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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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71.女王からの依頼



 どうやら神獣のせいで、雨が降らないらしい。

 ましろからその情報を聞いた私は、もう少し詳しく話を聞き、話の裏取りにラッセル様のもとへ向かった。


「あれ? バセンジーしゃん?」

「お、おうっ。嬢ちゃんたち……どうした?」


 謁見の間の前には、バセンジーさんが立っていた。あれ、なんだか焦っているように見える。


「ラッセルしゃまに会いに来たんでしゅが……」

「そ、そっか。だが、その、すまんな。今、王は取り込み中だ」

「あら、そうなんでしゅね。出直しましゅね」

「ああ、そうしてくれ」


 露骨に安堵の息をつくバセンジーさん。何かあるのだろうか──そのときだった。


「アオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 どこからか、けものの遠吠えが聞こえた。


「ケモノ……?」

「ああ……」


 バセンジーさんが額に手を当てる。何か察したらしい。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 雨、雨、雨よぉお! ウォオオオオオオオオオオオォン!」


 その声は、ラッセル様の声にも似ていた。まさか、と思いたくなるが──。


「……中に入っても」

「いや、やめといた方が良い。まじで」

「あ、そー……」


 気になりすぎる。貞子さん、外の様子を見てきて。


 調教師テイマーの力で貞子さんに外を見てもらうと、隣に浮いている貞子さんがぴしっと体をこわばらせた。


「どうでしゅ?」

『……庭を駆け回ってます』

「は……?」


 そのとき、扉がばーんと開いた。


「雨じゃ雨ぇ……! 恵みの雨じゃぁ!」


 そこには、全身ずぶ濡れで狂喜するラッセル様がいた。濡れた服が体に張り付き、下着まで見えている。王族らしからぬ大胆な格好だが、本人は気にしていない様子で、尻尾をぶんぶん振り、ぴょんぴょん跳ねている。


「はぅあ……!?」


 私と目が合うと、ラッセル様は固まって真っ赤になった。


「……陛下。いったん戻りましょう」

 バセンジーさんが、固まっているラッセル様を押し戻す。


 やがて玉座に座ったラッセル様は、きりっとした表情だった。あれは夢だったのか……?


「あ、あの……さっきのは一体……?」

「何のことじゃ?」


 とぼけるラッセル様に、愛美さんが告げる。


『雨の中、庭を駆け回ってた件ですよ』


 触れてほしくなさそうだったのに、蒸し返してしまう愛美さん。ラッセル様は顔を覆って頼むように言った。


「……忘れてくださいじゃ」

「そっか。あれは、雨が降って国民が助かるから喜んでいたんでしゅね?」

「……いや、単に妾、雨が好きでの。庭を駆け回ってしまうのじゃ……」


 犬っぽい。圧倒的に犬っぽい。どうやら本当に恥ずかしそうで、何度も窓の外を見ている。雨の中を走るのが好きらしい。


「雪が降ったら庭を駆け回るのは分かるけど、雨でもそうなるんでしゅね」

「うう……恥ずかしいのじゃぁ……。娘には黙っててくださいじゃ」

「は、はい……」


 ……なんというか、獣人国王の弱みをひとつ握ってしまった気がする。


『やすこにゃん、どんどん外交力を身につけてますね。このままネログーマの闇のフィクサーになれるですよ?』


 なれるわけないよ。


「して、聖女殿。一体何のご用じゃ?」

「あ、えっとでしゅね……」


 私はましろから聞いた話を、ラッセル様に伝える。


「……なるほど。神獣のせいだと」

「あい。ましろたんが言うには、水の神獣の仕業じゃないかって。何かご存じでしゅか?」


 ラッセル様は神妙な顔で頷いた。


「水神様のことじゃろう」

「水神……様?」

「うむ。ネログーマには聖域と呼ばれる場所があるのじゃ。そこは王族以外立ち入れぬ巨大な湖。その地に、いにしえより一柱の神が住まいしておる。それが水神様じゃ」

「なるほど……」


「そういえば、ネログーマは神獣が国を守っているって言ってましたね。てっきりフェンリルのことかと」

「フェンリル様も神獣の一柱じゃ。水神様は、神獣たちの長のような存在でもあるのじゃ」


 この国には神獣が複数いるらしい。緑豊かな国だから、神獣も暮らしやすいのだろう。


「でも、どうして水神様は雨を降らせないようにしているんでしょう?」

「分からぬじゃ。ただ、聖域へは定期的に食べ物などを奉納しておったのじゃが、最近の拉致事件でそれが滞っておる。水神様がそれを怒っておるのやもしれぬ」


 子供っぽい理由だが、あり得なくもない。


「ふなー?」


 カバンからましろが顔を出して私を見上げる。


『【まだー? 退屈ー】だそうです……マイペースですね、ましろ様』


 ……うん、ありそう。子供っぽいし、ヨルもバカ犬ムーブするし。


「妾は、水神様のもとへ行き、謝罪してこようと思うのじゃ。このまま雨が降らぬと民が困ってしまうからの」

「しょうでしゅか……」

「そこで、もしよければ依頼を受けてもらえぬじゃろうか」

「ふぇ……? 依頼でしゅ?」


 ラッセル様が頷く。


「聞けば、そなたらは冒険者なのじゃろう? 妾を聖域にいる水神様のもとへ護衛してはくれぬか」

 お願いではなく、依頼だ。シュナウザーさんも困っている。アメリアさんの目が輝く。


「あい。分かりました」

「おお! 助かるのじゃっ! 感謝するぞ、聖女殿っ!」


 愛美さんが無駄遣いして金がないし、ネログーマ滞在中に稼ぐつもりだったのもある。シュナウザーさんのためにも、引き受けよう。


『でも、やすこにゃん、相手は神ですよ?』

「しゃー!」

『【あたしも神ですけど!】って、そりゃまあそうですけど……猫だし……あっあっ、やめてっ! パンチやめてっ!』


 こうして、私はネログーマ女王から護衛依頼を受けたのだった。


---


必要なら次の章も同じ調子で整えます。どうする?


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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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