……!
水の中に潜る際は、予め空気を沢山口の中に蓄えて潜るので、息はある程度続く。
しかし、今みたいに咄嗟の時は大して空気を吸えていないどころか、むしろ驚いて吐き出してしまっている状態だ。
息が、そう長く続くはずがない。
どうにか抜け出さないと、死ぬ――そう思った時だった。
ドアが勢いよく開いたのは。
「――お、お姉ちゃん、何今の悲鳴は!?」
どうやら姉の悲鳴を聞いて美咲が一目散に飛んできたらしい。
こういう時すぐに駆け付けるあたり、なんだかんだいって姉のことを大切に思っているんだろう。
しかし――今だけは、勘弁してほしかった。
「………………なにしてるの、お姉ちゃん?」
数秒間を置いた後、美咲から聞こえてきた声はかなり低いものだったので、笹川先生が俺を抱きしめていることに気が付いたようだ。







