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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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76.ねこひげ



 私たちは聖域近くの森までやってきた。

 道中の魔物戦は、お察しの通りである。王族の服を脱ぎ、狩猟本能全開になったラッセル様が無双していた。まあ、道中そこまで強い敵は出てこなかったし、私がやるとオーバーキルになってしまう。自然と戦闘はラッセル様担当になった次第だ。


「はぁ〜♡ ……しゃーわせじゃー♡」

「ひゃううん……♡」


 ラッセル様がヨルを抱っこしてうっとりしている。多分、今ものすごくストレス発散になっているのだろう。彼女は王族で、娘の前では猫をかぶっている(犬なのに)。だから普段はストレスを溜めていたのだろう。


「大変なんでしゅね……」

「なにがですじゃ、聖女殿?」

「いえ、普段から相当ストレス抱えてるんだなぁと」

「……そうですな」

「隠さずともよいのではないでしょうか?」

「しかし……一国の王がこんなケダモノみたいなことをしていたら、引くではないですかの?」


 一応客観視はできているらしい。


「よいのです。妾ひとり我慢すれば、民は安心できる。妾一人が我慢すれば……」


 そんな姿が、かつての自分に重なった。夜遅くまで会社に残って働いていた自分と。


「そんなことしても意味ないでしゅよ」

「聖女殿……?」

「一人で我慢しても、誰も褒めてくれないでしゅし。自分が体調を崩すだけ。百害あって一利なしでしゅ」


 まあ、すぐ変わるのは難しいだろう。王が豹変したら国民が驚く可能性は確かに高い。


「ありがとうですじゃ……聖女殿……いや、コネコ殿」

 ラッセル様が微笑む。

「含蓄に富んだ説教でしたじゃ。言葉の端々から苦労がにじみ出ておりましたぞ?」

「あ、あはは……」


 ……実体験ですからね。


「さて、雑談はそれくらいにして、そろそろ行こうか」

 アメリアさんは馬車を近くの木にくくりつける。ここから先は深い森が続き、馬車は入れないらしい。


「あるきかー」

 この小さい足で森を歩くのは、少々大変そうだ。


「ひゃん……!」

 ヨルが近づいてしゃがむ。カッ……とヨルの体が輝き、大人ボディに変化する。


「もしかして……乗れってことでしゅか?」

「ひゃうん!」

 こくんと頷く。私を乗せてくれるらしい。ありがたい。


「ありがとぉ、ヨルしゃん」

「ひゃわん!」


 アメリアさんに手伝ってもらい、ヨルに乗る。ふわふわで、永遠に触っていられそうだ。日なたで干した絨毯のように暖かく、良い匂いがする。


「ふしゃー!」

 カバンからましろが出てきて、私の頭をてしてしと叩く。


『【なにうっとりしてるのっ。ヤスコはあたしだけモフモフしてればいいのにっ!】』

 どうやら焼き餅を焼いているらしい。愛美さんは制裁猫パンチを受けていた。いつになったら学ぶのやら。


「ふにゃ……」

 ましろがヨルの毛皮の上でころんとする。心地よさそうに目を閉じ、すぴーすぴーと寝息を立てた。どうやらましろもヨルの毛皮に虜になってしまったらしい。


「神獣を虜にするとは……おしょるべし、ヨルしゃんの毛皮……」

「ひゃうん!」


 私たちは森の中を進んでいく。隊列はラッセル様、ヨルと私たち、アメリアさんの順。ラッセル様は何度かここに来ているらしく、道順を覚えているという話だったが——。


「すみませぬじゃ。迷いました……」

『ふぇ……? なんでですか? 何度も来たってましたよね?』

「うむ……においを覚えていたので、迷わないはずでした」


 彼女は道しるべとして自分の匂いを残していたらしい。それを嗅いで進めばゴールにたどり着くはずだったが、匂いが消えていて迷子になったと。


『え、それってマーキング……』

「しょれいじょうはいけない……!」


 想像してはいけない。王族はそんなことしないのだ。


「誰かが意図的に匂いを消したのじゃ」

「誰が……でしょうね」

「それは……わからぬ。すまぬのう」


 状況を整理する。聖域(湖)へ向かうルートの目印が失われ、私たちは今どこにいるかわからない。


「こういうときは調教師テイマーの力で——」

『……駄目ですわ』

 貞子さんが首を横に振る。


『視界一面、緑が広がるだけで、湖らしきものが見当たりませんの』

「カモフラージュしゃれてるんでしゅかね……?」


 ラッセル様の言によれば、古の賢者が外からの侵入を防ぐために呪術的結界を施したという。上から探すことも難しいらしい。


「困りましたね……」

 完全に迷子だ。上空からの確認も効かないとなるとお手上げかと思われたが、まだ手はある。


「ましろたん。出番でしゅ!」

 ましろは「猫のひげ」という特別な索敵スキルを持っている。高性能レーダーのようなものだ。目的地探しはたやすいはずだ。


「ふなー」

『【ねむーい】ヨル様の毛皮のうえで、すっかりおねむみたいですね……』


 ましろをどかそうとするが、ましろがペシッと私の手を払いのける。昼寝したいらしい。もう……。


『やすこにゃん、こうなったらやすこにゃんの出番ですよ!』

「あ、なるほど……今の猫神モードなら、猫のひげが使えると?」

『YES!』


 私は猫のひげを発動する。ぴーん! 尻尾が勝手に動き、あさっての方向を指す。


「え? なにこれ……尻尾が勝手に動くでしゅ!」

『こっちの方向にあるんじゃないですかね』

「ええ……。猫のひげってスキルなのに、なんでひげじゃなくて尻尾が指してるんでしゅか……」

『そらやすこにゃん、おひげないし。女の子だから』


 そんなこと言うな。ましろだってメスなのにおひげないでしょ、ってツッコみたくなるが神のルールだ。


『さ、やすこにゃんが道を示してくれました。向かいましょう、聖域に!』


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★新連載です★



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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