第149話「実は厄介」
「笹川先生のことは、頼りにさせて頂いていますよ」
俺は笑顔で笹川先生に伝える。
実際、俺の周りで一番頼りになる人は彼女だろう。
母さんは仕事で忙しいし、心愛はもちろん頼るわけにはいかなくて、美咲もあまり頼れる感じではない。
鈴嶺さんに関しては、頼ったらむしろ嫌な顔されたり邪険にされたりしそうなので、相談できるとしたら笹川先生だとは思うのだ。
「でもそれは、他人行儀で――という感じではありませんか?」
俺の返答を聞いた笹川先生は、すぐに核心を突いてくる。
やはり敵に回すと厄介な人なのだろう。
「実際、頼り切れるほどの関係ではありませんから……」
俺と笹川先生は、元々園児の保護者と保育士という関係だった。
それが今では、妹の彼氏であり、彼女の姉という感じの関係になっただけで、関係性で考えればまだ遠いのだ。
なんでもかんでも相談できるというものではない。
ましてや、迷惑をかけるというのは気が引ける。
「ですから、そこを気にしないで頂きたいのです。もう白井さんは、美咲の婚約者みたいなものですし」
大人の笹川先生から発せられる、衝撃の言葉。
あ~、はい、なるほど……。
そこまでガチガチに埋めに来ますか……。
家に泊まることにした時から思っていたけど、この人もなにげに美咲同様外堀を埋めにきているよな……。
むしろ、外堀を埋め終わったから、中から逃げ道を塞ぎ、制圧に乗り出している感すらある。
「あっ――そうです、お互いの呼び方から変えてみませんか……!?」
名案を思い付いた!
と言わんばかりにパァッと表情を明るくする笹川先生。
当然、更に予想外の発言をされた俺は戸惑ってしまう。
「えっ……?」
「私のこと、お姉ちゃんと呼んでください。私も来斗君と呼びますので……!」
笹川先生からすれば、俺との距離感を縮めたいのだろう。
しかし、思った以上に強引な手段を取られている。
まさか、あの笹川先生がこんなことを言い出すなんて……。
いろいろな意味で厄介だ。
「さすがにそれは、恥ずかしいのですが……」
いくら彼女の姉だとはいえ、お姉ちゃん呼びはできない。
ましてや憧れていた人でもあるのだから、余計に困惑してしまう。
その上、美咲の反応も読めないし、心愛も混乱しそうだ。
少なくとも、美咲は笹川先生の『来斗君』呼びを嫌がるだろう。
「ですが、将来的にはそう呼んでくださるのではないのですか……?」
突然、笹川先生は悲しそうに表情を暗くして俺を見つめてくる。
こ、この姉妹、やっぱり似た者同士だ……!
ここでその表情はずるいだろ……!?
内心そう思うものの、俺はどうするべきか考える。
無難なところを取るのであれば『美空さん』と呼ぶのが一番だろう。
だがそれは、美咲が笹川先生を敵視していない場合に限る。
現状敵視している状況で、疑われてすらいるのに、俺が『美空さん』なんて呼んだ日には衝突は免れないはずだ。
絶対にそれだけは避けたい。
かといって、お姉ちゃん呼びも恥ずかしいし、そもそも笹川先生にこんな顔されているのに断るなんて……。
いや、まじでどうするのが正解なんだ……!?







