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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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77.キレる猫



 猫のひげスキルのおかげで、迷わず森の中を進めた。


「にゃ」


 スッとましろが私の前に立ち、こちらを見上げる。


「どうしたんでしゅ?」

「ふにゃん」


『【止まって。あぶないわ】ですって。これはマジモードです』


 いつもマイペースでわがままなましろが、他人を案じて「危ない」と言う。いったい、どんな凶悪な存在が待ち受けているのか――。


「ぷるぷる……」


「「「「え……?」」」」


 私たちの前に現れたのは、スライムだった。ボール状の体に黒い目。どう見ても雑魚モンスター、スライムだ。


「ぷるぷる……ぼく……わるいすらいむじゃないよ……ぷるぷる……」


 つぶらな瞳で見つめてくるその姿は、捨てられた子猫のようでもある。思わず庇護欲をそそられるが、ましろが止めた事実が私の足を止める。ましろの勘を信じよう。


『うほー、かわいい~♡ だきしめて~♡』

「愛美しゃん、だめでしゅって!」

『えー、なんで? こんな可愛いじゃあないですか~』


 うかつに近づく愛美さん。霊体なので触れられないはずだが――。


「ふははは! 掛かったな! 阿呆がぁ……!」


 びゅっ……! ジュッ……!


『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

「ふはははは! 濃硫酸の弾丸よ! 馬鹿め! ぬははははは!」


 ――スライムが高笑いした。本性を現したのだ。しかも濃硫酸を飛ばすだと? 凶悪すぎる。


「あぶなかったでしゅね……ありがとう、ましろたん」

「ふにゃ」


「愛美しゃん、大丈夫でしょ? 霊体なんだから」

『はっ! そっか! あっぶなーい……』


 濃硫酸弾は愛美さん(霊体)をすり抜け、地面を溶かして大穴をあけていた(じゅっ、という音が響く)。ましろがいなければ、あの可愛さに釣られて近づき、濃硫酸を食らっていただろう。


「チイィイ……! 警戒心の強いメスガキどもめ! だがまあいい、奇襲は失敗したが、貴様らはもう我のテリトリーの中よぉ!」


 ざざざっ、と周囲に同種のスライムが何体も出現する。


「【鑑定】!」


――――――

上級水精霊

→意思を持つ水の精霊。実体を持たないので物理攻撃が通用しない。体内であらゆる水を生成する。

――――――


「水の精霊!? なぜ人を襲うのじゃ!」

「ふはははは! しれたこと! 我らが水神を襲う賊を、排除せよとのご命令がくだったからだ!」


 水神を襲う賊……?


「ちがいましゅ。別に水神に危害は加えません」

「そうですじゃ! 我らはただ、雨が降らなくて困っているから、水神殿に助力を願いに来たのですじゃ!」


 水精霊は鼻で笑う。


「賊の言葉なんぞ聞く耳を持たん! 元々耳など無いがな! ぬははは!」

 腹立つなあ。


「こちらは争いたくありません。ですが襲ってくる以上、こちらも抵抗しますよ?」

「ふん! かかってこい! もっとも、貴様らのような脆弱なる存在に、我が後れを取るわけがないがな!」


 相手が挑発するなら、受けて立つほかない。


「ましろたん。あいつ、ましろたんのこと脆弱って馬鹿にしてましゅよ?」

「にゃにぃ~~~~~~~~~~~~~~?」


 プライドの高いましろにそんなことを言うのは自殺行為だ。猫神の怒りが燃え上がる。


 ましろが水精霊の前へゆっくり歩み寄る。前足をあげて爪を伸ばす。


「ふは? 爪で攻撃でもするのか? 無駄だぁ! 我の体は水でできているのだぞ? 物理攻撃など通じぬわ阿呆め!」


 くあぁ……と、ましろが「はぁ?」の顔で切り返す。ぶち切れているのは明白だ。


「皆しゃん、伏せ!」

 ヨルが先に伏せの姿勢をとる。続いてラッセル様、私、アメリアさん。貞子さんも遅れて伏せる。


『貞子さん、私たち霊体だから別に伏せなくても……』


 ましろが飛び上がり、ぐるんと一回転する。


 ずばぁぁああああああああああああああああああん!


 ――私には見えた。ましろの力が付与された世界が。超高速で爪を振るい、その衝撃波が周囲に拡散する。


 森の木々と水精霊の体が、斜めに切断される。木々はずれ、しかし途中で止まり、ついで元の位置に戻った。


『うびゃぁあああああああ! あたしの腕がぁ……! 霊体なのに腕がちょん切れたぁあああああ!』

 愛美さんが腕を押さえてコロコロ転がる。


「霊体なのに……!?」

 どういうことだろう。水精霊も目を見開く。


「あ、ありえん……水を絶つだと……? そもそも我ら精霊は実体を持たぬのに……」

「ふにゃお」

「空間を斬った……だと!? な、なんだそれは!? そんな神業……ただの猫にできるわけがない!」


 水精霊はやがて水たまりになり、消滅した。


「えーっと……つまり?」

『多分、ましろ様は相手の居る“空間”を切断したのだと思います』

『空間の切断に防御は不可能です。たとえ相手が実体を持たぬ精霊であっても』


 説明されてもわからないが、とにかく強烈だということは伝わった。


「でも、森の木々が戻ったのは?」

『それはあれでしょ、刀の達人が切ったわらがピタッと戻る的なアレ』

 急に説明が雑になるのはご愛嬌だ。


「ましろたん、さっきなんでしゅか?」

「くあぁ……」


 説明する気はないらしい。満足すると眠くなったのか、すぐにカバンに潜り込んでしまった。


「精霊を倒してしまわれるとは……さすが神様じゃ……!」

 ラッセル様とヨルは目を輝かせている。飼い主としては複雑だ。ましろがあんなとんでもない技を持っているとは……いつまた暴発するかわからない。



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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