69.ペンダント(庇護)げっと
ラッセル様を治療した。死ぬ前になんとか間に合って、本当に良かった……。死者の蘇生は、ましろの力をかなり使わせてしまうから緊張した。
結果、ボッタクルゾイが裏で悪事を働いていたことも判明した。獣人たちを犬に変えて、国内の貴族に売り飛ばしていたらしい。酷すぎる。
「誠に、感謝いたしますじゃ、聖女殿……」
玉座の間で、ラッセル様が私たちに深々と礼を言う。改めて見ると、ラッセル様にはシュナウザーさんの面影が残っている。長く美しい髪、均整のとれた体つき、優しいまなざしの獣人の女性だ。
「いえ、とーぜんのことをしたまででしゅ」
「ふむ……この世界を苦しみから救う使命をまっとうしたということかの?」
「あ、いえ……友達を助けただけでしゅ」
「使命」なんて大仰な言葉は、私には似合わない。無理やり異世界に召喚されてきた身だし、ただ友達を助けたかっただけだ。
「なるほど……聖女殿は、そんなにもお若いのに、素晴らしい人格の持ち主のようじゃ」
「あ、いえ……」
本当は中身アラサーなんです、すみません……。
「コネコさん、本当にありがとうございました!」
ラッセル様の側に立つシュナウザーさんが、涙ぐんでお辞儀する。
「おかあさまを、この国の民を、お救いくださり、誠に感謝ですわっ まさに救国の聖女さまですわ!」
「い、いやぁ……そんな大したことしてないでしゅよ……」
「まるで沈黙の聖女様のようですわっ!」
ああ、確かに愛美さん(※沈黙の聖女)も過去にネログーマを救ったことがあると言ってたな。本人は忘れているようだが……。
『ふえ? そうでしたっけ?』
愛美さん、あっさり自白。場がしーんとなる。
「愛美しゃん……」
ラッセル様が言葉を失ってる。あの伝説の「沈黙の聖女」がここにいるなんて、誰でも驚く。
『えーっとえーっと、どうしよう~やすこにゃん?』
「自分で蒸したんだから、自分でなんとかしてくだしゃい」
『えー……まじー……』
予想通り、質問攻めに遭う羽目になった。まあ仕方ない。
「ペンダントは、愛美しゃんに渡しますね」
私は呪いの触媒だったペンダントをカバンにぽいっと放り込む。
ところで、このペンダントはどうやらネログーマ王家の宝らしい。
「これはな、ネログーマ王家に伝わる宝じゃ。そなたに授けよう」
「にゃ!? 王家の宝なんて、受け取れにゃいでしゅよ!」
王家の家紋が刻まれているその装飾を身につけるということは、王家の庇護下に置かれるという意味だ。ゲータ・ニィガの連中が王家の紋章を見て手を出せば、それは国に対する挑発と見なされるだろう。
「本当にいいんですか、こんな立派なものを」
「よいのじゃ。それに、このペンダントは昔、聖女の所持するものと伝わるからの」
「聖女の……?」
「うむ。沈黙の聖女殿が、我が国に授けたものじゃ」
――そこで愛美さんがポロリ。
『あ! これたしかにあたしのペンダントだっ! 無くしたと思ったら、こんなところにあったんだねー!』
「あ」
沈黙。全員固まる。
『ふぇ……? なんでみんな黙ってるの……?』
「愛美しゃん……」
ラッセル様は顔をこわばらせ、驚きで声も出ない。古の英雄が今ここにいるなど、問わず語りに話が湧くのも無理はない。
「ペンダントは、愛美しゃんに返しますね」
私はカバンの中へぽいっと戻す。愛美さんの私物だったとは……なんだか色々繋がる気がする。
『……そういえば、愛美さんって、わたくしのように固有の力を持っていませんでしたよね』
ふと貞子さんが言う。確かに、私には猫がつき、貞子さんはテイマーで固有の力がある。愛美さんは普段は霊体で、他と違う力の出どころが見えにくい。
『もしかしてこのペンダントが、彼女の固有の力を封じていた……とか?』
「かもしれないでしゅね。あとで聞きましゅ」
ラッセル様やシュナウザーさんは、愛美さんの由来や伝説のエピソードを聞きたがっている。昔のアイドルに会ったようなものだ。そりゃ話題になる。
「聖女殿、アメリア殿」
バセンジーさんが静かに言う。
「部屋を用意しております。しばらく滞在すると聞いております。どうぞそこをご利用くださいませ」
「ありがとうございます」
少し滞在するつもりだった私たちには有り難い申し出だ。
「じゃ、愛美しゃん。あとでねー」
『うわぁん! やすこにゃんヘルプミー!』
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