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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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80.貞子Side


《貞子Side》


 わたくしは茶臼山ちゃうすやま貞子さだこ

 この世界に召喚された聖女の一人でございます。いろいろあって、寧子さんに救われ、彼女とともに旅をしている次第です。


 現在、わたくしたちはネログーマに来ておりました。寧子さんとともに、この国の聖域に棲むという水神に会いに来たのです。ところが、水神は何者かの呪いを受けていることが判明しました。わたくしはアメリアさん、ラッセル女王、そして神獣ヨルとともに、呪いをかけた張本人を探しているところです。


「くっ……! 見当たらない……! どこだっ!」


 ヨル様が空を駆けて、わたくしたちは上空から周囲を見渡すも、怪しい人物の姿は見当たりません。


 ――わたくしは、一つの可能性に気づいておりました。わたくしだから気づけた、という部分もあるかもしれません。


『ラッセル様……一つ、おたずねしたいことがございますの』


「? どうしたのじゃ?」


『……ボッタクルゾイは、どうなっておりますの?』


 あのボッタクルゾイです。ラッセル様に呪いをかけていた存在の一人。寧子さんによって一度成敗されたはずの者です。しかし、その後の処遇については、わたくしたちは把握しておりませんでした。


「奴は……城に幽閉されておるのじゃ。呪いを解除……呪いが、ま、まさか……!」


 アメリアさんの表情が変わります。わたくしもうなずきました。


「まさか……ボッタクルゾイが、水神様を操っているとでも?」

「……正確には、奴一人の仕業ではないとは思います。しかし、ボッタクルゾイが関与しているのは確かでしょう」


 ボッタクルゾイは加担者にすぎない――真の黒幕がいる。わたくしには、心当たりがありました。


「今すぐ、王都に戻りましょう」


「しかし、かなり距離があるのでは……」


 そのとき、ヨル様が「ひゃーんひゃんっ!」と吠えました。


「なんだ……?」

 アメリアさんが首をかしげます。ヨル様は、きっと『いける!』と言いたいのでしょう。


『皆さん、ヨル様にしっかり捕まってください!』


 わたくしがそう呼びかけると、皆様は戸惑いながらもヨル様の身体にしがみつきます。


「ひゃおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」


 ヨル様が地面――否、空間を蹴るように加速します。すさまじい速さで景色が流れ、あっという間に王城の上に到着しました。瞬間移動にも等しい速さです。


「到着しましたのじゃ!」

『王城へ向かいましょう!』


 わたくしたちは慌てて地下牢へと向かいます。目立ってしまうのは致し方ありません。


 牢屋の中で、ボッタクルゾイは座っておりました。


「……なんの用だ?」

 うつろな目で、奴はわたくしたちを見ます。


『用があるのは……貴方の中にいる者ですわ』


「なんだと……?」

 ボッタクルゾイは気づいているのか、いないのか――判然としません。しかし、わたくしは心の奥で、黒い気配を感じ取りました。一度、闇に落ちた経験のある者だからこそ分かることがあるのです。一体、なぜ最初に気がつかなかったのかと自分を責めましたが、まずはその邪悪な存在を取り払わねばなりません。


『【浄化】!』


 わたくしは聖女スキルの一つ、浄化を発動しました。寧子さんや愛美さんほどの大規模な浄化はできませんが、邪悪な憑依に対しては効果は抜群です。


『ぐおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』


 ボッタクルゾイの体から、黒いもやが噴き出しました。そして、そのもやは人の形を取り始めます。一人の女性に――変じたのです。


『……貴方も、わたくしたちと同じ、召喚された聖女ですわね』


 敵は、わたくしたちと同じ存在。異世界から召喚された聖女――その中でも、彼女は――。


『クソガァ……ドウシテ、キヅイタァ……アタイ、ガ……【悪霊の聖女】ダトォ……!』


 悪霊の聖女――なるほど。胸に鋭い痛みが走りました。わたくし自身も、かつて似たような力を持ち、同じ闇に触れたことがあるからです。聖女には固有の力が備わる。寧子さんは調教師、そして寧子さんの猫神――各々に特性がございます。彼女の能力は、悪霊を操り、他者に取り憑かせるものであろうと察しました。


「悪いことはおやめなさい。水神を解放するのです!」


 わたくしは叫びましたが、彼女は激しく反発します。


『ヒャハハ! ソウサ! ヨクキヅイタナァ! アタイハコノセカイ、ニクンデイル! 勝手ニヨビダシタ、コノセカイヲ!』


 ――痛いほど、わかるのです。わたくしも好き好んでここに来たわけではありません。強制的に連れて来られた。かつての日常を奪われ、自由を奪われた恨みは想像に難くない。わたくしが闇に触れた理由も、あながち他人事ではないのです。寧子さんや愛美さんのように踏みとどまれる者は稀有です。


『だが、それは違う! その力は、そんな風に使うものではない!』


『ダマレ……!』


 黒いもやが巻き上がり、わたくしは慌てて結界を張ってアメリアさんたちを守ります。黒いもやの一部を防げましたが――


『チッ。メンドウダ。ダガ……』


 どごぉん!


「な、なんじゃ!? 外から爆発音が……」


 わたくしは目を閉じ、調教師テイマーとして外に待機させているテイムモンスターの視界を共有しました。


『ネログーマ国民が……暴動してますわ!』

「なんじゃと!?」


 悪霊の聖女はその力で、民衆に悪霊を憑依させ、暴動を引き起こしたのです。


『水面下デ、ジックリコノ国潰シテヤルツモリダッタガ……計画ガバレタカラナ、計画早メタノサ!』


 彼女はネログーマに強い恨みを持っているらしく、国を内側から崩壊させようとしていたようです。拉致や暗殺を含む工作を進め、それが露見したために計画を一気に進めて暴力へと移した――そう推測できます。


『辞めなさい! そんなことをしても虚しさが募るだけですわ! 浄化!』


 パァッ――! 浄化の光を放ちますが、悪霊は複数体に増幅して押し寄せてきました。


『オマエニ、アタイノ、ナニガワカル! 死ネエェエエエエエエエエエエ!』


 数多の悪霊が襲いかかります。わたくし一人では対処できません。


「ハア……!」(アメリアさんの剣)

「ワァオオオオオオオオオオオオオオン!」(ヨルの獣咆哮バインド・ボイス


 アメリアさんが剣を振り、ヨルが吠えて悪霊を一時的に固めます。そこへ、ラッセル様が突っ込む!


「ガァウ……!」


 ラッセル様は悪霊の聖女に噛みつこうとしますが、空振りしてしまう。


「ラッセル様……皆さん……」

「大丈夫だ、貞子殿。我らがついている。皆で、彼女を鎮めよう!」


 ああ、思い出しました。わたくしはつい忘れがちですが、この世界には闇だけでなく、光も存在するのです。仲間がいること――支え合える者たちがいることを、わたくしは再び思い知りました。


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★新連載です★



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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