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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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78.水神降臨


 水精霊を、ましろが倒した。空間斬という新しい技を披露して――。


「あの精霊、妙なことを言っていたな」


 アメリアさんが神妙な顔つきで言う。


『なんか言ってましたっけ?』


 切断された腕が元に戻ってご機嫌な愛美さんが応える。


「我らが水神を襲う賊を、排除せよと命令された……と、精霊は言っていた」


『水神が、あたしたちを排除しようとしたってことでしょ?』


「いえ、愛美殿。精霊は“水神ではなく、他の誰かに命令された”と言っていたのです。もし水神が自ら言っていたのなら、『我を狙え』のように自分を示すはずです」


『あ、そっか……。うーん、でも単に水神から聞いた命令を他人に伝えるときに「水神が〜」って言ってるだけかもよ?』


 愛美さんの考えも分かるし、アメリアさんの懸念も理解できる。


「誰かが水神を操っている可能性もある、ということですね」

「その通りだ、コネコちゃん」


 あんまり考えたくないが、それは現実味がある。


「神を操るとは……誰が、そんな罰当たりなことをしているのだ」

 ラッセル様が鼻息を荒くする。


 そもそもそんなことが可能かどうかも疑問だ。ましろやヨルを見ればわかるが、神獣の力は恐るべきものだ。そんな神の力を操れる者がいるのか――。


「ひゃんひゃんひゃんっ!」

「なーう」


『ヨル様は【あそぼあそぼあそぼ】だそうです。ましろ様は【背中かいてー】だそうで……』


 ……あれ、操れるかも、と思ってしまうのは好奇心の悪い顔だ。神獣は基本的にマイペースで動物的だ。その隙を突いて、呪いなどで操ることができるかもしれない。


「まあ、ここでごちゃごちゃ考えてても仕方ないでしゅね」

「そうだな。敵がいるなら、そいつを倒せばよい」


 敵がいるなら倒す。いないなら――いないに越したことはない。想定を敵ありで進め、私たちは先へ進むことにした。


 ややあって。


「止まってください」


 私は皆に指示する。


「どうしたのじゃ?」

 ラッセル様は異変に気づいた様子。ましろとヨルも警戒する。


「何か来る……これは……水! とんでもない量の水が押し寄せてきましゅ!」

「なんだって!?」


 今は見えていないが、まもなく来るだろう。霊体の愛美さんたちはともかく、地上の私たちはその勢いに飲まれれば死ぬ。


「結界!」


 私は足下に結界を出現させる。普段のドーム状ではない、立方体の結界を。足下からぐおっ、と上空へ勢いよく飛び出させる。


 結界がジャンプ台のように作用し、私たちは空に放り出される。


「そんでもーいっかい、結界!」


 今度は私たちを包み込むように球体の結界を構築。結界は中空に浮かび、私たちは空中でとどまった。


 その下を、すさまじい勢いで濁流が押し寄せてくる。


「あ、危なかった……あと少し遅れていたら、あたしたちは……死んでた」


 一瞬で、先ほどまで居た場所が濁流に飲み込まれていた。木々をなぎ倒し、押し流すほどの勢いだ。砂利や木片が混ざるその流れに呑まれていたら、体は削られてバラバラになっていただろう。


「なぜいきなり濁流が……」

「恐らく、敵も我々の存在に気付いたのだろう」


 空が暗くなり、分厚い雲が覆う。ぴしゃっ、と雷光が走り、遅れてどごぉおおん! と轟音が響く。森に雷が落ちたが、濁流のおかげで火事にはならなかった。


「なん、でしゅ……あれ……?」

『で、デカい……ど、ドラゴン……いや、龍ですよぉ!』


 私たちの眼前に、青いうろこをまとった巨大な龍が現れた。山のような体躯、青い稲妻を帯びる鱗、鋭い牙と爪。うなり声だけで大気が震える。


 ラッセル様がその龍を見てつぶやく。


「水神殿……」

「! あれが……水神……?」

「そうですじゃ。水神……青龍殿ですじゃ!」

「青龍……!」


――――――

青龍(幼体)

→水の神獣。天地創造の獣、四神の娘。水と雷を司る。

――――――


 幼体でこれか……親はどれほど巨大なんだ。


「ふにゃー! にゃ!」

 ましろが腕の中から青龍に向かって何かを話しかける。


「にゃーにゃ! しゃー!」


『どうやら青龍とましろ様は面識があるようです。呼びかけていますが、応答はないですね』

「うにゃう……」

『【呪いが掛かってるわ】だそうです』


 やはり、誰かが水神に呪いをかけて操っている。敵は我々の存在に気づき、水神に命じて排除しようとしているのだ。


「うにゃ、しゃー!」

 ましろが私の腕から飛び出す。


「ましろたんっ!」

『【目を覚まさせてやるー!】ですって! 神獣同士、互角かも……』


 しかし水神は口の周りに水を集め、一気に強烈な放射を放つ。


 ビゴオオオオオオオオオオオオオオ!


「あぶにゃい!」


 私は結界でましろを覆うが――スパァンッ! やすこにゃんの結界が真っ二つに裂ける。


 ましろは結界を足場にして、たんっと跳んで避けた。水神のビームが聖域の木々をなぎ倒す。倒れた木の断面は鋭利に切り裂かれ、あれを食らえば体は真っ二つになるだろう。


「うにゃー!」

『【私がこいつを引きつけるから、呪いをかけてる馬鹿をぶん殴って!】だそうです!』


 呪いは、かけた本人を倒さなければ解けない。つまり呪いの発動源を突き止め、排除しなくてはならない。


「私たちは呪いをかけてる奴を探しましょう」

「しかし、聖域からあふれ出る濁流はどうする? ここで食い止めないと、被害が森の外へ広がるぞ!」


 確かに、濁流は森を抜けて街へ向かっている。


『森から出た水は、水路を通って街へ向かっています。ただ量が多すぎます。このままでは水路は氾濫し、街は濁流に飲まれてしまいます!』


 状況は整理された。解決すべき問題は三つ。


 1.暴れている水神を止める

 2.濁流を止める

 3.呪いをかけている者を見つけて倒す


「1つめは、ましろたんに任せるしかありません。2と3を、我々で対処しましょう!」


 方針は決まった。役割分担を決める。


「貞子しゃんは呪いをかけてる奴を見付けて。アメリアしゃんとラッセル様はそいつを倒す。濁流は、わたしと愛美しゃんでなんとかします」

 皆うなずく。


「ヨルしゃん、アメリアしゃんとラッセル様を乗っけて上げて」

 探し回るには足が必要だ。ヨルに任せよう。


「ひゃーんひゃん!」

 パァッとヨルが光り、巨大なフェンリルへと変化する。アメリアさんたちを乗せ、ヨルは空へ駆け出す。


『空歩スキルですね。持ってたんだ……』と愛美さん。


 探索はあの二人に任せる。


「わたしたちは、この濁流を止めましゅよ! 本気モードでよろしくでしゅ!」


 ぱぁっとカバンが光り、中から愛美さんの実体が現れる。


「しょうがないですね……見せてあげますよ、沈黙の聖女の実力って奴をね!」



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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