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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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74.殺意ましまし



 ラッセル様が青猪ブルー・ボアを一人で倒してしまった。


「申し訳ない……つい……血が騒いでしまったのじゃ……」

「そお、でしゅかぁ……」


 場所は草原。私の前には、高貴な顔立ちの美女が正座している。

 ……口元を血で真っ赤に染めた美女だ。


「実は……妾、こう見えて……」

「はい」

「アウトドア派なんですじゃ!」

「あ、はい」


 意外でもなんでもなかった。雨の中を駆け回っていたし、草原を走りたがっていたし、率先して狩りもしていた。こないだの件も含めれば予想の範囲内だ。


「娘には内緒にしててほしいのじゃ」

「と、いいましゅと?」

「妾がこのようにおてんばになってしまったので、せめて娘には女の子らしく、おしとやかに育って欲しいと思っておるのですじゃ……」


 なるほど。娘の前では本性を隠していたのか。子を思う嘘――そこには確かな愛情がある。

 その思いを踏みにじることはできない。


「あい、わかりました。黙ってましゅ。頑張るお母さんの邪魔はしないでしゅ」

「ありがとうございますじゃ……! ああ、なんて幼いのに立派な聖女殿なんじゃろうか……!」


 すみません、中身アラサーなんです。嘘じゃない、ただ年齢は黙っているだけ。


「ふにゃー」

『【血だらけでひくわー】ですって。たしかにその姿はちょっと……』


 ラッセル様、口から血をポタポタ垂らしてる。こわ……。


「動かないでくだしゃいね。浄ぉ……はっ!」


 ここでハッと気づく。私の浄化は強力すぎて、全部「波ぁ……!」化してしまうのだ。

 至近距離で「波ぁ……!」を出したら、ラッセル様の目が潰れるかもしれない。いや、最悪ショック死レベルかも! と妄想が暴走する。


『こういうときは! お決まりの水浴びイベントですよ!』

 オタク気質な愛美さんが鼻息を荒くする。

『水浴びからの、えっちぃなイラスト! これで勝つる!』


 何に勝つんだろう。美少女の水着をどこに持っていこうとしてるんだこの人は。


「愛美しゃん、今は水が不足してるんでしゅよ? 水浴びなんてできるわけないでしゅ」

『あー! そうだったー! ちくしょー! 美少女の水着がぁ!』


 異世界生活を謳歌している人と一緒にしないでほしい。私は真面目なんだ(震)。


『……わたくしが浄化してみます』

「なるほど……貞子しゃんなら聖女パワー一人分でしゅもんね!」


 三人分入っている私より、貞子さんの方が浄化を抑えられるかもしれない。貞子さんが右手をラッセル様に向ける。


 ぽわ……とラッセル様の体が光ると、口元や服についた血が一瞬で綺麗になった。

 おお、これが本来の浄化スキル。


「これなら波ァ……! にならずにすみましゅねっ」

 パァン……!


「「えええええええええええええええええ!?」」


 ラッセル様の服が、ぱぁん! と破裂してしまった。


「な、なんですじゃあこれはァ……!?」

『……わ、わたくしがなにかしてしまったのでしょうか……?』


 涙目の貞子さん。いや貞子さんが暴走するとは思えないが……。


「ましろたん!」

「ふにゃ?」

「また何かしましたね!」

「んーにゃ」


 ぷるぷるとましろが首を振っている。


 ましろには他人を強くするバフスキルがある。それで貞子さんを強化してしまったのかもしれない。


『ああっ! 寧子さん……また猫耳が生えてます!』

「なんでしゅって!?」


 ぴこぴこと耳と尻尾が動いている。猫神モード、また発動していたのだ。

 さっきましろの腹をなでたのが喜ばせる判定になり、結果、猫神モードが発動してしまったらしい。


 ぴょこぴょこっ、と私の耳が動く。くぅ……。つまり、貞子さんにバフをかけていたのは私のせいだ! またやらかした!


「ご、ごめんにゃしゃいでしゅ……」

「あ、いえ、謝ることじゃあないですじゃ……びっくりはしましたが」


 ラッセル様は余裕の大人で、全裸でも動じないタイプだった。


「むしろ……血が騒ぎますじゃ」

「…………はい?」


 ナニイッテルノ、コノヒト……?


「外で服を身につけておらぬと、なんだかこう……たぎるのじゃ!」

「ひゃん!」


『【わかるっ!】って……おいおい、もしかしてラッセルさん、裸族……?』


 いやいやいや、そんな特殊性癖ではないだろう。ないよね?


「ケモノは、そもそも服を着てないじゃろう? ケモノに近い姿になってるから、興奮してる……とか」

「そうかもしれませぬじゃ! 妾、風呂に入るとやたらと興奮してしまうのじゃ!」


 謎のカミングアウト。やはり裸族かもしれない。


「ともかく、陛下。お洋服を着てください」

 アメリアさんが毛布を差し出しながら言う。


「おお、すまぬの騎士殿」


 私はカバンからスッと着替えを取り出す。


「! これは……妾の服。なにゆえ、そなたが持ってるのじゃ……?」

「取り寄せたんでしゅ、スキルで」

「おお! なんと……! すごいのじゃ! モノを取り寄せるスキルなんて聞いたことがないのじゃ!」


 しまった。慎重に使うべきだった。とはいえ事態は収束しつつある。


「大丈夫ですじゃ。お力のこと、そして聖女殿が聖女殿であることは、秘密にしますじゃ」

「助かりましゅ……」

「いえ、妾のことを秘密にしてもらってますしのぅ」


 Win-Winの関係だろうか。


『それにしても……やすこにゃん』

 じーっと愛美さんが私を見ている。なんだろう。


『もうすっかり猫耳が板についてきましたね。萌えを意識してるんですか? 良いと思います……!』

「ふにゃー」

『【おまえもわかってるじゃあないの。ヤスコの猫耳かわいいわ】って? あざます!』


 もぉお。緊張感がないんだから。


「それにしても、万事休すだったな、コネコちゃん」

「と、いいましゅと?」


 アメリアさんが額に汗をかきながら言う。


「猫神モードは通常より強い力を使えるのだろ? その状態で至近距離で浄化を使ったら……失神するどころではなかったのでは……?」


 …………あ。あぶなかった。


 たしかに失明どころか、下手すりゃショック死……いやいや、そこまではいかないだろう。いかないよね。


 おかしい。聖女スキルってもっとサポート寄りだと思っていたのに、どうして私のは“殺意マシマシ”になってしまうのだろう……。



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★新連載です★



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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