70.雨が降らない
愛美さんが質問攻めにあっている間……。
私はベッドに横になっていた。
「ふぁぁ……ベッドでしゅ……ふかふか……」
「ふにゃにゃー……」
私とましろは、ベッドに仰向けで寝ている。
アメリアさんも鎧を脱いで、ベッドに腰を下ろした。
「お疲れ様、コネコちゃん」
「あいー……」
ここ最近はすっごく頑張ったなぁ。
国のピンチ救ったり、魔物倒したり……。
こんな小さな体でよくやったものだ。……いや、頑張りすぎだ。
「しゅこし……きゅーけーしたいでしゅね」
「そうだね。最近、コネコちゃんは頑張ってたからね。しばらく休もう」
「ふにゃーお」
ましろも賛成らしい。てし、てし……と尻尾で私の手を叩く。
「ひゃん……!」
「はぁー……」
ヨルがいつの間にか、ベッドの上にやってきた。
ましろは鬱陶しそうにしている。
「ふにゃーお」
「ひゃん!」
「にゃー……」
「ひゃんひゃん!」
愛美さんがいないので、二人がどんな会話をしているのかはわからない。
でも多分、ヨルが「遊ぼう」って提案して、ましろが断った。
けどヨルがしつこく誘っている……そんな感じだろう。
「ひゃん!」
「しゃー!」
ヨルがましろにのしかかる。
ましろはぐいっと押しのける。
ましろが遊んでくれるのだと、ヨルは思ったらしい。さらにじゃれつく。
「ふにゃー!」
ぴょんっとましろがベッドから降りて逃げる。
ヨルは楽しそうに尻尾を振りながら追いかけていった。
「ふふ……可愛いね」
「ほんとでしゅねー」
ヨルはましろのお尻を追いかけている。なんとも微笑ましい光景だ。
「これで二人とも神獣というのだからね。信じられないよ」
「でしゅねー……」
ただの犬と猫にしか見えない。
『ふぃ~……つかれましたー』
ぬぅう……と壁を通過して、愛美さん(霊体)がやってくる。
「おちゅかれちゃまでしゅ」
……でも正直、自業自得だと思う。
黙ってれば良いのに、ペラペラ喋っちゃったんだから。
「霊体でも疲れるんだな?」
と、貞子さんが首をかしげる。
体が無いのに疲れるなんてあるんだろうか。
『頭使うと、疲れるんですよぅっ!』
「「頭……使う……?」」
質問に答えてただけでは……?
貞子さんが微笑みながら、私たちのやりとりを見ている。
『……なんだか楽しいです』
「しょうでしゅ?」
『……ええ。仲間と旅したことなんて、なかったので』
……召喚されて、奴隷のようにこき使われていた貞子さん。
愛美さんや私たちのように、旅をしたことはなかったのだ。
そう思うと、本当に不憫な女性だと思ってしまう。
「これからいっぱい、楽しいことしてけばいいでしゅよ」
『そうそう! ネログーマはほら、水が豊富だから、プールとかいっちゃいましょー!』
へえ……こっちにもプールなんてあるんだ。
でも、水が豊富……?
「そういえば、ここって水上都市なんでしゅよね? でも、水路に水、ぜんぜんなかったような」
『あ、それ、ここ数日ずっと雨降ってないらしいですよぅ』
と、シュナウザーさんたちから聞いただろう話を、愛美さんが披露する。
「む? でも、豪雨により、川が増水して、橋が壊れたのではなかったか?」
『あれはなんかー、ボッタクルゾイが呪術で無理矢理降らせた雨らしいんですよー。本当なら最近ずっと雨降ってなくって困ってるって言ってました』
「ふぅん……」
雨季とか乾季とか、あるのかな……?
『まあ、話を聞いただけで、やすこにゃんに依頼が来た訳じゃあないんで、関係ないですよ』
……どうだろう。どれくらいの被害が出てるのかわからないし。
でも、雨が降らなくて困ってるなら、なんとかしたい気もする。
「あ」
そういえば……ましろ、雨を降らせられるんだった。
困ってる人がいるなら、やっぱり助けたいよね。
「ましろたーん。おいでー」
「しゃー!」
……ヨルに追いかけ回されていて、それどころじゃないらしい。
まあ、普段から呼んですぐ来る子でもないけど。
しかし、ヨルがいると話が進まないな……。よし。
「ヨルしゃん、これみてー」
「ひゃん!?」
空中に、球体が浮かんでいる。
これは、私が結界で作ったボールだ。
「ひゃおおおん……」
ヨルは浮いているボールに興味津々。さすが犬だ。
「ボールだよー、ほら、とってこーい!」
「ひゃぁああああああああああああああん!」
私が投げたボールに向かって、ヨルが追いかけていく。
ふふ……おぬしも犬よのぉ……。
「ぜえ……はあ……ふにゃ」
ヨルから解放されたましろが、近付いてきて、私の膝の上にごろんとする。
「おちゅかれしゃま」
「ふにゃ!」
『【二度と赤ん坊の面倒はみないわよ!】ですって。面倒見てたんですね~。ふふふ、お姉ちゃんしてますね~』
「しゃー!」
ましろが威嚇するが、猫パンチはしない。
疲れているからか、あるいは否定するほどでもないからか。
どっちかというと、照れてる気がした。
なんだかんだ、ヨルのことは気に入ってるんだよね。
「ましろたん、前にスキルで雨降らせたことあったでしょ?」
猫が顔を洗うと雨――。
文字通り、ましろが雨を降らせるスキルだ。
「アレを使ってほしいでしゅ」
「にゃ?」
『【なんであたしが?】って言ってますね』
まあ、そうなるか。
ましろってほんと気分屋だから、お願いしてもすぐ聞いてくれるわけじゃない。
でも私は知っている。
この子と長く一緒に暮らしてるから、ましろにおねだりするときの方法を。
「ましろたん。ヨルたんのお国が、今雨が降らなくて困ってるんでしゅって」
「………………にゃー」
「ヨルたんかわいしょうだって、おもいましぇんか?」
「…………………………ふにゃ」
ましろが考え込んでいる。もうちょっとだ。
「ましろができないなら、諦めましゅ」
「ん? にゃー!」
『【できらぁ……!】ですって。やすこにゃんナイスぅ~』
愛美さん、あんまり余計なこと言わないでね……(にっこり)。
ましろが寝転んだ状態で、顔をぺろぺろと舐める。
ドドドドドドド……!
「雨だ! ましろ様のスキルのおかげだ、ありがとうっ」
アメリアさんが感謝している。
この人ほんと、他人の困りごとを放っておけないんだよな。いい人すぎる。
さっきもましろに頼みたくても、言い出せないでいた。
愛美さんと違って、アメリアさんはましろが神様だってことをちゃんとわかって尊重してるから。
「ふなー」
『【長く持たないわよ。雨が降らない原因を、なんとかしないと】ですって』
「え……? 原因? しょんなものあるんでしゅ?」
「ふにゃうー」
『【あるわよ。神獣が、雨を降らせないようにしてるんじゃない】って……』
え、ええええ!? 神獣?
ましろやヨル……じゃあない。
別の神獣が、雨を降らせないようにしてるってこと……?
「早くいってくだしゃいよっ!」
「うにゃ?」
『【聞かれてないからだけど?】って。いや、それはまあそうですけども……』




