66.広範囲治癒は神獣パワー
私は猫神モードで飛爪を使った──。
結果、毒蛙の群れも、獣人さんたちも、驚愕してしまった。
獣人さんたちは完全に戦意喪失している。怖い思いをさせてしまって申し訳ない……。
「今のうちだ、バセンジー殿!」
「あ、ああ……!」
騎士二人が飛び出して、毒蛙のもとへ向かう。
「せやぁ……!」
「だりゃぁ……!」
二人が剣を振るう。毒蛙は、私の飛爪で恐慌状態になっているらしく、無反応だ。
『でもそのうち、回復して襲ってきますね。その前にささっと倒さないと』
「でしゅね……」
でも私、火力高すぎるからなぁ。ましろは我関せずと顔を舐めている。やる気が感じられない……。
「ひゃひゃひゃん! ひゃーん!」
ふがふが、とヨルが鼻息を荒くしている。
『【あそぼあぼあそぼー!】だそうです。完全に犬ムーブなんだよなぁ〜』
……ふむ。もしかしたら、上手くいくかもしれない。
「ヨルしゃん。あしょびましょう」
「ひゃーん!」
『【なにしてあそぶのー!?】だ、そうですが……』
私は毒蛙を指さす。
「あのカエルしゃんの首を、いーっぱい、とってこーい! してきてくだしゃい!」
『えー……フリスビーの「とってこーい」的な? いやいや、そんな猟奇的な遊びしないでしょ』
「ひゃうーん!」
『するんかい!!!!!!』
ヨルは大人モードになると走り出す。毒蛙に飛びついて、首筋に噛みつき、ぶちぶちと引きちぎる。
「ひぅ……ぐろいでしゅね……」
『命令しておいて……。てゆーか、ヨル様平気そうですね。あのカエル、体から毒を分泌してるんですよね』
何も対策しなかったら、カエルに噛みついた時点で毒を浴び、瀕死になっていただろう。
でも大丈夫。
「ヨルしゃんに、あらかじめ浄化をかけておいたんで」
『浄化をあらかじめかける?』
「あい。波ぁ……!をしたときに気づいたんでしゅ。浄化をしたあと、しばらく魔物が寄りついてないって」
そこから、浄化がしばらく残るんじゃないかと思ったのだ。
「浄化をかけたことで、しばらく毒が無効化されてるんでしゅ」
『なるほどー、だから毒蛙を噛んでも、毒によるダメージを受けてないってことですねー』
愛美さんが感心したようにつぶやく。
『しかし次から次へと、よく聖女スキルの応用を思いつきますね。頭やわらかすぎません?』
「まあ、お手本がないんで……なんとなーく、できるかなーって思ったことをやってみてるんで」
『なるほど。他の聖女は召喚主から、召喚時に教育を受けます。そこで先入観を植え付けられてしまう。結果、この世界の者は想定した範囲内でしかスキルを使えなくなる……』
貞子さんの分析に、愛美さんが「たしかにー」とうなずく。
『やすこにゃんの場合は、現地で教育を受ける前に追い出されてしまったからねー。我々より自由な発想ができるのは当然かも』
浄化付与をしたヨルが、カエルたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げする。
どさどさ、とカエルの首が積み上がる。グロい……。
ほどなくして、カエルの大群は居なくなった。
「任務完了。おちゅかれしゃまでしゅ、ヨルしゃん」
「ひゃーんひゃん!」
『【まんぞく〜】だそうです。暴れ回ったことが、ストレス発散になったんでしょう……って、寝ちゃった』
ぷひー、ぷひー、と寝息を立てるヨル。遊んで寝て、まるで動物だ。いや、動物なんだけど(神獣だけども)。
「ふにゃーにゃ」
『【馬鹿犬ここに極まれりね。神獣としての矜持はないのかしらね】って、ましろ様も結構神獣としての矜持を感じられない時ありま……せんよ! ええ、普段から神獣ばりばりでてますから』
ましろが鼻を鳴らす。相変わらずプライドの高い猫だ。
「魔物は倒したし、次は治療でしゅね」
けが人を放置するのはよくない。この人たちはシュナウザーさんの国の民だから。
「コネコちゃん、かなりの人が毒と魔物の攻撃で負傷してる。時間が経つと死んでしまう可能性がある。どうする?」
とアメリアさん。アイディアは一つあるが、大きなことをしないといけない。聖女だとバレたくない……。
「そこで、ヨルしゃん。また出番でしゅ!」
「ぷひー、ぷひー」
「ああ、寝てましゅ! おきてくだしゃーい!」
ヨルを抱き上げ、かくんかくんと揺らす。ヨルはよだれを垂らし熟睡していた。起きない……。
『いやまって、やすこにゃん。ワンチャン、このままでもいけるかも!』
「まじでしゅ?」
『まじまじ。ほら、ヨル様って毛皮が黒いじゃん? 目も黒いじゃん? だから遠くからだと寝てるかどうかわからないって!』
なるほど……。貞子さんも同意する。二人が言うなら大丈夫だろう、多分。
私はヨルを抱えて移動する。
「ヨルしゃんが、みなしゃんを、直してくれるしょーでしゅっ!」
ヨルを掲げる。さながらライオンキングの一幕のようだ。本人はぐーすか寝ているが。
獣人さんたちの注目がヨルへ集まる。
「ヨルしゃん、おねがいしましゅ!」
ヨルを掲げたまま、私は聖女スキルを発動する。
瞬間、周囲に結界が広がる。ドーム状の結界が負傷者たちを覆い隠す。
そして結界内部に緑色の光が満ちる。
「す、すごい!」「怪我が治っていくぞ!」「おれもだ! すげえ……!」
結界の範囲内にいる人たちの怪我が一斉に治癒されていく。よし、うまくいった。
『なるほど……結界と治癒の重ねがけですね!』
『端を修復したときのように、結界内部の空間を怪我する前まで戻すことで、広範囲の治療が可能になると。すごいです』
修復の応用以外にも、こんな使い方ができるのではと試した結果、成功したのだ。仕上げはこれから。
「神獣しゃま……ばんじゃい!」
ヨルが奇跡の力で怪我を治したということにする。
「皆さん、神獣様に感謝しましょう!」
とシュナウザーさんも、私の思惑に乗ってくれる。
「うぉーー! 神獣様ー!」「神獣さまばんざーい!」
皆にばんざいされる中、ヨルは鼻提灯を作りながら、ぐーすか寝ているのだった。




