79.VS水神
水神は、何者かによって操られていることが判明した。
水神の暴走、あふれ出る濁流、そして呪いをかけている者の排除――三つの任務を同時に行う必要が出てきた。
私たちは手分けして、そのミッションに当たる。
「ふしゃーーーーーーーーーーー!」
ましろが宙を舞い、飛爪で斬りかかる。だが、飛ぶ斬撃は水神の鱗に当たっても、びくともしない。
――――――
水神のうろこ
→青龍を覆う鱗は、神威鉄以上の硬度を持つ
――――――
ましろの爪は神威鉄をも引き裂くが、それすら水神の鱗ははじいてしまう。なんて堅さだ……。
「ましろたん、爪は効かないでしゅ!」
「うにゃにゃー!」
『【そんなのわかってるわよー!】ですって』
わかっているのに、どうしてもっと強い攻撃を使わないのだろう。ふと、ましろの表情がどこか悲しげに見えた。ましろと水神は面識があると言っていた。知り合い――いや、もしかしたら友達なのかもしれない。友達を傷つけたくない気持ちが、攻撃の手加減に表れているのだろう。
『……敵を早く見付けないと、ですね』
「うぉ! 貞子さんの声!? どこから……!?」
私の肩に小鳥が止まっている。貞子さんが調教した伝言鳩だ。
『……伝言鳩と呼ばれる魔物です。ハトを通して遠くと会話でき、視界も共有できます』
「貞子さんのテイマースキルって、本当に便利ですね」
『愛美さん、ふざけないで。きちんと寧子さん(鳩)を手伝ってくださいね』
「わ、わかってますよっ。いつだって真剣ですからっ」
疑わしいが、まあいい。
「そんじゃ……とりあえず、広がる濁流を止めます! 結界!」
愛美さんが柏手を打つ。彼女を中心に巨大な結界が展開した。空を覆うほどの大きな結界だ。
「聖域を中心に、でっかい結界を張らせてもらいました!」
「それは……いいですけど。そんなことしたら力尽きませんか?」
聖なる力は無限ではない。結界の維持にはリソースを消費する。
「ぬははは! そこは問題なっしんぐ! 濁流だけを閉じ込めて、それ以外は出入り自由って条件にしたから、消費を省エネしたのです!」
「条件を変えると、そんなことができるんでしゅ?」
「そう。出入りできるものを限定すれば限定するほど、消費は減らせるんです!」
なるほど、仕様の都合で工夫できるのか。先輩聖女、さすが知識が豊富だ。
「しゅごい……」
「やすこにゃん、今のうちに湧き出る水を減らす方法を考えてくさい!」
聖域から大量の水が湧き出している。これをどうにか減らさないと、結界内が満たされてしまい、溺れる危険がある。
「方法は……考えてましゅ!」
私は腰のカバンを掲げる。愛美さんから借りている魔法のバッグだ。何でも収納できる力がある。
「収納……!」
猫型カバンの蓋がぱかっと開き、ひゅごぉおおお――と大量の水がカバンに吸い込まれていく。
「なるほど、カバンの収納ギミックで水を吸ってるんですね! って、やすこにゃん? なんでそのカバンをあたしにかけるの?」
愛美さんのカバンを、彼女に掛けてあげる。
「じゃ、私はましろたんの手伝いに行きます。ここはよろしく」
「ちょ!? 結界の維持しながらカバンで水吸うの!? そんな二つ同時にできないですよ!?」
「大丈夫。カバンがオートで水を吸いますので、愛美しゃんは結界の維持に注力してくだしゃい」
ぴょん、と私は結界の外へ出る。ましろは水神と戦っており、明らかに手を焼いている。友達であるが故にパワー全開で戦えないのだろう。
水神は、友であるましろを認識していない。殺すつもりで、水ブレスや尾撃を放ってくる。
「ましろたんっ!」
ましろが水神の尾撃を受け、風圧で吹き飛ばされる。ジャンプで避けようとしたが間に合わなかった。
「結界!」
私はましろを包む結界を展開し、吹き飛ばされるところを受け止める。なんとか助け出し、私はましろを抱きかかえた。
「ふにゃあ……」
近くで見ると、ましろはかなり傷ついている。白い毛が血で汚れている。
思わず私はぎゅっと抱きしめた。
「ましろたんは、優しいでしゅね」
私は治癒をかけて怪我を癒す。身体の傷は癒えるが、友を傷つけた心の痛みはすぐには消えない。
「ましろたん、あとはアメリアしゃんたちを信じて、結界の中でおとなしくしてましょう」
「ふにゃー!」
ましろは首を振って落ち着かないが、結界の中でじっとする。
水神は標的を、ましろから愛美さんの結界に変えようとしていた。
「うわぁ……! やばいです! なんとかしてください! 水だけに限定して押さえ込んでいるから、水神自体は抑えられないですよぉ!」
水神は、脅威であるましろが攻撃してこないなら、結界の外の人々を狙って攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
「結界!」
私は水神の周りにボール状の結界を張る。水神がその壁にぶつかった。
バウンッ……! 水神が結界の壁に阻まれる。
「なるほど……水神だけを閉じ込めることに特化した結界ですね。やすこにゃんの猫神モードによるブーストもあって、なんとか閉じ込められてます!」
結界を水神に特化して限定し、さらに猫神の力でブーストすることで、ぎりぎり封じ込められている。だが長時間は保たない。
「アメリアしゃん、ラッセル様、貞子しゃん、この間に呪いをかけている奴を見つけてください!」
役割分担を再確認し、私たちは行動を続けた。




